第3話 くっころガチ勢、潜入調査をする
「へえ、この建物は綺麗に残ったんだな」
「うん、耐震の面でも結構お金をかけてたみたいで残った宿屋で一番豪華な宿屋はここなんだ」
「それはまたありがたい待遇なことで」
まあ自分が手配した宿で俺達が襲撃されようものならウォルシュ男爵の責任問題になっちゃうからな。
当たり前と言えば当たり前だが。
中に入ると内装も中々お洒落で受付には小さな花が飾ってある。
フローラが受け付けに近づいていく。
「フローラ様!お久しゅうございます……!」
「ふふ、お久しぶりです。元気でしたか?」
知り合いなのか?
二人共なんだか嬉しそうだ。
「学園生活はいかがですか?」
「楽しいですよ。すごく勉強になります」
「それはよかったです。大演武会は──」
「すみません。先にジェラルトたちをお部屋に案内してもいいですか?」
「あら、私ったら本当にすみません」
おしゃべり好きなんだろうな。
でもまあ俺達どうしていいかわからないしフローラが早めに止めてくれて助かった。
ずっとぼーっと突っ立ってるわけにもいかないからな。
「ジェラルト、何部屋にする?」
「何部屋って?」
「3人同じ部屋でもいいし、シンシア王女と同じ部屋にするかなって。その……私でも別にいいし」
いいわけあるか。
婚約状態で手を出したら婚約破棄ができなくなるぞ。
貴族の婚約破棄は多くはないけど状況によって左右されることなので珍しくない。
手を出してしまったらその家とは一蓮托生でどんな不良債権を押し付けられようが逃れられない。
「俺は学生の段階で二人に手を出すつもりはない。ドレイク家の時期当主が女癖が悪いなど言われたら笑えないしそもそも婚約段階で手を出すのはご法度だ」
「ふふ、私は別にいいんですけどね」
「よくない」
「そんなに即答しなくてもいいじゃないですか……」
シンシア王女がフローラの言葉に乗っかってきたのですぐさま否定する。
シンシア王女は俺の反応に少し不満げに頬を小さくふくらませるがそもそも相手がシンシア王女だから断るんじゃないのだから仕方ない。
君たちは俺に無責任なクズ男になってほしいのかい?
「部屋は個室3つでお願いしよう。もしシンシア王女とフローラの二人で女子会をするために二人部屋にするならそれもいいと思うが」
「……どうしますか?フローラさん」
「その……私はシンシア王女さえよければもう少し仲良くなりたいなぁ、と……」
「ふふ、そうですか。でしたら一緒の部屋にしましょう」
「……!ありがとうございます……!」
フローラは嬉しそうに目を輝かせる。
まあ婚約者どうしで仲が悪いと家庭内の空気がとてつもないことになるし外敵に付け入る隙を与えかねない。
二人が仲良くしてくれるのならそれが一番だ。
「じ、じゃあ早速部屋に案内するね」
フローラは慣れたように迷わず歩いていく。
そして一番奥のフロアで止まった。
「ここがジェラルトの部屋、こっちがシンシア王女と私の部屋だよ。はい、これ鍵」
「ありがとう」
俺はフローラから鍵を受け取ると早速中に入る。
中はよく掃除されている清潔な空間に大きめのベッドと観葉植物やテーブル&椅子など十分な作りになっていた。
滞在は3、4日ほどを予定しているので随分快適な滞在になりそうだ。
(さて、フローラのくっころに繋げるためにまずはウォルシュ領の民に嫌われることから始めないとな。そのために何をしたものか……)
復興の邪魔をするのは魔道具の生産ラインを向上してもらうためにドレイク家が支援してるんだから意味がわからないことになる。
身分を盾に領民を傷つけるのはくっころ云々の前に人間としてやってはいけない。
となるとどうするか……
(領民に多大な迷惑をかけることなくそれでいて民全体から嫌われるようなこと……滞在日数的にも早く動くのが吉だな)
俺がそこまで考えをまとめるとドアがコンコンとノックされる。
返事をするとシンシア王女とフローラだった。
「どうした?2人揃って」
「今日はもうこれで自由時間でしょ?ジェラルトはどうするのかなって」
「俺は少々やることがある。2人は好きにしててもらって構わないが護衛だけはしっかり付けてくれ」
「わかりました。夕食は一緒に食べましょうね」
「ああ、わかった」
そう言って2人は退室していく。
部屋には俺1人だけとなり静寂が戻った。
「……やっぱり初心に一度戻るか」
俺は宿屋の女将から適当な服を買い取り街へと繰り出した──
◇◆◇
「おうおう、あんちゃん。すごい力持ちじゃねえか」
「鍛えているからな。これくらいは余裕だ」
「ガハハハ!見ない顔だが頼もしい!まだまだ頼むぞ!」
「任せておけ」
俺は今、大量の水の入ったバケツを運んでいた。
平民の服を身にまとい、身分を隠しボランティア活動に参加しているのだ。
人手はいくらあっていいということでいつでも誰でも募集のボランティア活動があったのでそれに参加することにしたのだ。
(やはり情報は自分の足で求めなければ……!今までくっころに失敗した時は偉そうに諜報隊に調べてもらってたからダメだったんだ……!)
思えばシンシア王女やカレンのくっころを見たときは自分1人で何かをしたときだった。
誰かを頼ることは悪いこととは全く思わないが一度初心に帰るためにこうしてもぐり込むことにしたのだ。
民に嫌われるために何をすればよいのか、それは自分が実際に民と同じ立場になってみれば見えてくるだろう。
俺の顔を知ってるやつなんていないし紛れ込むのは簡単だ。
「あんちゃんはどこから来たんだ?今のウォルターは復興作業で観光どころじゃないってのに」
「俺はゾーラから来たんだ。司教様から今なら善行をすると何倍ものご利益があるって聞いたもんでな」
「はっはっは!なるほどなるほど。だが本当に助かるぞ」
「俺1人でできることなど限られているがな」
「それでも手伝ってくれるその気持ちがうれしいんだよ」
大工の親方みたいな人が言うと周りの人もうんうんと頷く。
まあ手伝ってくれるなら理由はなんでもいいということか。
心優しい人が募金した100円より金持ちがパフォーマンスのために募金した云十万円のほうがたくさんの人を救う。
結局世の中はそういうものなんだろうな。
「さて、これを運び終わったら飯でも食いに行くか。町の広場で炊き出しをやってるんだ。食いに行こうぜ」
「働いた後の飯は絶品だぜ?坊主!」
「それは楽しみだ。飯のためなら多少の力仕事もより一層頑張れるってもんだな」
「ガハハハ!わかってるじゃねえか!」
生活用水を確保するために街から少し離れたところにある湖から水を汲んで運んでを繰り返していたからすっかりお腹が空いた。
前世を思い出して貴族の食事のルールとかに縛られず親父さん達と一緒に飯を食うのは楽しそうだ。
ちょうどこの水の運び先も町の広場だ。
すぐにでも飯にありつけるだろう。
「さて、ここらでいいだろう」
テントに用意されたスペースに汲んだ水を置いていく。
これで数日は持つはずだ。
「みなさん、お疲れ様でした」
「おー!ありがとう!」
「たくさん食べてくださいね」
「うまそうだな!」
俺たちが休憩に入るタイミングに合わせてくれたのか街の女性たちがスープとパンを運んで来てくれる。
若い男性衆は明らかに嬉しそうに昼食を受け取り俺は少し離れたところで親方らしき人と並んで座りながらその様子を眺めていた。
「いいものだな」
「ああ、大地震が起こった時はどうなることかと思ったが随分笑顔が増えたもんだ……」
親方は感慨深そうに、嬉しそうに笑う。
嫌われるための視察とはいえ手伝いに来てよかったな。
やはり復興の邪魔はしない線で進めたほうがいい──
「お二人もお食事はいかがですか?」
「ああ、ありが──」
話しかけられて後ろを振り返ると言葉を失った。
それは向こうも同様のこと。
「え……?ジェラルト……?」
「ふ、フローラ………」
訂正、この街で俺の顔を知ってるいやつはいました。
今俺の目の前に……
な、なんでこのタイミングなんだぁぁぁぁぁ!!!!!
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