第6話 くっころガチ勢、謁見に臨む

「へぇ……ここが王都か……」


アルバー王国を出発して1、2週間ほど。

俺達はようやくゴーラブル王国王都ゾーラに到着した。

アルバー王都と比べるといくらか人の数が少ない気もするが発展具合はそう変わらない。

道もちゃんと舗装されているし馬糞がそこら中に転がっているということもなくこの世界の基準で清潔と言ってよかった。


「陛下への謁見は皆様の時間に合わせるとのこと。いかがしますか?」


「では早めに行こうか。それでいいか?」


エリック先生がクラスメイトたちに問いかけるが異論の声は出ない。

既にみな馬車から降りておりここからは歩きで移動だ。

馬車が通行可能な道が決まっているため安全だし清潔さが保たれているわけだな。

ドレイク領ではすでに取り入れられてるけどアルバー王都ではまだだ。

ヴィクター王子がこれを機に法律作りをするかもな。


「承知しました。では王城へとご案内いたします」


「ええ、よろしくお願いします」


エセルは隣にいた騎士の一人を先に送り出し歩き出す。 

それにしても一国の王が学生の、しかも他国の留学生の都合に合わせて謁見するというのは随分と珍しいな。

変態が近寄ってきた一件を気にしているのかな?


「ウォルシュ男爵家、専属騎士エセル。ただいま帰還しました」


「ご苦労エセル殿。アルバー王国の皆様もようこそいらっしゃいました」


王城の門を守る兵が丁寧に頭を下げ『開門!』と叫ぶ。

すると門がゆっくりと低い音を立てて開いていき中へと案内される。

アルバー王国の城が西洋風なのに対してここは少し中国のように綺麗な四角形の塀が城の周りを囲んだような城だ。

中々興味深い。


メイドやら文官やらが歩く城内をエセルの案内で進んでいくと一つの大きな扉の前で止まる。

ここが謁見の間なのだと理解しクラスメイトの大多数の顔が緊張で強張る。

まあほとんどが平民だしいきなり他国の王様に謁見するとなれば緊張するよな。

王族兄妹やローレンスは慣れているのかいつも通り平然としている。


「ウォルシュ男爵家が専属騎士エセル!アルバー王国より来訪した留学生一行ご到着です!」


『入れ』


中から王様と思わしき声が聞こえてきて扉が開かれる。

エセルに続き先生が中に入り生徒たちが続いていく。

中は思ったより広く王であろう人物だけでなく左右に臣たちも控えていた。

これは思ったより豪勢なお出迎えだな。

警戒されてるのか?


本来ならば跪き頭を下げるのが礼だが俺たちはゴーラブル王の配下じゃないし王族もいるので頭は下げなくて良い。

もしシンシア王女やヴィクター王子が頭を下げようものならアルバー王国がゴーラブル王国の属国になると宣言しているようなものだ。


「はるばるよくぞ来てくれたな」 


ロナルド王と同い年くらいかな?

ロナルド王がたくましいヒゲを生やしたイケオジみたいな人なのに対してこの人は線が細い気がする。

アルバーと違って騎士の国というわけでもないし王族が戦える必要はないんだろうけど。


「はっ、留学の件を受け入れていただき感謝の言葉もございません」


「いや、よい。ゴーラブル王国とアルバー王国の将来を担う子供たちが交流し互いに高め合うのは大切なことだ。こちらとしても歓迎である」


向こうの学生は果たしてどんな人がいるのやら。

できればくっころに相応しい人材がたくさんいたら嬉しいんだけどな。

でも他国の有望株なわけだし引き抜きも簡単じゃないだろうから数は少なくてもいいから質が高いほうが良いか。

せっかく出会えても連れて帰れないなんて生殺し状態だもんな。


「そして、この中にドレイク家の子がいると聞いた。それは真か?」


きた。

ようやくその話を出してくれたな。

自分から言うのはなんか嫌だったし向こうから話題に出してくれてちょうどいい。


「はい。おります」


「はじめまして。ドレイク家が長男、ジェラルト=ドレイクと申します。以後お見知りおきを」


「はじめまして。ドレイク家が長女、アリス=ドレイクですわ」


俺が胸に手を当て、礼を取るとアリスが中々洗練された動きでカーテシーをする。

どうやら俺がいない間もちゃんとレッスンに励んでいたらしい。

もうそれなりの年の淑女と並んでも違和感はないだろう。


「ほう……そなたらがあのドレイク家の……」


王が感心したように言葉を漏らすと周りにいた臣たちのヒソヒソ声が聞こえてくる。

別に慣れてはいるのでそう気にしないがやはり居心地のいいものではない。

言いたいことがあるなら直接言えばいいのに。


「まずは、此度のイロリ伯の非礼を詫びる。すまなかった」


「陛下!」


「おやめください!」


ゴーラブル王が頭を下げると臣たちが悲痛な叫びを上げる。

いくら謝罪とは言え頭まで下げるのは異例中の異例であり普通なら考えられないこと。

しかも相手は他国の1貴族の子供だ。

王族じゃない以前に当主ですらない。


「顔を上げてください、ゴーラブル王」


俺がそう言うとゴーラブル王は顔を上げる。

これも一種のパフォーマンスみたいなものか?

謝罪の姿勢を見せるだけでも印象変わるとは思うけど王族でそれをやるのはどうなんだろうか。


「せめて貴殿らがこの国に滞在中に何か望みを叶えよう。何か要望はあるか?」


つまりはあれ?

何かしてあげるからお父上にはチクらないで、ってこと?

随分と舐められたもんだな。


「それはありがたいですね。ですが、父上に文を送ったところ大層お怒りでしたよ。アルバー王国にもバカな貴族はいるがまさかドレイク家に喧嘩を売る貴族がいるとは驚きだ、と」


俺がそう言うとゴーラブル王の顔が強張るのが少し離れたここからでもわかる。

ヒソヒソ声も大きくなった気がした。

そんな様子を見てアリスがクスクスと笑うと誰かが激昂する。


「貴様!陛下の前で笑うなど無礼ぞ!」


「あら、これは失礼しましたわ。お父様の名がここまで響いているんだと思うと、つい」


「ぐっ……」


ドレイク家は先代当主の代でゴーラブル王国を助けたことがあるらしい。

そのときの話が今でも伝わってるんだとか。

アリスが多少はっちゃけようが別に大して問題はないがあとでお説教だな。


「………イアン殿はなんと?」


「この一件は嫡子ジェラルト=ドレイクに当主代行として任せる。好きにしろ。との言伝を預かっていますよ」


お前の相手は父じゃない。

俺だ。

ちゃんとハッタリでもなんでもなく父から許可は得ているし問題ないさ。

いい経験だからやりすぎない程度に搾り取ってこいだとさ。

父も良い親ではあるんだけど大概だよな。


「……ドレイク家は何を望むのだ?」


「イロリ伯爵の死罪、そしてドレイク家からの輸入品への関税の撤廃、輸出品を融通して割引していただけるとありがたいですね」


「なっ!それはあまりにも横暴だろう!」


「ふざけているのか!」


まあふっかけすぎだしこれが通るとは思っていない。

それにゴーラブルからあまりにも搾り取ったら関係悪くなるしな。

制裁を加えるのはイロリ伯爵本人とこんなアホを野放しにした第3王子とやらだけだ。


「ではこうするのはいかがだろうか。ゴーラブル王国はドレイク家に一つ大きな借りを作った。ドレイク家からなにか要請があればそれに最大限応えると。もちろん常識の範囲内で、ですよ」


「常識の範囲内とは……あまりにも抽象的すぎるのではないか?」


「常識的は常識的としかいいようがありませんね。もし応えられるのにも関わらずそれを無視しようものなら……わかってますよね?」


「ぐっ……わ、わかった……」


これでいい。

これでもしくっころに適した人材がいればドレイク家に連れて帰りやすくなるな。

制裁はゴーラブル王国の力なんて借りる必要がない。

くくく……面白くなってきたな……!

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