第26話 くっころガチ勢、トドメの一撃

無事に追手を振り切り翌朝にはドレイク領まで戻って来ることができた。

カレンの家族がいてもここまで早く移動できたのは馬車のおかげだな。

流石に人を抱えたまま走ってこの早さで移動することはできない。


「うーん……お兄ちゃん着いたの……?」


「ここは……?」


ランとロンが眠そうに目を擦りカレンの母親は物珍しそうにキョロキョロと街を見ている。

ドレイク領はアルバーの中でもかなりの都会だし珍しいものもたくさんあるだろうしな。


「ここはベトラウ。王都にも負けぬ大都市だ」


「ベトラウ!?そんなところまで……」


どうやらベトラウの存在は知られていたらしい。

排他的な田舎とかだと自分の街以外知らないとか意外とあるからな。


「あ、あの……マスク・ド・クッコロさん……」


いやもうその名前で呼ぶな!?

思い出すだけで恥ずかしい人生最大の大スベリ。

それが巨大すぎる刃となって俺の心をザックザックと切り裂いていた。


「はぁ……ここまでくればもういいだろう……」


俺はマスクを外す。

ここはもうドレイク家の管轄内。

仮にこの子たちが漏らそうとしてもその前にドレイク家の暗部が止めてくれるはずだ。

既に3人くらい護衛兼監視で見えないところにいるしな。


「俺の名前はジェラルト=ドレイク。この街の領主の息子だ」


「ど、ドレイク家の御子息さま!?」


「り、領主様の……」


「ロン!もっとしっかり頭を下げなくちゃダメ!」


母親は顔を真っ青にして頭を下げ、ロンはポカンと口を半開きにして、ランはそんなロンの頭を下げさせようと必死になっている。

ランはしっかりしてるんだな。


「そう構えなくていい。気にするな」


「ですが……」


「俺はそんなことは気にしない」


だってそんなことを気にしていたら一生くっころなんて拝めない。

多少の暴言だっていいスパイスだ。

身の程をわかっていない能無し貴族が威張ってきたら叩き潰すけどな。

最高のくっころカレンの家族ならば丁重に扱うのは当然のこと。


「付いてきて欲しいところがある。こっちだ」


馬車は領主館の目の前に停めてくれたので建物はすぐそこだ。

扉を開けて中に入ると予想外の人物がいた。


「あ、ジェラルトさん。帰ってきたんですね」


そう、シンシア王女である。

フリフリとサラサラの金髪を揺らしながらシンシア王女が駆け寄ってくる。

その表情はまさに満面の笑みと言った様子で素晴らしい反骨精神を見せるカレンの爪の垢を煎じて飲ませたい。


シンシア王女は時間が空いた時はたまに家に来るようになった。

どうやら母がお菓子作りを教えたいらしく誘っているのだとか。

母の趣味に付き合わせて申し訳ないがどうやら本人は結構楽しんでいるらしくアリスと一緒にお菓子を食べたりしている様子を見る。

まさかこんな時間にいるとは思わなかったが母はよっぽどシンシア王女のことを気に入ったらしくたまに泊まっていくこともある。


母が地獄女子会に誘っていたことを伝えないといけなかったがこうして来ているということは母から直接聞いただろう。

手間が省けてちょうどいい。


「ああ、ちょっと所要でな。そっちは母上が?」


「ええ、お誘いを受けまして。ですが学園もないので誘っていただけるのはとても嬉しいです」


そう、俺達は今学校を休んでいる。

モーン伯が蜂起したことで士官学校は一時的に休校になったがもう既に再開した。

しかし俺とシンシア王女は戦場に立った疲れを癒やすため一週間ほどの休みを学園から与えられた。

別に疲れてないけど今はカレンの相手がしたかったのでありがたい休みだった。


「あれ?こちらの方々は……?まさか誘拐してきたとかじゃ……」


こういうとき漫画とかだと『そんなわけないだろ』と言うのがお約束だが誘拐と言われてあながち間違いじゃないのですぐに否定できない。

そんな俺の様子にシンシア王女の目がジトッとなる。


「……本当にやっちゃったんですか?」


「この人たちはカレンの家族だ。カレンに会わせようと思って連れてきた」


質問には答えず報告だけする。

俺がそう言うとシンシア王女は合点がいったと頷いた。


「あの……ジェラルト様……こちらの御方は……」


「ああ、3人にも紹介しよう。シンシア王女殿下だ」


「シンシア=アルバーと申します。はじめまして」


シンシア王女が美しい所作でカーテンシーをすると3人はぎょっとなる。

そして土下座を始めた。


「ちょっ!?頭を上げてください……!」


「王女殿下とはつゆ知らず!ご無礼をしたことをお許しください!」


「と、とにかく頭を……!」


シンシア王女がそう言うと3人は恐る恐る顔を上げる。

まあ確かにいきなり目の前にいる人が王女様だって教えられたらびっくりするよな。

ちょっと配慮が足りなかったか。

でも紹介しないわけにもいかないしな。


「今からカレンのもとにいく。シンシア王女はどうするか?」


「私も付いていきたいです」


「わかった。ならば一緒に行こう」


シンシア王女も合流し俺達は一つの部屋に移動する。

そして3人には待ってもらって俺とシンシア王女だけ先に中にはいった。

いきなりメインイベントじゃ面白くないからな。


「よう、元気にしていたか?」


カレンは隷属の首輪を付けたことにより抵抗手段を封じたため地下牢からこの部屋へと移されていた。

この部屋から出ることを禁じているので脱出は不可能。

情報漏洩防止、脱出禁止、危害を加えることの禁止。

この3つを隷属の首輪にかけておりそれ以外は何も封じていないのでカレンは俺に暴言を吐くこともできる。

やっぱり純正のくっころこそが最高だ。

人工も悪くないけどせっかく異世界転生したのに妥協するのは馬鹿らしい。


「……あなたと話すことは何もありません」


「カレン……」


おうおういいねえ。

その折れない反骨精神が俺は大好きだよ。


「今日はお前にいい知らせを持ってきてやったぞ?泣いて喜ぶといい」


「処刑の日程でも決まったんですか?それは良いですね」


「カレン!なんてことを言うんですか!」


「私は罪を犯した者です。国の華たる王女殿下が囚人に話しかけるなどもってのほかですよ」


「……!」


カレンは突き放したように言う。

カレンはこれ以上シンシア王女を傷つけたくないと言っていた。

だからといってこうやって突き放すのもシンシア王女を苦しめることになるけどな。

ほんと、そういう所は不器用なんだな。


「落ち着け、2人とも。話が進まないだろう」


「……すみません」


「ふん……」


カレンがこういう態度を取るようになったのも俺を怒らせたいからだろう。

怒らせて殺してもらうのを願っている。

何を馬鹿げたことを、と思うがカレンは自分が生きていてはいけないと思っている。

それが間違いか本当かはわからないがそんな死に方は間違っているとだけは言える。

あんな素晴らしいくっころを披露できる人物が死ぬのはあまりにも惜しい。


「カレン。俺に忠誠を誓わないか?」


「誓いません。あなたに忠誠なんか誓うわけないでしょう」


いい言葉だ……!

こういう言葉一つ一つを纏めて名言集みたいに本を出すのはどうだろうか?

きっと遠い未来この世界が発展してくっころが世間の常識になる日が来るのなら俺が作った本はきっと同志たちの聖書バイブルになってくれるはずだ。

老後の楽しみが一つ増えたな。


「そうか。それは残念だな」


(さて、とどめの一撃と行こうか……!カレンよ!俺にさらなるくっころの可能性を見せてくれ!くっころは無限大だ!)


「中に通してくれ」


俺がそう言うとガチャリと後ろの扉が開く。

これから入ってくる存在こそカレンを高みへと押し上げる重要な鍵だ。


さぁ……くっころの時間だ!

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