第16話 くっころガチ勢、攻略を開始する

ヴィクター王子やシンシア王女との接触で一時教室に張り詰めるほどの緊張感が漂っていたものの、その後はなんのトラブルも無くチャイムが鳴った。

するとすぐに一人の若い男の先生が入ってくる。


「これから君たちの担任になるエリック=ライリーだ。これから3年間この学年のSクラスを担当するつもりだが1年間よろしく頼むとだけ言っておこう」


入ってきた先生はエリックと名乗り自己紹介をする。

1年間というのは毎年成績に基づいたクラス替えがあるからだ。

最初にSクラスだった者が卒業するころにはBクラス、みたいな事例も珍しくはなく油断しているとすぐに下の者に引きずり落とされる。

ここはそういうところなのだ。


「今日のホームルームは自己紹介だ。成績順に立って自己紹介をしてくれ。ではジェラルト=ドレイクから」


この学校では先生は生徒に対して基本敬語を使わない。

敬語を使うとしたら自主的にそうするか王族に対しての2パターンだけだ。

この先生は使わないタイプなのだろう。

まあ先生が敬語とか前世の学校を知っている俺からすれば違和感しか無いけど。


「ドレイク侯爵家が長男、ジェラルト=ドレイクだ。別に取って食ったりはしないんで適当によろしくしてくれ」


このクラスは20人中12人が平民だ。

このくらいの言葉遣いのほうがいいかな〜と思って適当に崩しながら話していると横からキッと睨まれる。

俺は思わず苦笑しながら席に着くと入れ替わるように隣の席の人物が立ち上がった。


「アルバー王国が第2王女、シンシア=アルバーです。みなさんと切磋琢磨しお互いに高め合う学級になってほしいと思います。そして……1年後は首席として挨拶できるように頑張ります」


そう言ってシンシア王女は俺のことをチラリと見てくる。

相変わらず笑顔だが目が全く笑っていない状態のままだ。

おうおう、目の敵にされてるねぇ……

俺からすればご褒美なのでもっとやってほしいところだが。


「イーデン伯爵家の長男、ローレンス=イーデンです。仲良くしてくれると嬉しいな」


いつも俺には変なことばかり言ってくるくせに無難なこと言いやがったなあいつ。

って思いつつも俺も大したことは言っていないので何も言わないことにした。

前世で進級したばかりの緊張感漂うクラスでめちゃくちゃふざけたりする猛者もいたけどそういう奴らのメンタルはどうなっているのだろうか。


「次は余の番か。余はアルバー王国第1王子、ヴィクター=アルバーである。ここに在籍している限りは1生徒ゆえ気軽に話しかけてくれ」


ヴィクター王子がそう言うと教室がシーンと静まり返る。

その反応を見てヴィクター王子は整った眉を下げ苦笑する。


「おや?余はもう嫌われていたのか?それは悲しいな」


「兄様、いくら1生徒と言っても第1王子に気軽に話しかけろというのは少々酷ですよ」


シンシア王女の少し呆れたような言葉はこのクラス全員の気持ちを代弁していた。

俺もできれば関わりたくないし。

関わってる暇があるならシンシア王女にちょっかいをかけにいきたい。


「ふむ……確かにな。まあよい。ともかくよろしく頼むぞ」


そしてヴィクター王子の自己紹介が終わり成績順にどんどん自己紹介は進んでいく。

どんな人がいるか全然把握していなかったのでとりあえず聞いてはいたもののまあほとんどが平民だ。

気になるやつはちらほらいたものの大体は興味が出なかった。


「さて、これで自己紹介は終わりだな。Sクラスは今年1年この20名で活動していくことになる。それではホームルームを終え、そのまま1限目に移行する」


1限目のチャイムは自己紹介タイム中になっており既に授業の時間になっていた。

休み時間が無いと前世はイラッとしたものだが今は学校にいることが楽しくて仕方ないので別に気にならない。


「それでは学校の施設の確認をしにいくぞ。ついてこい」


先生が教室から出ると俺達もぞろぞろと立ち上がり先生についていく。

まあつまりは学校案内ということだ。

別に至るところに校内図があるんだから別に案内いらなくないか?と思うがこの後に超大事なイベントが控えていることを俺は知っている。

それ故に文句なんてなかった。


「士官学校は結構広いから学校案内なんてものが慣例になるんだろうね、訓練場なんてありすぎなくらいじゃない?一体どれだけの税金をこの学校に注ぎ込んだんだか……」


「そのリターンは十分に出ているだろう。実際に士官学校ができてからうちの国は強くなった」


隣でぼやくローレンスを適当になだめつつクラスの最後尾を歩いていく。

俺が言ったことは意外と事実だったりしてこの学校ができたのは100年ほど前だが賄賂や不正を絶対に許さない実力主義を取り入れることで優秀な人材を発掘し腐りきった貴族が生まれてしまうのをある程度防ぐことができていた。

完全に防ぎ切ることができないのは人間がそういうものなんだと割り切るしかない。


「まあ確かにね。軍事が昔より重視されることで軍部僕たちの立ち位置も変わったらしいし」


「ああ。二世代前は軍部は王宮仕えの貴族たちに馬車馬のように働かされていたらしいしな」


異世界まで来て戦争三昧の馬車馬生活なんて笑えない。

戦功を立ててドレイク家を軍務卿まで押し上げてくれた先祖たちに感謝だ。

おかげで今俺は存分に夢を追うことができている。

俺が先祖に感謝の念を送っていると突然肩に手を置かれた。


「なんだか楽しそうな話をしているな。余も混ぜてくれるか?」


「ヴィクター王子殿下!?」


「別に構いませんよ。なので仲良くしましょう」


俺がそう言うとヴィクター王子は楽しそうにニヤリと笑う。

後のイベントがあるため俺は心に余裕を持って対応していた。

今くらいはヴィクター王子と遊んでいても構わない。


「ジェラルト。お前はこの国のあり方をどう思っている?」


「どう、とは?」


「そのままの意味だ。思ったままを口にしてくれていい」


何か試されているのかと疑うがヴィクター王子は笑みを崩さず何を考えているのか読み取れない。

だが答えないわけにはいかないので素直に思ったままを口にすることにした。


「世界的に見ればただの中堅国止まりでしょう。ですがこの国の貴族として見るならばこの治世が安定している、とも言い難いといったところでしょうか」


「ッ!?ジェラルト!?」


ローレンスが隣で驚く。

だが実際にそうなのだ。

国家の常として致し方ない面もあるがアルバー王家の求心力は世代を重ねるごとに衰えてきている。

今は軍部の過半数以上が王室派なのとドレイク家の力が強大であるというで貴族派と競り合っている状況なのだ。

平和に見える近年もいつ内乱が起こってもおかしくない綱渡りの状況で今がある。


「く……くく……あははは!なるほど、お前はそう言ってのけるのかジェラルト」


「何か間違っているとでも?」


「いや、お前は何一つとして間違っていない。予想以上の答えに感謝しているぞ、ジェラルト=ドレイク」


そう言ってヴィクター王子は大笑いしながら歩いていってしまった。

俺とローレンスは思わず顔を見合わせる。


「一体何だったんだ?」


「さぁ……?というか君はどれだけ王家に喧嘩を売れば気が済むんだよ!?」


「別に喧嘩なんて売ってないさ。向こうが最初に素直に答えろと言ってきたんだろう?」


「そうだけど……でも貴族ってそういうものじゃないだろ!?」


「まあまあ、落ち着け。結果的にヴィクター王子は大笑いしてたし結果良ければなんでも良しだ」


「はぁ……君は怖いものがないのかい……」


そんな話をしているとSクラス一行はあるところで足を止める。

そこは各学年のSクラスのみが使える専用の訓練場だった。


「訓練の時間はここを使うことになる。申請すれば放課後も使用可能だ。他の訓練場と比べて設備も整っているから有効活用しろ」


クラス全員、中に入り見学する。

しかし俺は知っていた。

この後何があるのかを。


「見学は一旦終了しろ、集まれ」


先生の言葉と共にクラスメイトが集合する。

俺はこれから起こることを想像し笑いを堪えるので精一杯で少し体が震えていたためローレンスが不思議そうな目で俺を見ていた。


「今から一試合だけ模擬戦をする。ジェラルト、シンシア王女。前へ」


そう、学校案内の最後の案内場所である訓練場を見学した後、実技試験のというのがこの学校の伝統なのだ。

そしてこれはシンシア王女への無限くっころ計画を進めるうえでこれ以上無いほどちょうどいい。


この一戦で実力差を見せつける。

だが、ただ倒してくっころを見るだけではだめだ……これはくっころ計画なのだからな。

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