第11話 くっころガチ勢、獲物について知る
「全く……初日から問題だらけだったな……」
俺はゴーラブル王国に用意してもらった宿の部屋で一人つぶやく。
あれの決闘騒ぎからお互いの国のお偉いさんどうしで話し合うことになりアルバー王国側からはドレイク家代表として俺、国の王子たるヴィクター王子、クラスの責任者としてエリック先生、ゴーラブル王国側からは宰相殿とニール校長というメンバーだ。
本来はこちらが一方的に糾弾できる立場だったのだがいかんせんアリスが少しやりすぎた。
一応相手はこの国の王子なので体面というものがある。
あの王子に元々威厳もへったくれも無い気がするがアリスの発言の内容が他国の王族に向けるものではなかったというのもまた事実。
ということで話し合いの結果表向きにはお互い水に流すことにし、裏でドレイク家とゴーラブル王国の友好の証としてお金を少々送ってくれるらしい。
口止め料も含まれてるんだろうけど本当にありがたいね。
いやー嬉しい臨時収入だね。
どうやって使おうかな……
道路の整備に警備隊の増員……あ、前に街のおっちゃんが話してた子供がもっと自由に楽しく遊べる公園を作るのもいいかもしれんな。
「失礼します、ジェラルト様。少しお時間をよろしいでしょうか」
「ああ、入れ」
俺がそう言うと開いた窓から二人の人影が入ってくる。
一人は全身黒い服を着て顔を仮面で隠した男。
そしてもう一人はメガネを外したカレンだった。
二人は俺の前まで来てひざまずこうとするがそれをされると話しづらいので止めて前にあったソファーを勧める。
「ではお言葉に甘えて失礼します」
「失礼します」
「ああ、くつろげというのも難しい話だと思うがそう固くならないでくれ」
この男は父直属の諜報隊の小隊長を務める男だ。
留学が決まった際にアリスの護衛として共に来ており父の手紙には自由に使っていいと書いてあった。
多分将来を見据えた練習みたいなものなんだろうな。
まあせっかく借りたので使えるものはなんでも使おうと思い俺は少し調べ物をしてもらっていた。
「それで情報は得られたのか?」
「はい。ジェラルト様の指示通り探ってまいりました」
「ふむ、では聞かせてもらおうか」
「は」
そう言って男は頭を下げる。
そして決して大きくは無いが聞き取りやすい声で話し始める。
「まずはフローラとエセル、どちらから報告いたしましょうか?」
そう、俺が諜報隊に頼んだのはエセルとフローラの身辺調査であった。
くっころを実現するためにはまずは落ち着いて行動し正確な情報を集めること。
こんな初歩中の初歩を俺はカレンのときに失敗しあえなくくっころを逃した。
もう二度と同じ轍は踏まない。
「では大物は残しておこうか」
「了解いたしました。ではエセルという騎士からお話しさせていいただきまする」
俺の中ではエセルのほうが本命なんだけどな。
なんかthe真面目な女騎士って感じがするしウォルシュ家の専属騎士って立ち位置が厄介ではあるけれどなんとか
「エセル。身分は平民の15歳でスリーサイズは……」
「待て待て待て。そんな情報まで調べてきたのか!?」
「もちろんでございます。ジェラルト様より調べに調べ上げてこいと申されたので漏れが極力無いように調べてまいりました」
………優秀すぎるのも考えものだな。
まあ確かにちょっと命令がざっくりしすぎたかもしれない。
調べ上げてこいと言われて自分がいらないだろうと判断決めつけず一応報告してきたって感じか。
いや、常識的に考えて普通そんな情報いらんやろ。
「ちなみに殿方に尽くすのが好きなようです。多少乱暴にされても嬉しいんだとか」
「「………」」
エセル……性癖までバラされてごめん……
俺はもはやなんと言っていいかわからずカレンは俺に冷たい視線を向けてくる。
いや、俺が別に命令したわけじゃないから!
あれ?でも別に嫌われててもいいのか。
じゃあもっと俺のことを軽蔑してくれ!
「……次にいってくれ」
「はっ。エセルはウォルシュ男爵家に代々仕えてきた騎士の家系のようでジェラルト様もご存知の通り専属騎士となっております。15歳と学生の身分で専属騎士になったのは異例の早さとのこと。現在は学業を本文としたまに仕事で授業を抜けているようですね。所属は現在ローレンス様が参加している
「ローレンスと同じか……」
今日の放課後はバタバタしていて会えなかったがまた時間があるときにゆっくりエセルについての話を聞いてみよう。
情報はいろんな人から聞くことで精度を増していくものだからな。
「それでフローラについては?」
「そちらの方は少々奇妙でして……」
「奇妙?」
「はい。スリーサイズについての情報は集められたのですが、どんなことがお好みなのかが把握できませんでした。思春期なのにも関わらずそういった類の本などが見つからなかったのです」
心配して損したわ。
大真面目なトーンで何言ってやがるんだこいつ。
いや、でも真面目で清楚なフローラがどんなプレイが好きなのかとかちょっと興味あるかも……
「……ご主人様?」
「俺は何も言ってないだろうが」
「顔がいやらしいことを考えてました」
「別にそんなことは」
「シンシア王女殿下に言いつけますよ?」
「ごめんなさい」
シンシア王女に言われるのはめんどくさい。
またそういう妄想するならば私がとか言いかねない。
俺は手を出すならウェルカムでベッドに自分から連れ込むような感じではなく心底嫌そうに、でも逆らえないから仕方なくのほうが燃える。
更にそこに羞恥を足してくれるとベストだ。
まあ前世も現世もまだ童貞なんだけどな。
「話の腰が折れてしまったな。続けてくれ」
というか折ったのこいつじゃねえか。
まあいいか。
「フローラは
「血統特異術……」
「はい」
あ、思い出した!
どこかでウォルシュ家の家紋を見たことがあるなと思ってたけど血統特異術の家系だったのか!
本来、人は誰から生まれようとも魔力量や使える属性は全く親から遺伝せず個人の才能や努力にすべて依存する。
故に平民からも優秀な人材がたくさん生まれるわけなのだがその常識を覆すのが血統特異術だ。
一部の家では遺伝しないはずの魔力が子供に遺伝し、これを血統特異術という。
使える魔力の質や類も普通の人が使うような基本的な元素から外れていることが多くて特異と言われるのだ。
ウォルシュ家は確か『癒やし』の魔力を受け継いでおり医術に優れその癒やしの魔力を持って医療用の魔道具を作れるんだとか。
本では技術力を持ってウォルシュ家の医術を再現するためにはあと150年は必要って書いてあった気が……
すごい家だったんだな。
「現在は聖女と言われているようです。エセルとは小さいときからの友人で剣の才に溢れゾーラ高等学校の首席は彼女とのこと」
やっぱりか……
対峙しただけでもすごく強そうだったしな。
「ご苦労。下がってゆっくりしてくれ。お前の働きは父に伝えよう」
「はっ。恐悦至極にございます」
そう言って黒服の男は消え、カレンだけが部屋に残る。
さっきの性癖暴露事件もあってかちょっと気まずい。
「さて、どうだったか?」
「……一言で言うなら凄まじいですね。恐らくマーカム家の諜報隊では勝負にすらなりません」
「そうか。それはよかった」
カレンは今回あの男に付けてドレイク家の諜報が何たるかを見せていた。
まあ将来はドレイク家の諜報隊を率いるくらい有能になってくれたらいいなという先行投資というやつだ。
「このまま研鑽に励め」
「はい。もちろんです」
そう言ってカレンは一礼し窓から闇の中に消えていく。
俺は静かになった部屋で自分のベッドに移動し仰向けに寝っ転がった。
(エセルとフローラ、か……他にもくっころに相応しき人物に会えるかもしれない……アンテナはしっかり張っておかなきゃな)
俺はもう失敗しないと心に誓って拳を握った──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます