第4章 カートライトの赤き華編
第1話 くっころガチ勢、聖女の故郷へ行く
「フローラさん。ウォルシュ領はどんなところなのですか?」
「は、はい。シンシア王女。え、えっとその……」
揺れる馬車の中、シンシア王女の質問にフローラは緊張の面持ちで応える。
そんなフローラの様子にシンシア王女は苦笑する。
今、この馬車の中には俺とシンシア王女とフローラの3人だけ。
護衛も御者にエセル、それとドレイク家の諜報隊が数人影から守っているだけだった。
どうしてこうなっているのか。
それはフローラの両親に挨拶にいくためだった。
いつまでも
向こうが出向くって言ってきたけどまだ復興が完全に終わったわけじゃないだろうし、一応義両親に会うわけだしこちらから出向くことにした。
「ふふ、もっと楽にしてくださっていいですよ。口調も楽にしていただいて構いませんから」
「その……まだ慣れなくて……」
「私達は将来家族になるんですから。遠慮はいりませんよ」
俺の婚約者として改めてシンシア王女と顔を合わせたフローラは完全に聖女モードだった。
シンシア王女は別に身分とか重んじるタイプじゃないし敬語を外してもいいんじゃないか?という話になりシンシア王女から直々に許可が降りたのだ。
フローラは恐縮しきってあんまり敬語を外せてないみたいだけどな。
俺にはすぐに敬語を外してたのにな。
はぁ……もっと俺のことを嫌ってくれてもいいのに……
「フローラ。復興はどれくらい終わってるんだ?」
「このままいけば次の冬を越せるだろうとはお父様から手紙が来てたよ。でも家とかはあんまり……」
「そうか。だがまあ、冬が越せるなら最悪は回避したな。これからはドレイク領から支援が届くだろうしなんとかなるだろう」
フローラからの評価を一刻も下げなくてはならない今、ウォルシュ領の支援なんてしてる場合ではないのだが、一度約束してしまったし震災で困っている人への支援を俺一人の私情で取りやめるわけにはいかない。
地震の国、日本で育った俺からすれば震災による被害を見て見ぬふりはできないのである。
(くそ……今からでも道を踏み外したフローラを
「皆様、ウォルターが見えてきました」
「ありがとう、エセル」
御者の席に座っていたエセルが報告してくれる。
ウォルターというのはウォルシュ領のお膝元の街、つまり俺達の目的地ということだ。
窓を開けて外を見ると確かに遠くの方にうっすら街が確認できた。
(あれがウォルターの街か……フローラは聖女として民からも慕われてるんだっけ……いや、待てよ?これはチャンスなんじゃ……?)
俺の脳内に稲妻のように名案が浮かぶ。
もしウォルシュ領の民たちがフローラの俺との結婚を大反対したら少しは俺のことを悪く見直してくれるのではないだろうか?と。
ウォルシュの民からすれば俺はようわからん他国の貴族。
得体のしれない奴に大切なフローラが嫁ぐのはあまりいい感情はしないはずだ。
やめておいたほうがいい、とこっそりフローラに言う正義感のある領民がいれば御の字、無いとは思うがデモなんて起こしてくれた暁には大成功と言ってもいいだろう。
それでフローラが少しでも俺の評価を再見積もりしそれが悪感情になればハッピーエンド!
さぁ!みんな俺達の婚約に反対するんだ!
輝かしいくっころはまだ終わっていないぞ!
俺は素晴らしい未来を想像しニヤリと笑うと目の前の二人は不思議そうに小さく首をかしげるのであった──
◇◆◇
俺達を乗せた馬車はウォルターの街へと入っていく。
建物は壊れているが瓦礫はかなり撤去されているようで道は綺麗だ。
道を歩く民達の表情も絶望に染まっているというよりはむしろ精力的に働いているように見えた。
「地震があったと聞きましたが……悲観的な方は見受けられませんね」
「ああ、そうだな」
「私も久しぶりに帰ってきたけどだいぶ綺麗になったなぁ……」
フローラがしみじみと呟く。
ウォルシュ領はゴーラブル王都ゾーラからかなり遠い。
というか国境付近のいわゆる辺境の田舎だ。
中々帰るタイミングが無かったんだろうな。
「領主館はそんなに遠くないからすぐに着くよ。でもまあ王族と大貴族の二人からすればちっぽけかもしれないけど……」
「別に俺は豪華だろうと質素だろうと気にしないぞ?軍人の家系だから外でも雑魚寝できるくらいだしな」
「私も気にしません。出迎えてくださるだけでありがたいですよ」
俺もシンシア王女も軍人気質なので普段金を使っていたとしても質素なものをバカにすることは絶対にない。
というか何なら俺は安いもののほうが好きだったりする。
前世でも少しでもお小遣いは同人誌に回すためにお高いのより100均のシャーペンを愛用してるくらいだし貧乏性が染み付いているのかもしれない。
そんなことを考えていると馬車が止まる。
扉がコンコンとノックされ返事をするとそっと扉が開き、エセルが顔を出した。
「皆様、到着いたしました」
「ご苦労。ここまでの案内と護衛に感謝する」
「いえ、勿体なきお言葉です」
俺が感謝を伝えるとエセルはきびきびとした動きで頭を下げる。
俺は一番最初に馬車を降りるとシンシア王女に手を差し出した。
まあこれくらいは男として当然のエスコートだな。
「お手をどうぞ、シンシア王女」
「ありがとうございます」
シンシア王女は柔らかな微笑みを浮かべ俺の手を取る。
そしてゆっくりと馬車を降りた。
こういうのは身分順なので次はフローラだ。
「フローラも」
「ありがとう。ジェラルト」
目の前に建つ領主館は確かに
まあフローラは俺達の輪に加わったばかりだし気後れするのもしょうがないのかもしれないな。
なんせ婚約者は侯爵令息で正室となる人は他国の王女様だ。
まあ人間は慣れる生き物だし大丈夫だろう。
「ルドルフ男爵様は客間で話の場を設けると申されています。今からご案内いたしますね」
「ああ、よろしく頼む」
案内役のエセルを先頭に俺、そして俺の両隣にシンシア王女とフローラが並ぶ。
正直横幅取るしこの並び方もなんだかなぁと思うけどシンシア王女と横に並び婚約したばかりのフローラを後ろにおいてしまうと蔑ろにしていると取られかねない。
逆に正室となるシンシア王女を後ろにするわけにはいかないしこれが一番だ。
後ろに二人って言うのも考えたけどまあそれなら横並びでいいじゃんって結論になった。
「ジェラルト様、シンシア王女殿下。こちらが客間でございます」
エセルが一つの扉の前で止まる。
どうやらここが目的地らしい。
(さて……くっころの前に義両親への挨拶と行こうか……)
一人のくっころガチ勢である前に一人の男として、侯爵令息としてやるべきことはたくさんある。
俺はやるべきことは全て片付けてから楽しみをゆっくり味わうタイプなんだ。
仕事はしっかりしなくちゃな──
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限定にて『もしジェラルトがオークに転生してフローラとエセルに出会っていたら』を投稿しました。
よかったら覗いてみてください。
限定でこういうの欲しいってあったら教えてくださると助かります。
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