第27話 くっころガチ勢、痛恨のミスに気づく
(さあ見せてくれ……!さらなる可能性を俺に見せてくれ!)
カレンの家族たちが中へと入ってくる。
カレンには俺が人質を取ったことを嫌でも知ってもらわねばならない。
その先に道があることを信じて。
人質を取られたカレンは俺の命令に従うほかなく生き恥を晒したとして家族を人質に取られた怒りも相まり極上のくっころを見せてくれるはず!
「お前の家族たちだ」
「………………ぇ」
カレンがポカンと家族を見つめる。
そうだろうそうだろう。
まさか侯爵令息たる俺が家族を人質に取るなんて思っていなかっただろう。
「カレン!カレン!ああ……!」
「カレンお姉ちゃん!よかっだぁ……いぎでたよぉ……!」
「お姉ちゃん……!ずっと会いたかった……!うわぁぁぁん!!!!」
3人がカレンの方へと走っていって抱きつく。
そして大量の涙を流していた。
……なんか反応が大きくないか?
まあ家族が危険な仕事をしてるんだから心配にもなるか。
「お母さん……!ロン……!ラン……!うぅ……」
カレンもつられるように涙を流す。
感動の家族の再会のように見えるが俺からすればそれは違う。
きっと──
(あれは悔し涙に違いない!家族を人質に取られたことを理解し屈辱にも俺に逆らうことができないであろう未来が悔しいんだ!そうに決まってる!)
「やっぱりジェラルトさんは優しいんですね。カレン、喜んでますよ」
「そんなわけがないだろう。それに俺は良いことなんてしてないし優しくもないさ」
だって家族を人質にとって言うこと聞かせようとしてるんだぞ?
善人どころか極悪人の所業だ。
「ふふっ、そういうことにしておいてあげます」
「すぐに俺の本性がでるさ。そのときも同じことが言えるかな?」
「本性なんて本当にあるんですか?」
シンシア王女がニコニコと笑いながら言ってくる。
くそ……!今に見てろよ!
俺のクズっぷりを見せてやる!
「カレン。どうだ、お前の家族を連れてきてやったぞ」
「グスッ……はい……」
カレンは泣いて目が赤くなっている。
よっぽど悔しかったんだろうな。
俺はそういう忠義を貫ける人ってカッコいいと思うし大好きだぞ。
くっころもしやすいし。
「どれだけ警護をつけようがドレイク家の前では無力なのだ。お前の家族はドレイク家で預からせてもらう」
よし、これで人質宣言ができたな。
この策は俺が諜報員からカレンの家族の居場所を教えられたときから本気で頭を悩ませ考え抜いた
カレンの父親は既に亡くなっており母親は有名な商人というわけでもないのに大きな屋敷に住み厳重な警護がついている。
どう考えてもカレンがマーカム公にとって大切な配下であり優遇しているかがわかるよな。
そんなわけで俺はその警護を突破して人質作戦を取ることにした。
ついでにシンシア王女にもそのことをカレン経由で伝えさせて俺の評価を下げようと思ったけどシンシア王女がたまたま家にいて本当にラッキーだった。
これはくっころの神が俺のことを後押ししているに違いない!
毎朝鍛錬の前に祈っているからその効果が出たのかもしれない。
「もう一度聞こう。カレン、俺に忠誠を誓え。シンシア王女もそうは思わないか?」
「私にどうこう言う権利はありません。ですが……ジェラルトさんがそれを許してくれるのなら……私はそうして欲しいと思っています」
「シンシア王女殿下……私はあなたの婚約者を……」
カレンは苦しそうに顔を俯ける。
しかしシンシア王女は首をフルフルと横に振った。
「当事者たるジェラルトさんが良いと言うならば私に口は挟めません。これはあなたとジェラルトさんの問題です」
なんかこのシリアスすぎる空気、くっころくっころ言ってる俺がアホみたいに見えないか?
いや、そんなことないか。
くっころは神秘の宝だからそれを求める俺もまた当然のこと。
真珠とかと違って養殖もできないし宝石とかと違って永遠に輝くわけではない。
だがその一瞬は何者にも負けないほどまばゆく輝くのがくっころでその儚い姿もまた美しい。
そう思うのは俺が日本で過ごした記憶を持ってるからかな。
日本人はみんな桜とくっころが大好きなのだ。※諸説あり
「どうだ?カレン。お前にもはや拒む道は残っていないぞ?」
俺がニヤニヤと笑いながらカレンを見るとカレンは顔をうつむける。
くく……悔しいだろう?
完敗だもんな。
己の非力さを痛感し俺にくっころを見せろ!
「……わかりました」
カレンが膝をつき臣下の礼を取る。
嫌にすっと膝まづくな……
もっと嫌悪感をあらわにしてくれてもいいんだぜ?
「ジェラルト様、私の忠誠をあなたに全て捧げましょう。そして己の罪を償うべく粉骨砕身し貢献できるよう尽力いたします」
「………は?」
いやいやいや?
なんか雲行き怪しくないか?
というか俺は忠誠なんざ一ミリも求めてないんだが?
俺が求めてるのは絶対に屈しないという反骨精神だぞ?
「カレン……!」
「シンシア王女殿下。これからはお二人の力になれるよう頑張ります」
「ええ……!」
いやいやいや!?
そこ何感動の抱擁を交わしちゃってるわけ!?
おかしいよね!?
俺君の家族を人質に取ってるんだぞ!?
俺を油断させる作戦か?
「お、おい……まさか本当に忠誠を誓う気か?」
「え、ええ……ダメなのですか……?」
「ジェラルトさん……自分から忠誠を誓えと言ったのにそれはないんじゃないですか……?」
明らかに2人は困惑した様子を見せる。
だが俺も同じくらい困惑していた。
「と、取り敢えずなんて俺に頭を下げようと思ったのか教えてもらえるか?」
「それは簡単なことでしょう。あなたは私の家族を救ってくれたんですから」
救った?
何言ってんだこいつ。
俺は人質に取ったんだぞ?
「いや、俺は救ってなどいない。目を覚ませ」
「私の家族はマーカム公……いえ、ゲイリーに人質に取られていたんです」
「うえっ!?」
は、はぁ!?
でもカレンの家族はそんなこと一言も……!
「全てをお話します。私は貴方様に隠し事は一切しません」
そしてカレンはポツリポツリと話し出す。
その内容はまさに壮絶の一言だった。
シンシア王女は横で静かに涙を流している。
しかし俺はそれ以上にショックを受けていた。
(そ、そんな……じゃあ俺は……カレンの家族を救い出したらドレイク領の他の街に連れて行くべきだったんだ……)
全ては自分の思い違い。
警護だと思っていたのはただの監視役で、カレンは厚遇どころかひどい扱いを受けていて、俺はそれを救うかのように家族とカレンを引き合わせてしまった。
なぜそれに気付けなかったんだとほぼ動いていない頭で振り返るとあるシーンを思い出した。
『それでどうだ?』
『あの場所にいることは間違いないかと。ただ詳細な情報までは……』
『十分だ。感謝する』
『これだけでよろしいのですか……?』
『ああ、手間を掛けさせて悪かったな』
あのときじゃねえか!!!!
なんであのときの俺はもっと情報を精査してもらわなかったんだ……!
この件で諜報員を責めることなどできない。
むしろ優秀すぎるくらいでカレンの身辺調査を頼んでマーカム公が隠蔽した証拠からカレンの家族の居場所を掴むまでに懸かった時間はたったの2日だ。
あまりにも余裕すぎると油断しすぎて情報をしっかり調べさせなかった俺のミス……
そん……な……
己の痛恨のミスに気づき目の前が真っ暗になる。
「これからはご主人様のお役に立てるよう頑張ります……!」
もはや今のカレンに反骨精神など存在していない。
ああ……終わった……俺の人生……終わったよ……
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