第10話 くっころガチ勢、母に婚約者を紹介する
フローラと共に家の中を歩いていく。
先程の会話で緊張がほぐれたのかフローラの表情は柔らかかった。
「ここが母上の部屋だ。心の準備はいいか?」
「……うん、大丈夫だよ」
「それはなによりだ」
俺はフローラの返答に頷き、部屋の扉をノックする。
一拍置いて中から母の返事が聞こえてきた。
「母上、ジェラルトです。今少しお時間をいただきたいのですが」
『入っていいわよ〜!』
「ありがとうございます。失礼します」
俺はゆっくりと扉を開くと母は椅子に座って編み物をしていた。
どうやらマフラーのような防寒具を編んでいるらしくぱっと見た所半分以上は形になっていて冬にはもう使えそうだ。
母は俺の方を見てニッコリと笑う。
「おかえりなさい、ジェラルト。留学はどうだったかしら?」
「アルバーの中だけでは絶対に得られないであろう経験をたくさんしました。他国の同年代との関わり合いも刺激になりました。俺にとっても、アリスにとっても実りある留学でした」
「きっとそれを聞けばイアンも喜ぶわ。今度会ったときにゆっくり話してあげてね」
「はい。もちろんです」
ということは今日は父はここにはいないのか。
まあ今回の留学を用意してくれたのは父だからな。
それくらいの土産話は当然のことだろう。
「それでそちらの方は……」
母はフローラに目を向け、俺に質問してくる。
俺は一歩前に出てフローラの方に手を差し出した。
「今日は彼女の紹介も兼ねて来たんです。彼女はフローラ=ウォルシュ。俺の新たな婚約者です」
「は、はじめまして。フローラ=ウォルシュと申します」
「まあ!やっぱりその子がそうなのね!」
母は嬉しそうに笑い、編んでいる途中のマフラーを机に置いて立ち上がった。
そしてカーテシーをしたフローラに対してゆっくりと優雅にカーテシーを返す。
「はじめまして。ジェラルトの母でドレイク侯爵家当主イアンの妻、オリビアです」
「ご丁寧にありがとうございます……!」
「ふふ、私のことは普通のお母さんだと思ってくれていいのよ?将来は義理の娘になるんですもの」
「む、娘……」
フローラは母の言葉を反芻し頬を染める。
もう結構打ち解けているみたいだな。
流石は母だ。
「ジェラルトから聞いていた通り本当に可愛くて綺麗な娘さんね」
「え……?ジェラルトが……?」
「ふふっ、そうよ。ジェラルトが貴女との婚約をイアンに許してもらうために送られてきた手紙に書いてあったわ。とても綺麗で美人な人だって。ジェラルトが女性をそんなに褒めるのは他にシンシア王女とマーガレットちゃんくらいよ?」
「ジェラルトが私のことを綺麗……」
おーい、なんか話が逸れてますよ。
というかそういう話って本人がいる前でするものではないのでは?
フローラの人物評価を上げて俺の婚約者に相応しいってことをアピールしようとしただけで他意は無いので俺の評価を上げるような発言はできるだけやめておいてほしいんですけど……
確かにフローラは美人だけどね?
だけど言って良いことと悪いことがあるんですよ。
「母上、その辺にしておきましょう」
「あらあら、照れてるの?」
「照れてません」
「ふふっ、まあそういうことにしてあげましょうか」
母は楽しそうに笑う。
その表情にはなんだか生暖かいものが混じっている気がして居心地が悪い。
母相手だと強く言えないし正直こういう話をされては敵わない。
「じゃあフローラちゃん。早速始めましょうか」
「何をでしょうか?」
「もちろん、ジェラルトのお嫁さんとして相応しいかチェックよ」
「ふぇっ!?」
フローラはそんな話は聞いていないと不安そうに俺のほうを見てくる。
だがシンシア王女のときはこんなことなかったんだ。
おそらく母の気まぐれ的なものも混じってるだろうし俺の責任じゃない。
俺は満面の笑みを浮かべてサムズアップをするとフローラは絶望的な表情になった。
「じゃあ最初の質問ね。シンシア王女とは仲が良いの?」
「は、はい。シンシア王女はとてもお優しい方で色々とお世話になっています。感謝してますしこれからも仲良くして欲しいと思います」
おぉ……淀み無く答えたな。
母も満足そうに頷いている。
それからも母はフローラに対し質問を続けていった。
フローラは時々答えに悩みながらもしっかりと答えていく。
まあこの分なら大丈夫だろう。
「ふふ、フローラちゃんは真面目な子なのね。私の質問に真剣に答えてくれて嬉しいわ」
「い、いえ……そんなことは……」
「フローラが真面目なことは否定しないが将来の義母からの自分を見定めるような質問に適当に答えるのは肝が座り過ぎじゃないか?」
「ふふっ、それもそうね。それじゃあ次は最後の質問にしましょうか」
母は頷くとさっきまでのニコニコ笑顔は消え、真剣な表情になる。
そしてフローラとしっかり目を合わせながら口を開く。
「あなたは将来ジェラルトと結婚したらジェラルトに何ができる?あなたは側室とはいえドレイク家の夫人となる。その覚悟はある?」
別にそんな重い質問今しなくても……
和気あいあいと仲良くしてくれたらそれで良かったのにどうしてこんな重苦しい雰囲気になっちゃうんだよ……
「わ、私は……」
俺が母を止めようとした瞬間、フローラが口を開く。
その顔は真剣そのもので思わず俺は口をつぐんだ。
「私はジェラルトにこの短期間でたくさんのものを貰いました。優しさ、自由、思いやり、剣。他にもたくさんあります。私もジェラルトを支えたい。私は所詮、田舎者の男爵令嬢で迷惑をかけることがあるかもしれません。だけどいつかきっとジェラルトに相応しい女性になります。だから……私とジェラルトの婚約を認めてください!お願いします!」
そう言ってフローラは頭を下げる。
この場に沈黙が訪れる。
その沈黙を破ったのは母の笑い声だった。
「ふふふ、頭を上げてフローラちゃん。試しちゃってごめんなさいね」
フローラは頭を上げて不安そうにする。
そんなフローラに母は優しくハグをした。
「シンシア王女には以前お会いしたことがあったけどあなたには会ったことがなかったからつい試すようなことをしちゃったの」
「は、はい……」
「元々反対するつもりはなかったのだけれど……フローラちゃんの様子を見て一層ジェラルトのお嫁さんにぴったりの子だなって思ったの。これからよろしくね?」
「……!は、はい……!」
フローラの目から安堵の涙が溢れる。
そりゃあいきなり試すようなことされたら不安にもなるわな。
助け舟を出そうとしたけどその前に解決しちゃったし……これ俺いらなかったんじゃないか?
「それにしてもジェラルト。あなた愛されてるのね」
「なんの話ですか?」
「シンシア王女もそうだけれど……政略結婚でこんなことを言われるなんて普通は無いわよ。ね、フローラちゃん?」
「ぁ、ぅ………」
フローラは母にハグされたまま顔を赤く染める。
随分と打ち解けたのは良かったが……
(まさかフローラ俺のことが好きとか言いださないよな……?ただいきなりそういう方面でからかわれたから顔を赤くしちゃっただけだよな!?そうだ!そうに違いない!)
聖女くっころにますますの不安を覚える俺であった──
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