第3話 くっころガチ勢、デートに誘う?
「ジェラルト様、目的地が見えてきました」
「ご苦労。アリス。もうすぐ着くぞ」
「本当ですか!?」
国境を越えるとすぐにゴーラブル王国の要衝、『レッチ』が見えてきた。
アリスにそれを伝えるとはしゃぎながら外を覗いている。
留学が決まってからずっとこの調子らしいな。
元気なのは良いことだが貴族令嬢としてはあまりよろしくない。
「アリス、少し落ち着け。今から飛ばすと体調を崩しかねない。もし父上の耳にアリスが体調を崩したことが入って毒殺未遂が疑われたらゴーラブルに攻め込みかねないぞ」
「そ、それは駄目です……!大人しくします」
留学の期間は決まっていないが少なくとも1週間や2週間で帰ることはない。
疲れが溜まれば体調を崩しやすくなるわけで、今からはしゃぐと間違いなく後々疲れる。
父は侯爵としては優秀で威厳に溢れているがどうも親バカなところがあってアリスのことも溺愛しており毒殺未遂を疑ったら本当にやる人なのだ。
カレンのときも了承してくれたのは本当に意外だった。
「あ、あはは……ドレイク侯爵がそんなことするわけ……」
「いや、シンシア王女。あの人はやる。やると決めたら相手が誰であろうとやる人なんだ」
「ジェラルトの師匠になった日に『ジェラルトに変な癖でもついたら絶対に許さない』って言われたとき本当に怖かったんです……本能でこの人に逆らってはいけないと思いました……」
マーガレットも遠い目をして俺たちの様子にシンシア王女は冗談じゃないと理解したのか笑顔が硬くなる。
世間では忠臣とか言われてるけど王家が飼い慣らせてるとは思えない。
王家からしたら檻の中にライオンと一緒に入っていつ食われてもおかしくないけどなぜか自分は食わず、檻の外の敵から守ってくれている感じだ。
「私、先日までジェラルトさんを目の敵にしてましたけど大丈夫ですかね……?」
「そう気にしなくても大丈夫だ。シンシア王女との仲については俺に一任されていた。ドレイク家に仇なすようならしれないがシンシア王女ならば問題ないだろう」
「だ、大丈夫です……!私も将来ドレイク家の一員に加えていただくので王家よりもドレイク家のために頑張るって決めました」
「ふふ、シア義姉さま、愛ですね?」
「ち、違います!」
アリスのからかいに動揺しないでくれ……
それにしてもシンシア王女の覚悟は予想以上みたいだな。
嫁いでも夫婦の間に愛がなくその家よりも実家のために動く女性もかなりいるのに実家、しかも王家よりドレイク家のために動くと宣言するとは……
ドレイク侯爵令息としてはありがたいがくっころを愛す者としてはあまり嬉しくないな。
「ジェラルト、着いたみたいよ」
「よし、休憩がてら降りるか」
馬車から降りると思った以上に体が凝り固まっていたのか伸びをするとなんとも言えない気持ちよさがある。
天気も良く開放感がすごい。
「今日はこの街で一泊し再び王都を目指す。今日は自由に散策しても構わないが護衛を連れて行くこと、そしてここは他国であることを理解しトラブルを起こすな。日が沈む前には宿に戻ってこいよ。では解散だ」
さて、疲れたし宿でゆっくりしてこようかな……
俺は前世からインドア派だし特産品とかどうせ後々たくさん食べさせてもらえる。
ここはゆっくり過ごすのが正か──
「ジェラルト」
「おや、ヴィクター王子。昨日の野営で会ったはずなのに久しぶりな気がしますね。ローレンスも体は凝り固まってないか?」
「いや、もうバキバキだよ。馬車の外はやっぱり素晴らしいね」
ヴィクター王子が話しかけてくるのが嫌な予感しかしない。
話を聞きたくないのでローレンスに話を振っておくとローレンスは俺の意図を理解したのか苦笑しながら答える。
「それでジェラルト」
「あ、あ〜!父に文を書かなければいけないことを思い出しました!それではこれで失礼します!」
「待て」
「ぐえっ」
すぐに振り返って逃げようとすると襟を掴まれ首が締まる。
くそ……遠慮ないな!?
頼む……俺はゆっくり過ごしたいんだ!
余計なことだけは絶対に言うなよ!?
「ジェラルト、これからの予定はあるか?」
「ですから文を書こうかと……」
「建前はいらん。本当のことを話せ」
「……少々休憩しようかと思いまして」
「ならばシンシアと共に街を回ってくれないか?あいつはどうせ外に出たがるからお前が一緒なら安心だ。アリス嬢も似たようなものじゃないのか?」
……目を背けていたかった現実だ。
あの二人は間違いなく外を歩きたがるしマーガレットが護衛についてもおそらくストッパーにはなれない。
ヴィクター王子ならストッパーになれるのかもしれないけどこの人にアリスを任せるのもいささか不安ではある。
「はぁ……わかりました。いってきます」
「すまないな。代わりに宿にお前が欲しいものを用意しておこう」
「では美味しそうなものを見繕っておいてください……おそらくゆっくり食べている時間は取れなさそうなので」
「了解した。余の記憶にある中で良さげな料理を用意させておく。それとカレンは連れて行くか?」
「はい、ではよろしくお願いします。はぁ……ローレンス……お前も来るか?」
「僕は遠慮しておこうかな……あはは……」
裏切りやがった!
お前は俺と苦労を共にしてくれると思ったのに……!
最近ローレンスが冷たい!
「ほら、早く誘ってきなよ」
「後で覚えておけよ……」
ヴィクター王子の後ろに控えていたカレンを連れ悪態をつきながらアリスとシンシア王女のもとに歩いていく。
二人はどうやら街のどこを回るかを話し合っているようだった。
「シンシア王女、少しいいか?」
「はい?なんでしょう?」
名前を呼ばれたシンシア王女がこちらを見てキョトンと小さく首をかしげる。
とても美しくて画になってるとは思うが何か物足りないと思ってしまうのは俺だけだろうか。
「よかったら俺と一緒に回らないか?」
「えっ……!」
「嫌か?」
「い、いえ!そんなことないです!私もその……ジェラルトさんと一緒に回りたいです……」
「そうか。それはよかった。アリスも一緒に行くぞ」
俺がそう言うとシンシア王女とアリスだけでなく近くにいたマーガレットまで『え?』という顔をする。
俺変なこと言った?
「お兄様……上げて落とすのは流石に鬼畜すぎませんか……」
「ジェラルト……本当にアンタは女の子泣かせに育っちゃったのね」
「ご主人様、失礼ながらそれはいかがなものかと思いますよ」
「あ、あの3人共その辺にしてあげてください……私が変に期待しちゃったのがいけないので……」
も、もしかしてシンシア王女は俺と二人で回りたかったってことか?
それだったら確かに俺は女性の心を弄んだ悪人ということに……
悪役な俺にぴったりだな!
「すまない。言い方が悪かったな。みんなで回ろう」
「はぁ……お兄様は何もわかってないです……」
わかってるけどあえてスルーしてんだよ。
俺は悪役だからな。
「あ、アリスちゃんと一緒に回れて嬉しいですよ!ぜひ一緒に行きましょう!」
「本当にいいんですか?お邪魔じゃないですか?」
「邪魔なんてとんでもないですよ。仲良くしましょう」
「シア義姉さまがそう言うならご一緒させていただきます」
「よし、決まりだな。師匠とカレンも一緒に来てくれ」
「わかりました」
「え?私も?」
当たり前だろ。
マーガレットだってもはや身内みたいなものなんだから他の知らない人たちよりマーガレットに護衛を頼むのは当然だ。
それにマーガレットは外国に来たこと無いって言ってたし買い物とかしたいだろうしな。
「頼む、師匠」
「はぁ……わかったわ。それに保護者は必要だものね」
師匠も加わって馬車で移動してきたときと同じ四人組にカレンを加えた形になる。
そして街の散策を楽しむために街に繰り出した──
(はずだったんだけどな……)
「君はボクちゃんのお嫁さんになるのだ!異論は認めん!」
「絶対に嫌です。お引き取りください」
気色の悪い貴族がいきなり近づいてきたと思ったらいきなり求婚タイムが始まった。
しかも相手は──
「私はあなたと結婚することはありません。話ならば兄に話を通してください」
まさかのまだ10歳のアリスだった。
ロリという文化が存在し俺もくっころを愛している以上それを否定する気はサラサラ無いがいざ目の前で行われるとなんと言っていいかわからない。
それが身内相手ならばなおのこと嫌悪感と怒りしか湧いてこない。
アリスの
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