第13話 宰相の孫、動き出す(テリー=マーカム視点)
「くそっ!」
蹴られた花瓶が音を立てて割れながら飛んでいく。
それでもなお俺の腹の中でグツグツと煮えたぎるほどの怒りは収まる気配はしなかった。
「あの非才王子め!私のどこが無能なのだ!あれではただ自分を支持してくれるドレイク家を贔屓しただけではないか!」
思い出すのは今日の昼の出来事。
王城にて仕事をしているとたまたま留学から帰ってきたばかりのヴィクター王子とシンシア王女を見つけ、挨拶に行くとあの忌々しき家の血の流れるあの小娘がいた。
まだ幼い小娘にも関わらず王族二人と懇意にしている。
王城を真っ昼間から歩くその姿はそうアピールしているように見えて我慢ならなかった。
(ドレイク家はただ取り入るのが上手いだけの無能集団だ……この国をあるべき姿に……強国アルバーを誕生させるためにはこいつらは邪魔なのだ。いい加減王子たちにも気づいてもらわなければならないというのに……!)
だというのに俺の言葉は王子に届かなかった。
それどころか否定され周りに使用人たちがいるのにも関わらず貶められた。
このマーカム公爵家の血筋を引き将来公爵になるこの俺が、だ。
そんなことがあっていいはずがない。
我らマーカム公爵家も建国の英雄初代アルバー王国国王陛下の血を継ぐ由緒正しき家でありいくら王族といえど我らを蔑ろにするなどとてもではないが許せることではないのだ。
「おのれ王子め……!ドレイク家め……!」
次は苛立ちをどこにぶつけてやろうかと思ったその瞬間、俺の頭に良い考えが浮かぶ。
考えれば考えるほど良い案で我らがら笑いが止まらなくなる。
「ふふふ……ふははは!影!出て来い!」
「はっ……お呼びでしょうか」
俺が呼ぶとマーカム家直属の暗部、『影』のメンバーがどこからともなく現れる。
俺の前にひざまずき、頭を下げた。
「命令だ。絶対に信用できるメンバーを集めて──────────────しろ。いいな?」
「……っ!?で、ですがそんなことをしてしまったら王家とドレイク家と同時に本格的に敵対することになってしまいますよ!?」
「構わん。元々敵対関係にあるのだしどうせ何もできない腰抜けどもよ。気を遣う必要など無い。そもそもドレイク家がこの国を守護してきたのだって本当のことか怪しいものよ」
どうせ誇張や虚偽を混ぜた報告をして国王を騙しているだけに違いない。
国境線を一度も侵害されたことがない?
そりゃあ本格的に攻めてこなかったら誰でも守れるだろうよ。
そんな誇りも実力も血筋も歴史も無い
一度この国を綺麗にするためには掃除も必要なのだ。
「で、でしたら一度マーカム公爵様にご報告を……」
「いらん。絶対に計画が漏れないよう決行は2日後だ。祖父様の判断を仰いでいる時間など無い」
「ふ、2日後!?」
影は本気で焦ることになる。
彼はテリーとは違い暗部故にドレイク家の実力を理解していた。
そんな権力の最高位である王族と、アルバー王国最強の武を持つドレイク家に喧嘩を売るなんて自殺行為としか思えない。
なのにも関わらず2日で成功させろという。
何がどうしてこんな話になったのか全く理解できなかった。
「ドレイク家は意地汚いネズミらしく諜報だけは本物らしいな。お似合いではあるが絶対に奴らに気取られないように細心の注意を払え」
「も、もう一度ご再考を……」
「ならん。俺がやれといえばやれ。それがお前らの仕事だろうが」
「ですが……」
目の前の影の釈然としない反応に俺は苛立つ。
マーカム家の暗部ならば直系たる俺の命令ならば喜んで引き受け、たとえそれが死ねという内容であっても喜び勇んでこなすものだ。
どうやら目の前のこいつにはその自覚が足りないらしい。
「もしやらなければお前の家族の身体を切り刻みお前のところに送りつけてやる。そうなりたくなかったら結果を出せ」
「………!承知しました……」
ふん、最初からそう言えば良いものを。
やはり忠誠というものは信じるべきではない。
何か大切なものを人質に取るほうがよっぽど効率が良いし、従順になって扱いやすい。
とくに信用が重要な情報を司る『影』のメンバーは全員人質に取っている。
こうすることで情報の精度があがり皆必死に情報をかき集めてくるようになるのだ。
「ああ、そうだ。これも持っていくと良い」
俺は棚から一つの袋を取り出し男に渡す。
高かったがこういうときに使えるように買ったものだ。
ここで使わずしていつ使うというのだろうか。
「こ、これは……?」
「なーに、ただ少し気分が良くなる薬だ。緊張を抑える効果もあるから決行前に使うといい」
覚悟しろよ、ドレイク家と王族ども。
俺はこの国を作り変える。
祖父様もドレイク家を過大評価しすぎなのだ。
これで俺が真の勇者たることを証明してやろう。
そうすれば祖父様も俺に家督を譲らざるを得ない。
そしていずれは俺がこの国の王に……!
「ふふふ!あはははははははは!!!!!!!!!!」
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