第14話 くっころガチ勢、出陣する
俺達は王都を行進しモーン伯を討つべく出発した。
その数は約2000であり王国騎士団とドレイク派閥の家の私兵の混成部隊。
共に練度は高く綺麗な整列で行軍していく。
まだ戦は始まっていないが既に物々しい雰囲気が流れていた。
「皆さんの士気も大丈夫そうですね。ジェラルトさんが皆さんにいかに好かれているかわかりますね」
馬を走らせる俺の腕の中から鈴を転がすような声が聞こえてくる。
同時にふわりと甘い香りがして頭がくらっとする。
そう、シンシア王女は俺の前に座って共に行軍しているのである。
どうしてこうなったかというと護衛もしやすくなりついでに俺とシンシア王女の仲をアピールできるから。
どんだけシンシア王女との仲をアピールしたいんだよと言いたいところだがそれだけ良くも悪くも貴族の全員がこの婚約を重要視していると言ってもいい。
「私は別に好かれているわけではない。ドレイク家の名前はそれだけ大きいということだ」
「そんなに卑下しなくてもいいと思いますけどね」
「客観的な判断だ。それより見えてきたぞ」
「あっ、本当ですね」
目の前の開けた場所に天幕が数多く立ち兵たちが休憩を取っていた。
旗の確認と斥候の情報を聞いて予定通りなことを確認し俺たちは近づいていく。
すると2人の男の人が出迎えてくれた。
「お待ちしておりました、ジェラルト様。このロイ=イーデン、イアン様より書簡をいただきジェラルト様の力になるべく参上いたしました」
まさかのイーデン伯本人だった。
自ら出迎えてもらえるとは思っておらず少し驚いた。
でも確かにローレンスと似ているかもしれない。
かなりのイケメンだしローレンスと違って大人の色気というやつを放っている気がする。
「イーデン伯自らの出迎えに心から感謝する。だが私は総大将と言えどまだ15の若輩の身。そうかしこまらずとも構わない」
「ではお言葉に甘えてジェラルト殿と呼ばせていただこう。軍議の前に休憩を挟むかい?」
「いや、すぐに軍議を始めよう」
「承知した。では将の皆もこちらへ」
今回の戦いで中核を担う将達と共に一番奥の天幕に案内される。
既に軍議の準備をしてくれていたらしく地図や資料が揃っていた。
「では軍議を始めようか。まずは自己紹介からいくとしよう。私の名はジェラルト=ドレイク。此度の総大将を務めさせていただく」
「私はシンシア=アルバーです。今回はジェラルト様の婚約者として同行いたしました。よろしくお願いします」
俺の挨拶についでシンシア王女が頭を下げる。
王子や王は簡単に頭を下げるなと教育されるのに王女はなんでもいいなんてどんな男尊女卑な社会だよと思う。
いずれは変えたいけど今はそんなことを考えるときではないな。
「改めてロイ=イーデンです。よろしく頼むよ」
「ロイ様の副官を務めているダニエルと申します。よろしくお願いします」
横のこちらは副官だったか。
確かに強そうな体つきをしている。
間違いなく縁故採用ではなく実力でその地位をもぎ取ったんだろうな。
「マーティン=ダウンズと申す。高名な皆様方と共に戦えること、嬉しく思いますぞ。ガハハハ!!」
こちらは体が筋肉で盛り上がっていてヒゲを生やした30代くらいの男性。
マーティン=ダウンズ男爵で本来俺たちが総大将にしようとした人だ。
今回は総大将ではないものの戦いに参加して貰うことになった。
「ジャックと申します。非才の身ではありますが若様のために粉骨砕身働きましょう」
「あはは!ジャック殿はおかしなことを言う。あなたが非才ならばこの世のほとんどの人間は非才になってしまうぞ?」
「滅相もないですぞ、ロイ様」
ロイさんとジャックは面識があるらしい。
まあ同じ派閥だしジャックは父といることが多いからよく会うのかもしれないな。
だが今回の将はこれだけではない。
そして最後に……
「マーガレット=カートライトです。今回は王国騎士団700を率い参上いたしました。よろしくお願いします」
なんと王室からの助力として参加する王国騎士団を率いるのはマーガレットだった。
隊長になったといえど700もの数を率いるのは大出世と言えるだろう。
それだけマーガレットが認められている証拠だな。
「自己紹介も終わったところで早速本題に入ろう。イーデン伯、貴殿は戦場をどこと見る?」
「このまま進めばぶつかるのはここでしょうな」
イーデン伯が指を差したのは一つの台地のような場所だった。
また周りに森があって道が細く退却も進軍もしづらい地。
お互い逃げづらいということは勝てさえすれば大きな戦果が見込めるということだ。
「相手にもおそらく優秀な指揮官がいる。そいつが選ぶなら間違いなくここなんだよ」
「援軍を嫌ってということか……」
「その通り。この大地は守りやすく攻めづらい。我らを破れば後から来た兵たちは十全に戦うことは難しいでしょう」
天然の要塞までとは言わないが坂の上が有利で下が不利なのは言わずもがな。
俺達に勝てば台地の上を取って後詰め相手に有利に戦えるし、さらに進軍してもいい。
「では乗り遅れるわけにはいかんでしょうなぁ」
「ダウンズ男爵の言う通り。先に相手に台地を取られればこちらは負けることはなくても損害は増える。故にお互い頂上で戦えるようにしなくてはならない」
「この場所なら近くに砦もありますし補給線も繋ぎやすいです」
全会一致で反対意見は出てこなかった。
俺は静かに頷いて立ち上がる。
「此度の戦いでアルバー王家に背いた逆賊デーブ=モーンを必ず討つ!散らばられて略奪でもされたら面倒だ。この一戦で掃討するぞ!」
「「「「はっ!」」」」
◇◆◇
軍議も終わり軽い親睦会も兼ねて弱めの酒で小さな宴会のようなものが開かれた。
みな思い思いに話し笑顔を浮かべている。
会は穏やかに進んでいきシンシア王女と軽く話しているとイーデン伯に話しかけられた。
「そういえばジェラルト殿。天幕はいかがする?」
「いかが、とは?」
「シンシア王女と同じ天幕にしますかって話だよ」
「っ!?」
イーデン伯からの突然のぶっこみに酒を吹き出しそうになる。
横にいたシンシア王女の顔も真っ赤になっていた。
「戯れはよしてくれ。別々の天幕だ」
「ジェラルト殿は真面目過ぎてからかい甲斐がないな。お父君はオリビア夫人と婚約したてのとき面白い反応を見せてくれたものだが」
この人父にもやってんのかい!
遠慮ないな!?
まあそれで弾かれないってことはこの人の実力があるって証拠なんだろう。
ドレイク派閥は家柄より実力が出世を握る実力主義だからな。
「使用人も連れてきましたので駐屯中や移動中に遠慮なく使ってくれて構わないよ。見目麗しい遊女も連れてきたから自由にしてくれ」
「そ、それは駄目です!」
イーデン伯の言葉にシンシア王女が割り込む。
なんかいつもより慌ててるみたいで珍しい光景だった。
「遠征中のジェラルトさんのお世話は私がします!そ、それにもしその……た、溜まってるなら……わ、私を……使ってください……」
途中で恥ずかしくなってきたのかどんどん声が小さくなっていって最後のほうはギリギリ聞き取れるレベルだった。
シンシア王女は耳まで真っ赤にしており目が潤んでいる。
「おや、そうでしたか。これは失礼いたしました。天幕も一緒でよろしいですね?」
「婚前干渉はダメだと言ってるだろう」
「じ、純潔のままでもご奉仕くらいできます!」
「……叫ぶと自分が大変だぞ?」
「ぁ……」
諸将の視線が集まっている。
そんな状態で自分がどんな発言をしたのか理解したシンシア王女はプシューと倒れ込んだ。
倒れていくシンシア王女を横にいたマーガレットが優しく受け止める。
「あらあら。昔私が言った通り相当な女泣かせに成長したみたいね?」
「そんなこと言わないでくれ、師匠。本来なら怖がられるという意味で女泣かせになると思ったのになぜかこんなことになったんだ」
「あのくだらない噂のことでしょう?そんなのアンタを知らない人が勝手に言ってるだけだから放置しておけばいいのよ。アンタをよく知れば女泣かせになってもおかしくないと思うわよ」
「それは師匠も?」
「あら、アンタは私が惚れていてほしいと思うの?」
「………大人の余裕だな。完敗だ」
昔はそういう趣味の人が超喜びそうな少女だったのに今では大人の余裕と色気を纏ったお姉さんだ。
本当に随分と成長したものだ。
そして親睦会の明朝、俺達は日の出と共に戦いの地へ向け出発するのだった──
あとちゃんと天幕はシンシア王女とは別だったからな!?
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