第19話 くっころガチ勢、負けてみせる
「これより!ゾーラ高等学校代表メンバーとアルバー士官学校より1−Sクラスの疑似戦場を開始する!」
俺達はお互い既に配置に付き、障害物に身を隠しているのでお互いの居場所は特定できない。
ただただ審判の声だけがコロシアムに響き渡っていた。
「それでは……始め!」
「行くぞ!」
「「「おう!」」」
開始の合図と同時に俺達は敵の旗に向かって移動し始める。
旗に向かって最短ルートで進んでいるので迎撃や罠の可能性も高いが俺達は戦える主戦力の全てを攻めに置いた。
つまりこちらがやられる前にやってしまえ戦法なのである。
俺達はかなりの人数で固まっているので数人程度じゃ絶対に止められない。
途中で鉢合わせた2、3人を脱落させ俺達は突き進む。
「もうすぐ旗が見えてくるはずだ!ここから──」
少し開けた場所に出た瞬間、俺達は足を止める。
いや、止めざるを得なかった。
「なるほどな。そうきたか」
目の前にいたのは10人ほどのゾーラの学生。
つまり相手方はこちらとは対照的に防御に力を入れていたわけだ。
シンシア王女のほうは楽になるが俺達は中々ピンチだ。
「かかりましたね。ジェラルト様」
後ろからゆっくりと剣を抜いて歩いてくるのはエセルだった。
彼女もやはり選抜メンバーに選ばれていてどうやらこの配置を作ったのも彼女らしい。
「この状況であなた方に勝ちはありません。降参するなら今のうちですよ?」
「おいおい。時間を見ろよ、エセル殿。まだ始まってから少ししか経ってないぜ?本番はここからだろう?」
「あなた達を残らずここですり潰して後は全員で旗を奪って終了です」
戦場ならば包囲されれば絶望的。
だが今はお互い同じくらいの数であり全体を包囲すれば薄すぎて簡単に突破できてしまうためエセルたちは前と後ろを重点的に固めている。
こうすることで仮に逃げられようとも攻守共にフォローに行きづらくするって寸法だな。
「まあ、
「え……?」
「俺は戦の名門たるドレイク家の跡取りだぞ?こんな猪よろしく突撃しかできん男に見えるか?見えるなら相当心外だから今回からその認識を改めてもらおう」
俺はニヤリと笑う。
流石にいくら相手が学生だからってそれは舐め過ぎだろう。
突撃だけなんて芸が無さすぎる。
「一つ言っておこう。突撃というものは勝てるとき、もしくは勝機を生み出すためにしか行わない。それが戦の常というものだ」
「……?それがどうしたのでしょう?」
「いや、なに。お礼を言っておこうと思ってな。俺の思惑通りに動いてくれてありがとう」
「……!?」
「ローレンス!」
俺が合図をした瞬間、ローレンスがエセルの後ろから突撃し、エセルはなんとか反応して防いだ。
それを防ぐのは流石だがまあ少し甘かったな。
ゾーラの面々が防衛に力をいれるのは正直予想できていた。
なぜならば俺が圧倒的な力で直前にあった疑似戦場を一人で勝たせたから。
しかも手加減までしてるとなれば実力を測りきれず俺を警戒するのは自明の理だ。
もし相手が防衛を捨て、俺達のように相手より早く旗を奪う選択をしたとしても俺達はこの障害物の配置から最短で旗にたどり着けるルートを選択しているのでこちらのほうが早いか、真っ向からかち合うかの二択だ。
もし真っ向からの勝負になれば勝負は泥沼化していたかもしれないがこうなれば後は単純だ。
「ローレンス!後は任せたぞ!」
「ああ!みんなかかれ!」
ローレンスの号令で全員ゾーラ代表メンバーに襲いかかる。
それこそ温存を考えずがむしゃらに。
この場で一番強いであろうエセルはローレンスが釘付けにしている。
「俺さえ抜けられれば後は勝てる。そういうことだ」
これは戦のようで戦じゃない。
戦ならば味方を捨て駒にするなんて絶対に考えられないが命の取り合いではなくただの競技ならば一人でも旗のもとにたどり着いて奪えば全員の勝ちだ。
これはそういう勝負なのである。
「それじゃあな。エセル殿」
「あっ!待──」
「おっと。ジェラルトのところには行かせないよ」
この場にいた全員をここに釘付けにすることに成功している。
俺は体に魔装をまとわせ敵の旗の場所へと向かった。
すると思わず苦笑が漏れてしまった。
「……なるほどな。相手もなかなかやるようだ」
「ジェラルト様、あなたなら必ずここまですぐにたどり着いてしまうと思いましたよ」
フローラ=ウォルシュ。
この試合における不確定要素であり相手の切り札。
エセルたちのところにいなかったからてっきり攻撃側に回っているかと思ったらまさか俺一人のためだけにここに留まっているとは。
「どうしてわかったんだ?」
「あなたの実力は私達の想像を超えてくると思いましたから。エセルの立案を聞かされて思ったんです。あなた様なら簡単に突破して私達は負けてしまう」
「なるほど、無断でここまで来たってわけか」
フローラの警戒が俺を上回ったということ。
戦略的にはここで一気に決めてしまいたかったが気が変わった。
中々楽しめそうじゃないか。
「面白い。いざ真剣勝負といこうじゃないか」
「できれば私の杞憂で終わってほしかったところですけどね。ただ勝ちを譲るわけにはいきませんので」
フローラは剣を構える。
俺はまずは様子見ということで軽い魔装をかけて剣を構える。
同年代に向かって魔装を使いながら戦うことはまずないがフローラ相手ならば使ったほうがいいと判断した。
「行くぞ」
「はい」
一気に接近して剣を振るうがフローラの剣に止められる。
そのまま流れるように連撃へと移行するがどうにも決め手に欠ける。
まさか初見からここまで完璧な対応をされるとはな。
「素晴らしい。同年代でお前ほど強いやつに出会ったことがない」
「それはどうも!」
フローラの剣が鋭く迫るが体を捻ってよけ懐に潜り込む。
それこそ剣の間合いのさらに内側へと。
剣がお互い振れない超至近距離で体術勝負へと持ち込む。
(魔装は身体強化だから剣に限らない……!これで終わりだ……!)
一撃で意識を刈り取るべく顎を狙うがなんとフローラの左手が俺の攻撃をガードする。
そして今の動きを見て俺はようやくフローラの強さの秘訣に気づいた。
(癒やしの魔力を常に自分に流してやがる……!ただの魔力と違って癒やしの魔力は体を活性化させるドーピングみたいなものだ……!魔装の上位互換ってか。笑えないな)
癒やしは他の魔力と違って消費が激しい。
それを戦闘中ずっと自分にかけながら戦うなどどれほどの集中と魔力量を要するのか想像もつかない。
だがこれをやってのけてしまうのがフローラが天才たる所以なのだろう。
「負けられない……絶対に私は負けられないんです!」
フローラの目は今まで見た誰よりも勝利に飢えている。
己が最強たる証明をしたいとかそういう野望じゃない。
もっと他の何かが見え隠れしているような気がした。
「……なぜそこまでして勝利を望む?」
「あなた様には関係のないことです。私は……私は勝たなくちゃいけない!」
その瞬間、背筋にビビッと稲妻のような衝撃が走る。
こ、この感覚はまさか……
「ふ……ふふふ……フハハハ!!!!そうか。そういうことだったのか。天におわす
「な、なんですかいきなり……」
この試合に勝ち、いかにも真面目そうなエセルが責任を感じてくれて、そこから更に追い詰めてくっころさせようと思っていたが計画変更だ。
今まさにくっころの気配がした。
それすなわちくっころ神が俺を至高のくっころへと導いてくれているということ。
こうなった俺はまさに無敵。
いつもの何百倍の速度で思考を回し、数々の要因から最もくっころを見れるであろう作戦を導き出す。
ふふ、俺が必ずや実現させてみせようじゃないか。
「ふはははははははは!!!!!!!!!!」
俺はフローラに斬りかかり再び戦い始める。
そして何十合と切りあった頃、一本の剣が宙を舞い飛んでいく。
「勝負あり、ですね」
「ああ、そうだな。俺の負けだ」
フローラは頷き剣を収め歩いていく。
おそらくこれからローレンスたちを制圧しにいくことだろう。
だが、覚えておけ。
俺はお前が思っているほど優しく殊勝な人間じゃないんだ。
くっころを手に入れるためならこんな試合の勝ち星なんて100でも200でも譲ってやる。
だがな、最後に笑っているのはこの俺だ。
フローラは今回の俺への勝利に後からじわじわ苦しむことになるだろう。
俺はくっころを見るためなら恥もプライドも捨ててやる。
「ふふふ、クハハハハハ!!!!!!!」
さあフローラ!
お前の悔しさに滲むその表情、今から楽しみにしているぞ……!
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