第2話 くっころガチ勢、出発する
「それでは出発するぞ。予め通達してあった班で馬車に乗り込め」
エリック先生の指示で1‐Sの面々は用意されていた馬車に乗り込む。
父からいきなり留学の知らせが来て一週間ほど。
あっという間に留学の準備が整えられ出発の日を迎えていた。
「ジェラルトさん。私達も行きましょう」
「ああ、そうだな」
シンシア王女に呼ばれ俺が乗る馬車の方へと歩き出す。
先生が決めた4人1班で馬車に乗るのだが、俺は婚約者ということを考慮されたのかシンシア王女と同じ班だった。
そして残りのメンバーはいつも通りローレンスとヴィクター王子……ではない。
「お兄様!急いでください!遅れちゃいますよ!」
「はぁ……あれは相当はしゃいでるな……」
「あ、あはは……」
俺がため息をつくとシンシア王女が横で苦笑いをする。
馬車に乗り込むと中では既に二人座っていた。
「待たせてすまない。行こうか」
俺がそう言うとゆっくりと馬車が動き出す。
前世の車とかと比べてしまうとやはり乗り心地は悪いし揺れるが、馬とかより疲れないし意外と慣れた。
「しかし、まさかこのメンバーになると思わなかったな」
一人は言わずもがな、アリスである。
そしてもう一人は……
「な、なんで私がこの馬車なの……?今からでも外に出て馬に乗ったほうが良いんじゃ……」
「諦めろ師匠。そういう配属だ」
「年も身分も違いすぎるわよ……こんなの場違いじゃない……」
その名もマーガレット=カートライト。
俺とアリスとシンシア王女というドレイク家組とマーガレットで班を組まれたのだった。
ちなみにローレンスとヴィクター王子は同じ馬車に乗っており、カレンとトムも同じ班らしい。
この2班以外は基本的に学生四人組になっている。
「メグ姉が一緒ですごく嬉しいです!しばらく一緒にいられますね!」
「あ、あはは……ありがとうアリス……でも私には少し荷が重いかも……」
「あまりはしゃぐなよ、アリス。過ぎるようなら父上に報告せざるをえないぞ」
「そ、それはやめてください!」
アリスが一瞬で掌返しをして必死に懇願してくる。
俺はその様子にため息をつくことしかできなかった。
どうして1‐Sの留学にアリスとマーガレットがいるのか。
その全ては父によるものだった。
留学の準備を終えたタイミングで父から新たに文が届いたのだ。
その内容を要約するとこんな感じ。
『息子よ、元気か?留学は貴族派に子どもの暗殺や誘拐による人質作戦を取らせないために行われる。他国ではあるが暗殺の心配は減るはずだ。当然護衛も派遣する。それと学園にお願いしてアリスも連れて行ってもらうことにした。若い頃に世界を知るのは良いことだ。アリスのことよろしく頼んだぞ』
みたいな感じだった。
いきなりアリスが来るとなって結構驚いた。
マーガレットは俺達の護衛として来たのだがなぜか外で警護をしている王国騎士やドレイク騎士団とは離れ俺達の馬車に乗せられることになったのである。
でも身分なんて気にするメンツじゃないし気心もしれてるから大丈夫だと思ったんだけど本人曰くそういう問題ではないらしい。
「お兄様、これから行くゴーラブル王国とはどんな場所なんですか?」
「俺も行ったことがないからおそらくお前と同じくらいしか知らないぞ。所詮は書で得た知識だからな」
俺の祖母がゴーラブル出身だけど先代当主である祖父母は既に田舎で隠居していてあまり会う機会が無い。
たまに会ったときもただの孫を可愛がるジジババにしか見えなかった。
というかあの人達があまり仕事のことを自分から話すような人たちじゃないからな。
「私は幼い頃に一度行ったことがありますよ。ゴーラブル王国で新たに王子が生まれてそのときのパーティーに招待されたんです」
「本当ですか、シア
「ええ」
「ぜひお話を聞かせてください!」
アリスの目はキラキラと輝き将来の義妹にこんな目を向けられて悪い気はしないのかシンシア王女も満更では無さそうな顔をしている。
一つ頷いて話し始めた。
「ゴーラブル王国とアルバー王国の関係は知ってるんですよね?」
「はい!習いました!」
ゴーラブル王国とアルバー王国はそれぞれ西と東に仮想敵国と隣接している。
アルバー王国ではヴァイルン王国という国との仲が非常に悪く常に国境では小競り合いが起きていて父が対応しているのもヴァイルン王国との国境だ。
ゴーラブル王国もヴァイルン相手ではないものの似たような状況にありお互いに背を守り合うべく友好国として同盟を結んでいるのだ。
敵を増やすのはお互いにとって得策ではないため暗殺の心配も少ないというわけだ。
「ゴーラブル王国の国土面積はアルバーとほぼ同じで気候も似通っています。ですが文化は全くの別物であり建物や服、食べ物など色んなことで驚いたのを今でも覚えています」
「全然違うんだ……」
アリスが興味深そうにウンウンと頷く。
書にも書いてあったな。
隣どうしで近いのにまるで別物だって。
まあ平地に設けられた関所が少なくほとんどの国境が山だから移動はそんなに盛んじゃないのも影響しているんだろうな。
「師匠はゴーラブルに行ったことはあるのか?」
アリスとシンシア王女が楽しそうに話をするのを見届けて俺はマーガレットに話しかける。
まだ居心地悪そうだし助け舟を出さないとな。
「無いわね。私はアルバーから出るのはこれが初めてよ」
「そうなのか?意外だな」
「意外って何よ。10歳からアンタの師匠やってすぐに士官学校に入学して卒業したらもう王国騎士団に入隊だったのよ?そんな時間や用事は無いわ」
いや、確かにこの世界では旅行で外国に行くことはないだろうけどまさかゼロだったとは……
まあ俺もアルバーから出たことないし人のこと言えないけど。
「いや、王国騎士の仕事で外国に行くことはないのかなと思ったものでな。シンシア王女も外国に行った経験は結構あるようだし王族の護衛で行かないのか?」
「あのね、基本的に王族が外国に出るときはドレイク騎士団が護衛につくのよ?王国騎士団は本当に選ばれた数人が王族の周りを守るだけなの」
外国に行くときはドレイク騎士団が護衛に?
王族を守るのが王国騎士団のはずだが……
「アンタでも知らないことがあるってなんだか不思議な気分ね。ただドレイク騎士団が護衛につくのは実力的にドレイク騎士団のほうが優秀だからよ。国内だったら王国騎士団でも最精鋭を名乗れるけど外国は何が起こるかわからないからドレイク騎士団を派遣してもらうの」
「随分とはっきり言うな。王国騎士団からしたら面白くないんじゃないのか?」
「そんなことを思うのは貴族派と王族を信奉する一部の王室派だけよ。
「そういうものなのか」
「ええ、それがドレイク家なの。王室派に所属する軍部の家たちはほとんどがドレイク家が王室派だから所属しているだけよ」
普通に冷静になって考えてみれば異常だよな。
たかが侯爵家にそこまで付き従う理由はなんなのか。
しかも脅しなどで縛っている様子はないのにも関わらず。
だが実家が力を持っているのはいいことだ。
権力と力があれば簡単に悪になりうる。
そんな悪こそ俺のくっころ道を助けてくれるはずだ。
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