第2話 くっころガチ勢、挨拶をする
「ルドルフ男爵様。エセルです。ジェラルト様ご一行をお連れいたしました」
エセルが扉の前でそう言うと中から返事が返ってくる。
エセルが扉を開き中に入るとそこには35歳くらいの男女がいた。
(ウォルシュ男爵夫妻か。思ったより普通だな)
特に武張った様子もなく、言われなければウォルシュ家の人間だとは気づけなかっただろう。
魔力量もフローラと比べればかなり少ない。
まあ魔力量は遺伝しないのだから比べてもしょうがないのだが。
「お初にお目にかかります、ウォルシュ男爵殿。アルバー王国ドレイク侯爵家の嫡子ジェラルト=ドレイクです」
「ご丁寧にありがとうございます、ジェラルト様。私はウォルシュ男爵家当主ルドルフ=ウォルシュと申します」
「妻のアンと申します」
なるほど、この人たちが俺の義両親になるのか。
中々良い人そう、と言いたいところだが貴族だからな。
全面的に信頼はできない。
「はじめまして。ジェラルト=ドレイクの婚約者、シンシア=アルバーと申します」
シンシア王女も来ることはあらかじめウォルシュ男爵に伝えてある。
ニコニコと微笑みを浮かべたシンシア王女は挨拶するが頭は下げない。
まあ結婚するのはシンシア王女じゃないしな。
未来の夫のもう一人の未来の妻の両親ってどんな関係になるんだ?
「立ち話もなんでしょうから座りましょう」
この場では俺とシンシア王女が一番身分が高いことになる。
来客の分際で正直こんなことを言いたくないが下の身分が座わりましょうと声をかけることはできないため俺が着席を提案する。
本当にめんどくさいな。
俺とシンシア王女が並んで座り、その向かいにウォルシュ男爵夫妻が座る。
フローラは少し悩んだ後シンシア王女とは逆の俺の隣に座った。
「私は将来ドレイク家の人間となります。なのでこちらに座ることをお許しください」
そんなフローラの様子を見て、ウォルシュ男爵は満足そうに頷いた。
婚姻はまだだがフローラは俺たちと一緒にアルバーへ行くことになっている。
それに言っていることはあながち間違いではない。
「それでいい、フローラ」
「はい、お父様」
エセルは一礼してから部屋を出る。
これで部屋の中にいるのはこの婚約の関係者だけとなった。
まあまずはゆっくりいきますか。
「ウォルシュ男爵殿。こちらドレイク領名物のアップルパイです。奥方と召し上がってください」
「ありがとうございます」
ウォルシュ夫人が明らかに目を輝かせる。
男爵はそんな妻の様子に少し苦笑しながら礼を言ってきた。
まあ女性は甘いもの好きな人が多いよな。
マーガレットも母の作ったお菓子をいつも美味しそうに食べてたし。
「ドレイク領のりんごは有名なんです。もし気に入ったらぜひ輸入してくださいね」
「はは、そうさせていただきましょう」
ドレイク家のりんごは大々的に作っているわけではなくあるところで少ないが美味しいりんごを育てている。
その場所を隠し守ることでドレイク家ブランドのリンゴとして売り出しているのだ。
ドレイク領ではそこまで珍しくないがあまり輸出はしないため他領では中々お目にかかれない。
ウォルシュ領に輸出するのはフローラが嫁入りするから特別というわけだな。
「……ジェラルト様」
「……?どうしました?」
「この度のフローラとの婚約を貴方様から提案してくださったこと、心から感謝します」
ウォルシュ夫妻は深く頭を下げる。
俺は頭を上げてもらって首を横に振った。
「アルバー王国とゴーラブル王国、そして
「フローラから聞きました。私たちを支援してくださると。本当によろしいのですか?」
「構いませんよ。未来の妻の実家を守ることは当然のことです。もちろん父イアンにも許可はいただいています」
「ジェラルト……」
ウォルシュ家にここで恩を売れるのはデカい。
父としてはそんな打算があるのだろう。
実際ドレイク家は戦の最前線に立つ。
そんなときウォルシュ家の医療用魔道具があればかなり心強い。
魔道具の交易さえできればドレイク家的には大満足であり、支援の出費などおつりが来る。
ウォルシュ家の医療用魔道具は超重要だから他国まで出回らないしな。
だから感謝するのはむしろこちら側なのだ。
「支援という名目で物資を運び込むのはやめておきたいと思います」
「ほう、ではいかがするのですか?」
「おたくの魔道具を2年間相場の3倍の額で買い取りましょう。もちろん物資の配達はこちらからしますし護衛もこちらが用意します。魔道具は帰還する輸送隊に預けてください」
「……!なんと……!」
ウォルシュ家は金を渡されても物資や食料を買うまでのタイムラグが発生してしまう。
なので最初から物資や食料を送ることにした。
更に送料も無料にしてやったんだ。
だからちゃちゃっと復興してくれ。
「もちろん2年経ったら値下げ交渉させてもらいますよ」
「はっはっは。輸送隊を派遣してくれるなら家族割で安くしておきまする」
「感謝します」
ドレイク家は金に困ってない。
それよりもこの魔道具で金で買えない優秀な人材を救えるのならこれこそが金の使い所というものだろう。
いざとなれば相場の何倍もの額で転売してもいいしな。
「それじゃあ早速頼みますよ。明日から」
「……?明日?」
「父上はこの条件ならば間違いなくウォルシュ男爵は呑む、と仰って既にゴーラブル王国の許可を取って物資を運んできています。明日にはもう到着しますよ」
まだまだ父には敵いそうにもない。
結局全てあの人の手のひらの上だ。
復興作業で活躍できる人材もたくさん連れてきているはずだからこれでウォルシュ家の復興も加速するはずだ。
あと俺たちを裏切れないように実力差を見せつける意味もある。
「……貴方がたには敵いませんな」
「これからも末永くよろしくお願いしますよ」
「ええ、こちらこそ」
俺とウォルシュ男爵はガッチリと握手をする。
癒しの魔道具はウォルシュ領だからできるのではなく癒しの魔力を持つウォルシュ一族の力なのだから政務に時間を追われて魔導具が作れないというのは困る。
俺たちに魔導具をたっぷり送ってもらわなくちゃな。
「それでは私たちはこれで失礼しますよ。フローラ、俺達は宿へ行こうと思うが父君と少し話していくか?」
「……いいえ、私も行きます。何日か滞在する予定ですしまた後日ゆっくり話そうと思います」
「そうか。ああ、そうだ。一つ言い忘れていた。ウォルシュ男爵」
「……?」
「私はフローラを魔道具作りのための道具にするつもりはない。俺の妻として、ドレイク家の顔として惨めな思いはさせないと約束しよう。辛いとき、苦しいとき。そんなときは俺も共にする」
「「「……!」」」
フローラは驚いたように目を見開き、シンシア王女は楽しそうに笑う。
そしてウォルシュ夫妻は涙を流していた。
一人の男として義両親を安心させるのは当然のこと。
若干くっころから遠ざかった気がしなくもないがこれくらいは誤差の範囲内だ。
アルバー王国に戻ってから本格的に幸せなくっころ生活を築けばいい。
だって当然だろう?
くっころが見れなくて辛く苦しく胸が張り裂けそうなほど悲しくて涙が出そうなとき、くっころが見れて嬉しくて幸せすぎて意識を手放しそうになるのをなんとか堪えるとき、そんな苦楽を共にするのが夫婦というものなのだから──
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