第10話 くっころガチ勢、妹を送り出す
「決闘って……お前が出るのか!?」
「ええ、お兄様が出ては面白くありませんもの。こちらがあまり手出しできないならば正当な方法で屈辱を味合わせないと割に合いませんよ」
「いや、そうは言ってもな……」
相手は別に強くはないがアリスはまだ10歳の幼き女の子であり、相手は成長期真っ盛りの15歳だ。
このマッチングからしてどう考えても不利だ。
だからこそアリスはやろうとしているんだろうがもし負ければいくら訓練用の木剣を使用するといえど怒った相手がアリスに対して何をしでかすかわからない。
それこそ体に傷を付けようものなら国際問題とか気にせず殺してしまうかもしれない。
「お兄様。お兄様にとってシア義姉さまは婚約者であり将来の家族ですが私もまた将来の義妹という家族です。家族に手を出されて許せないのは私も一緒ですよ」
こりゃあ結構まずいな。
怒るところなんてほとんど見たことがないアリスがガチギレしてる……
普段怒らない人ほど怒ると怖いっていうのは本当だったのか……
なんとかアリスをなだめようと俺は隣にいるシンシア王女に視線を向けアイコンタクトでアリスを止めるようにお願いする。
すると無事意図が伝わったようでシンシア王女が頷いた。
「あ、アリスちゃん……その、私はもう怒っていませんし少し落ち着いては……」
「シア義姉さまは少し黙っていてください」
「は、はい……」
弱っ!?
というか本人に黙っとけって言うか普通!?
今のアリスはどう考えても冷静じゃない。
こんなときに頼れるのは……
「師匠、なんとかアリスを止めてくれないか」
「やらせてあげればいいんじゃない?本当に無理そうなら私が止めるわよ」
「俺の味方じゃないのか……」
まさかの言葉にがっくりと肩を落とす。
するとマーガレットは俺の方に近づいてきて耳打ちした。
(今のアリスは少しおかしいわ。無理に止めたら道端とかで相手に襲いかかりかねないわよ)
(む……)
確かに今のアリスならありうる。
ここは任せるしかないか……
「わかった。ただし危ないと思ったらすぐに止める」
「ええ、それでいいですよ」
「さっさと始めろ!俺はこいつを叩き潰す!」
うわぁ……お相手かなり怒ってるなぁ……
10歳相手にムキになるのも相当恥ずかしい気がするが。
「おい聖女。お前審判をやれ。剣と顔くらいしか取り柄がないんだからよ」
「……わかりました」
フローラが渋々といった様子でうなずき二人の間に立つ。
散々な言い様だな。
俺の紳士度を見習って欲しいくらいだぜ。
王女に嫌われようとしたらいつの間にかお忍びで街に来てて助けちゃったり、暗殺者の家族を人質に取ろうとしたら救ったことになっちゃってたり。
はは……お前と好感度交換して欲しいぜ全く……
「勝負はどちらかが戦闘不可になるか降参するまで、もしくは私が止めるまでです。それでいいですね?」
「構わんからさっさとしろ」
「ええ」
アリスが剣を構える。
ニコラスとやらも剣を構えるがアルバーの剣術以外は有名なものしか知らないのでどんな動きをしてくるかは予想できない。
ただあまり強くはなさそうである。
「アリスちゃん……大丈夫でしょうか……」
「……わからん。俺はアリスが剣を振るうところを見たことがない」
「私もそうね。ただあの子は賢いから怒りに任せて無謀な勝負はしないはずよ。なにか勝算があるのかも」
「ああ、そうだと信じるしかないな」
アリスはまだ幼く子供っぽいところも多いがかなり優秀である。
それこそ俺じゃなくてアリスがドレイク家の当主になってもやっていけると思うほどには。
だがまだ幼く今の時点でどれほど年上相手に食い下がれるかどうか……
「はじめ!」
フローラの合図でニコラスがアリスに接近する。
その踏み込みは想定以上に速く、剣筋も鋭かった。
(まずい……!)
「アリス!避けろ!」
このままじゃまずい。
アリスが怪我をしてしまう。
どうすれば、助けに入るか?いや、決闘を挑んでおいて助けに入るのは……
しかしアリスが怪我するのを黙ってみているわけには……
刹那の思考、どう動けばいいか迷う俺はとんでもないものを目にした。
「……!」
「アリ……ス……?」
「え……?」
激しい音と共にニコラスの剣が空を舞う。
場は静まり返りカランと剣が地面に落下する音が嫌に大きく聞こえてくる。
「嘘、だろ……」
アリスの剣は10歳とは思えないほど鋭く洗練されていた。
たった一歩の浅い踏み込みだけで年上の男の剣を弾き飛ばしてしまった。
「うふふ、弱い。弱すぎますよ。そんな腕でよく私に勝とうとしましたね?」
「そ、そんな……嘘だ!なにか小細工を使ったな!」
「さて、どうでしょうね。いくらでもかかってきて確かめていいですよ」
「き、貴様ぁ!」
ニコラスは剣を拾い再びアリスに斬りかかるがアリスは軽やかなステップで交わしつつニコニコの微笑みを絶やさない。
妹のあまりの実力に俺は言葉を失った。
「ジェラルト……アリスは剣の師匠をつけているの?」
「……いや、もうすぐ付ける予定だったはずだ。剣自体は幼い頃からやっていたとはいえ………信じられん」
「多分才能は俺と同じかそれ以上だな。女に生まれたことが惜しい」
「ジェラルトさん以上!?」
「ああ」
アリスの剣筋は努力でできる類のものじゃない。
天性の才能だ。
しかもそれだけでなく恐らく無意識だが魔装のようなものを使っている。
俺やマーガレットの使う魔装と比べると薄く一部分だけだが無意識に誰にも教わらずにできている時点で才能の塊だ。
これはとんでもないな……
「まだ確かに粗いわ。だけどあの調子ならもっと伸びそうね」
「ああ。嫁に出すのが惜しくなった」
「元々アンタ、アリスを嫁に出すつもりなんてないでしょ?賛成している姿が想像できないのだけれど」
「それはそうだな」
「はぁ……呆れた……」
マーガレットがため息をつく。
だが迂闊な家に嫁がせられなくなったな。
これは父と要相談か……
「アリス、遊びはその変にしておけ」
「えぇ……まだ遊び足りませんよ」
「アリス」
「はーい……わかりました……」
すでに相手の戦意は折れかかっている。
これ以上は時間の無駄だ。
それにアリスがこれだけ戦えるとしれただけでも有益ではあるしな。
「遊んでくださりありがとうございました、ポンコツ王子さま。つまらなかったです」
「ほ、ほざけぇぇぇ!」
「そこまで。この勝負アリスさまの勝ちです」
ニコラスが怒って剣を大ぶりに構えた一瞬の隙を見逃さずアリスの剣が顎に綺麗に入りニコラスは倒れ込む。
顎は人体急所の一つで剣で殴られようものなら脳が揺れ脳震盪を起こす。
……最後まで容赦ないな。
ゴーラブルの面々は目の前で起こったことが信じられないのかぽかんと口を開けている。
とはいえアルバー王国側もまさかアリスがといった様子だが。
まあドレイク家の次代は安泰だと世間に知らしめられたかな?
「ふふ、シア義姉さま。ゴミ掃除をしてまいりましたよ」
「え、ええ……ありがとうございます……」
「はぁ……アンタたち兄妹はやることなすこととんでもないわね……」
「俺は一応常識の範囲内だと思うが?」
「アンタ本気で言ってるなら正気を疑うわよ?」
ひどい、辛辣だ……
俺なりの軽い冗談だったのに……
俺だって転生者なわけで子供にしては不気味だったと思うし才能があって頑張って努力してかなりの実力を付けたとは思うけど性格的には他の人よりちょっとくっころが好きなだけで普通だけどな。
まあお茶目で許される範囲内だろう。
「まあなにはともあれ……アリスが無事で本当によかったよ」
「ふふ、少しは見直してくれました?」
「ああ。嫁に出したくなくなった」
「お兄様はいつもそれ言ってますよね?」
……アリスにも同じこと言われた。
え?俺そんなにシスコンだと思われてんの!?
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