第7話 くっころガチ勢、学校に行く

王宮での謁見を終え、俺達はそのままゴーラブル王国側が用意してくれた豪華な宿に泊まり夜を明かした。

そして翌日。


「ふっ……!ふっ……!」


剣が風を切る音が心地良い。

だが今日この音をさせているのは俺ではなかった。


「朝から精が出るな。シンシア王女」


「あ、ジェラルトさん。おはようございます」


「ああ、おはよう」


素振りをしているのを直接よく見るわけではないが最近動きがかなり良くなってきていて頑張っているのがわかる。

多分すごい影の努力をしてるんだろうな。


「水を持ってきたが飲むか?」


「あ、ちょ、ちょっと近寄らないでください!」


俺が水筒を持って近づこうとするとシンシア王女に拒否られる。

俺はいつの間にかシンシア王女に嫌われていたのか。

最高だな。

過去の俺なにやったか知らんけどシンシア王女に嫌われるなんてよくやってくれた。


「そ、その……少しだけ待ってください……」


俺が感動しているとシンシア王女はタッタと近くにあったベンチまで走っていってタオルで汗を拭き始める。

そしてしばらくして満足したのか戻ってきた。


「ほら、ちゃんと冷やしておいたぞ。それと俺相手ならばそう気にしなくていいんだぞ?」


「その……ジェラルトさんが相手だからというか……ですね……」


シンシア王女は俺から水筒を受け取り少し俯いて頬を染める。

悲報、俺嫌われてなかったらしい。

誰だよ何もしていない過去の俺を褒めた奴は。

ただの能無しじゃねえか。


「ドレイク家は軍人の家だ。幼い頃に男臭い騎士たちと混じって訓練に身を投じていたこともある。そう気にしなくて良いさ」


「匂いと体重は気にしなくなったらダメなんです」


「そういうものか」


「ええ。男女比で圧倒的に男性が多い王国騎士団に所属しているマーガレットさんも美しいでしょう?」


「ああ、確かにな」


マーガレットはいつも良い匂いがするし、身だしなみに気を遣っているのもよく伝わってくる。

化粧をしていなくても普通にそこら辺の美人には負けないくらい美人ではあるものの肌とか髪のケアが大変だと言っていたのを聞いたことがある気がする。

みんなどれだけ美人だろうと女性に生まれた限りは美しさを気にするんだろうな。


「それでわざわざこんな朝早くになにか御用でもあったんですか?」


「いや、今日はだろう?ほどほどにしておいた方が良いと思って声をかけに来たんだ」


「そういうことでしたか。ちょうどもうすぐ上がろうとは思っていたのでこのタイミングで終わりますね」


「ああ、そうしてくれ」


俺が言う初日というのは今日がゴーラブルの学園に混じって授業を受ける最初の日なのだ。

朝頑張りすぎてしまうといざ授業のときに疲れが残ってしまうかもしれない。

それで向こうの学生に舐められるのはなんだが癪だしな。


まあ弱いフリをしておいていざってときに本気を出してくっころに持っていくシチュエーションも良いとは思うがあまりにも成績が悪いと父からお叱りを受けてしまう。

俺が今、くっころを追い求めて自由にやれているのは成績が良いことも多分に関係しているのでそれはちょっと手放し難いのでまた今度だ。


「朝食の前に私は一度シャワーを浴びてきますね」


「ああ。まだ時間はあるし大丈夫だろう」


「では先に戻っています。お水ありがとうございました」


そう言ってシンシア王女は一礼して宿の方へと走っていく。

シンシア王女が走って移動するのは珍しいなと思いつつ俺も宿へと歩き出す。

さて、一体どんな奴らがいるのかな。


◇◆◇


「ここが……」


「ああ、ゴーラブル王国のゾーラ高等学校だ。アルバーでいう士官学校にあたる場所だな」


目の前にあるのは士官学校に負けず劣らず大きい校舎だった。

かなり金をかけているのがわかるくらいには装飾も豪華だし設備も整っている。

中々いい環境だな。


「はじめまして、ゾーラ高等学校校長のニールです。この度はアルバー王国の皆さまとうちの学生の交流の場を作ることができて大変嬉しく思います」


この学校の校長と名乗ったニールは片眼鏡をかけた人の良さそうな老人だった。

でも多分前世の学校の校長とかと同じく話が長そうだ。

俺はくっころに思いを馳せながら適当にニールの話を聞き流しているとどうやら話が終わったらしい。

クラスメイトがぞろぞろと歩き出す。


「まったく……君、全然聞いてなかっただろ?」


「多少は頭に入っているさ。大半は頭に入れなくてもいいだろう」


「はぁ……君ってやつは……」


隣に歩いてきたローレンスが呆れたようにため息をつく。

逆にあんな話を全部真面目に聞こうとするほうが珍しいんじゃないか?

まあ聞いても聞かなくても大差ないさ。


「どのクラスに混じって勉強するかとか言われてたけどちゃんと聞いてたのかい?」


「よしローレンス。教えてくれ」


「はいはい……」


普通そんな大事な話を書類も配らずするか?

ちょっと想定外だったな……


「まずそもそもこの学校のクラス分けなんだけど実力は影響しているけど分け方は士官学校とは全然違うらしいんだ」


「というと?」


αアルファ組に1位の人、βベータ組に2位の人。みたいな感じで順番にクラスが決められているみたいなんだ。できるだけクラスどうしの実力差がつかないようにした結果らしいね」


それはそれはまた面倒な……

実力でクラス分けするなら一つのクラスに纏めちゃうのが簡単でわかりやすいんだけどな。

まあ学校行事とかやるんだったらこっちのほうが盛り上がるのかもしれないけど。


「それで俺達のクラスは?」


「それがどうやら向こうの生徒が一人ひとり案内役というか担当してくれるみたいでね。僕たちも順位順にクラスが分かれるみたいだよ」


「ということは俺はα組か?」


「そういうことだね」


ということは俺達全員バラバラのクラスになるのか。

まあ流石に人数分のクラスは無いだろうから何人かはα組には来るだろうけどいつものメンバーは誰もいない。

今生の別れってわけでもないしそう気にすることも無いけれど。


「一応一人一人に護衛が付いてくれるみたいだけどジェラルトはもうわかりきってるよね」


「あー、一応今まで通り私がやるわ。アリスもいるし別に良いわよね?」


「師匠」


マーガレットがアリスと一緒に近づいてくる。

やはりなんだかんだ護衛を一番頼むのはマーガレットだな。

まあ俺達ドレイク家と馴染みが深いし実力もあるから適任なんだけどな。


当たり前といえば当たり前だが護衛はただ付いてくるだけで授業に参加はしない。

一応他国だから付いてくれるだけで治安的にもそう気にする必要はないんだろうけどアリスはまだ幼いし護衛がついてくれるのはすごく助かるし安心できる。


α組の前まで歩いていくと眼鏡の男の人が廊下に立っていた。

俺達に気づき笑顔で近づいてくる。


「君がジェラルトくんかな?噂は聞いているよ」


「はじめまして。あなたがα組の担任を?」


「おっと、自己紹介が遅れたね。α組の担任ショーンだ。短い間かもしれないがよろしく頼むよ」


「こちらこそ」


俺含めて4人が1‐Sからα組に加わるらしい。

ショーン先生とそれぞれ握手を交わすと教室の中に案内される。

教室には35人ほどの生徒がいて一気に視線がこちらに集まる。

前世では転校したことなかったけど転校生ってこんな感じなのかな。


「この4人が今日からα組で学ぶことになる。みんな、仲良くしてやってくれ」


ショーン先生がそう言うと教室中から拍手が起こる。

こういうノリは前世とあまり変わらないんだな。

意外と生徒たちの顔は明るい。

というかウズウズしているようにも見えるな。


「フローラ。後は頼めるか?」


「はい。先生」


その声は凛と響き鈴を転がしたかのように美しかった。

フローラと呼ばれた生徒が長く美しい白髪を揺らしながら立ち上がる。

絶世の美少女という言葉が何よりも似合い、もはやその整った顔立ちは人形というほうがしっくりくる気がした。


(………へぇ)


ある予感を察して俺はニヤリと笑みをこぼすのだった──

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