第15話 くっころガチ勢、不確定要素と出会う
成績を確認し、寮に荷物を入れて荷解きやら授業の準備やらをした翌日。
俺は朝食を取るべくローレンスと共に食堂へと向かっていた。
「ふわぁ……それにしても君は随分と朝が早いねぇ……」
「朝一番に体を動かすと結構気持ちいいぞ?それに食堂だって今の時間なら空いてるだろう」
どうやらローレンスは朝があまり得意ではないらしい。
軍人としてそれで大丈夫なのかと少し心配になるが寝ぼけている様子はないし、まあ大丈夫かと判断することにした。
「僕だって朝の鍛錬は欠かさずしてるさ。それにしてもジェラルトは早すぎる」
「強くなるためには時間なんていくらあっても足りないからな。まあそこは各々の価値観だからなんでもいいさ」
そうこうしている間に食堂が見えてくる。
俺の予想通りまだ誰もいなかったので席も選び放題だった。
俺達は適当な2人席を確保し注文しにいく。
「俺はモーニングセットAで」
「僕はBでお願いします。あ、ジェラルトそれ僕が奢ろうか?」
「モーニングセットなんて大した値段じゃないだろう。ランチかディナーのときにしっかりと高いのを奢らせてやるから楽しみにしとけ」
「……意外と容赦ないね」
「お前が一番高いのって言い出したんだろうが」
「う……それはそうだね」
俺達は注文した朝食を受け取り席につく。
食堂では毒物検知の魔道具が作動しているしSクラス仕様のため美味しいメニューが揃っている。
つまり安全で美味しくご飯をいただける環境があるということだな。
この朝食もドレイク家で食べていたものと遜色ないくらい美味しい。
「中々美味いな」
「そうだね。これが毎日出てくるとは驚きだよ。あ、こっちも食べるかい?食べさせてあげようか?」
そう言ってローレンスは自分のスープをすくい俺の目の前に持ってくる。
普通に貴族どうしの食事ではマナー違反だが今は周りに誰もいないということでやっているのだろう。
というか男と男のあーんのどこに需要があるのだろうか。
俺からすれば美女に嫌そうに睨みながらスプーンを差し出してほしいところなのだが。
「いらん。これからここで朝食をとるのだから順番で食べればいいだけの話だろう」
「あはは、冗談だよ。流石に僕もジェラルトが応じてきたらどうすればいいかわからなかったよ」
ならするなと言いたい。
だがこういう会話が何気に楽しいのも事実だ。
ローレンスはなぜこうもフランクなのだろうか?
この世界の貴族社会でこんな人間はかなり珍しいぞ。
「そういえばジェラルトはすぐ部屋に籠もってたから知らないかも知れないけどジェラルトのことが昨日すごい噂になってたよ」
「噂?」
俺が思わず聞き返すとローレンスは頷いた。
凶暴令息のことだろうか?
だが今更その噂が再燃する意味もわからないし……
「なんか君が審査員を買収したんじゃないかって」
「はぁ?そんなことするはずないだろう。そんなことをして露見すれば失格になって入学すらできないんだぞ?」
「ジェラルトがそんなことをしてないのはわかってる。でも他の人達からすればシンシア王女が首席だと思ってたのに凶暴令息って呼ばれる君が歴代最高点で首席をとったのが許せないんだろうね」
なんだその勝手な話は?と思ったが納得もある。
あのシンシア王女の人気ぶりはすごかった。
それだけに俺が横から出てきたと思えば圧倒的に首席を取ってしまったのだ。
これからのくっころに必須だったから頑張ったが、俺も逆の立場だったらお前の活躍なんか求めてないと言いたくもなるだろう。
「言ってる奴らには言わせておけ。どうせ俺に直接言う度胸の無い小物だ。放っておけばいい」
「随分と肝が座ってるね。それで前回も放置したのかい?」
「まぁな。所詮根拠のない噂だし俺は何もやましいことをしていないのだからいくら探られようと弱みを握られることはないからな」
俺がそう言うとやれやれ、みたいな感じでローレンスが首を横に振る。
その表情には苦笑が混じっていた。
「どうやら僕の将来の大将は想像以上に大物なようだ」
「不満か?」
「いや、最高だね」
俺達はそのまま朝食を済ませ自室に戻り鍛錬をするのだった──
◇◆◇
鍛錬を済ませたあと、水浴びをして自室に戻った俺は教科書などが入ったカバンをぶら下げ教室へと向かっていた。
寮だが敷地がとても広いので10分ほどのんびり歩いて教室を目指す。
Sクラスに到着した俺は首席の証である窓際の一番後ろという主人公席に座った。
(席も成績順ってこの学校はどれだけ生徒どうしを競わせたがるんだよ……授業なんて聞いててもつまんないだけだからこの席は確かにありがたいけども)
俺はため息をつきながら適当に授業の準備をしていると突然人影が現れる。
俺はそちらを向くと意図的にニヤリと笑ってみせた。
「これはシンシア王女殿下ではございませんか。おはようございます。どうされましたか?」
「ごきげんよう。それよりもまずは気味の悪い笑いを止めてください」
「これは失礼。で、いかがなされました?」
俺は笑みを崩さないまま再びシンシア王女に質問を投げかける。
このシンシア王女の出方によって俺が取るべき行動は大きく変わってくる。
俺が昨日早くに部屋に籠もったのは一切の見逃しの可能性がないように何度も何度もシミュレーションを繰り返し俺の計画が正しく進むように確認していたからだ。
こんな良いくっころヒロインを俺は絶対に逃さない。
「あなたの実技試験の289点、どうやって取ったんですか?」
「正義無き剣に興味など無かったのでは?」
「そうですね。ですが今はあなたの剣に興味が湧いてきました。いかにして大義を持たずそのような剣を振るうのかと」
ふむ、意外と冷静だな。
挑発にも乗ってこない。
もっとプライド高めのお姫様かと思ってたけどそういうわけでもないんだな。
プランAは中止かな?
「確かに私の剣にシンシア王女のおっしゃるような正義は無いのかもしれません」
「ならば……」
「私にだって守りたいものくらいあります。それに私には命に代えてでも絶対に果たしたい夢があります。それだけです」
「──っ!」
本来なら王族の言葉を遮るなど不敬の極みだ。
だが今のシンシア王女は完全に俺の雰囲気に呑まれていた。
今、この場は俺が支配している。
「お話は以上ですか?でしたら私は──」
「待ちなさい!まだ話は終わって……」
「落ち着け、シンシア」
「……!
意外と食い下がってくるんだなと思っていたら何者かがシンシア王女を止めた。
振り返るとシンシア王女と同じような金髪の男子生徒が仲裁に入っていた。
そして俺はこの人物を知っている。
「久しいな。ジェラルト=ドレイクよ。いや、今は余の方が立場は下か?首席殿」
「いえ、滅相もございません、ヴィクター王子殿下。我らドレイク家は王家を支えるためにありますから」
ヴィクター=アルバー第一王子。
体が生まれつき弱く剣術の才能は無かったもののそれを押して余る天才的頭脳の持ち主。
今も勝負をすれば確実に俺が勝つというのにヴィクター王子は言葉にしがたい威圧感を纏っていた。
ここで出てくるのかと思わず言いたくなった。
ヴィクター王子は無限くっころ計画における完全な不確定要素でありどう動いてくるかわからない。
「入学早々妹が悪かったな。ここは余の顔を立てて水に流してくれぬか?」
「あれはトラブルではなくただの会話でございます。シンシア王女との会話に光栄にこそ思えど怒りなどあるはずもありませんよ」
「ふっ、そうか。では余はこれにて失礼するぞ」
そう言ってヴィクター王子は自分の席へと戻っていく。
シンシア王女と実際に改めて話して収穫はあった。
これならばくっころムーブへと持ち込めるはずだ。
あとは……
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