第24話 くっころガチ勢、道連れにする

「父上、母上、アリス。今日は時間を取っていただいてありがとうございます」


「いや、構わない。ジェラルトとは少し話がしたいと思っていたからな」


「私も大丈夫よ」


「お兄様のお願いとあれば必ず駆けつけますよ」


久しぶりの家族団欒……というわけでもなかった。

あながち間違いでもないのだが今は仕事。

父上がここにいるのだって国王の命で一時的に戻ってきただけだ。

あまり隣国との仲が良くなく父自身何か掴んでいるのかずっと前線に駐屯している。


「まずは私から話そう。ジェラルト、此度の任よくぞ果たしたな」


「はい。実際の戦場を知り、空気を肌で感じた良い経験となりました」


「お父様はお兄様に厳しすぎませんか?15歳で総大将を務めるなんて聞いたことありませんよ?」


「ハッハッハ!ジェラルトならできると判断したからだ、アリス。凡夫ならば家督はお前に譲っていたかもしれんな」


「ふふ、流石は私たちのジェラルトね」


アリスはまだ小さいとは言え流石にドレイク家の娘と言うことで俺が15で戦場に出るとなっても文句を言うことはなかった。

ただ苦笑して買い物いってらっしゃいくらいのノリで送り出された。

母もニコニコと嬉しそうに笑っている。

ウチの女性陣メンタル強すぎないか?


「これは私がジェラルトに家督を譲る日も近いか?」


「まだまだ父上もお若いでしょう。隠居するには早すぎますよ」


まだ父も母も40手前だ。

前世だったらいわゆる働き盛りと呼ばれる年頃で隠居には早い。

というか俺にはまだやりたいことがたくさんあるんだからもっと父には頑張ってもらわなくては。


「それで話とはなんだ?」


「はい。私を殺そうとした暗殺者について相談がありまして」


「相談?」


「はい」


ここらからが俺の仕事だ。

まずはカレンの処刑を止めるよう父と母に話を通さなくてはならない。


「その者の名をカレンというのですが殺さず生かしておくのはいかがでしょうか?」


「ふむ……それはなぜだ?」


「彼女は十中八九マーカム公が放った刺客でしょう。なんらかの駒として使えるかと」


「だが訓練を受けた者がそう簡単に供述してくれるとは限らない。それに身分が低いものが何を言おうが黙殺されてしまうのが今の社会だ。残念なことにな」


「殺してしまったらそれきりです。ここの地下牢を突破できるとも思いません」


やはり少し分が悪いな。

せめてスパイとかだったらまだ大丈夫だったか?

いや、大事な情報を握られていたかもしれない以上暗殺より許されないかもしれないな。


「理由としてはいささか弱いな。オリビア、アリス。お前たちはどう考える?」


「あまりいい気分はしませんね。貴族でなくても殺人未遂は犯罪ですし」


「家族を殺されかけていい気のする人はいませんよ」


アリスと母の感触も鈍い。

交渉事は他の貴族とやるよりこうして身内でやるほうがやりづらい。

騙すようなことは絶対にしたくないしそもそも馬鹿はドレイク家にはいない。

それにもっとやりづらい理由がある。


「ドレイク家当主としてはお前の気持ちを尊重したいところはある。だが一人の父としては自分の息子を狙われて許せるはずがない」


そう、反対しているのは俺を想ってのことなのだ。

家族愛がはっきりとそこに存在していることに嬉しくなるがなんとかここはカレンを生かさなくては……

本当はこの手を使いたくなかったが仕方ない。


「父上。実はシンシア王女に彼女を生かしてほしいとお願いされたのです。彼女に恰好をつけたいので若気の至りとしてお許しくださいませんか?」


3人が驚いたようにポカンとなる。

そして笑い始めた。

あー恥ずかしい。

なんでこんなこと言わなくちゃいけないんだ。


「ハッハッハ!思ってもないことを言うな、ジェラルト」


「ふふ、嘘をつくならもっとマシな嘘をつきなさいな」


しかもバレてるし。

なんか俺が恥をさらしただけになってないか?


「お前が女に溺れているところを見たことがない。シンシア王女との仲も良好ではあるが依存は絶対にしていないと報告が上がってるぞ?」


そもそもその仲が良好という点に物申したいんですけどね。

諜報員が学園にいるとは思っていたけどまさか俺たちの仲を確認する者までいるとは思わなかった。

他にもっと有益な情報あるだろ。


「……申し訳ありません」


「いや、お前の珍しいところが見れて嬉しく思うぞ。そこまで言うなら何も言うまい。好きにするといい」


「……!本当ですか?」


「ああ、ただし自分の行動に責任は持て」


「もちろんです。既に彼女には隷属の首輪を付け、誰かに危害を加えることとドレイク家に関する情報を漏らすことを禁じました」


隷属の首輪は主に奴隷に対して用いられる道具でいくらか対象の行動を制限できる。

あれを取り付けたときの表情はなかなかよかったな。

悔しそうな、それでいて己の無力を痛感している素晴らしい表情だった。


「ああ、ならいい。これからも成長を期待している」


「はい。父上もどうか健康にお過ごしください」


「ありがとう。オリビア、アリス。私はもう前線に戻る。時間をなかなか取れずすまないが次に帰ってくるときはおそらくゆっくりできるはずだ」


「ええ、いってらっしゃい。あなた」


「お父様!どうかご武運を!」


父が頷き部屋から出ていく。

部屋には母とアリスと俺の3人になった。


「それにしてもびっくりしたわ。まさかジェラルトがあんな事を言うなんて」


「う……どうか忘れてください」


「あはは、お兄様にはシンシア王女殿下とメグ姉がいるじゃないですか」


別にマーガレットは婚約者なわけじゃないけどな。

すごい懐いてたし今度うちに来てもらおうかな。

きっとアリスも喜ぶだろう。


「それよ!シンシア王女との仲はどうなの!?イアンは良好って言ってたけど何か進展した!?」


「あ!それ私も聞きたいです!」


母の言葉にアリスの目がキラーンと輝く。

女子が恋バナが好きなのはどの世界でも変わらないんだな……

というか妹と母と自分の恋愛関係がどうなってるか聞かれんの普通に嫌なんだけど。

絶対に話したくないのでどうしたものか頭を悩ませると妙案を思いつく。


「今度ここにシンシア王女をお招きするのはいかがですか?そのときにじっくりお気になさればよろしいかと」


シンシア王女を生贄に捧げた。

これは将来家庭内で不和がないように母と妹と婚約者を恋バナという話題提供で繋ぐのだ。

別に悪いことじゃないはず、と心の中で誰に対してでもなく言い訳をする。

実際お家問題なんて百害あって一利なしなんだからみんな仲良しでいることは非常に重要だ。


「いいわね!もし来てくれるなら女子会を開きましょう!」


「メグ姉も!」


「わかりました。2人に聞いておきましょう」


心の中では実現するんだろうなぁと思いつつ頷いていく。

だってシンシア王女は将来の義母や義妹の誘いを断るなんてあまりにも気まずすぎるしマーガレットは立場的に母が誘えば断れない。

二人に合掌だ。


「あ、それと恋バナをするときだけはあなたも参加するのよ?」


「うぇっ!?」


「当たり前じゃない。当事者の話を聞かないと」


「いや、それは……」


「何か駄目な理由でもあるの?」


「……ありません」


「決まりね!」


断れなかった……

俺が逃げるために2人を捧げたはずなのに結果的に道連れにしたようになってしまった。

くそ……いたたまれなさすぎる!


◇◆◇


「それでどうだ?」


「あの場所にいることは間違いないかと。ただ詳細な情報までは……」


「十分だ。感謝する」


「これだけでよろしいのですか……?」


「ああ、手間を掛けさせて悪かったな」


父から借りた諜報員の情報はめちゃくちゃ利益のあるものだった。


さぁ……カレンのくっころをさらなるものへ昇華させよう……!

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