第20話 くっころガチ勢、暴く
「なんで……なんでアンタが出てくるのよ!」
「逆に聞くがなぜ俺がここにいたらいけないのだ?俺がこの戦場にいることは知ってただろうに」
「………」
ティアは睨みつけてくるが俺がそんなことで動じるはずがない。
今の俺を突き動かしているのは激しい怒りだった。
「そこの女は自分じゃ勝てないからってすぐに殿方に頼るのね。情けないったらないわ」
「俺が勝手に助けに来ただけで師匠は本気で戦って死ぬ覚悟があった。それもわからんようじゃ四流以下だ」
「ほんとガキのくせに生意気ね……!」
今はお互い下馬していて正真正銘の真っ向からの実力勝負。
こいつ相手に負ける気はしなかった。
「くらえ!」
クナイみたいな刃物が飛んでくるがあっさりと弾く。
俺はそのまま野原を散歩するかのようにティアに近づく。
これくらいは造作もないさ。
「く、来るな……!来るな!」
「戦いで来るなと言って本当に来ないやつがいるか?そんな事言ってるとなおさら来るぞ」
俺がそのまま歩いていると突如ティアがニヤリと笑う。
そして何かを取り出した。
「そりゃあ近づいて欲しいから来るなって言ってんのよ!」
俺の周りの地面が光り始める。
なるほど、
爆音が鳴り響き魔道具が爆発する。
即効のトラップ型なので威力は控えめでマーガレットに流れ弾が行くことはないだろう。
「ハハハ!そうやって坊っちゃんが戦場に出てくるからそういうことになるのよ!あんたみたいないけ好かないのはさっさと消えてほしかったから清々したわ!」
「ジェラルト!」
剣を振り煙を薙ぎ払う。
煙の中から出てきた俺を見てティアがぎょっとした顔をする。
なんだよ。
俺がこんなものでやられるわけないだろ。
「な、なんで……」
「爆風ごと全部切った。別に難しい話じゃない」
「な、何を言って……」
ダメだ、こいつじゃお話にならない。
俺はため息をついて後ろを振り返るとホッとした様子のマーガレットがいた。
「師匠もそんなに心配しなくていいさ。アンタの弟子はこんな攻撃でやられるような器じゃないだろ?」
「……私は人間辞めたような技を教えたつもりはないけど?」
「じゃあ師匠自体が人間を辞めているということだな。これくらい造作もなくできるくせによく言う」
「ふふっ、そうね。ごめんなさい。少し取り乱してしまったわ」
俺が頷くと師匠も頷き返す。
こんな面白くもなんとも無いやつとの戦闘はさっさと切り上げてこの戦争を終わらせちゃおう。
あんまり待たせるとシンシア王女の説教も待ってる気がするし……
「では終わらせようか。先手はやるからさっさと来い」
「この……!舐めやがってぇぇぇぇ!!!!」
ティアは全身を使って数多くの武器を持ち襲いかかってくる。
随分と器用なもんだな。
だけど……
「別に舐めてなどいない」
横薙ぎに一閃。
ただそれだけ。
鍛え上げた一つの刃はたとえどれだけ武器を持っていようが全てを破壊して敵を屠る。
斬られたティアはその場に倒れ込む。
「これが実力差というものだ」
「……!さ……いあく……」
「最悪、か。それは一体どっちのことやら」
俺はティアの懐に入っていたキューブ状の魔道具を取り出す。
やはり持っていたか。
さっきマーガレットの動きを見たときなんとなくそうじゃないかなと思ったんだよ。
「『封魔の結晶』か。これまた随分なものを持っているな」
「……!なぜそれを……!」
それは戦闘時間に比例して相手の動きを阻害する魔道具だった。
その効果は基礎能力全般の減少と魔力がわずかに乱れるというもの。
一瞬が勝負を分ける実戦においてそのわずかはデカすぎたのだ。
「師匠。封魔の結晶は知っているか?」
「……いいえ。聞いたこともないわ」
「だろうな。これはめったに世に出てこない代物だし騎士道を重んじるアルバーでは特に少ない」
俺はマーガレットにこの魔道具の効果を説明する。
するとマーガレットも少し苦い顔へと変わっていった。
「でもジェラルト。それだとこの魔道具は強すぎない?国宝級以上になると思うんだけど」
「俺も本でチラリと見かけただけだからあまり詳しくはわからないが、発動条件が相当厳しいはず。使える対象も道具一つにつき一人だけのはずだ」
これは一騎打ちの多いアルバーでは絶対に使えないため輸入禁止されたという過去がある。
他国でも使い所はあまり無いしこの道具が国宝級になったという話は聞いたことがない。
「つまり師匠一人を殺すためだけに準備してきたわけだ」
「でもいつその準備を……?」
「師匠は王国騎士団でも、学園でも同僚だったんだ。発動条件は知らんが接触する機会はいくらでもあったはずだ」
これがマーガレットがティアに負けた最大要因だった。
師匠の戦いのスタイルが最初は様子見で敵の癖をある程度掴んでから動き出すというのも良くなかった。
その分魔道具の力が発揮されてしまい逆転の目を失ってしまったのだ。
相当微弱な変化だろうし、違和感を感じることはあっても気づくことは無理だろうな。
「さて、ティアのことだが……」
ティアは今倒れている。
殺さないように手加減したし意識もあるが立ち上がることはできない。
「俺は殺さなくていいと判断した」
「あら、それはどうして?」
「決まっている。こいつには殺す価値すらない。師匠に先に出世され剣の道を捨てた。それは別に人それぞれだから構わないが逃げた先が小細工だったのは良くなかったな。そういう意地汚いやつは騎士に相応しくないし、討ち死になんて名誉を与えるつもりはない」
この世界ちょっと昔の武士っぽいところがあるんだよな。
誇りが大事、みたいな。
まあ武士ほどじゃないとは思うけど多少は敵と戦って死ぬのは武人としての誇りという風潮がある。
「一生敗北者の名を背負って生きていけ。それがお前への報いだ」
「いいんじゃない?私はアンタの指示に従うわ」
マーガレットも頷いてくれた。
こいつは殺して楽にするつもりはない。
俺を一瞬期待させたこと一生根に持ってやる。
俺とマーガレットは振り返ること無く王国騎士団が集まっている場所へと歩いていく。
「師匠、帰還するぞ」
「ま、待って……モーン伯は……!」
「その体じゃ無理だ。下がれ」
「イヤよ!せめて指揮だけでもしないと……!」
師匠は逃げてしまった馬の代わりに近くにいた兵に馬を借り、乗ろうとするが足がフラフラしていて乗れる気配がない。
それでどうやって指揮するつもりなんだ?
はぁ……こうなったら師匠は頑固だからなぁ……
「師匠、失礼するぞ」
「ん?なに?ひゃっ!?」
俺は師匠を横抱きにして馬にさっと飛び乗る。
そして俺の前に乗せて手綱を握った。
「じ、ジェラルト!それは……!」
「しっ、一応俺は総大将だから顔は立ててくれ」
「す、すみません。ですがジェラルト様にはシンシア殿下が……!」
「今は戦中だ。文句は戦いが終わってから聞こう」
そして俺は馬を走らせる。
王国騎士団も先程の会話を聞いており俺の馬に付いてきた。
うん、大丈夫そうだな。
ジャックとダウンズ男爵は今どうなっているだろうか。
遠目に見たあの巨人……一体どうなることやら。
まあ誰が敵であろうと俺の邪魔をするなら消すのみだ。
さぁ、決着をつけよう──
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