第13話 くっころガチ勢、仲間との時間を楽しむ
時は流れいよいよ大演武会がやってきた。
大演武会とはいわゆる前世で言う運動会や体育祭といったような類の催しで様々な種目が用意されていてそれをクラスごとに得点を競い合う祭典だ。
なんと俺達も参加していいらしく前世も含めれば40年手前生きてる俺もワクワクしてしまう。
(それにしてもまさか学園の催しのためにこんな場所まで開放するとはな)
というのも俺が今立っているこの場所はゾーラコロシアム。
はるか昔に建てられたこのコロシアムはゴーラブル王国の重要文化財に指定されていて普段は観光名所として使われている場所だ。
だがこの大演武会だけのために一般開放され技を競い合うらしい。
ずっと昔から受け継いできた伝統らしいけど重要文化財ならもっと大事にしたほうがいいんじゃないか?
「ジェラルト、調子はどうだ?」
「ヴィクター王子。調子はいつもどおりですよ。体調も悪くないです」
「お前は表情が変わらなくてつまらんな。士官学校には無い催しなのだからもっと楽しそうにしても良いのだぞ?」
「これでも浮かれていますよ。表情に出ないだけです」
「クックック……それなら結構」
ヴィクター王子は満足げに頷き俺の肩を軽くポンポンと叩く。
この人いつも楽しそうだな。
人生楽しそうでいいなと思いつつ王族の自由なんて金に困ることはないだろうけど行動制限ばっかりだから楽しそうにいるだけでも才能なのかもしれないな。
「ジェラルトさん、おはようございます。あと兄様も」
「お、シンシア王女。おはよう」
ヴィクター王子としばらく談笑しているとシンシア王女がやってくる。
訓練用の軍服に帯剣する姿はまさに姫騎士で美しく凛々しい。
「自分の兄に対する挨拶が適当すぎないか?余はジェラルトの余り物か?」
ヴィクター王子のなんだか面白くなさそうな表情を見てつい笑ってしまう。
やっぱりなんだかんだ妹には弱いんだな。
兄とはそういう生き物なんだ。
「あはは。シンシア王女に良く思われたいのでしたらもう少し行動を自重してはいかがですか?」
「お前にだけは絶対に言われたくないな」
あはは、残念だったな。
俺はアンタとは違って良識ある常識人なのだよ。
どれだけ恨めしい顔で俺を見ようともこの現実は覆せないのだ。
「……釈然としないな。おい、シンシア。こいつも大概頭がおかしいぞ。こいつはいいのか?」
「ジェラルトさんはハラハラさせられることも多いですけど意味があることも多いですから。それに女性というのは完璧すぎる殿方というのも気後れしてしまうものですよ?」
「くそ……今まで恋のこの字も知らなかったくせにいつの間にかメスになりやがって……」
あはは、シンシア王女が恋を知ってるわけないじゃないか。
俺はあくまで関係上は婚約者だけどそれ以上もそれ以下もなし。
…………そう思わないと未来に希望が持てないんだ。
「兄様、女性に対してその言い方はいかがなものかと思います」
「それはすまなかったな。つい本音が」
「余計悪いです」
「はい、すみません」
誰にも手綱を握れないヴィクター王子がシンシア王女に対して従順なのがいつ見ても面白い。
これじゃあ兄なのか姉なのかわからないな。
「揃って何を話しているんですか?何やら楽しそうですね」
「おはようございます、皆さん」
声のしたほうを見るとエセルとローレンスが並んで立っていた。
この二人いつの間にこんなに仲良くなったんだ?
まさかこれがNTR……?ってまあ冗談だけどな。
まあ同じクラスって言ってたし仲良くもなるか。
「エセル殿、今日はウォルシュ嬢と一緒じゃないのか?」
「今日は先に行っててほしいと言われました。おそらくもうすぐ来ると思います」
「そうか。わざわざ聞いてすまなかったな」
「いえ、大丈夫ですよ」
寝坊かな?
いや、遠足が楽しみで寝られない小学生じゃないんだから流石に違うか。
そして近づいてきたのはこの二人だけではなかった。
「今日は大丈夫か?トム」
「あ、あんまりだいじょばないかもしれないです……」
そう言って自信なさげに俯くのはいつかの実戦訓練で一緒に班にだった平民のトム。
あれからちょくちょく俺達の班に混ざって一緒に行動するようになったのだ。
まあ混ざってというよりはヴィクター王子が半ば強引に引き入れて、という表現のほうが正しいかもしれないが。
ヴィクター王子はトムをかなり気に入っているらしい。
「うーん、だいじょばないかぁ。頭の良い君がそうなるってことはよっぽどやばいのかな?」
「ローレンス、そう言ってやるな。トムはやればできる男だ」
「いえ……多分無理だと思います……」
「「………」」
そう、このトムという男は絶望的に運動音痴であり大演武会なんていういかにも体を動かす行事ごとにめっぽう弱いのである。
あまりの自信のなさに俺とローレンスはフォローする手段を失い黙って二人でトムの背中をポンポンと叩いておいた。
「ああ、僕は絶対に本戦でもエキシビションでやらかすんだ……うぅ……あらかじめ謝っておきます。本当にごめんなさい……」
本来俺達は参加したクラス、俺で言うα組でシンシア王女でいうβ組に参加するのだが本戦が終わったあと、1−S対ゾーラ高等学校一年の上位20名でのエキシビションがあるのである。
国の威信をかけた戦い、というほど大仰なものではないがみんな勝とうと気合が入っているのだ。
「大丈夫だ、トム。何かあったら余がいるだろう?」
「ヴィクター王子殿下……!」
「この短期間でヴィクター王子も戦えるようになったんですか?」
「いや、全く変わらないが?」
じゃあだめじゃねえか。
備考、ヴィクター王子はトムほど運動音痴というわけではないが運動よりも勉強のほうが大の得意というタイプであり剣の腕もよく見積もって中の中くらい。
その実力で人ひとり守りながら戦うのは相当しんどいだろう。
「相手は上位20人選抜のフルメンバーで来ますけど大丈夫ですか?」
「無理だな。応援なら任せておけ」
「いらなすぎる………」
事に欠いて応援とかもはややる気ないじゃないか。
というか全員参加なんだから応援に回れるわけないだろ。
「む、ジェラルトそなた応援の力をばかにするのか?」
「応援に力が無いとは言いませんが男に応援されても男は喜びませんよ?」
「そなたと余の仲だろう?」
「いりません」
「ふむ、そうか。では余とトムはお荷物になるしか道は無いな」
諦めんなよ!?
さっきまで自信満々にトムをフォローしてたじゃねぇか!
何開き直って諦めてんだよ!
「あ、あはは……戦えなくてもできることはたくさんありますから。勝ち負けもそこまで拘ることもありませんし一緒に頑張りましょうよ」
「ローレンス、そなたはいい奴だな。ジェラルトとは大違いだ」
なんで今俺が貶められた?
俺はただ現実を突き付けただけなんだが?
文句を言いに行こうと一歩踏み出すと袖がクイッと引かれる。
後ろを振り返るとシンシア王女が俺の袖を指で掴んでいた。
「……?シンシア王女?」
「ジェラルトさんは女の子の応援なら……私でも喜んでくれますか……?」
「え?それはまあ……」
シンシア王女は美少女だし喜ばない男のほうが少ないだろう。
まあ俺的にはくっころを見せてくれる方が頑張れるのだがそれを口にしてしまうとそのくっころはもはや人工のものであり至高にたどり着く道が永遠に閉ざされてしまうので口には出さないが。
「じ、じゃあ私が応援します!」
「いやあなたは次席なんだからちゃんと戦ってくれ」
「な、なんでですか!」
今全ての理由を説明したじゃねえか。
その後、何故か応援に食いつくシンシア王女をなだめていたらいつの間にか開催式の時間がきてしまった。
はぁ……疲れた……
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