第25話 くっころガチ勢、ヒーローになる
「ここが例の場所ってわけだな」
俺は目の前に立つ屋敷を見てそう呟く。
周りは畑ばかりな田舎風景に場違いなようにも感じるこの屋敷がある場所はとある貴族派が有する領地の辺境の地だった。
もう既に日も落ちていて暗く田舎で街灯もないのでかなり真っ暗だった。
(さて、潜入開始するか。こういうのワクワクするな)
幼い頃抱いていた子供心が騒ぎ出す。
俺も小学校低学年くらいのときにスパイのアニメを見てスパイに憧れる時期があった。
こうして転生して似たようなことをしていることに一種の感慨を感じる。
(見張りは2人……恐らく屋敷内も警備員がいるな。まあ入ってみればわかるだろう)
「よし、いくぞ」
「「はっ」」
一応人手が必要なので連れてきた配下2人に合図を出すと適当な屋台で買った面を付けて塀を飛び越える。
面を付けるのは一応ドレイク家の嫡男がこんなことしてるってバレるわけにはいかないからな。
まあなんとかなるだろう。
「若様。周りに敵はいないようです」
「ああ、ここまでは問題ないな」
第一関門突破。
次は今回の目的を果たすべく屋敷内を移動する。
屋敷図は諜報員が手に入れてくれていたので迷うことなく進んでいく。
そして一つの部屋の前についた。
「ここか?」
「ええ。情報通りならばここで間違いありません」
「了解した。気配からして番は一人。俺が片付けよう」
「承知しました」
手早く打ち合わせを終え部屋の中に突入する。
予想通り中には1人敵がいて相手が声を上げ剣を抜く前に顎を揺らして気絶させる。
今ここで殺すわけにはいかない理由があった。
その理由こそ俺の後ろにいる男の子と女の子。
配下たちが優しく口を押さえていることで声こそ上げていないが目には涙を浮かべていた。
怖がらせて本当に申し訳ない。
「こんばんは。カレンお姉ちゃんに会いたくないか?」
俺がそう言うと2人の目が驚きに染まる。
そう、この2人はカレンにとって弟妹にあたる双子の兄妹なのだ。
ちなみに兄はロンで妹はランである。
「叫ばないって約束できるか?」
俺が聞くと2人がコクリと頷く。
俺が指示を出すとすぐに配下たちは手を離した。
「無理矢理すまなかったな」
「い、いえ……それよりもカレンお姉ちゃんって……」
まだ中学校入らないくらいの年ごろかな?
平民の子供にしては落ち着いているし頭も良さそうだ。
「今はお兄さんの家にいるんだ。お母さんと一緒にうちに来ないか?」
「本当にカレンお姉ちゃんが……」
「ああ、いるよ」
誘拐みたいなこと言ってるなと思いつつうちに連れてこうとしていることは変わらないのであながち間違いじゃない。
まあ母親も連れて行くしね?
保護者同伴ならただの引っ越しと同じだ。
「お姉ちゃんに会いたい……!」
「僕も……!」
2人は目をキラキラさせて俺たちを見てくる。
俺は頷くと配下たちに合図をする。
そして2人をおんぶするのだった。
「今からお母さんを呼びに行こう」
「そういえばお兄さんはお名前なんていうんですか?」
「な、名前……?」
しまった、何も考えてない……!
まさか名前を聞かれるなんて思ってなかった……!
「え、えーっと……」
「お兄さん?」
まずい!
訝しげな目でこっちを見ている!?
「ま、マスク・ド・くっころかな……」
「マスク・ド・クッコロさん?っていうの?」
「か、カッコいい……!」
ランは不思議そうな顔で首をかしげていたがロンにはウケたらしい。
配下たちは仮面を付けているので表情は見えないが困惑していることだけはわかった。
◇◆◇
「お母さんがどこの部屋にいるかわかるか?」
「は、はい。こっちです」
ランがコクリと頷き道案内をしてくれる。
俺は配下たちと顔を見合わせ頷き合いついていく。
俺がランとロンの護衛に入りその周りを配下が警戒する作戦だ。
「お母さんはいつも別の部屋で寝てるんです。確か……この部屋だったと思います」
ランは大きな部屋の前で足を止める。
ロンの方を見るとロンも控えめに頷いていた。
なるほど、前もって掴んでいた情報と全く同じようだ。
イレギュラーな事態にはならなさそうで良かったよ。
「母君を回収したらすぐに領地に戻る。いいな?」
「「はっ」」
配下たちが先陣を切り扉を開ける。
そして中に一歩踏み入れた瞬間けたたましい音が屋敷中に鳴り響いた。
「チッ!魔道具が仕掛けられていたか!」
「若様!いかがしますか?」
「このまま続行する!」
「御意」
部屋の中へと進んでいくとカレンの母親らしき人がいた。
どことなくカレンと目元が似ている気がする。
「貴方がたは……」
「はじめまして、今は名を名乗っている余裕はない。カレンを預かっているので我らの本拠地に来てもらえないだろうか?」
「カレンが!?」
母親は目を丸くして驚く。
そして大粒の涙をポロポロと流した。
な、なんだ!?
「カレンが……生きてた……!」
カレンの暗殺業のことを知ってるのかな?
それでドレイク家の子息に対して暗殺を失敗して捕まったけど処刑を回避して喜んでいるということか。
安心してください、娘さんは絶対に殺させはしません。
くっころの刑に処します。
「ご同行してもらっても?」
「え、ええ……!」
母親はコクンと頷く。
普通こんな怪しい人間についていくのはありえないと思うがこの時代では義務教育なんてものはないし学校は一部の平民しか通えていないのが現実だ。
今はその即決が非常に助かる。
「離脱する。いくぞ」
「「はっ」」
俺がランを背負い配下がロンと母親を背負う。
振動があまりいかないよう配慮しながら走り出す。
そして屋敷をもう少しで抜けられる、と思ったそのとき。
「まあそうでなかったらなんのためのあの魔道具だって話だな」
完全武装で待ち伏せされていた。
その数およそ20人ほど。
カレンが雇ったのか、マーカム公の重臣だから警護を付けてもらってるのか知らないけど結構数が多い。
どちらにせよカレンは大切な配下だったのかな?
「若様、お下がりを」
「私達が道を開きます」
「必要ない。俺がやる」
配下たちが俺の前に立つが俺は首を横に振る。
彼らは暗殺者だし戦闘よりは隠密とかのほうが得意だ。
なら一番戦うのが得意な俺が戦ったほうが建設的だろう。
「彼女を預かっていてもらえるか?」
「は、はっ。しかし……」
「大丈夫だ。軽くひねってくるだけだ」
俺は配下にランを預け前に出る。
剣を抜くがその剣はいつもと違ってそこら辺で買った
名剣ぶら下げて身バレとかアホらしいしな。
「貴様……よくもこのようなことを!」
「丁重に扱うことは約束しよう」
「黙れ!」
一気に5人ほど飛びかかってくる。
戦力の分散はタブーじゃないか?
俺は紅月流は使わないように基礎的な剣術のみで5人を打ち倒す。
刃も潰れてしまっている剣なので殺さないように配慮しなくていいのが素晴らしい。
急所に全力で叩き込まなければ死ぬことはないだろう。
「……!?な、何者だ……!?」
「お兄ちゃんはマスク・ド・クッコロ!お前たちなんかより強いんだぞ!」
名乗りをどうしようかと考えていると後ろからロンが叫びを上げる。
しかも内容は結構やばめ。
超恥ずかしいんだけど!?
いや……この際は仕方ない!
「ふ、フフフ………我が名はマスク・ド・くっころ!正義の味方というわけでもないが神出鬼没にして最強の男!俺の目的を邪魔する者は全員悪であり全力を持って叩き潰す!」
取り敢えず乗っかってみるとさっきまで緊張感の漂っていた空気がぶっ壊れるのがわかる。
あるのはシーンとした冷え切った空気。
大スベリというのはこういうのを言うんじゃないだろうか。
「さっさと消えやがれぇぇぇぇぇ!!!」
恥ずかしくなったので残りの15人ほどを潰しに行く。
そして手練れはいなかったのであっという間に制圧に成功した。
そこには冷めた目で見るランとキラキラした目で見るロンがいたとか。
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