第12話 くっころガチ勢、ツンデレ呼ばわりされる
フローラとエセルの情報収集を受けた翌日。
昨日の報告でより二人の人物像がはっきりとしたのでくっころの妄想をしていたら興奮してしまって中々寝付けなかった。
少し眠気を感じながら宿から登校していると前を歩くローレンスとヴィクター王子の姿を見つけた。
少し早足で追いつき話しかける。
「おはようございます、ヴィクター王子。ローレンス」
「おお、ジェラルトか」
「おはようジェラルト」
こうして三人で登校するのはなにげに初めてかもしれないな。
ローレンスとはたまに会うけどヴィクター王子の登校時間はいつもバラバラで規則性がなさすぎて時間が合うことが無いのだ。
「昨日は大変だったな、ジェラルト」
「その節はご迷惑をおかけしてすみません。アリスにはよく言って聞かせます」
「いや、よい。そもそも妹のために怒ってくれたらしいしな。余が責めることはない」
「そう言っていただけると助かります」
ヴィクター王子が融通が利く人でよかったよ。
王族なんてもはやお手本と言っていいほどゴーラブル王国のニコラスのような奴がいても別に珍しくもないしな。
封建制度も考えものだが俺に今の世の理を動かす力は無いし抗うしかないのだ。
「それにしても昨日のアリスちゃんの剣はすごかったらしいね?さっきヴィクター王子ともその話をしていたんだ」
ヴィクター王子の方を見ると楽しそうに頷く。
多分シンシア王女からでも聞いたのかな?
そうでなくても昨日の決闘はたくさんの人が見ていたしな。
「ああ、正直に言うと予想以上だったな。アリスの剣を直接見たことはなかったから本当に驚いた」
「ほう、ジェラルトがそこまで言うとは珍しいな。シンシアの報告も誇張ではなかったか」
「シンシア王女も間違いなく手練れですよ?私に聞く前にもっと信用してあげてください」
「別に信用していないわけではないけどな」
どうだか……
まあなんだかんだヴィクター王子もシスコンだし照れ隠しかな。
そういうことにしておこう。
「ドレイク家は嫡男だけじゃなくてご令嬢も怪物だったか。全く君の家は一体どんだけ力を持っているんだか。仲間のはずの僕の家ですらドレイク家の底が知れないよ」
「人を勝手に怪物扱いするな。俺は別に怪物じゃない」
「実際士官学校を歴代最高得点で入学してるんだから君以上の学生はアルバー王国にいないと思うけど?」
「俺は人の枠内を超えてない。最高点でも怪物じゃない」
「あはは、君がそこまでいうならそういうことにしておこう」
ローレンスが楽しげに笑う。
俺としてはただ理不尽に怪物扱いされただけなんだが?
全く失礼な奴だ。
それにアリスまで怪物呼ばわりするとは。
剣の腕があるとはいえあんなに可愛いのに。
「ん?あそこにいるのは……」
俺がそんなことを考えているとずっと想像で見てきた二人組の後ろ姿を見つける。
並んでいるのはサラサラと風になびき輝くような真っ白の髪と灰色に近い淡い銀髪。
間違いなくフローラとエセルだった。
「どうしたんだい、ジェラルト。もしかしてあの二人に見惚れてる?」
「バカ言え。一人はエセル殿だろうが。もう一人は俺のペアになった人だよ」
「あー、あの人が噂の。確かに絶世の美少女って感じだね。あんなに顔が整っている人は見たことがないかも」
どうやらローレンスはフローラのことを知っているらしい。
それにしてもフローラに対して抱く感想はみんな同じなんだな。
恋愛対象として見るかは別として顔が整っているのは全員が認めるところ。
本当に二次元が現実に飛び出してきたみたいでさすが異世界って感じだな。
「ふむ、では少し声をかけてみるか」
「次期国王がナンパはやめておいたほうがいいと思いますよ。国の品性が疑われますし、自分の体に流れる血を撒き散らすわけにはいかないでしょう?」
「誰がナンパすると言ったんだ。余が女に溺れるように見えるか?」
………あー、確かに見えないかも。
なんか夜のベッドとかでパートナーとかに対して『公務に付き合ってもらって悪かったな。もう寝ていいぞ』とか言って超ドライな夫婦関係を築いているイメージ。
もしくはあまりの破天荒具合に振り回しまくるとか?
「……なにか失礼なことを考えていないか?」
「王家に対し不敬な考えを私が持つとお考えで?」
「はぁ……惚けるな、めんどくさい。余とお前はそんな仲じゃないだろう」
「女に対して超ドライで振り回しまくるお姿が幻視できました」
「よし、あとで折檻だな」
なんでだよ!?
アンタが素直に言えって言ったんじゃないか!
くそ、騙された!
「……おそらくローレンスも同じことを思ってましたよ」
「そうなのか?」
「……いえ、そんなことは……」
おい怪しいぞ!
目をそらすなお前!
絶対思ってたな!?
「……ヴィクター王子のお望み通りあの二人に声をかけてきますので失礼します」
そう言ってローレンスはそそくさとこの場を抜け出し二人に話しかけに行った。
美男と美女が話している姿はさながらなにかの物語の一部のようで大変よろしいがこの場の空気はよろしくない。
ヴィクター王子が本気で怒ってるとは思えないけど説教は嫌だ。
「お二人を連れてきましたよ」
そんなことを考えているとローレンスが二人を連れて戻って来る。
二人はヴィクター王子に頭を下げた。
「お初にお目にかかります、ヴィクター王子殿下。私はウォルシュ男爵家が長女、フローラ=ウォルシュと申します」
「ウォルシュ家ということはあの血統特異術の?」
「はい、我が家は癒やしの魔力を受け継いでおります」
情報通りだったか。
仲良くなってドレイク領に優先的に医療用の魔道具を輸入させてもらいたいものだ。
そうすれば少しは民も健康で幸せに暮らせることだろう。
俺は悪役を目指しているが民衆の怒りを買ってクーデターなんてバカみたいなことはしたくないので、民衆には優しく騎士、特に女性に厳しくがモットーだ。
「おはようございます。ジェラルト様、ローレンス様」
「ん?ああ、おはよう。ウォルシュ嬢」
エセルがヴィクター王子に挨拶をしているタイミングでフローラが俺とローレンスに挨拶に来る。
いかんな、こちらから挨拶しようと思ってたのに考え事をしていたせいで先を越されてしまった。
「ジェラルトが何か苦労をかけてないかい?こいつはだいぶ頭がおかしいやつだからね」
「おい、そんなこと言ってるとお前の家潰すぞ」
「あはは、それは勘弁してほしいね」
ローレンスは楽しげに笑うが俺は全く楽しくない。
なんだよ頭がおかしいって。
俺が内心ローレンスに文句を言っているとフローラがクスクスと上品に笑う。
「お二人は仲がよろしいんですね」
「まあな。他の奴らは媚を売ってきたり、敵対する奴らばかりだからな。気が置けない珍しい奴だよ」
「ツンデレのジェラルトがデレた……!」
「本気で怒るぞ?」
「ごめんなさい」
男のツンデレなんて誰に需要があるんだよ。
そもそも誰か身近にツンデレの人いたかな?
マーガレットはそうかなとも思ったけど別にそこまでツンツンしてないしな。
まあ俺としてはツンデレよりもツンツンのほうが好きだが。
「ウォルシュ嬢はエセル殿と仲がいいんだろう?」
「はい。昔からの幼馴染で姉妹のように育ってきたんです。ジェラルト様はなんでもご存知なんですね」
「はは、そんなことないさ」
幼馴染ってなんかいいよな。
それに幼馴染×くっころはあまり聞いたことがない。
俺が時代の先駆者として幼馴染のくっころの素晴らしさを見い出し、書を書いて後世に残してやろうじゃないか。
「そういえばお話は変わってしまうのですがお二人はご存知ですか?」
「……?何をだ?」
「近頃に大演武会があるんですよ」
「「大演武会?」」
俺とローレンスは揃って頭に疑問符を浮かべる。
そしてフローラから詳細を聞いて頷いた。
祭りの時間がやってくるぞ……!
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