異世界転生したので本物のくっころが見たい!と思って悪役を演じながら女性騎士と片っ端から戦って負かしまくってたらみんな俺に懐いて即落ち二コマだった
第12話 正義の姫騎士、思わぬ人物に会う(シンシア王女視点)
第12話 正義の姫騎士、思わぬ人物に会う(シンシア王女視点)
王都にて先生より解散が言い渡され数日間の休暇を与えられた私は少し意気消沈しながら王城を歩いていた。
「うぅ……私もジェラルトさんたちと一緒にドレイク家に行きたかったです……」
ジェラルトさんとフローラさんはお義母さまへ挨拶するためにドレイク領へと行ってしまった。
完全に置いてけぼりになってしまったのである。
「文句を言うな。最近のお前はドレイク家に行きすぎだ。たまには父上たちに顔を見せてやれ」
「兄様がドレイク家の方々とは良好な関係を築くように言ったんじゃないですか……」
確かに最近私は休みがあればドレイク家にお邪魔する事が増えたし、両親のところに顔を出さなくてはとも思っていたが私だけ置いていかれるのは少し寂しい。
お義母さまと一緒に今度はクッキーを作ろうって約束してたのに……
「物事には限度というものがあるだろう。今回は諦めろ」
「わかってますよ……」
「はぁ……そんな嫌そうな顔をしていると父上が泣くぞ?」
「今まで私とお母様が兄様とお姉様とお父様に何回泣かされそうになってきたと思ってるんですか?」
「その節は本当に申し訳ない」
兄様がすぐに頭を下げる。
どうしてこうも王家は変じ……変わった方が多いのか。
今までのことを思い出すと正直ため息をつきたくなってしまう。
「ふふ、ヴィクター王子殿下もシア義姉さまには頭が上がらないんですね」
私達と一緒に歩いていたもう一人の人物が楽しそうに笑う。
そう、王都観光のために王都に残ったアリスちゃんである。
夜に私の部屋で女子会をしようという話になり、今日は宿ではなく私の部屋に泊まってもらうことになったのだ。
まだ日は明るいけど先に荷物だけ置いてもらうために王城の案内も兼ねて一緒に歩いている。
「そうだな、アリス嬢。なんだかんだシンシアには迷惑をかけているし怒らせると中々怖いのでな」
「私の将来の
「それは申し訳ない。つい本音が」
「なおのこと悪いです」
兄様は楽しそうに笑う。
他の貴族たちからも発言を注視される兄様がそんな本音を漏らすなんてありえないので十中八九わざとだろう。
でも口喧嘩では勝てないことは理解しているので今回は素直に引き下がった。
「ふふっ、お二人は本当に仲がよろしいんですね」
「そう見えるか?アリス嬢?」
「ええ。とっても」
アリスちゃんは兄様の言葉にクスクスと上品に笑う。
とても十歳には見えない大人っぽいところもあるがいつもは年相応の幼さも感じられてとても可愛い子だ。
「でもそういうアリスちゃんもジェラルトさんととても兄妹仲がいいですよね?」
「そうですね。でもまあ私達の場合はお兄様のほうが少し過保護……という気もしますけど」
言われて少し納得してしまう。
『アリスは絶対に嫁にやらん』って言っているのを何回も聞いたことがあるし過保護なのは間違いない。
まあそもそも家族を大切にする人なのでお義母さまに対しても常に気遣うような行動をしているのを知っているけども。
「あいつが兄だとやはり大変か?」
「いえ、誰にも負けない自慢の兄ですよ」
「ふっ、そうか」
アリスちゃんの言葉から二人の間に強い信頼関係と絆が存在しているのがよく分かる。
それが兄妹仲なのはわかっているけども私としては少しうらやましい。
まだ少し気が早いかもしれないが強い信頼関係で結ばれた夫婦になれたら……とつい思ってしまう。
「おや?ヴィクター王子殿下にシンシア王女殿下ではございませんか!」
楽しく話しながら歩いていると突如声をかけられる。
声のしたほうを見ると思わぬ人物が立っていて顔をしかめたくなるのをとっさに堪えた。
「どうした、テリー?何か用か?」
「いえいえ。ですがお二方の姿が見えたので臣としてぜひ挨拶をと思いましてね」
「ではすぐに仕事に戻れ。余は今来客をもてなしているのでな」
「ふむふむ、来客、ですか……」
20代後半程度の悪趣味に光るたくさんのアクセサリーをジャラジャラと音を鳴らしながら着けている男はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながらアリスちゃんのほうを見る。
しかしすぐに兄様が間に割って入った。
「仕事に戻れ」
「来客というのがそこの小娘のことを仰っているのであればすぐに認識を改めたほうがよろしいかと。そこにいるのは怪物の血を引いた子ですぞ」
「それは余が決めることだ。貴様が決めることではない。テリー=マーカム」
そう、目の前にいるこの男こそアルバー王国現宰相ゲイリー=マーカム公爵の孫テリー=マーカムだった。
王家としては受けるつもりなどまったくなかったが私の婚約者の第一候補だった男でありマーカム公爵の直系といういずれは公爵の座につく男だ。
昔からこの人のことは好きじゃなかったが相変わらす嫌悪感が湧いてくる。
「始めまして、テリー様。私はイアンの娘、アリス=ドレイクと申します」
「ふん、名など聞きたくもない」
この対応ではどちらが大人かわかったものではなかった。
アリスちゃんは怒るでもなくただニコニコと笑っている。
対照にテリーは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「ヴィクター王子殿下。先ほど用は無いと申しましたが訂正します。ぜひ私を次期宰相に推薦してください」
マーカム公が就いている宰相やジェラルトさんの父、イアン様が就いている軍務卿などの地位は世襲制ではない。
こういった王族の推薦一つが大きく左右することもある。
だからこそテリーはこんなことを言うのだ。
「余が頷くとでも?」
「私は愛国心がまるでないどこぞの誰かよりは役に立ちますよ」
そう言ってテリーはアリスちゃんの方を見て嘲るように笑う。
貴族派はドレイク家のことをよく愛国心が無いといったりする。
その理由は元々ドレイク家が建国以来の貴族ではなく割とアルバー王国では新参の貴族にも関わらず圧倒的な権力と実力を持っていることへの妬みや嫉み、そして実力があるにも関わらずドレイク家が他国の領土を切り取ろうとしない消極的な姿勢が主な理由だ。
ドレイク家のことを悪く言われてむっとなるがアリスちゃんが何も言わないのにまだ第三者である私が何かを言う権利はない。
「なるほど、よくわかった」
「おお……!英断感謝いたします……!」
「誰も貴様のことを推薦するなど言っていない。王家の一番の懐刀はドレイク家だ。少なくとも余は全く貴様のようなドレイク家の面々と己の実力差を理解していない無能を必要としていない。それじゃあな」
「は……?」
テリーは何を言われたのか理解できないと言わんばかりにポカンとした顔を晒している。
兄様は全く興味なさそうに歩き出し私達も兄様についていく。
(ドレイク家を悪く言うなんて……まさかマーカム家がここまで強気だなんて思ってなかったですね……)
ドレイク家とマーカム家は数十年にも渡る政敵だ。
お互いが武の最高位、文の最高位にそれぞれ就いているのもあるがドレイク家にとっては頻繁にちょっかいをかけてくるマーカム家が邪魔で、マーカム家にとっては強大な力を持つドレイク家が邪魔。
お互いに表面上は仲良くしているものの水面下では腹の探り合い、諜報隊による影の殴り合いばかりだ。
(いつか決着が着くときが来るのでしょうか……)
そのときにはきっとどちらが勝つにせよこの国は大きく変わっているはず。
進んだ先の未来に笑顔と幸せが待っていることを祈ることしかできなかった──
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