第12話 くっころガチ勢、入試に挑む
いよいよ士官学校の入試の日がやってきた。
未だ俺への誤解は解けていない、というか解いていない。
たまに出る社交界も凶暴令息と呼ばれるようになったことで腹黒たちが周りから消え居心地が良くなったし俺の好みじゃない女の子たちが媚を売ってくることも無くなったのでいいことづくめだ。
そもそも媚を売ってくる時点で好みじゃないしな。
女性には強く気高くあってほしい。
「さて、試験は真面目に受けないとな。父上にも母上にも頑張ってくるよう言われたし、なによりアリスのあの期待の瞳は絶対に裏切れない!」
俺の無限くっころ計画では士官学校を首席で入学することも入っていたが妹に応援されたとあっちゃ絶対に負けられなくなった。
俺は必ず首席で合格して見せる。
馬車が止まり扉が開いた。
どうやら到着したらしく俺は馬車から降りる。
(話には聞いていたけどすごいでかいな……流石はアルバー1の学校なだけはある)
目の前にあったのはめちゃくちゃでかい敷地に堂々と立つ校舎。
周りには受験生も数多くいて前世の高校受験で味わったような緊張感がもう既に流れていた。
だが緊張というものは自信があればしないようで俺は全くと言っていいほど緊張していない。
俺は受験なんて低レベルではなくどんな状況でもくっころに対応できるように万能でなければならないからな。
「ど、ドレイク侯爵令息様ですね。初めは筆記試験からとなっておりますので……そ、そのご案内いたします」
俺が校門の下でぼーっと校舎を見つめていたら正装をした男の人が俺に話しかけてきた。
うまいこと噂は浸透しているらしく男の人は少しビクビクとしていた。
怖がらせてしまって申し訳ないのでできるだけこの人の手を煩わせないようにしよう。
「助かる。案内してくれ」
「は、はい!」
男の人に着いていくと一つの教室に案内された。
もう既にたくさんの受験生が集まっている。
「これは手間賃だ。受け取っておけ」
俺は金貨を懐から取り出し男の人に押し付ける。
俺のポケットマネーなので問題はない。
教室の中に入ると席は決められているらしく俺は黒板に貼られている紙を見て自分の席に座った。
すると──
「お、おい……」
「例の凶暴令息よ……同じクラスなんてイヤね……」
「おとなしそうな顔してるけど暴れたら手が付けられないとか……」
俺が席に着いた途端、教室が静まりかえりあちこちからヒソヒソ声が聞こえてくる。
おそらく俺の顔を知らない奴も席の場所で気づいたのだろう。
前世でもしこんな対応されていたら泣いていたかもしれないが今のこれは俺の無限くっころ計画が上手くいっている証でありなんだか嬉しくなった。
しかしどんなところにも例外はいるもので……
「お久しぶりです。ジェラルト様」
「ん?君は……」
話しかけてきたのは茶髪を丁寧に整えたイケメン。
そしてめちゃくちゃ見覚えがある。
どこかで会ったような……
「ああ、ローレンスか。久しぶりだな」
「覚えていただけているとは光栄です」
話しかけてきたのはローレンス=イーデン。
イーデン伯爵家の長男でイーデン伯爵家も軍部の王室派に所属しており社交界で会ったことがある。
つまり父の部下の息子というなんとも微妙な関係性だ。
父が手綱を握っている派閥内の家は誤解を解いてあるって言ってたし俺が凶暴令息って呼ばれている理由も知っているのだろう。
「誤解は解かなくてよろしいのですか?」
「構わないさ。それよりお前が友となってくれ」
「私でよろしいのですか?」
ぼっちだと忘れ物とかしたとき困るかも知れないもんな。
自分から積極的に誤解を解いて友達を作ろうとは思わないけど真相を知る奴がいるならちょうどいい。
根拠は無いけどローレンスとは仲良くなれそうだし。
「将来共に王国を守る盾となるのだ。友好を深めておいて損はないだろう?」
「ではありがたく」
「そのかしこまった口調も外していい。公的な立場では難しいかもしれんが俺達もここに入学すればただの1生徒だ」
俺がそう言うとローレンスは意外そうな顔をする。
まあこんなことを言うのは珍しいだろうしな。
でもずっと敬語使われるのって疲れるし別に目上の者が許可すれば何も問題は無いのだから別にいいのだ。
前例だってあるし問題はない。
「じゃあありがたく。敬語は使い慣れてるけど疲れるからね」
「それでいい。呼び方もジェラルトで構わないぞ」
「あのドレイク家の令息がこんなに心が広かったとはね。まさかジェラルトの方から友になれなんて言われると思わなかったよ」
「ただの気まぐれだ。同じ派閥なら誰にでもこうするというわけじゃない」
「それは光栄なことで」
ローレンスは屈託のない笑みを浮かべる。
すると何人かの女子がローレンスを見て顔を赤らめていた。
随分と気さくでかっこいいやつだな。
会話していても気に障らないし友達になれてよかったかもしれない。
「そろそろ席に戻らなくちゃだね。また筆記試験が終わったらくるよ。実技試験の会場まで一緒に移動しよう」
「わかった。ちゃんとSクラスに合格しろよ?」
「あはは、一応これでも結構勉強はしてきたからね。お互い健闘しよう」
そう言ってローレンスは笑いながら歩いて自分の席に戻る。
数秒後にチャイムがなり担当の教師が封筒を持って教室に入ってきた。
話し声が完全になくなり沈黙が流れる。
「今からテストを配る。5分後に試験が開始されるからな。カンニング等の不正行為をした場合は即刻失格となるので気をつけるように」
不正行為をした場合は貴族であっても失格となる。
逆に言えば貴族であれば落ちこぼれクラスに配属になるもののゼロ点でも合格できる。
平民は相当優秀な者でないと入れないのでここでも身分差ができてしまう。
そもそも学習環境だって全然違うから貴族が上位を占めないと普通はおかしいんだけどな。
「それでは試験開始」
5分経ち開始の合図が出される。
問題を勢いよく開いたはいいもののペンを動かすことができている者は少ない。
俺はと言うと……
(まぁ余裕だな。この世界に転生してどんだけ勉強したと思ってるんだ。これくらいなら片手間でも解ける)
俺は詰まることなくスラスラと問題を解いていき残り時間を確認するとあと2時間も試験時間が残っていた。
士官学校の筆記試験は算術、アルバー史、世界史、剣術史、地理と社会どころか歴史やりすぎじゃね?と思わず聞き返したくなるような五教科を三時間という時間で一気に解く。
考えることはほとんどなく記憶から単語を引っ張り出しては書くだけ。
そのためあっという間に終わってしまったのだ。
(はぁ……暇すぎる……見直しもしちゃったしこの時間どうしようかな……不良らしく寝るか……)
俺は別に大して眠くないが暇すぎるため寝ることにした。
意外と硬い机でも眠れるもんですぐに意識は闇へと沈んでいった──
◇◆◇
チャイムの音で目が覚める。
顔を上げるとみな疲れ切った顔をしていた。
まあ問題数はそこそこあるもんな。
テスト用紙を回収され先生の確認が終わると次は校庭に行き自分の実技試験を受ける訓練場を確認しろとのこと。
いくつも訓練場があるのでそこで同時にテストをしていくのだ。
「ジェラルト。校庭に行こう」
「おお。行くか」
俺達は人の流れに逆らわず並んで歩き出す。
するとローレンスが話しかけてきた。
「テストはどうだった?上手くいった?」
「まあ余裕だな。暇すぎて寝てた」
「あはは!僕も今回は自信あるから勝負しよう。負けた方は入学して食堂の一番高いメニューを奢るのはどうだい?」
なんか随分可愛らしい貴族だな。
奢りとか貴族が言うとは思わなかったぞ。
ぞれに昼食一回分っていうのが学生っぽくてつい笑ってしまう。
「ふっ。いいだろう。では筆記試験と総合も合わせて3本勝負だな」
「僕も一応武門の生まれ。相手がドレイク家とはいえ簡単に負ける気はないよ」
俺達がそんな話をしていると突如周りからどよめきが起こる。
ここは貴族が筆記試験を受ける校舎だからこうやってどよめきが起こるのは珍しい。
何かあったのだろうか?
「あー、あれはシンシア王女殿下だよ」
「シンシア王女?」
王族には第1王子であるヴィクター王子にしか直接会ったことはない。
確かシンシア王女はヴィクター王子の双子の妹で第2王女だっけ。
俺の視線の先には王族の証であるシルクのようにサラサラとした金髪をなびかせた美少女が立っている。
第1印象では明るく物怖じしなさそうなタイプだ。
誰にでも優しく話しかけるクラスのマドンナみたいな?
「なんでも彼女はアルバー剣術の免許皆伝なんだって。今年の首席候補として有名さ。見ての通り美しいし縁談の話もあとを絶たないみたいだよ」
「ほう。アルバー剣術の免許皆伝か」
「そう。あとは民を思いやり悪を許さない正義感を持った王女様だとか。民たちには『姫騎士』って呼ばれてるみたいだよ」
「へぇ……」
これは思わぬ収穫だ。
顔は真顔のままだがこれ以上ないほど心の中ではニヤけている。
姫騎士、ね……
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