第13話 くっころガチ勢、姫騎士とファーストコンタクト

ローレンスと共に校庭にやってきた俺は掲示板で自分がどこで実技試験を受けるのか確認していた。


「お、僕は第1訓練場みたいだ。ジェラルトの名前もあったよ」


「本当に第1訓練場ってあるな。確か一番近いところだよな?」


「そうだね。移動が少なくてラッキーだ」


「なんでもいいさ。さっさと行こう」


俺達は第1訓練場に向かって歩き出す。

地図は校内のいたるところにあるので迷うことはない。

適当に雑談しているとあっという間に到着した。


「ここみたいだね?」


「結構広いな。ここならいろんな訓練ができそうだ」


「そういえばジェラルトは紅月流の免許皆伝なんだっけ。やっぱりこういう広々としたところじゃないとできない技も多いのかい?」


「そうだな。だが狭いところは制御の訓練にもなる。一長一短さ」


「はは。他の貴族なんて広ければ広いほど良い、とか言いそうだけど。僕もジェラルトを見習わなくちゃね」


ローレンスは笑いながら中に入っていく。

だが俺はローレンスの強さをひしひしと感じている。

服の下からは見えないが歩き方からしてよく鍛えられているのがわかるし身のこなしも強者のそれだ。

ちょっと実力を見るのが楽しみになってきたな。


「きゃー!シンシア王女よ!」


「凛々しいお姿……見惚れてしまうわ……」


「美しいな……」


中に入るとそんな歓声で溢れていた。

まさかと思って見てみるとシンシア王女が騎士相手に戦っていた。

長いストレートの金髪を揺らして戦うその姿はとても美しい。


「彼女も同じ訓練場だったのか。やっぱり美しいね」


「あれがアルバー剣術の動きか?」


「うん。シンシア王女はアルバー剣術の免許皆伝だからね。技も使ってないのによく分かるね」


「さっき自分でシンシア王女はアルバー剣術の免許皆伝だって言っていただろう。それにしてもあいつとは全然動きが違うな」


「あはは、そうだっけ。でも君が戦った使い手よりは間違いなく格上のはずだよ」


ローレンスは笑いながら頷く。

俺がデヴィットとかいう貴族と決闘をしたことを知っているからな。

どこからかデヴィットがアルバー剣術の使い手だったということも掴んでいたのだろう。


「ふっ!はっ!」


「くっ!素晴らしい腕前ですな!王女殿下!」


そこから彼女の動きがどんどん速く鋭いものへと変わっていく。

段々騎士が押され始めているのは誰の目にも明らかだった。

そしてついにシンシアの剣は騎士の剣を弾き飛ばした。


「ま、参りました……」


「ありがとうございました。お怪我はありませんか?」


「は、はい!大丈夫です!」


シンシア王女は騎士を気遣い騎士は恐縮したように返事をする。

なるほど、あれは確かに民たちに人気出るだろうな。

まさに慈愛の女神だ。

正義のために戦う彼女は姫騎士そのものだろう。


「流石、強いね。シンシア王女は」


「そうだな。想像より強かった」


シンシア王女は訓練用の木剣を返すと様々な身分の受験生たちから歓声を浴びながら歩き出す。

それにニコニコと手を振りながら歩いていたが俺の前で足を止めた。


「あら、あなたたちはジェラルト=ドレイク殿とローレンス=イーデン殿ですね?」


「これはこれは。ドレイク侯爵家が長男ジェラルト=ドレイクにございます」


「イーデン伯爵家が長男ローレンス=イーデンにございます。以後お見知りおきを」


俺達は揃って礼をする。

シンシア王女はニコリと笑ったがその目はあまり笑っているように見えなかった。


「これはご丁寧にどうもありがとうございます。凶暴令息さん?」


「はは、その名を知られているとはお恥ずかしい。では私たちはこれから試験なので失礼します。よかったら見ていてくださっても構いませんが?」


「いえ、護衛の方に迷惑をかけることになるので私はもう失礼します。それに──」


シンシア王女はスタスタと俺の後ろに歩いていくと振り返る。

そこには明らかな作り笑いがあった。


「正義なき剣に興味などありませんから」


「そうでしたか。これは失礼を」


「ええ。では私はこれで」


そう言ってシンシア王女は護衛を伴い訓練場から出ていった。

対して俺はというとあまりにも理想の反応にニヤけそうになる顔を抑えるので必死だった。

だってもう気高いお姫様まんまじゃん!

俺が求めていたのはあれだよあれ!


「随分とシンシア王女に嫌われてるね、君」


「別に構わんさ。大方俺の噂が気に入らんのだろう」


「そうだろうね。あーあ、僕まで嫌われたんじゃないか?これ」


「不満か?」


俺が聞き返すとローレンスはニコッと笑う。

そして首を横に振った。


「いーや。僕としてはシンシア王女との繋がりより君と友達でいたいね。なんせ今の王家が王家足り得るのはドレイク家の力あってこそなんだから」


「ふっ。変わったやつだな」


「貴族社会を生き抜くために必要な処世術さ」


俺はもうこの時点でかなりローレンスを気に入っていた。

剣も使えるし居心地も良い、そして何より物事がしっかりと見えている。

これは将来俺の右腕候補筆頭だな。


「さて、俺達も試験を受けに行くとしよう」


「そうだね」


◇◆◇


「次、ジェラルト=ドレイク様」


ようやく俺の番が回ってきたらしい。

実技試験は現役の騎士を相手に持ち時間は5分で戦う。

他の受験生も大したレベルのやつはいなかったし待ち時間が長すぎて時間を持て余していたのでようやく自分の番が回ってきたのはありがたい。

見ごたえがあるのはローレンスくらいだった。

やっぱ思ってた通り平均を大きく上回る実力を持っていてぜひとも将来俺の部下として働いてほしいと思った。


「ジェラルト!頑張れよ!」


「おう、適当にやってくるわ」


俺が係の人から訓練用の木剣を受け取り騎士の前に立つとヒソヒソ声が聞こえてくる。

俺の相手はなんかプライド高そうなよくわからんおっさんだ。

美人女性騎士じゃないなら俺は全く興味がない。

さっさと倒して試験を終えてしまおう。


「侯爵令息と言っても手心を加えることはできませぬぞ」


「別にそんなのいらん。というか俺の方が強いんだから本気でかかってこい」


「ぐ……!その言葉、忘れませぬぞ」


そう言って騎士は木剣を構える。

多分無駄だよなと思いつつ剣を構えた。

場に静寂が訪れ開始の合図を待つ。


「始め!」


その瞬間、俺は魔装を使うこと無く鍛え上げた脚力で一瞬で騎士に迫る。

そして一歩たりとも動かせることなく喉元に剣を突きつけた。


「弱い。本当に騎士なのか?」


「く、らぁぁぁ!!」


騎士は何かの叫びと共に俺の剣を弾く。

俺はバックステップで交わし呆れてため息をついた。

騎士たるもの負けは素直に認めたほうがいいと思うんだけどなぁ……

大体生徒相手にムキになる試験官がどこにいるんだよ。


「わ、私は聖剣流の免許皆伝だ……!こんな簡単に負けるはずは……!」


聖剣流と言えばアルバー剣術についでポピュラーな流派だ。

教会の大昔の聖人が作り上げた流派だから聖剣流なんだとか。

そして免許皆伝ってその流派の全ての技を使えるようになればもらえるんだから別に免許皆伝=強いというわけでもない。

技が一つしか使えなくても強い人は強いのだから。

それがわかっていない時点で3流だな。


「はぁ……じゃあ技を使っていいからかかってこい。じゃないと自分の負けを認められないんだろう?」


「なっ!試験での技の仕様は禁じられています!」


「侯爵令息殿が言っているのだから別によかろう……それよりもその言葉……後悔していただきますぞ」


俺を採点していた人が止めに入ろうとするが騎士は聞こうとしない。

もう既に技を打つ体勢に入っていた。


「別に構わない。お互い怪我をしようが死のうが自己責任だ」


「それはありがたいですな。では……『聖剣流、稲妻斬り』!」


稲妻斬りは魔力を込め剣速を加速させる技。

込めるタイミングによって加速させるタイミングをずらせるので緩急にもってこいだ。

まあ俺には効かないが。


「じゃあな。雑魚が」


俺は剣が振るわれる前に攻撃を叩き込む。

そして騎士は白目を向いて倒れていった。


「そ、そこまで!」


「ふん、騎士の恥さらしが。騎士たるもの、気高く屈さず誇り高くあれ」


俺は木剣を適当に返し悠々と歩いていくのだった──

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