第25話 くっころガチ勢、変態が出そうになる
王城にてゴーラブル王と謁見した数日後。
ゴーラブル王の名で行われる俺達の決闘は王城中庭にある訓練場にて行われることになった。
たくさんの貴族が見に来るらしいけど、子どもの決闘を見世物にしていいのか?
まあ大演武会なんて行事があるくらいだし大丈夫か。
俺用に用意された控室で剣を磨いていると突然ノックの音がした。
返事をするとシンシア王女とマーガレットが中に部屋の中に入ってくる。
「あの……ジェラルトさん……」
「どうした?シンシア王女」
「その……フローラさんはジェラルトさんの目から見てもやはりお強いんですか?」
なんだ、その話か。
まあ一応俺が負けたわけだしシンシア王女は俺とフローラの戦いを見てないもんな。
心配するのも無理はない気もする。
「問題ない。俺が勝つ」
「……わかりました。ジェラルトさんがそう仰るのであれば大丈夫でしょうね」
あれ?思ったよりも物わかりがいいな。
もっと食い下がってくると思ったが……まあシンシア王女も段々と俺を理解してきたということだな。
「本当にマーガレットさんの言った通りでしたね」
「ふふ、年季の差ですよ。シンシア王女もジェラルトと一緒にいれば分かるようになります。いろんなことを考えているように見えて案外単純なときも多いですから」
おいこらどういう意味だお師匠さんよ?
俺が馬鹿で単細胞だって言いたいのかい?
俺ほどくっころを目指して頭を使える人間はいないというのに……
「あ、ジェラルトさんもうすぐ時間じゃないですか?」
「その通りだな。行ってくる」
「はい、頑張ってください。みなさんと一緒に応援してますから」
「頑張るのよ。勝てるように応援しといてあげる」
そう言って二人は各々エールを残して部屋から去っていった。
俺は苦笑しながら磨いていた剣をさやにおさめ、立ち上がる。
(さて……ここからが一番の山場だな……)
全ての集大成は今日この日に。
俺は気を引き締め直し一歩を踏み出した──
◇◆◇
「今日は頼む、ウォルシュ嬢」
「……はい、お手柔らかによろしくお願いします」
訓練場にて俺とフローラは向かい合う。
周りにはくじ引きで選ばれたゾーラ生と士官学校組や、ゴーラブルの貴族がたくさん観客として俺達を見ていてその中にはゴーラブル王の姿もある。
場は異様な緊張感に包まれており、あくまで娯楽ではなく真剣勝負なので張り詰めた空気と沈黙が場を支配していた。
「それでは、これよりゾーラ高等学校代表フローラ=ウォルシュとアルバー王国より士官学校代表ジェラルト=ドレイクの模擬戦闘を開始いたします」
あくまで構えるのは木剣。
しかしお互いを見据える目は本当の戦場さながらの厳しさを孕んでいた。
「始め!」
開始の合図が耳に入った瞬間、俺はフローラに接近し剣を振る。
初撃を防がれすぐに連撃に移行するがこれもまた防がれた。
「ふっ!」
フローラの剣の間合いの内側へと潜り込み剣を握っていない左の拳で攻撃を目論むがフローラの左手で上手いこと防がれてしまった。
(さて……ここまでは前の疑似戦闘のときと同じ……本番はこれからだ)
恐らく俺があえて前の戦いと同じ動き方をしていたのは向こうも気づいていることだろう。
前はここで勝ちを放棄してフローラに譲ったわけだが……今回はそうはいかないぜ?
「はぁっ!」
魔装を改めて強めにかけ直しフローラと一度距離を取る。
向こうも聖鎧癒戦っていったかな?それを自身にかけて身体を強化してくる。
(まさか紅月流の使い手以外でこんな戦いができるとはな……どっちの技術のほうが上か確かめてやろう)
俺は地を蹴り、さっきと同じコースで接近する。
──ただし速さは比べ物にならないがな。
「なっ……!?」
「甘い」
俺の剣を慌てて防ごうとするフローラの剣を俺は冷静に下から弾き飛ばしフローラの体を若干そらさせると胴付近に致命的な隙ができる。
本来ならここに遠慮なく叩き込むが今回は俺とフローラの実力差をはっきりとさせる必要がある。
こんな簡単に決着は付けずにもう少し戦ってから勝たなくては。
「まだまだ!」
俺はフローラが防げるギリギリのコースと速度で攻撃を続けていく。
癒やしの魔力の影響なのかフローラの動きはほとんど変わらないが魔力というものはそこまで万能では無い。
ずっと攻撃していると少しずつ動きが鈍くなってきた。
(本当に強力な魔力だ……まあ魔装の方が応用が効くようだがな)
癒やしの魔力は紅月流の魔装よりも圧倒的と言っていいほど身体強化と癒やしによる長時間の戦闘に向いている。
しかし普通の魔力の方が扱うのは簡単であり緻密なコントロールが可能であった。
故に動きの多彩さで言えばこちらが圧倒しておりフローラもフェイントを交えながら自分のペースに持っていこうとするが、最強の緩急を持つマーガレットの方が数倍厄介でありそのマーガレットと戦ったことのある俺は対応できてしまうのであった。
「ほらよ」
「うっ……!」
フローラの左手に俺の剣がかすり、フローラは腕を抑える。
いくら訓練用と言えどこの速さで当たれば痛いはず。
しかしフローラの纏う魔力によってすぐに回復していった。
(癒やしの魔力があまりにも強すぎるな……こんなの俺じゃなかったら学生でフローラに勝てる奴なんてそうそういないだろ)
俺ならば勝てる。
その確信は癒やしの魔力の力を見せられても変わらない。
俺がくっころを見るためにどれだけ努力してきたと思ってるんだ。
こういう場面でも対応できるように頑張ってきたんだぜ?
「次の一撃で決めてやろう」
「……っ!私はっ……!私は絶対に負けるわけにはいかないんです!」
気迫のこもった良い目だ。
その闘志に敬意を表し、俺も全力で応えようじゃないか。
俺は剣をしまってフローラを見据える。
「神聖剣、
その一撃はまさに閃光。
フローラの剣が白い魔力を纏い、目を瞠る速度の突きが俺を襲ってくる。
受け方を一歩間違えれば俺の剣は粉砕し、一撃ノックアウト間違いなしだ。
だがまあ……相手が悪かったな。
「紅月流、居合ノ術……
その剣はまるで雲が月の光を隠すかのように相手の剣の輝きを失わせる。
超強力な魔装がかけられるほどの大量の魔力を高密度に圧縮し剣にまとわせることで相手の魔力を斬ることができる技だった。
斬れる範囲が小さいのと魔力消費量が多いというデメリットもあるが魔力を斬れるという唯一無二の技は無情にもフローラの剣の強化を一瞬剥がし、むき出しになった剣身の半ばから叩き折った。
「そん、なっ……!?」
フローラの顔が絶望へと染まる。
完全に勝負あり、だな。
フローラは膝をついて剣を手放す。
「俺の勝ち、だな」
「………さい」
「ん?」
声が小さすぎてなんて言っているか聞き取れなかった。
俺が聞き返すと少し俯けていた顔をキッと俺に向けてくる。
「私は負けたんです!ならばここで……ここで終わらせてください……」
「もう勝負はついたと思うが?」
「聖女は……!聖女は無敗でなければならない……!完璧でなければならない……!民に希望と夢を与えられる存在でなくてはならない……!自分より遥かに年上ならばいざ知らず、同年代に負けた
うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!
背筋を凄まじい快感が駆け抜ける。
あと少しでもこらえるのが遅ければ多分理性完全崩壊からの感激の舞コースだった……
多分今脳汁がドバドバでアドレナリンやらドーパミンやらがすごいことになってる気がする……
ああ……!神様ありがとう!
(やはりフローラに目を付けた俺は間違ってなかったんだ……!過去の俺最高!過去の俺バンザイ!いよっ!異世界1!天才!)
表情やらなんやらは取り敢えず『たかが学生どうしの戦いで何を言ってるんだ?』という感じでいつもの5割増しくらいクールを気取ってるけど脳内はそれどころじゃない。
興奮し過ぎで意識を手放してしまう恐れもあった。
もちろんガチ勢たる俺はこんなタイミングで失神などとくっころに対する冒涜のようなことは絶対にしないけどな!
(くくく……気に入った!気に入ったぞフローラ!お前は最高だ!)
「ゴーラブル王。一つお話があります」
俺はこんなところじゃ終われない。
ここから無限くっころしなければならないのだから。
さあフローラ……お前は俺にずっとくっころを見せ続けてくれ……!
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