第11話 くっころガチ勢、凶暴だと噂を流される

「ジェラルト。来たか」


「はい。どうしたんでしょうか、父上」


デヴィットとかいうボンボン貴族をボコって数日後。

俺は父上に呼び出されていた。


「実はな。お前が社交界で凶暴令息として噂になっているらしいのだ」


「え?」


俺が噂になってる?

ていうか凶暴令息ってなんだよ。

どうせならもっとかっこいい感じに呼んでほしかった。

いや、もし厨二病っぽい名前が来たら死ねる。

マーガレットもあんなに嫌がってたし二つ名なんていらない。


「おそらくモーン伯爵令息との決闘騒ぎが原因だろうな」


「なるほど。まあ命に別状が無いとはいえ半殺しにしちゃいましたしね」


ムカついたからついやりすぎてしまった感は否めない。

まあ俺が後悔してないから問題なしだな。

顔もなんかこう……自分が一番強いですみたいな勘違いをしてるのがありありと見えてなんか嫌だったし。


「大方、モーン伯爵が貴族派の上役にでも情報を流したんだろう。奴らにとって我らは邪魔でしかないからな」


「そうでしょうね」


王国も一枚岩ではなく大きく3つの派閥にわかれている。

王家を支えることを一番とする王室派、王室を倒し下剋上を狙い水面下で暗躍する貴族派、どちらにもつかない中立派の3つだ。

我らがドレイク家は王室派の筆頭格であり軍務卿として軍部の王室派を一手にまとめ上げているどデカい家なのである。

醜いもので結局のところ暴力は強く政争の勝敗をチャラにしてしまうほどの可能性を持つのだから。


「だが初動が遅れたせいで思った以上に噂が広まってしまっている。軍部は誤解を解いておいたが他の王室派に動揺が見られる。一杯食わされたな」


「王室派にですか?私はまだ侯爵ではなく普通の侯爵令息ですよ?」


「他家ならばこうはならんだろう。覚えておけ、これがドレイク家が周りから受ける評価ということだ」


つまるところ1侯爵家で片付けていい家ではないということか。

爵位や歴史について学びはしたもののやはり実際に触れてみないことにはわからないことも多い。

社交界なんて見た目は綺麗なのに内心腹黒な人しかおらず神経がすり減りすぎて疲れるのだ。

貴族も良いことばかりではない。


「申し訳ありません、父上。私のせいでこうなってしまって」


「いや、お前からもあらかじめ報告は受けていたし民たちからも何があったのか詳しく聞いていたからな。ただ……やりすぎだ」


「これを見逃したらドレイク家が舐められる、そう判断して決闘に挑んだのですが戦闘中にここで心を折っておけば二度と我らに楯突かないだろうと判断しました。あとは今回だけでなく未来のトラブルを未然に防げると思いましたので」


「何も考えずただ怒りに身を任せ今回の件を起こしたのなら説教をするつもりだったのだが……。自分なりに考えていたならそれでいい。ただ貴族というのは厄介なものだからやり過ぎにだけは注意しておけよ」


父の言葉は意外だった。

説教くらいは受けるのを覚悟していたのだがそれすらなくていいらしい。


「意外そうな顔をしているな」


「まぁ……説教くらいはあると思ってましたので」


「ふふ、言うことを聞かせるばかりでは子供は育たんのだよ。自分の考えをしっかり持っていたなら別に構わないさ。この程度で揺らぐドレイク家ではないしな」


なんかtheいいお父さんみたいな人だな。

貴族なんて堅苦しい人かアホな人ばかりだと思っていたのにまさかこんな教育方針を持つ人が父になるとは。

ありがたいものだ。


「さて、これからどうするかだが……」


「どうするのですか?」


「噂を潰すことは簡単にできる。が……」


「何かできない理由があるのですか?」


「力ずくで消してしまうと不信感が残るのだ。痛くない腹を探られるのは面倒というものだろう」


つまるところ無理やり消すとあいつはやましいことがあるから無理に消したんじゃないか?と疑われる可能性があるということだ。

別に俺はあくまで決闘のルールに則って戦っただけなので非難はされないのだからやましくはない。

そういうことを父は言いたいのだろう。


「王室派の中には妬みや嫉妬で我らを引きずり下ろそうとする輩もいる。我らがいなければ貴族派に勝てないというのにな。全く人間とは醜いものだ」


「で、あれば……」


そこまでいいかけて俺はようやく気づいた。

これ別に噂を消す必要無くないか?

この噂に乗っかれば俺は自然と悪役としての地位を確固なものへとすることができる。

しかも俺自身は何も犯罪を犯していないという誰も傷つけない素晴らしい結末じゃないか!


「父上。その噂が出たのはあくまで私の責任です。ならば私にお任せいただきたいと」


「具体的には?」


「来年には士官学校に入学することになるでしょう。実際に私自身のことを知ってもらえれば誤解は解けるかと。入学前に誤解が解けていればそれで解決ですし」


まあ誤解を解くどころか助長させるつもりではあるが。

今から悪役っぽい言葉遣いを練習しておこう。

あくまで紳士ジェントルマンであることは忘れずにな。

それが俺の美学というものだ。


「ふむ……いいだろう。お前に任せる」


「はい。ありがとうございます」


俺は一つ礼をして執務室を後にする。

そして廊下に出て周りに誰もいないことを確認する。


「よっしゃ……!第1段階成功!」


正直ニヤケ顔が止まらない。

こうも上手くいくとは。

転生して神様とかに何か貰ったわけじゃないけど運命か何かが俺を助けてくれてるのかもしれない。

やはり異世界生活最高だ……!


「おっと、こんな顔を晒しているわけにはいかないな。やはり表情筋が鍛えておかなければ……!」


俺は鼻歌まじりに歩き出す。

すると前から走ってくる女の子に気がついた。

普段なら華麗に避けるところだが今回は動かない。

なぜなら……


「お兄様!」


「アリス」


そう、愛しき我が妹である。

9歳になった妹は既に美少女の片鱗がある。

綺麗系だったマーガレットとは違い可愛い系に育ちそうだ。

素直な自慢の妹である。


「はは、来てくれるのは嬉しいが廊下を走るのは少しはしたないぞ」


「はーい。ごめんなさい」


アリスは黒髪をポニーテールのように一つに束ねておりそれが笑う度にフリフリ揺れるのが愛らしい。

だがその笑顔も曇ってしまった。


「お兄様……噂のこと聞きました……お兄様はこんなにも優しいのに凶暴令息だなんて許せません……!」


「あ、あ〜……そ、そうだな〜……」


妹が俺のために怒ってくれるのは非常に感激だがまさか本人である俺がそんな噂を立てられていて実は喜んでいましたなんて口が裂けても言えない。

俺は妹の前ではかっこいい兄でいたいのだ。


「私これからお父様にお兄様の誤解を解いていただくように頼みに行くんです!」


「だ、大丈夫だぞ……?さっきそのことについて父上としっかり話し合ってきたから……」


「本当ですか?ではお兄様のことを誤解していた方々にはしっかり釘を刺しておいてください」


「あ、あはは……そんなことよりもアリス!何か一緒に遊ぶか?お茶でもいいぞ!」


「ダメですよ、お兄様は今年は受験生なのですからしっかり勉強なり鍛錬なりなさってください。私はお兄様のお荷物にはなりたくありませんので。それでは失礼します」


妹に断られ俺はがっくりと肩を落とす。

久しぶりに一緒に遊びたかったんだけどなぁ……

それに噂の誤解を解くように釘を刺されてしまった。

くっころと妹のお願い、どっちを叶えるべきか……

俺はしばらく頭を悩ませそして名案を思いついた。


どちらかじゃなくてどっちもやってしまえばいいんだ!

俺はくっころのために噂は助長しつつアリスの前では完璧でかっこいい兄を演じる。

誤解が解けない理由は適当にデヴィットが噂を言いふらし続けてるとでも言っておけば良い!

なんと完璧な作戦なんだ!


「ふふふ……さて、俺はどんな状況でもくっころに持ち込めるように自己研鑽に励むとしよう。今日は兵法でも勉強しようかな」


くっころのために今日もまた一歩進むことができた!

いや〜今日も良い1日だったな!

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