第23話 くっころガチ勢、さらなる高みへと至る
「カレン!どうしてあなたが……」
シンシア王女の驚きの声が響く。
俺もこの人の顔は見たことがあった。
確かシンシア王女のお付きの侍女だったはず。
「想定以上でした……まさか貴方がこんなにも強いとは……」
「おや、口調が変わったな」
「口調は作っているだけですから。私だとバレた以上礼を尽くすのが当然かなと思いまして」
「殺しにきておいてよく言う。まあ俺は別に構わないが」
女騎士ではないが中々暗殺者というのもそそる。
華があるわけではないが美人だし日本人だった俺からすれば黒髪というのもポイントが高い。
「だったら逃がしてくれませんか?」
「逃がすと思うか?」
「……愚問でした。最後まで足掻かせてもらいます」
そう言ってカレンは目の前から消える。
怪我をしているはずなのに思ったより速い。
だが魔装を纏った俺から逃げられると思うなよ?
「さて、鬼ごっこといこうか」
魔装を強めにかけ直し軽く膝を曲げ伸ばしする。
そして後を追いかけ始めた。
風を切る音が耳に響きしばらくすると先に逃げていたカレンの姿が見えてくる。
先ほど放った月閃でどこか痛めたらしくどこか動き方がぎこちない。
それでもこの速度で移動できるのは素直に感心した。
(まあだからといって絶対に逃がすつもりはない……俺に至高の褒美をもたらしてもらわないとな!)
更に加速して距離を詰める。
そして前に回り込んでカレンの動きを止めた。
「………化け物ですね」
「人聞きの悪いことを言うな。これでも普通の人間だ」
「どの口が言うんですか。もう人間から片足踏み外してますよ」
「その話は後でゆっくり聞いてやるよ」
「ぁ……」
首元に手刀を打ち込むとカレンがフラリと倒れ込む。
俺は地面に倒れ込む前にそっと体を支えると思わず笑みがこぼれた。
「フフフ……ようやく捕まえたぞ……!騎士じゃないのは予定外だがそんなことはどうでもいい。シンシア王女と違って簡単に折れるような人間じゃないはずだ……!」
シンシア王女のときはあまりにも噂に頼りすぎていたのだ。
シンシア王女が簡単に噂を信じて掌で踊っていてくれたから油断してしまったのだ。
だがカレンの場合は違う。
元々敵対していて関係性も元々無いと来たら即落ちする要素は何一つとしてないっ!
まあシンシア王女のときも油断したとは言えヴィクター王子の余計な一言がなければ今でも至高のくっころが見れていたのかもしれないんだけどな。
そう思うとあのイカれた王子に文句が言いたくなってきた。
「いや、今は目の前のご褒美に集中するとしよう。いい気持ちに水を差すことになるしな」
俺はカレンを抱えて陣地へと帰還するのだった──
◇◆◇
「よう、久しぶりだな」
あれから俺はカレンを厳重に拘束し、ドレイク家の領主館にある地下牢に送った。
絶対に逃がしたくないから俺自ら行きたかったんだがパレードやら何やらが色々と用意されていて総大将の俺が外れるわけにはいかなかった。
ロナルド王のお褒めの言葉とか一ミリもいらないから早く帰してほしかった。
そして数日経った今、ようやくこうして檻越しにカレンと再び対面することができたのである。
「私は別に会いたくありませんでした」
「そうか。素晴らしい」
「えっと……ジェラルトさん?」
「いや、なんでもない」
横にはシンシア王女が何を言ってるんだと不思議そうな目で俺を見ている。
もっと軽蔑の視線を向けてくれてもいいんだぜ?
俺がくっころへと昇華させてやろう。
「カレン……あなたどうしてこんなことを……」
「……申し訳ありません。言えません」
シンシア王女は悲しそうに言うとカレンもかなり気まずそうに顔をそらす。
突然ヒビが入った主従関係に空気が重くなる。
聞いた話によると相当仲がよかったらしいし。
(お、おい……こんなシリアスな展開望んでないって……!俺はもっと元気に悔しそうに『くっ……殺せ……!』って言って欲しいんであってこんな重たい空気はいらんぞ!)
「シンシア王女、言いたいことはあるだろうがここは俺に任せてくれないだろうか?」
「それは……」
「安心してくれ。絶対に殺しはしないと約束しよう」
現行犯逮捕の時点で冤罪という可能性は無く、ドレイク家を相手にもみ消すのは不可能なこの状況で命の保証をするのは相当異例だ。
貴族殺しなんて未遂だとしても普通は死罪だからね?
「………わかりました。お任せします……」
殺されかけた本人の言葉だからかシンシア王女は素直に頷く。
そしてチラリと心配そうにカレンを見て地下牢から出ていった。
「さて、これでいくらか話しやすくなったか?」
「あなたに話すことなど何もありません」
「俺を殺すように命令を出したのはマーカム公か?」
わかりきってるし別に情報なんて興味はない。
ただ見張りもいるし形式として一応聞いておかないといけないから聞いてるだけだ。
「だんまりか。素直に話してくれないか?」
「話すことなど何も無いと言っているでしょう」
「シンシア王女があんなに悲しがっていたのにお前は何も応えないのか?」
「っ!それは……」
カレンは先程までの無表情から一転して苦しそうな表情になる。
シンシア王女との関係は偽りじゃなかったということなのか。
それだけでも救いはあるだろう。
自分だけが一方的な気持ちを抱いていたわけじゃないと知るだけでも十分にシンシア王女の心を救ってくれるはずだ。
「なぜシンシア王女のことを大切に思っていたのにこんなことをした?」
「私から話せることなんて何も無いんです!」
初めてカレンが声を荒げた。
あまり触れてほしくないようだな。
さてどうしたもんかと頭を悩ませるとその時は唐突に訪れた。
「もう………さい」
「ん?」
「もう殺してくださいって言ってるんです!私に生きる資格なんて無い!」
頭をハンマーで殴られたような衝撃が襲う。
危うく昇天しかけたがなんとか気合で踏みとどまる。
危なかった……こんなときに絶対に死ねない……!
「ほう?生きる資格がないと?」
膝がガクガクしてなんなら息が荒くなりそうなのをなんとかこらえながらいつも通り話す。
これは表情の特訓だけじゃなくて精神を鍛える必要もありそうだ。
こんど滝行でもしてみよう。
「これ以上あの人を傷つけたくない……!それくらいなら死んだほうがマシです!」
「ふむふむ、だがシンシア王女と君を殺さないと約束してしまったのだよ」
「くっ……!」
ああ……!
いい表情だ………!
俺今まで生きてきてよかったぁ……!
天を仰ぎ手を大きく広げると涙が一筋溢れてきた。
見張りの兵士が何事かと騒ぎ、カレンは少し引いているが知ったことじゃない。
俺は今人生最高の瞬間を噛み締めている……!
「クックック……アハハハハハハ!!!!!」
「ど、どうされましたかジェラルト様!?」
「まさかこいつが!?」
「いや、気にするな。素晴らしいぞ、カレン。気に入った」
「は、はぁ……?」
女騎士こそが至高と思っていたけど違った。
その人が誇り高き屈服させがいのある人物である限り職業や身分などただのスパイスでしかないのだ。
同じ食材でも調理法が違ければ味も魅力も全然違うというのと全く同じ原理だ。
食材がよければどんな料理でも輝く。
あとは
「俺は今、この瞬間さらなる高みへと至った……感謝するぞ、カレン」
「意味のわからないことをいきなり言い出さないでください!あなたもシンシア王女のことを思うなら──」
「話はこれでおしまいだ。俺はお前をさらに高みへと連れて行ってやる」
一旦ここらで退いておくとしよう。
俺がこのくっころで満足すると思うなよ?
更に絶望に叩き落としお前の極上のくっころを引き出してやる……!
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