第8話 くっころガチ勢、実戦訓練に挑む
「ローレンス!左行ったぞ!ヴィクター王子は右を!」
「任せて!」
「ふっ、やるか」
ヴィクター王子が右の敵を抑えている間に、ローレンスが左の敵を倒す。
そして俺がヴィクター王子のフォローに入り、横から魔物に攻撃を叩き込むと無事倒し切ることができた。
剣身に付いた血を払い、鞘にしまう。
「ふぅ……片付きましたね」
「君の指示が的確だからさ。本当に君の指示は戦いやすい」
「全くだな。できること、できないことをしっかりと理解してくれているゆえ実に動きやすい。王族としてはよろしくないがお前の指示のもと戦うのはとても良い気分だ」
ローレンスの言葉にヴィクター王子が頷く。
将来俺も戦場に立ち将兵たちに指示を出さないといけなくなるからその分野で褒められて悪い気はしない。
最初ヴィクター王子に指示を出せと言われた時はためらったものだがこの人ならまあ良いかと思って受け入れたのだ。
訓練が捗ってとても良い。
「君も今回は出番が無くて悪かったな。次は頼らせてもらうよ」
「い、いえドレイク様……僕なんかにそんなお気遣いなさらず……」
俺が後ろを向いて軽く謝ると後ろにいた眼鏡の男子が慌てて首を横に振る。
彼の名前はトム。
平民で剣術の点は低かったが筆記試験で良い結果を残しSクラスに入った俺達の班のもう一人の男子。
一度彼の動きを見たが剣云々の前に運動が相当苦手ならしく相当弱い敵じゃないと戦ってもらう指示は出せなかった。
というか平民一人でローレンスとヴィクター王子というキャラの濃い貴族2人と同じ班になるのが割とかわいそうなんだが。
ここは一つ俺が彼の手助けをしてやらないとな。
「俺のことは気軽にジェラルトでいいさ。何か困ったこととかあったらなんでも言ってくれ」
「は、はい……」
会話終了。
もちろん俺だって貴族で話術の勉強はさせられてるから話すことはできるが彼が俺達と話したいと思っているかわからない。
余計なお世話になってしまうかもしれないだけに深入りはできなかった。
「そう固くならずともよい。我らは学友であろう?」
「は、はいぃぃ……」
「……もしかしてわざとやってます?」
「なに、場を和ませる軽いジョークだよ」
「全然和むどころか緊張感が増してますので今すぐやめてください」
王子がそんなこと言って誰が和むんだよ。
そんなんで和むような強メンタルの持ち主は最初から緊張なんてしないわ。
(して、ジェラルト。あいつの実力はいかほどだ?)
ヴィクター王子は真剣な顔つきで声を潜め聞いてくる。
その視線の先には俺達の班の護衛としてモーン伯が用意した無名騎士がいた。
(まだ戦っているところを見ていないので詳しいことはわかりません。ですが足運びといい体つきといい強者には見えません)
(王子の護衛に弱兵一人か。シンシアにはカートライト嬢に加えもう一人護衛を付けているというのにな。余を軽んじるならいっそのこと処刑してしまうか?)
(本気で言ってるならシャレにならないので今すぐやめてください)
(もちろん冗談だ。こんなことで一々処刑してたら民がひとり残らず消えるぞ)
さっきから本気で言ってんのか冗談で言ってるのかわかりづれーんだよ!
でも処刑云々は別だがヴィクター王子の言うことにも一理ある。
王女、それも国内の貴族との婚約による臣籍降下が決まった王女を将来の王たる第一王子より警護を厚くするのはおかしい。
全く何を考えているのやら。
(まさかとは思いますが暗殺の可能性も頭に。もし何かあれば護衛騎士ではなく私かローレンスを頼ってください)
(もちろんだ。頼りにさせてもらう)
(まあ流石に無いとは思いますけどね)
念を入れるに越したことはない。
宣戦布告して喧嘩を売ったため今は表面上平和だけどいつこの静寂が終わり全面的に戦いが始まってもおかしくないのだ。
そんなときに王子が暗殺で倒れでもしたら戦う以前に崩壊だ。
ドレイク家がまとめていると言っても俺達は王室派なのだから。
「ジェラルト。3時の方向、約50メートル先に魔物数匹発見。どうする?」
「わかった。……うーん、無理だな。相手は走って離れていっている。追いつけなくはないが小さい川を挟んでいるし無理して追う必要は無いな」
「了解」
ここが戦場で相手が小隊ならば狩っておきたいが今は訓練で相手は魔物だ。
特定の討伐対象がいるわけでもないし無理して追う必要もない。
「ジェラルト。お前最近シンシアとはどうなんだ?何か進展でもあったか?」
「婚前交渉はご法度でしょう?手を出すつもりはありませんよ」
「年頃の男と思えんくらいに冷めてるな。そう思わんか?ローレンス」
「まあジェラルトは時々正気を疑いたくなりますがなんだかんだ真面目ですしね」
「前半部分に色々と物申したいところだが……とにかく今は時間が無いんですよ。私を働かせまくってるの一体どこの誰だと思ってるんですか?」
「それもそうだな。この実戦訓練が終われば一息付けるはずだ。そこでまとめて休みを取ってくれ」
「はぁ……わかりましたよ」
前世の労基も真っ青な労働時間だ。
授業はもちろんその日出された課題に実家との連絡や調べ物などとにかくやるべきことが多い。
最近はくっころ計画を練る時間もないほどだ。
シンシア王女の落ちの気配を一刻も早くなんとかしたいところではあるが最近いい女性騎士がやってきたからな。
ティアとかいったあの女性騎士は美人だったしなかなかいいかもしれない。
「どうしたんだい?ジェラルト、何か考え事?」
「ん?まあシンシア王女とティアとかいう女性騎士についてちょっとな」
「あんな美人な王女と婚約したばかりだってのにもう他の女性に目をやるのかい?君は枯れてるのか盛ってるのかよくわからないね」
人を枯れてるとか盛ってるとか言うな!
俺だって人並みくらいの欲はあるわ!
まあシンシア王女やティアをそんな目で見るつもりは無いけどな。
「そんなことは考えていない。ただ少し気になっただけだ」
「もう浮気か?義弟よ。シンシアが悲しむぞ」
「シンシア王女が悲しむわけ無いでしょうが……あと茶化さないでください」
「気づいてないのか……まあシンシアも自分でなんとかするか」
ヴィクター王子が何か言っているが無視だ。
それよりなんとも言えないこの違和感をなんとかしたい。
「彼女何か変なんですよ。根拠はなくただの勘なのですが……」
「ただの勘で取り調べることはできないな。だが他ならぬお前の言葉だ。頭に刻んでおくとしよう」
「……ええ」
ティアはあのようわからんモーン伯に忠誠を誓っているのは少し玉に瑕ではあるが美人でちゃんとした礼儀正しい女性騎士だ。
そんな格好の獲物なはずなのになぜかシンシア王女のときに感じたような高揚がない。
一見シンシア王女のくっころの破壊力が凄すぎて普通のくっころじゃ満足できなくなってしまったのかとも思ったけどそうではないと思う。
俺の第六感、七感とも言えるくっころ探知感が反応しないのだ。
(うーむ、なんでなんだろうなぁ……)
そんなときだった。
轟音と共に地響きがする。
気配はまだ遠いが確実にこちらに近づいてきている。
「王子!私とローレンスの後ろへ!」
抜剣し俺とローレンスで王子をかばうようにして立つ。
地響きはだんだん大きくなってきてやがて木々をなぎ倒し地響きの主が姿を見せる。
「はぁ……一体どうしてこんなことに……」
「で、でかい……」
「これはすごいな。ジェラルト、余の目にはこれが訓練で学生が討伐できるようには見えないんだが?」
「まあそうでしょうね。なにせこいつは……」
俺はため息をつきながらそれを指差す。
その先には自分より遥かに体がでかく角が生え体から異様な魔力を吹き出している大猪がいた。
「ヌシですから」
なんでこんなことになるんだと内心愚痴りながら俺は全力で頭を回し始めるのだった──
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