第9話 くっころガチ勢、婚約者を連れて帰省する
長い時間をかけ、俺達1−Sクラス一行はようやくアルバー王国へと戻ってきた。
学園へと戻った俺達は数日間の休暇を貰うことになり今は再び馬車で今度はドレイク領に向かっている。
(前世の乗り物は本当に便利だったんだなぁ……飛行機とか時速1000キロくらい出てたしな)
馬車もこの世界ではかなり便利な部類に入るがやはりたまに車とかエンジンで動く乗り物が恋しくなることもある。
まあ前世より体が圧倒的に頑丈になったから馬車でも問題は無いんだけども。
俺が前世の乗り物に想いをはせていると目の前に座るフローラが馬車の窓から外を見ながら呟く。
「楽しみだなぁ……ジェラルトの実家」
「シンシア王女の実家と比較するなよ?間違いなくあれよりは小さいぞ?」
「王城と1貴族の家を比べるわけないでしょ……それに私は大きさとか全然気にしないし。ウォルターの街の領主館だって大きい方じゃないしね」
「……そうか」
ドレイク家の財力や技術的には王城より大きい建物を造ること自体はできるんだけどな。
でも王家への不敬だなんだの騒がれたら面倒くさいし、維持費もかかるし、そもそもそこまで大きい家があったところで持て余すしでメリットが無くデメリットばかりなので侯爵家の威厳が守られる最低限の大きさになっている。
まあデザインや安全性などの面では惜しみなくお金が使われているけども。
「というか一応将来義理の親になる人がいるんだぞ?緊張とかそういうのは無いのか?」
「本当は緊張してたんだけどね。シンシア王女が色々と教えてくれたおかげで今は緊張より楽しみが勝ってるって感じかな」
「ちなみにシンシア王女はなんて言ったんだ?」
「『家もそうですが何よりもそこにいる人が優しくて温かい』だって。いい人ばかりなんだね」
シンシア王女に家族がそういうふうに言われているのを聞いて少し嬉しくなる。
俺のことはいくらでも嫌ってくれて構わないけど家族のことは嫌わないで仲良くして欲しい。
それが俺の今の願いだ。
「そうか。それはなによりだ」
「うん。それにしてもシンシア王女とアリスちゃんも一緒だったら良かったんだけどね」
今、この馬車には俺とフローラだけ。
アリスはもう少し王都を観光してから戻ると言い出し、シンシア王女もこちらに来ようとしたのだがヴィクター王子に止められ留学の詳細な内容や成果などの報告をするために王城へと戻った。
まあ最近のシンシア王女は王城より
ちなみにマーガレットは騎士団の仕事へと戻り、カレンはシンシア王女のお付きの侍女なので王城である。
「またすぐに会う機会はあるさ。帰りの馬車では特に何も問題はなかったんだろう?」
「うん。アリスちゃんすっごくいい子だったよ」
そうだろうそうだろう。
俺の自慢の妹なんだ。
シンシア王女に言い寄るニコラス王子にブチギレて圧倒的才能と実力でボコったときはちょーっとだけ驚いたが自慢の妹であることは変わらない。
まああれも愛嬌の一種だろう。
「フローラの目から見てアリスの強さはどうだ?」
俺の質問にフローラは真剣な顔になる。
そしてゆっくりと首を横に振った。
「普通の幼い女の子って感じかな。とてもあの時超人的な動きをしていた子と同一人物とは思えないよ」
「……そうか」
アリスのとんでもないところは実力を隠す演技のほうにある。
普段から貴族令嬢とは誰もが猫を被り、誰よりも女性らしくあろうとする人が多いがアリスのそれは頭ひとつどころか何個も抜けていると思う。
女らしくあろうと意識していないのだろうがドレイク家の令嬢に相応しくなるためのレッスンも平気な顔してこなすし既にあの年で侯爵令嬢として完成されていると言っても良い。
だがあんな剣の腕すら隠せるのは想定外だった。
あの動きを見せられた後でもなお、俺もフローラも実力を推し量れない。
努力ではなく才能でしかたどり着けない領域だ。
「まあともかくこれからもシンシア王女と仲良くな。それとアリスや俺の両親とも良好な関係を築いてくれ。もちろん俺もサポートはするがお家騒動なんて絶対御免だからな」
「………いじわる。わざわざ緊張させるようなこと言わなくてもいいのに」
「念の為言っておいただけだ。いつも通りのフローラで問題ない」
「あんなプレッシャーかけられた後でいつも通りっていうのも難しいんだけど……」
「まあなんとかなるさ」
「手伝ってくれるって言ってたよね!?」
ちょっとからかいすぎたか。
フォローを入れておかなくちゃな。
それから俺は領主館に着くまでフローラの緊張が取れるようにフォローに回った。
しかし俺がからかったことでフローラは若干拗ねてしまい結局ベトラウの街で一緒に買い物をする約束をして許してもらうことになった。
俺が一緒に買い物に行こうと言った瞬間、機嫌がいつも通りになったから嵌められた気がしなくもない。
しかもデートするから許されるって悪役としてどうなんだろうか……
くっころが近づいている気がしないがこれからも頑張るとしよう。
◇◆◇
「到着しました。ジェラルト様」
「ああ、ありがとう」
御者から声がかかり馬車を降りる。
扉が開き、地に足を踏むと久しぶりの景色と懐かしい匂いが鼻をくすぐる。
そんなに長い期間いなかったわけじゃないのに随分と懐かしく感じる。
ここは俺の故郷なんだと改めて思った。
「ここがジェラルトの実家……なんていうかすごいね……」
「別に世辞は言わなくてもいいぞ?うちより大きい家を持っている貴族家は案外ある」
「でもここまで庭がすごい家は無いと思う。たぶんゴーラブル王城よりすごいよ」
フローラは庭を見渡しそう言う。
まあ庭は結構凝ってるからな。
母がお菓子を作って食べる時に景色がいいほうが美味しいからという理由で花を見ながらお菓子を食べられるスペースはたくさん用意されている。
そのためそれに見合う凄腕の庭師を雇って庭を整備しているのだ。
「後でゆっくり回ればいいさ。まずは中に案内しよう」
「う、うん……」
少し
シンシア王女が物怖じしないのは性格もあるだろうが王族だからな。
同じ国なわけだし俺の両親と面識もあっただろうけどフローラは完全に初見。
不安になる気持ちもわかるがまあ一度会えば母の勢いに押されてすぐに仲良くなってるだろうから大丈夫だろう。
「挨拶のときは俺も横にいる。いざとなったら助け舟を出すさ」
「……それを聞いたらちょっと安心したかも。ジェラルトがいるなら大丈夫」
「……というか一つ気になったんだが俺と出会ってまだ日が浅いだろう。なぜそんなに俺を信用する?」
「だってこの短期間でたくさんジェラルトの優しさに触れてきたもん。それにシンシア王女のことだって新参者の私が羨ましくなっちゃうくらい大切にしてる」
ちょっとまて。
そこには物申したいんだが?
俺はシンシア王女を虐げるつもりはないが大切にしている具合で言えばいわゆる愛妻家と言われるような人たちと比べるのもおこがましいくらいだぞ?
フローラの前でいちゃついた覚えもない……というかそもそもいつもいちゃついたことなんてないんだけどな。
なぜフローラがそんなことを言えるんだ?
俺の疑問を察したかのようにフローラはニコッと笑う。
「ヘンター=イロリとニコラス王子の件、あれジェラルトでしょ?その2人はシンシア王女とアリスちゃんにたくさん迷惑をかけた制裁ってところかな?そういう家族のことを大切にするジェラルトだから信じられるんだよ」
……まさかあの件がこんな形になって帰ってくるとは思ってなかった。
フローラから一切穢れのない純粋な信頼を向けられて俺はどんな反応をすれば良いのかわからなくなってしまった。
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