第19話 くっころガチ勢、気を感じ取る

一つでも多くのことを学ぶべく戦場を見ていると色んなことがわかってくる。

こちらがどうしたいのか、敵は何を狙っているのか、今はするべきことはなんなのか。

そういったことが薄っすらと伝わってくる。


(じゃあこの衝動は……)


心の声が今しかないと叫んでいる。

本陣にいるべきじゃないと言っているのだ。


(仕方ない……死んだら俺はそこまでの人間だったということだ)


「どうしたんですか?ジェラルトさん」


「………機か」


「え?」


俺は自分の直感を信じる。

いきなり前線に出るわけじゃないしまあいいだろう。


「シンシア」


「ひゃ、ひゃい!」


ん?なんか様子がおかしいな。

まあいいか。


「本陣から出ないでくれ。後は頼んだぞ」


俺は愛剣を腰に下げ、走り出した──


◇◆◇


「ジャック、いるか?」


「若様?一体どうしてここに?」


「ちょっとジャックに相談したいことがあってな」


ここは鎮圧軍中央を率いるジャックの陣。

俺は父から預かった精鋭300を引き連れここまでやってきたのだった。


「相談とは一体なんでしょう?」


「敵軍に乱れが見える。決めるなら今だと思ってな」


「若様は一体どうするおつもりで?」


「突撃してこの戦に終止符を打つ。こんなものは長引くだけ損だ。早く終わらせたほうがよかろう」


「フ……クク……ハッハッハ!」


ジャックが大きく笑い出す。

こんなに笑うジャックは初めて見るかもしれない。

何か変なことでも言ったか?


「いや、失敬。まさか若様がこれ程とは思わなんだ」


「というと?」


「若様は戦況を見極める良い目を持っておられる。私たちもちょうど突撃しようとしているところでした」


ジャックも同じことを考えていたのか。

素人だし突出して俺が討ち取られたら元も子もないから先にジャックに確認にきたけど百戦錬磨のジャックと同じ考えを持てたというのは嬉しい。


「ち、ちょっと待ってください!まさかジェラルト様まで!?」


ジャックの補佐についていたダニエルが慌てて止めに来る。

なんだよ、良いところだったのに。


「当然だろう。これも経験だ」


「き、危険すぎます!我が主君はあなた様を守るように仰せつかっております!ロイ様の副官としてそれを許容することはできませぬ」


「うーん……ジャック」


俺では説得は時間がかかると判断しジャックへパス。

戦場ではどんどん戦況が移り変わっていくのであまり説得に時間をかけてられないのだ。


「ダニエル殿」


「ジャック様も止めてくだされ!この勝ち戦にわざわざ無理をする必要は……」


「この軍の指揮を頼むぞ!イーデン騎馬隊200は我に続け!突撃するぞ!」


「はい!?」


この爺さん正気か?

説得なんて1ミリもせず勝手に決めやがったぞ?


「さあ若様!」


「あ、ああ……これより敵の本陣を突き戦を終わらせる!行くぞ!」


「我らに軍神オーディンの加護あらん!我らが武勇をご照覧あれ!出撃だ!」


『うおぉぉぉぉ!!!!!!』


ジャックが叫んだのはドレイク家の騎士団が出撃する際の口上。

どうやらドレイク家の騎士団は憧れの的らしく俺が率いる精鋭兵よりイーデン騎士団のほうが声が出ていた。


俺が馬腹を蹴って敵陣へと走り出すとジャックが並走し、後ろから雄叫びを上げながら騎馬兵500が付いてくる。

味方である俺も先頭を走るだけでこんなに後ろからビリビリと威圧感を受けるのなら正面に立つ敵は相当なはずだ。

明らかに動きが鈍くなっている。


「紅月流斬撃ノ術!炎月閃!」


士気を上げるなら派手な方が良い。

そう思って炎を出しながら敵を切り裂いていく。


「みな若様に続け!絶対に遅れるな!」


「「「応!!!」」」


こんなにもスルスルと敵陣の奥深くへと進んでいける理由。

それは主に二つあった。

一つはドレイク、イーデン騎士団の練度が高くどんどん食い破っていけること。

そしてもう一つは……


「い、『生ける伝説』ジャック!?なんでこんなところに!?」


「か、勝てるわけねぇ!」


ジャックの存在だった。

自ら名乗りをせずともその圧倒的強さとドレイク家の旗を持った騎士団ということでジャックを連想できてしまう。

敵の士気も兵もどんどん削っている。

そして敵の本陣が視認できるようになった頃、俺は異変に気づいた。


(なんだあれは……!?でかすぎる……!)


明らかに普通の人の何倍もデカい怪物がいた。

確かあそこにはダウンズ男爵が既に到達していたはず!

ダウンズ男爵は無事なのか!?

一体何がどうなっている!


「ジャック!あれは!」


「おそらく巨人族かと。だがどこか様子がおかしい……」


ジャックも完璧に把握できているわけではない。

ならばどうするか……

ここでの大将は俺であり何かしら手を打たなくては……


「若様、献策します。若様はドレイク兵を率いて右軍へ。私はイーデン騎士団200を率いて敵本陣までいきまする」


「なっ!それは……!」


「右軍への手助けをしなくては厄介なことになります。どっちみち行かなくてはなりません」


そう、ジャックが言っている通り、動きの止まったマーガレット率いる右翼を助けに行かなくてはならない。

まだ崩れていないということはマーガレットはやられていないだろうがこのまま王国騎士団に大きな被害が出ればマーカムの犬が王国騎士団を囮にして俺たちが勝利を掴んだと難癖をつけてきかねないのだ。


「だがあれを相手できるのか?」


「おまかせを、このジャック老いたと言えどそこらの雑兵には負けませぬ」


「…………わかった。ドレイク騎士団は俺に続け!」


ジャックに敵本陣を任せ俺は右翼へと進路を変える。

本陣から見ていたときにはどうやら敵に優秀な指揮官がいるらしく押しきれないようだった。

今は一体どうなっているのか……


早る気持ちを抑え馬を走らせると右翼と敵左翼が乱戦状態に陥っているのが見えた。

急いで近づき近くにいた王国騎士にマーガレットの居場所を聞く。


「おい、マーガレットはどこにいる!」


「じぇ、ジェラルト様!?ま、マーガレット様でしたらあちらで戦っておられます!」


「恩に着る!行くぞ!」


教えてくれた兵士に礼を言い、再び走り出してしばらくすると確かにマーガレットが敵と戦っているのが見えた。

だが何かがおかしい。

マーガレットの動きが鈍いような……?


「助太刀に入りますか?」


「いや、ここで助けに入ったらマーガレットの顔を潰すことになる。手は出すな」


「はっ!」


(これはマーガレットの劣勢だな。一体どうなるのか少々見物と行こうか)


マーガレットは力を温存しているだけだと思っていた。

しかしいつまで経ってもマーガレットが優位に立つことは無く流石に異変を感じてきた。

あの場は何かがおかしい。

そしてマーガレットが太ももを刺され落馬する。

どうやら毒が塗られていたらしく立つこともおぼつかない。


(他にもタネはありそうだが……まさか毒とはな……)


「許せなかった。私のほうが優秀なのに、ずっと働いてきたのにこんな小娘に取られるなんて。なんど殺してやろうと思ったか数え切れなかったわよ」


急いで助けに入ろうとすると微かに敵の話す言葉が耳に入ってくる。

その声色には怨嗟が詰まっているような気がした。

俺は馬から飛び降りてマーガレットの前に立つ。

そして敵の剣を防いだ。


「醜い」


この一言に尽きる。

そして敵の顔を見て納得した。

あのデブに追従していた騎士、確か名前はティアとか言ったか。

前見たときにどうしてくっころの気配がしないのか不思議に思っていたが全て合点がいった。


こいつは俺の理想の女騎士とは程遠い。

俺は大事な人を傷つけ、くっころ詐欺をするような奴を絶対に許さない。

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