第7話 正義の姫騎士、嫌な胸騒ぎを感じる(シンシア視点)

更新を押し忘れるという痛恨のミス。

本当にすみません!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ドレイク様とは良い感じなんですか!?」


「最近はお二人の表情も柔らかいですし!」


「え、えーっと……」


私は今、同じ班の女子たちから質問攻めを喰らっていた。

対魔物実戦訓練が始まったばかりの頃は緊張の面持ちを浮かべていた彼女たちだったが何度か魔物と戦って自分たちの実力が通用すると知り、ある程度の余裕が生まれていた。

護衛として私たちの班に同行してくれているマーガレットさんの存在も大きいだろう。

そして私が連携が取りやすくなるようにもっと仲良くならないか、という提案のもと何でも気軽に質問していいですよと言ったらこうなってしまったのだ。


(ど、どうしましょう……どこまで話すか……)


私がチラリと目をやったのはマーガレットさんの隣を歩くもう一人の護衛。

ティアと名乗るその女性はモーン伯と共にやってきた騎士であり、警戒に値する。

相手が誰であろうと下手なことは言えないのだが、この人がいると更に気を配らなくてはならなかった。


「……仲は良好だと思いますよ。ジェラルトさんはお優しい方ですしね」


「やっぱりそうなんですね!」


「最初は怖い方なのかなって思ってたんですけど最近は優しい方だなって思ってたんです!」


「ね〜!顔もカッコいいしイーデン様と仲良く並んで歩いてるのとか尊くない!?」


彼女たちは私の言葉にキャーキャー言いながら笑顔になる。

その反応は私の想定したものとは全く違った。


(もっと怖がられていると思ったのに……結構人気なんですね……)


将来の夫が人気者なのは良いことだ。

なのになぜか心の何処かがモヤッとする。

その感情の名前や原因はわからなかったが良い気はあまりしなかった。


「お二人はどこまで進んでるんですか!?」


「婚約者だし……もしかして最後までとか!?」


「私たち貴族は婚約関係にあっても解消は十分にありえますからね。婚前交渉は許されてないんです。メリットがあるから婚姻を結ぶ、メリットがなくなれば婚約は取り消す。それが政略結婚というものですよ」


それを聞いた彼女たちは少し残念そうな顔になる。

どうやら世に出回っている王女が主人公の恋愛小説では婚約者同士でかなりの大恋愛を繰り広げられているらしくそれを想像していたらしい。

しかし現実とはそういうものだ。


「お二人は恋愛結婚じゃなかったんでした……」


「すみません、余計なことを聞いてしまって……」


「い、いくら政略結婚だって……ふ、二人きりでおでかけくらいは……その、したことありますけど……」


このまま何も無いと言い切るのはなんだか癪な気がしてつい言ってしまった。

実際は私の訓練に付き合ってくれて学園の外で少し魔物と戦っただけだけど……嘘は言ってない。

しかし私の一言で彼女たちの目がキラーンと光り捕食者の目に変わる。


「それってデートってことですか!?」


「キャー!素敵!」


「で、デート!?」


まさかデートなんて言われると思わず驚いてしまう。

だが冷静に考えればそうだ。

男女で二人きりで出かければそれはもうデート。

まさか自分が気づかないうちに初デートを終えているとは思わなかった。

内容は訓練という色気の無いものだったけど。


「ほらほら、あなたたち。今は訓練中だし王女殿下も困っているからその辺にしておきなさい」


「はい、すみません」


「シンシア王女殿下、色々とすみませんでした」


「い、いえいえ。なんでも質問してくださいと言ったのは私ですから」


マーガレットさんが止めてくれたおかげで話を終えることができた。

正直これ以上話していたら私のメンタルが持たなかったかもしれない。

私はお礼を言うべくマーガレットさんの隣へ移動する。


「ありがとうございました。正直助かりました」


「いえいえ、これくらいは当然のことですから」


マーガレットさんは笑顔で首を横に振る。

血は繋がっていないはずだが雰囲気がどこかジェラルトさんと似ていてまるで姉弟みたいな師弟だな、と思ってしまいクスリと笑いが溢れる。


「……?どうしましたか?」


「いえ、ジェラルトさんと少し似ているなと思いまして」


「あはは、幼少期に4年間も一緒にいましたからね」


マーガレットさんは幼少期のジェラルトさんを知っていると気づき、とても羨ましくなる。

神童と呼ばれ始めた彼は一体どんな幼少期を過ごしたのだろうか?

昔から達観していたのかも知れないし意外と無邪気な子供だったのかも知れない。


「気になりますか?」


「ふぇ!?」


「ふふ、気になるってお顔に出てますよ」


「あぅ……気になります……」


感情を顔に出すなと散々兄様に言われていたのにまたやってしまった。

でもつい首を縦に振ってしまった。

それだけジェラルトさんの小さい頃を知りたかった。


「私が初めて会ったのはジェラルトが5歳のときでしたが、あの頃から今の片鱗が出ていましたよ」


「そうなんですか?」


「ええ。自分に才能なんて無いんじゃないかと疑いたくなるくらいには天才でしたね」


史上最高の天才と言われていた人が自信を喪失するほどの天才。

それがどれほどのものか自分には推し量ることはできないけれど自分では到底追いつけないような高みにいることだけはわかった。


「でも」


「……?まだ何かあるのですか?」


「彼の一番すごい所は他の部分にありますよ。ぜひそれは自分の目で確かめてみてください」


「教えてくれないんですか?」


「ええ。あと彼の過去が知りたいのならオリビア様に聞くのがいいと思いますよ。気さくな方ですし将来の義母になるわけですから」


そう言われ私は侯爵夫人を思い出す。

とても上品で若々しく美人な方だったと記憶している。

この前お邪魔してしまったときも歓迎してくれたのが嬉しかった。

話を聞く聞かないを別にしても夫人とは仲良くしたいと心から思う。


「そう……ですね。そうすることにします」


「はい。それと私から一つ質問してもいいですか?」


「……?ええ。私に答えられることでしたら……」


マーガレットさんは口を耳元に近づけてくる。

そして誰にも聞かれないように口を開いた。


「ジェラルトのこと、好きなんですか?」


「……隙?」


隙とは何なのかわからず一瞬固まる。

そしてマーガレットさんの言うすきが『好き』だと気づき一気に顔が熱くなった。


「な、なんでそんな話になったんですか!?」


「顔や態度とかですかね?完全にジェラルトを見る目が乙女の顔になってましたよ?」


「そ、そんなことないです!な、なななななな何を根拠にそんなことを!?」


「ふふ、別に彼に言ったりしませんから」


私が……彼のことを好き……?

そんなはずはないと思う。

最近誤解が解けて素直に接するようになったらいい人なんだなと気付いたけれど好きとかそういう話ではないはずだ。

これは……そう、親愛とか敬愛とかそういうものであって恋慕では無い。


「でもまあ王女殿下がそう言うのならばそういうことにしておきますね」


「もう……」


何か釈然としないままマーガレットはあっさりと退いた。

弁明ができなくて自分がまるで誤魔化したみたいになってしまった。

後でもう一度しっかり誤解を解いておこうと心に決める。


そんなとき、背中にゾクッと言葉に表しがたい嫌な感覚がする。

近くに魔物の気配は無い。

騎士団で魔物狩りの経験も豊富なマーガレットさんも警戒している様子はない。


(あの感覚は一体何だったのでしょうか……嫌な予感がします……ジェラルトさん、兄様、イーデン殿……どうかご無事でありますように……)


私は森のどこかにいるであろう婚約者と家族と仲間の無事を祈ったのだった。

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