第18話 くっころガチ勢、作戦会議をする
目の前の敵の攻撃を避け、カウンターを入れる。
既に倒れたことを確認し目の前の小さく盛り上がった土に刺さっていた旗を抜き取り空へと掲げた。
「そこまで!α組の勝利!」
審判のコールが鳴り響き観衆が沸く。
たった今、出場予定だった種目、『疑似戦場』の決着がついた。
疑似戦場とはクラスから10人ほど選抜しお互いの本陣代わりである旗を守り相手の旗を奪えば勝ちというもの。
今日はこの種目しか行われないため前もって様々な障害物が用意されており個人の武と戦略両方が大切になってくる競技らしい。
(まあ疑似って言ってる時点で生温いよな。俺はすでに実際の戦場にも立ったことがあるわけだし)
やはり大して味方にも敵にも目に止まるような人材は見受けられなかった。
後のくっころ計画が楽しみなのもあって全くやる気が出なかった俺は、頑張ろうとしていたこの国でのクラスメイトには申し訳ないが全員で旗を守ってもらって俺一人で相手陣地に突撃するという作戦を取った。
まあ結果は見ての通りなんだけどな。
相手はβ組でシンシア王女を口説こうとしたアホ王子もいたのでこれ幸いとボコっておいた。
俺はクラスの控室ではなく新たに用意された部屋へと向かう。
中に入るとα組の面々ではなくSクラスのメンツが揃っていた。
こうやって全員揃うとなんだか懐かしい気分になった。
「ジェラルトさん!お疲れ様です!」
シンシア王女が真っ先に俺に気づきパタパタと近寄ってくる。
ブンブンと尻尾が振られている姿を幻視してしまうのは気のせいだと思おう。
シンシア王女からタオルを渡されありがたく受け取り、若干流れていた汗を拭う。
「ジェラルトか。ご苦労だったな」
「おかえり。ジェラルト」
ヴィクター王子やローレンスを始めとしてクラスメイトたちが次々と労いの言葉をかけてくれる。
嬉しいと言われれば嬉しいが始めは悪役で名を売ってたのにどうしてこうなったんだか……
ここらで一発大きな悪事でもかましておかないといけないな……
とはいえ簡単には思いつかないからこれは後にしておこう。
「大活躍でしたね、ジェラルトさん」
「アリスや師匠に格好悪いところは見せられないからな。それに大したことはしていない」
「一人で相手を全滅させておいて大した事ないならどうすれば大したことになるのやら」
「嫌味でもなんでもなくこいつはサラッと言うからな。それが事実なのもまた腹立たしい」
ローレンスたちが呆れたように口を開く。
まあヴィクター王子は発言の内容とは裏腹に結構楽しそうに笑ってるけど。
この人ほんといつでも笑ってんな。
「まあとにかく今は早速話し合いから始めましょう。既に全員いますか?」
「ああ。お前で最後だ」
おっと。
俺が一番最後だったか。
まあさっきまで出場してたんだしこれくらい許して欲しい。
「それでは始めましょう。勝つための作戦会議を」
◇◆◇
俺達Sクラスとゾーラ高等学校選抜メンバーでのエキシビションマッチ。
それは最終競技まで終わりしばしの休憩を挟んでから始まる。
既にSクラスのメンバーの出番は全員終わっているためこうして全員集まって作戦会議を行うのだ。
こういうのも青春って感じでいいよな。
「では立案、進行はジェラルトに任せようと思うが皆、異論は無いか?」
え?俺?
周りを見渡すと異論を唱える人は誰もいない。
まじか……今回はただの兵卒として参加しようと思ってたのに……
「ヴィクター王子がやらなくてもいいのですか?王子殿下たるあなたに誰もがついていきますよ?」
「馬鹿言え。余は戦場に関しては専門外だ」
「疑似なので戦場じゃありませんよ?思い出づくりだと思ってやってみてはいかがか?もちろん私とローレンスで手助けはしますとも」
俺がそう言うとヴィクター王子はやれやれといった様子で首を横に振る。
なんかその態度イラッとするんだが?
一応目上だし表情には出さないが。
「アルバー王国では政治は王家。軍部はドレイク家と分担しているぞ?」
「私達はまだ子どもですし」
「王族は全てをこなす超人ではなく専門的に優秀な人材を適材適所に配置するのが仕事だ。だから任せた」
「……了解しました」
そんなこと言われたら流石に断れんて。
王族が二人もいるわけだし俺が命令を出すのは世間的にも良くないかと思ったが本人は良いっていうなら別にいいか。
「それでは作戦会議を始めましょう。まずは前提条件の確認から。相手はゾーラ高等学校成績上位者20名の選抜メンバーです。実力的には良くて五分といったところでしょう」
今回チーム分けから圧倒的に不利だ。
確かにSクラスも士官学校の成績上位者20名と条件は同じに見えるが相手は剣術成績上位20名なのに対しこちらは勉学も含めた成績上位者だ。
どう考えてもヴィクター王子やトムたちなど勉学のほうが得意なメンバーが正面からぶつかって勝てるわけがないのだ。
「故に最初の配置が勝負の鍵を握ると言ってもいいでしょう」
「ふむ、何か案はあるのか?」
「流石に今回は私一人突破して勝つというのは無理です。相手の情報も無いのでここは攻めに力を入れ、守りの人数を極力少なく守るしか手はないかと」
戦力の分散は戦場において悪手だ。
だがまさか全員で固く守ったり攻め込むわけにもいかない。
一般的に戦いは攻めのほうが地の利などの影響で人数を要するのでこれが一番スタンダードだろう。
「ジェラルト、戦うのが得意じゃない人たちはどこに配置するんだい?」
「そこが悩み所だな。だが守り側のほうがいいんじゃないかと思っている」
防衛戦なら石やら弓やらで攻めよりも素人なりにできることは多いものだ。
これらのものを今回使うわけにはいかないが工夫次第でなんとかなるはず。
「Sクラスの主戦力は主に三人。シンシア王女、ローレンス、そして私です」
自分のことを主戦力って言うのは若干恥ずかしいが謙遜していても話が進まない。
ここは思ったままを話そう。
「守りはシンシア王女。そして攻めは私とローレンスで受け持ちたいと思っています」
ヴィクター王子は間違いなく防衛側だ。
そうなったときシンシア王女のほうがヴィクター王子だろうが誰だろうが全員に躊躇なく指示を出せる。
人望も厚いし少ない人数で守るとなれば適任は彼女しかいない。
「シンシア王女、頼めるか?」
「あなたの力となれるならば、必ずや旗を守りきってみせます」
うん、やる気は十分みたいだな。
はぁ、過去の計画が上手くいってたら『なんで私があなたの命令を聞かなくちゃならないんですか?』と言わんばかりの目で俺を見てくれただろうに……
そこをヴィクター王子を味方に付けて無理やり言うことを聞かせる……ああ!考えてきただけでゾクゾクしてきた……!
「ローレンス、やれるな?」
「ああ。次こそは」
「その意気だ」
俺はローレンスと軽く拳をぶつけ合った──
◇◆◇
俺率いるSクラスとフローラ率いる精鋭がコロシアムの中心で向かい合う。
観客の盛り上がりもここ一番を見せていた。
「まさかジェラルト様があそこまで強いとは思ってもみませんでした。しかも手加減までして」
「ウォルシュ嬢にそこまで言っていただけるとは光栄だよ」
「……負けません」
フローラは一つお辞儀をしてから背を向けて離れていく。
さーてと……俺はどう動こうかな……
一番良い結末を引き寄せるために、俺はなんだってしよう。
これは
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昨日より『幼馴染であるみんなの憧れの美人でクールな生徒会長は俺に話しかけるとすぐに顔が赤くなる』という新作を始めました。
https://kakuyomu.jp/works/16818093074537022413
読んでくださると嬉しいです。
ぜひよろしくお願いします。
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