第11話 くっころガチ勢、聖女と剣を交える
母とフローラの顔合わせが終わった後、俺達はそのまま泊まっていくことになり眠りについた。
士官学校が始まるまでには当然戻らなくてはならないのだがまだ日程的には問題ないので戻るのは翌日か2日後になるだろう。
そして今俺は──
「はあっ!」
「中々早い。相変わらず癒やしの魔力は凄まじいな」
「っ!そんな涼しい顔で言われても嬉しくないっ!」
フローラと模擬戦の最中であった。
最近馬車に乗っていることが多かったし久しぶりに体でも動かすかという話になったのだが、そこでフローラが剣をやりたいと言い出した。
フローラは強いし俺の剣の鍛錬にもなるしもしかしたら何かの奇跡でくっころが見れるかもしれないので了承して受けることにしたのだ。
「……っ!逃げてばっかり……!絶対に逃さないよ!」
俺が後ろに退きながらフローラの攻撃をいなしていくとフローラはどんどん距離を詰めてきて連撃を放ってくる。
魔力を纏っていることもあって女子とは思えないほど攻撃に重みがあるし精度も高い。
だがそれで簡単に負けるほどドレイク家次期当主は甘くない。
こちらも退くのをやめ受けではなく逆にフローラの攻撃に合わせるように連撃を放つ。
一撃一撃が先ほどとは比べ物にならないほど強くぶつかり合い音が響く。
そしてわずかに振りの甘い攻撃を見逃さず一番の力を込めて攻撃を弾くとフローラの上体が若干浮きその瞬間持っていた剣を突きつけた。
「……降参。私の負けだね」
「良い戦いだった。一度休憩にしよう」
「うん」
俺とフローラは剣を置き、近くにあったベンチに腰をかける。
季節的にかなり温かいがここは風当たりもよく訓練終わりの火照った体に当たる風が心地良い。
「やっぱり強いね、ジェラルト。また負けちゃった」
「まずは魔装から始めるべきだな。剣の腕は悪くないし自己研鑽でもフローラなら問題なく上がっていくだろうしな」
「魔装ってジェラルトがやってる魔力を纏うやつだよね?私も一応癒やしの魔力でやってるんだけど独学だからいまいちあれ以上上手くいく気がしないんだよね……」
独学でそこに至れることがそもそもすごいと思うけどな。
癒やしの魔力って普通の俺達が使う魔力よりも制御が難しいらしいしよくやろうとしたものだよ。
まあその執念や根気強さもフローラの強さの一因なんだろうけども。
「そういうことなら一度師匠に教わってみたらどうだ?少し話を聞くだけでも何か得られるかもしれないしな」
「ジェラルトは教えてくれないの?」
「俺よりもあの人のほうが圧倒的に魔力の扱いが上手い。魔装に限ったら俺は全く師匠に勝てないから師匠に聞いたほうがためになるぞ」
「マーガレットさんってそんなにすごいんだ……」
なにせアルバー王国建国以来の天才って呼ばれてるみたいだしな。
俺は別にそういうの興味ないから他人からどう言われようと構わない。
悪評ならば大歓迎だが。
「帰りの馬車はどうだったんだ?」
「すごくカッコいいし美人で大人っぽい人だよね。1人の女の子として正直憧れるなぁ……」
こらこら、シンシア王女みたいにマーガレット信者になりかけてるぞ?
でも師匠女性人気も高いんだな。
騎士団ではみんなのマドンナ的存在らしいしほんと人気者な人だよ。
野郎の声じゃあ士気が上がらなくても美人が指示すればやる気も出るのが男というものだし本人の実力も相まって本当に優秀な人材になっている。
「最近はシンシア王女にも稽古をつけているみたいだし今度頼んでみるといい。フローラの戦い方は紅月流に通じるところがあるしきっと有益なアドバイスをくれる」
「うん。次に会ったら頼んでみるね」
今度俺からも師匠に言っておこう。
何が起こるかわからない世の中だし自衛の手段は多いに越したことはないしな。
俺達の間に少しの沈黙が流れる。
ただ気まずいとかはなくただ風がそよそよと吹いている。
「あのね、ジェラルト。私本当は剣が嫌いだったの」
「そうだったのか?意外だな。好きだからこそあそこまで強いのかと」
「ううん。痛いし疲れるし怖いし……本当は戦いなんて好きじゃないの」
「………そうか。もしかして今も無理をしていたか?それならば無理をする必要はないぞ。いくらドレイク家が軍人の家系だからといって妻まで戦える必要はない。実際母上だって戦いは最低限しかできないしな」
ドレイク家に嫁入りする女性は人質に取られたりなどしないために最低限の自衛訓練を受けるが、フローラは十分それを満たすほど強いし無理して鍛錬する必要はない。
「ううん、大丈夫。最近考え方が変わったんだ」
「考え方?」
「うん。私は自分が死ぬことよりもジェラルトたちと過ごす日々が壊れる方が怖い。そう最近考えるようになったの。だからみんなを守れるように少しでも強くなりたい。それこそジェラルトだって守れるくらいに」
そう言ってフローラは屈託なく笑う。
その笑顔は本当に怖いものなんてないかのように自然な笑みだった。
(……こういうところが母から気に入られたのかもしれないな)
シンシア王女も自分が王族で死んではならないことを頭では理解しているはずなのに知らない誰かを守るために命をかけられる人だ。
ドレイク家は何かを得ようとする家ではなく大切なものを守ろうとする家。
そんな2人の姿や姿勢はドレイク家にぴったりなのかもしれない。
「……フローラが死んだら母上もアリスも悲しむ。みんなを守って自分は死ぬなんて言うなよ」
だからこそ危うい。
いざというとき、命をかけるのは俺だ。
俺がくっころを見るために婚約した二人なんだから俺のために死ぬのは絶対に許さない。
それがくっころを望むものとしての覚悟であり義務だ。
「ジェラルトは私が死んだら悲しんでくれる?」
「さてな。フローラの想像に任せる」
「あっ、ずるい。ちゃんと教えてくれたっていいのに」
死んだら困るなんて口が裂けても言わない。
そういう甘い言葉は女の子大好きなハーレム野郎が言うものであって俺の目的はくっころ。
そんな見え透いた罠には引っかからんぞ。
「俺は性悪な極悪人だからな。そういうのは言わない主義なんだ。そういう甘い言葉をかけてほしいなら別の男のところに行ってもいいんだぞ?」
「ふふ、面白くない冗談だね。私が他の男の人のところになんて行くわけないでしょ?」
「……そうか」
躊躇なくそういうことを言われてもな……
もうちょっとこう……悩んでくれたっていいんだぞ?
くっころを抜きにしてもシンシア王女とフローラから嫌われておいたほうが2人のためになるんだけどな……どうしたものか。
「ご休憩中のところ申し訳ありません!ジェラルト様!至急の連絡にございます!」
俺がそんなことを考えていると木の上からドレイク家の諜報隊員が突如現れる。
そうとう急いで移動してきたらしく服には枝や葉が少しついていた。
「どうした、そんなに急いで」
「はっ、このようなみすぼらしい姿で申し訳ありませぬ。ご報告させていただきます。実は──」
慌てていた諜報隊員から話された内容は驚くべきものだった。
同時に顔から血の気が引いていくのがわかる。
隣にいるフローラも真っ青な顔をしていた。
「詳細は!?わからないのか!?」
「事が起こってすぐにこちらに向かいましたので詳細まではわかりませぬ。あちらも混乱していて情報が錯綜しています。場所もそうですが事が事なだけに隊員も動きづらく情報の精査が遅れています」
「くそ……!前もって防げなかったのか……!」
「申し訳ありません。我らが前もって情報を掴んでいれば……」
諜報隊員は苦い顔をして頭を下げる。
だが正直こいつらで掴めなかったら誰の責任でもない。
「父上への連絡は?」
「すでに他の隊員が向かっています」
「わかった。とにかく一刻も早く情報を掴むよう向こうにいる諜報隊に鳥で伝えておけ」
「了解しました。これにて失礼します」
諜報隊員の姿が一瞬で消える。
母への報せは他の隊員に任せる。
今はとにかく早く行かなくては……
「聞いたなフローラ?俺たちはすぐにでも王都に出発するぞ!」
「う、うん!わかった!」
頼む……大事に至らないでくれ……!
俺は逸る気持ちを抑え馬車を走らせるのだった──
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