第4話 くっころガチ勢、変態と対峙する
「私はあなたと結婚することはありません。話ならば兄に話を通してください」
アリスの結婚など絶対に認められるものか……!
もしアリスを嫁に出すなら性格が良くて権力があって俺や師匠よりも剣ができてヴィクター王子より勉強ができる奴じゃないと絶対に認めないからな!
どう見てもお前は危ない趣味を持った変態だろうが!
「失礼、名前を伺っても?」
「ふん、ボクちゃんはかの崇高なアイザック様の右腕!ヘンター=イロリ様よ!」
崇高なアイザック……いや誰!?
どう見ても外国人なんだからそんなようわからんモブの名前を持ってくるんじゃねえ!
(シンシア王女、彼が言ってるのは?)
(おそらくゴーラブル王国第3王子アイザック=ゴーラブルの話をしているのかと思います)
王子だったんかい。
見たところこのヘンターの年は30代中盤から後半といったところ。
第3王子はまだ10歳だと聞いたことがある。
別に自分より一回りも若い人に仕えるのは珍しいことでもないが30代で10歳の子供に求婚するのは完全にアウト。
「なるほどなるほど。貴公の話はよくわかった。だがあいにく我が妹アリスは優秀で婚約者を選べる立場なのだ。わざわざ変態にくれてやる必要はないな」
「………は?」
こいつがどんな立場なのかは詳しくは知らんが所詮は王族の腰巾着。
ドレイク家の敵じゃない。
「き、貴様名を名乗れ!ボクちゃんが直接その家に抗議してやる!」
(アリス、こいつがドレイク家に抗議を入れたらどうなると思う?)
(少なくとも原型は残らないんじゃないかと)
(だよなぁ……)
こういう系の話は父だけじゃなくて母も怒るだろう。
しかも今俺達から見えない場所でドレイク家の暗部が護衛してるんだから確実にいつかは両親の耳に入る。
そうなったら間違いなく国際問題どころか全面戦争に突入してしまう。
国内にマーカム公という病巣を抱え、ヴァイルンとの緊張が高まっている今、ゴーラブルとも戦争が始まってしまえばドレイク家は生き残れるだろうがアルバー国内はめちゃくちゃだ。
それは避けたいな。
「申し訳ないがわざわざ名を名乗る必要を感じられない。とにかく妹を渡さないから取り敢えず今は帰ってくれないか?」
「なっ……!無礼な……!不敬罪でこ奴らを捕らえよ!抵抗するようなら殺しても構わん!」
「くっ!ジェラルト!下がって!」
「ご主人様!」
はぁ……デなんとかといい、入試のときの騎士といいこの手の類のバカはどうしてすぐにこうやって襲いかかってくるのだろうか。
多分頭に脳みそ詰まってないんだろうな。
バカだもん。
「下がれ、二人共。俺一人で十分だ」
俺を庇おうとしたマーガレットとカレンよりも前に出る。
こいつらは自分の手で締め上げなくては気が済まない。
「へへ……結構上玉が多いじゃねえか……」
「ヘンター様、他の女は俺達が貰っても?」
「好きにしろ。ただしボクちゃんのお嫁さんに怪我をさせたら許さん」
「はぁ……貴族とその部下というよりはクズとごろつきだな……」
嫁にはやらんって言ってるだろうが。
耳ついてんのか?
「やってしまえ!」
「そこの女たちは俺達のものだぁ!!」
相手は武器を持っただけの素人5人ほど。
剣を抜くのも勿体ないくらいの対応な気がしてしまうので取り敢えず、魔装で体を強化し後ろに回り込んで後ろの二人に蹴りを叩き込んでやる。
「なっ!?いつの間に後ろに!?」
「黙れ。その汚い口は一生閉じておけ」
適当に殴って全員を気絶させヘンターに近づいていく。
こんな相手じゃ準備運動にもならない。
マーガレットやカレンの手を煩わせるまでもなかったな。
「おい」
「ち、近づくな!く、来るな!」
「よくもまあそんな気概で俺に挑んできたものだ。人を舐めているのか?」
「も、もしこれ以上近づくならアイザック様を通して王家に報告するぞ!貴様の家族が無事でいられると思うなよ!」
自分から襲ってきておいてやばくなったら親玉にチクろうとする。
本当に救えないな。
救うつもりも元々無いけども。
「そこまでです」
目の前の変態をどう処理してやろうかと考えていると突然凛とした声が響く。
街のど真ん中での騒動だったので野次馬もかなりいたのだが、その野次馬の集団から騎士の格好をした一人の女の人が出てくる。
そして俺の前まで来るとひざまずいた。
若いな、俺たちと同じくらいだ。
「はじめまして、ジェラルト様。そしてアルバー王国の皆様方」
「なっ!?アルバー王国だと!?」
知らなかったんかい。
よく知らずに本能と欲望のまま絡んでくるとかその神経を疑うわ。
「丁寧な挨拶痛み入る。あなたは?」
「私はウォルシュ男爵家の専属騎士をしております、エセルと申します。この度は主命により皆様の案内を仰せつかっております。こちらを」
そう言ってエセルは一つの封筒を取り出し俺に渡す。
そこには何かの花の家紋が刻まれていた。
どこかで見たことがあるような……
「開いても?」
「もちろんです」
封筒を開けて手紙を見るととても美しい字に目を奪われた。
俺はあまり字がきれいな方ではないので少しの尊敬を抱きつつ手紙を読み進めていく。
「ジェラルトさん、なんと書いてあるのですか?」
「読むか?」
手紙を読み終わったので隣りにいたシンシア王女に手紙を渡す。
当たり障りもなくただ案内役にエセルをつける旨と王都で会えるのを楽しみにしているとのこと。
本当に会うかはわからないがまあ社交辞令みたいなものだろう。
「それでエセル殿?イロリ殿がこちらに襲いかかってきた件についてはどうするのかな?」
「………私の権限ではどうすることもできません。王城に持ち帰り陛下の裁量にお任せするのがよろしいかと」
「わかった。ジェラルト=ドレイクの名で手紙を送ってやってもいい」
「ど、ドレイク家だって……?」
さっきまでぎゃあぎゃあとうるさく喚いていたヘンターが震えだす。
どうやらドレイク家の名前はゴーラブルでも知られているらしい。
まあ父に任せるととんでもないことになってしまいそうなのでこの件は俺が対応したほうが良さそうだな。
アリスに不愉快な思いをさせたんだがらこいつの死罪は当たり前として大量にふんだくってやろう。
「承知しました。では手紙の配送は早馬を出します。この度は真に申し訳ございませんでした」
「エセル殿に非は無い。顔を上げてくれ」
俺がそう言うとエセルはひざまずいたまま顔を上げる。
うーむ、中々の美人だな。
芯が強そうだし……今後のくっころ候補リストに入れておくとしよう。
「おい」
「ひっ!」
「今すぐ去れ。俺達の視界に入るな」
俺がそう言うとヘンターは走って逃げていく。
すぐにでも処してやりたいところだがあれでも一応貴族みたいだし勝手にやっちゃうとまずい。
だが後で必ず報いは受けさせてやる……!
「アリス、大丈夫か?」
「ええ。お兄様が介入するのがもう少し遅かったら手が出てしまうところでした」
「そ、そうか……」
アリスは女子だが剣の稽古も受けている。
父はやらなくてもいいと言っていたようだが自分から志願して精力的に努力しているらしい。
あまりアリスの剣を見たことがないので実力はわからないが今の様子を見るに割と血の気が多そうだ。
「シンシア王女も悪かったな、せっかくの楽しい空気を壊してしまって」
「いえ、ジェラルトさんは何も悪くありませんよ。それにまだ時間はありますから。服を買いたいので一緒に選んでくれませんか?」
「え、それは……」
女子の買い物は長い、これが相場だ。
ましてや今は俺以外は全員女子という地獄のパーティ編成。
そんなときに買い物なんてされたら……
「お、俺は遠慮しておこう。店の外で待っているから自由に……」
「お兄様!一緒に買い物しましょう!」
「いや、だから……」
「諦めなさい、ジェラルト。そういう配属よ」
「ご主人様、今が甲斐性の見せ時ですよ」
なんとか逃げようとするもアリスを筆頭としたマーガレットとカレンによる援護射撃と追撃が飛んでくる。
くっ……!さっきの雑魚たちよりよっぽど手強いぞ……!
しかもマーガレットに至っては俺が馬車で使った言葉まんまじゃねえか!
今も少しいじわるげに笑ってるし根に持ってたな!?
「エセル殿、助けてくれ」
「…………プライベートのお邪魔をしないよう私はこれで失礼いたします」
逃げられた!
クソ!どこかに俺の味方はいないのか!
「行きましょう。ジェラルトさん」
「………はい」
地獄の買い物コースが決定した──
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