第26話 くっころガチ勢、理屈をこねくり回す

「ゴーラブル王。一つお話があります」


くくく……

俺はこの日のために色んな根回しやら準備やら足場固めやらをしてきたんだ……!

フローラは絶対にドレイク領に連れて帰る。

これはもう決定事項だ……!


「何かな?ジェラルト殿」


何事も最初が肝心。

ここで俺が

ドレイク家嫡男としてあくまで対等な立場として要請するべきだ。


「単刀直入に言わせていただこう。ここにいるウォルシュ嬢を私の妻に迎えたい」


「「「……っ!?」」」


動揺、驚き、理解不能、そんな感情が訓練場全体に走る。

今目の前で地に座っていたフローラも目を丸くしてこちらを見ていた。

ふふふ、驚いたか?

このままゴリ押して話を通してやるからちょっと待っていろよ……!


「お、お待ち下さい!彼女は貴重な癒やしの魔力を持つ人材!おいそれと他国に譲るわけにはいきません!」


王の近くにいた誰かが叫ぶ。

どれくらいの爵位かは知らんがこの場で先陣きって発言するとは中々肝が座ってるじゃないか。

まあゴーラブルお前らの事情など全くもって興味が無いがな。


「ゴーラブル王国はウォルシュ家を抱えているだろう。彼女一人ドレイク家が貰い受けたところでそう影響は無いと思うが?」


「聖女と呼ばれ民からの期待も厚い彼女を異国には出せないと言っているのです!」


こいつ……くどいな。

俺はくっころのためならば手間は惜しまないがこんな名も爵位も分からん奴とつまらない押し問答で時間を無駄にしたくない。


「ゴーラブル王よ。ご決断を」


「………ジェラルト殿よ。そもそも貴殿に婚約を決める資格などあるのか?仮にイアン殿から権限を譲り受けていたとしてもそなたの婚約者にはアルバー王家のシンシア王女がいたはず。そう簡単に側室を決めてよいのかな?」


そう言ってゴーラブル王はちらりとシンシア王女を見る。

あ、やべ。そういえばシンシア王女になんの事情も話していなかったな。

この話が終わったらしっかりと説明しておかなくては……!


「もちろんただの次期当主候補でしかない私めにそれを決める権限などございませんとも」


「ならば一度国内に帰って話をまとめてきたほうがいいのではないかね?」


「それには及びませんよ。書状を預かっていますから」


そう言って俺はゴーラブル王のところまで歩いていき書状を手渡す。

その紙には父直筆の婚約を許可する旨と朱印、そして玉璽まで押されていた。

そもそもこの婚約が成ればメリットは数多く上げることができる。

理由の九割九分がくっころのためではあったが話を通しやすかった。

くっころの絡んだ俺にかかればこれくらい余裕だな。


「玉璽……だと……!?」


「この通りシンシア王女の父君たる陛下にも裁可を得ています。これで何も問題はありませんよね?」


「む、むぅ……しかし……」


この国王も渋るんか。

これだけでもフローラの期待のされようがわかるな。

それだけに負けられないプライドが高まり見事に俺にくっころを見せてくれたわけだが。

くくく……そう考えるとこいつらもお手柄だな。


「ジェラルト殿、私から一つよろしいですかな?」


「何か話でも?サイモン=モーリス殿?」


サイモン=モーリス。

ゴーラブル王国の宰相に当たる人物でありドレイク家にあまり良い印象を持っていない人物だとの報告が上がってきている人物。

家は別に名門というわけではなく個人の力で宰相まで成り上がった人物で黒い噂は絶えない。

マーカム公ほどの野心家では無いが似たようなこすいことに手を染めているらしく今はマーカム公と繋がりがないか調査中の人物だ。


「困るのですよ。現在ウォルシュ家のフローラ嬢と私の息子の婚約を打診しておりましてね。フローラ嬢を他国に出すわけには行かない。ごもっともな意見だと思いますよ」


「婚約が本格的に決まったのならいざ知らず、打診の段階で潰しに来ようとするとはモーリス殿はよほど婚約を通す自信が無いようだ。そのような器の小さい人間が宰相とはどんな狡い手を使ってきたのかな?」


顔がムカつくので流れるように挑発の言葉が頭に浮かんできた。

こんなくっころの美学もわからん奴にフローラは勿体ない。

俺と婚約するのが一番くっころ界隈にとって幸せなことだろう?

だからさっさと譲れ。


「……ジェラルト殿。そなたとフローラが婚約を結ぶ利は?それによってはウォルシュ男爵を説得し、そなたと婚約を結ぶよう勅を出すことも吝かではない」


「っ!?陛下!」


「黙れ。そなたの家とフローラが婚約したところで得られる恩恵はたかが知れておる。ジェラルト殿の話は実現させるかは置いておいて一聞いちぶんに値するだろう」


「くっ……!わかりました。では聞かせてもらいましょう」


モーリスがこちらを見定めるように見てくる。

観客席が上の方に設置されているため見下してくるのが非常に腹が立つ。


「私とフローラ嬢の婚約にはいくらかのメリットがあります。その最大の利点はアルバー王国とゴーラブル王国のつながりを保つためです」


「そんなもの後々ヴィクター王子殿下と我が国の王女の婚約なりでいくらでも形にできる!今急いてそなたとフローラ嬢の婚約を結ぶ理由にはならない!」


「果たして本当にそうかな?」


「何を言うのだ!」


「ヴィクター王子にはまだ婚約者、つまりアルバー王国の将来の国母たる正室候補の方がいらっしゃいません。国の顔となる王妃となればそう簡単に決まりません。もし決まるまでの間にどちらかが戦争状態に陥れば果たして婚約など結んでいる暇はあるのでしょうか?」


まごうことなき正論。

アルバーもゴーラブルも仮想敵国を隣国に持ち、いつ戦争に陥ってもおかしくない。

もし戦争状態で婚約が決まっても国民たちがお祝いムードになるとは思えない。

将来の王妃との婚約が喜ばれないなんて惨めにも程がある。


「もし無理に婚約を通そうとすればヴィクター王子に正室がいないにも関わらずゴーラブルの姫君は側室になるでしょう。そのような屈辱を呑むというのなら別に私は構いませんが?」


「そ、それは……」


「ドレイク家はご存知の通り私とシンシア王女の婚約で王家との繋がりがありゴーラブル王国はドレイク家を仲介しつながることができます。王族どうしの婚約でお互いの関係が密接になりすぎて身動きが取れなくなるより何倍も良いと思いませんか?」


今はいつ戦争が起こってもおかしくない乱世を迎えようとしている。

そんなとき同盟が足枷になって国が滅びるのはあまりにも馬鹿らしすぎる。

ドレイク家は王家ではないものの言わずもがなアルバー王国内で強い立場を得ているし、ウォルシュ家は男爵家ではあるものの血統特異術の家であり知名度的には全くの問題なし。

つまるところ俺達の婚約は両国の関係が近くなりすぎず、かといって遠くもないちょうどよい距離感になるのだ。


「先代当主である祖父もゴーラブル王国より妻を娶っています。その歴史にあやかりこの場で婚約を結ぶのも悪くないと思います。なにより……ドレイク家とつながりをもてるのは良いと思いませんか?」


ゴーラブル王家がドレイク家を高く評価しているのはスカウトが来ていたという話から簡単に察せられる。

この聞き方は我ながらに断れないだろうと思った。


「ウォルシュ嬢、君は俺と婚約するのは嫌か?」


もはや、この状況でフローラは首を横に振ることなどできない。

この状況で断ればただ後々自分の首を締めることになるだけで何も事態は好転しない。


「………………………嫌じゃないです」


言葉の内容とは裏腹にフローラはたっぷりと間を空けて答える。

その反応に俺は思わず笑みがこぼれた。


「……はぁ、わかった。フローラ嬢がそう言うのであればジェラルト殿との婚約を認めよう。ウォルシュ男爵には勅としてこの件のことは伝えておく」


「ありがとうございます、ゴーラブル王」


勝った……!

これで無限くっころは俺のものだ……!


さあフローラ!これから一緒に幸せ無限くっころライフを一緒に満喫しようぜ!

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