第8話「ヤジュウ先輩」
鈴本康介は悩んでいた。彼を悩ませているものは大きく分けて2つあった。1つは部活動のこと、もう1つは松本尚己という男である。読者の関心は後者の方が強いと思われるが、暫し辛抱して頂きたい。ここでは部活動の話をする。
単刀直入に言うと、彼はどの部活に入ろうかを悩んでいた。松本尚己の所属する茶道部に入ろうと思ったが、松本に「雰囲気が悪いからやめろ」という、じゃあなぜお前はそんな部活に居るんだと言いたくなる理由で止められ、鈴本は素直に従った。そこで困った。友人の榊󠄀原と同じく帰宅部という選択肢も有るには有るが、どうせなら何かやってみたい、だが何が良いのか分からない。
「松本先輩に聞いてみればいいじゃん」榊󠄀原が実にめんどくさそうに言った。
「聞いたんだけど、もっと他の人の意見を聞いてみたくて、榊原君と仲のいい先輩いたよね?ほら、あのマスクの」
「艶間先輩か…いいよ行こうか」
「それで、俺のところに来たって訳か…」
2年生の教室に行った鈴本と榊󠄀原は、艶間を呼び出して廊下で話を聞いていた。
「全然良いんだけどさ…帰宅部の俺に聞くかね?普通。まあ俺の知ってる事なら教えてやるけど…どんな部活があったっけ?」
「あ、これ一覧です」
「ありがとう、えーと、サッカー部には舐め腐った年喰いがいる、野球部には中華製三千元の大役者がいるって噂だな、卓球はスパイシーらしい、ラグビーは古代人と熱血指導官がいて、休みが少ないぞ、アーチェリー部はワールドアーチャーからの教育が受けられるがバッカモンが居るなぁ、水泳部にはキムチ好きが居るな、バスケには大仏、コンピュータ部にはサルとおじさんと陰の実力者が、カヌー部にはデカブツと芸術家がいるし鉄棒にぶら下がったり走ってばっかだし、陸上部はダークサイドに堕ちちまうぞ、吹奏楽にはカヌー部の魂を持ったドラマーが居るな、少林寺には滅却師がいるぜ、吟詠剣詩舞部は全国常連で乃木希典が目玉らしい、軽音には留年手前のギタリストが、演劇部には肛交校の王子様がいる。最後、魔法研究…あれ?こんな部活あったっけ?」
「ちょっと待ってて」と言って艶間は小田と松本を呼んだ。
「お前ら、魔法研究部って知ってるか?」
「知らね」
「なんでそんなこと聞くんや?」
「それはな…」
艶間は、鈴本と榊󠄀原がここに来た訳を話した。
「なんや、こーちゃんまだ決めてへんのか」
「うん」
「悪いが魔法研究部については俺たちも分からん」
「名前からして怪しさMAXやけどな」
「今日の部活時間に榊󠄀原と鈴本で見学してくればいいじゃん」
「なんで僕まで…」
「お前もついでに鈴本と同じとこに入れば?」
「嫌ですよ、艶間先輩との下校デートができなくなるじゃないですか」
「デートとか言うなよ、ただ一緒に帰ってるだけだろ」
「あーもうそうやってイチャイチャせんでよろしい、とりあえず1年生2人で行ってきな」
「「はーい!」」鈴本と榊󠄀原は元気に返事した。
「はい解散解散、早うせんと遅刻してしまうで」
鈴本と榊󠄀原は自分達の教室へと早足に向かった。
放課後、鈴本と榊󠄀原は『魔法研究部』と書かれた扉の前に立っていた。
「…ここが魔法研究部…」
「ただたらぬ気配を感じるね…」
「うん…」
ごくり、と2人は固唾をのんで扉を開けた。
「何奴也、我らが崇高な行ひを防げむとする、不届者は、何処の矮小童哉」
いきなりの意味不明な言葉に2人はフリーズした。
中には2人の生徒が居た。どちらとも3年生で、1人は眼鏡を掛けていた。喋っていたのは眼鏡の方ではなかった。
「アラ、ナマちゃんの喋り方のせいで1年生がフリーズしてるヨ…ハイハイ何か用でしょうかナ?」眼鏡の方が話しかけてきた。
「あ、あのここは魔法研究部であってますか…?」
榊󠄀原は恐るおそる聞いた。鈴本はさっきからフリーズして動かない。
中を見渡すと、オカルトチックなものはなく、薬品や模型、実験道具など、どちらかというと理科室のような印象を受けた。
「そうだけド?」
「あの見学に来た榊󠄀原と、こっちは鈴本です」
「そゆことネ。それじゃアこっちも自己紹介しますカ…ワタクシは3年
「ム、では…古今東西、老若男女見た者全てが歓天喜地、外柔内剛にして剛毅果断、魔法研究部のキャプテンにして泣く子も黙る3年I組、
「おー相変わらずだねェ、さて、以上で部員の紹介終わり!」渡辺がパンと柏手を打った。
「えぇっ⁈2人しか居ないんですか?」榊󠄀原が眼を丸くした。
「如何にも」
「ワタクシ共が1年生の頃にはもっといたんだけどネ。最近は胡散臭いとかで人が来ないんですヨ、顧問も大鳥教官っていう丸眼鏡の教官が居るには居るんですけどモ、放任主義なもんで中々来ないですナ」
「へぇ、それでどういった活動を?」
先程から質問しているのは榊󠄀原ばかり、艶間との下校デートを犠牲にしてまで付いて来てやったのに、元凶である鈴本はさっきから固まって動かない。そんな鈴本を恨めしく思って心の中で舌打ちをした榊󠄀原であった。
「まあ、名前にある通り、魔法を研究してるヨ、もっと言うと科学に基づいて魔法を使って生活を便利にしようって感じかナ」
「どんな事が出来るんですか?」
「なんでも」
「魔法に出来ぬこと無し」
「へ、へぇ…」榊󠄀原は大いに困惑した。胡散臭いとかってレベルじゃないだろ。鈴本を置いて自分だけでも帰ってやろうと思っていたら、鈴本の口が動き出した。
「カッコイイ…」彼はきらきらと目を輝かせていた。
「は?」
「だって魔法だよ?ロマンじゃん、楽しそうじゃん、カッコイイじゃん」
その言葉を聞いていた八十がからからと笑った。「中々良い感性を持っておるな、そこのデカいの。気に入ったぞ、最近完成した魔法を見せてやろう」そう言って八十は棚から液体の入った小瓶を2つ取り出した。「刮目せよ!」と片方の瓶を飲み干してしまった。すると八十の体がみるみるうちに透け始め、あっという間に彼の着ていた服だけが宙に浮いているかの様になった。その光景に鈴本も榊󠄀原も言葉を失った。目の前に居た人間が服を残して消え失せてしまうとは。2人は白昼夢を見ているのかと思ったが、どっこい意識ははっきりとしている。瞼を擦っても、頬をつねってみても、目の前には依然、透明人間がいる。そんな2人を見て透明人間となった八十がまたからからと笑った。
「佳き哉佳き哉。見たか、これぞ魔法研究部也」
満足した八十はもう片方の瓶を飲んだ。その液体が体内に流れ込んでいく様子もはっきりと見えた。そして八十の姿が見えるようになった。
「ヨッ、良いよナマちゃん!」渡辺が拍手をした。
鈴本と榊󠄀原の2人も倣って拍手をした。
「榊󠄀原君僕決めたよ、この部活に入る」
「奇遇だね、僕も入ろうと思ってたとこ、なんか面白そうだし」
「ありがとう榊󠄀原君!」鈴本が両手を広げて榊󠄀原に抱きついたが、2人の体格差は象と狐、榊󠄀原は潰されそうになった。
こうして2人は『魔法研究部』の一員となった。
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