第8話 世界幻魔協会
神は地面にチョークで何かを描き始めた。
文字じゃない。模様だ。円だったり、直線だったり、四角だったり。
驚くほどの正確さで、あっという間に完成させていく。これが、神の領域なのか。もし私だったら、こんなの永遠に完成しないだろう。たぶん、出来る前に力尽きる。
やがて居間いっぱいに描かれた、魔法陣が完成した。
おそらくこの上で何らかの呪文を唱えると、世界幻魔協会の本部へワープする仕組みになっているのだろう。魔法陣と言うのは、そういう物だ。
「はい、完成。皆、この上に乗りたまえ」
大人5人は入るだろうぐらいの広さを持つ模様に、私達は順番に足を踏み入れていく。
中学生が4人となると、思ったりよりも場所を取る。
「やべ。キュウキュウじゃん。結構スペースあると思ったのに」
「それな。お互い足くっつけないと、ダメっぽくない?」
「足じゃなくて手は?そうすれば大きく広がれないよ」
ということで、背を向けあいながら手をつなぐことにした。
中学生同士が手をつなぐことについて、私は抵抗を持っていなかった。むしろそうすることで、相手の気持ちがよく伝わるとまで考えていた。でも、場合によっては恥ずかしい・・・かな。
私は由紀ちゃんと千代ちゃんの手を握る。由紀ちゃんの手は、スポーツで鍛えられたせいかとても硬い。でも、すごく暖かく、同性の私でも心を氷の様に溶かされそうになった。千代ちゃんは、比較的柔らかい。びっくりするくらい掌にめり込む。指一つ一つが、綿でできているかのようだ。
「・・・加奈ちゃんの手、綺麗だね」
「え?」
右隣にいた千代ちゃんが不意に話しかけてきた。綺麗?私が?
「うらやましいよ・・・」
どこかの遠くを見るように、前を向いた。
うらやましい、とはどういうことだろうか。もしかしたら、千代ちゃんの手に傷があるのか?でも今触っている感じだと、何もないけど。・・・でも、思い当たる節がある気がする。
気になって仕方なくなり、
「どういうこと」と聞こうと口を開いたとき。松ノ殿が先に声を出した。
「さ、用意は出来た。今から、世界幻魔協会本部に出発する!しっかりつかまってえ」
密かに、邪魔すんなと思った。
でも次の瞬間。ブアッ!地面から光が!咄嗟につないでいた両手を振り払い、それで目を覆う。
次第に風も出てきた。顔面にかかる風圧がエグい。とても冷静に前なんて、向いてられない。
「落ちるなよっ!」
耳元で松ノ殿の声がしたが、目を塞いでいるから状況が判らない。それよりも、目の前の光が収まらない。おちるなよ、ってことは空を飛んでいる?にしては、風が弱まっている。
ひゅうう・・・。少しばかりの風が吹き、小さく人のざわめきが聞こえてくる。
でも光が心配だから、一瞬だけ目を開ける。もう眩しくは無いようだ。ゆっくりと顔から制服の袖を離していく。
すると、その時。
「うわあああ!!」
日本の城みたいな大きな建物。てっぺんにはシャチホコみたいなのもいる。建物入口に、不思議で変わった格好をした人たちがたくさん並んでいる。同じ幻魔かな?
「ついたぞ」
人気声優みたいな優しい男性の声がした。誰だ?
振り向くと、黒いスーツを着た背の高い人がいつの間にか立っていた。おまけに、凄いイケメンである。
あ、もしかして・・・。
「もう判らないか?松ノ殿だよ」
やっぱり!さっき実年齢26とか言ってたもん。でも・・・、こんなに変わるか!?
「え・・・、私タイプ・・・」
春が顔を赤くして見とれている。千代ちゃんも春ほどではないが、夢中の様子だ。
この状況に一番驚く反応をしたのは、由紀ちゃんだ。「私は別に」みたいな顔でそっぽを向いている。意外だなあと思った。私としては、由紀ちゃんが一番興奮しそうだと予想したから。
その代わりに、彼女はしきりに私と目を合わせる。でもそれは片目だけで、いかにも少女漫画の主人公が恋愛相手にやるみたいだった。
何、私好かれてる?いや、まさか。んなわけないよね。
と言っている私だって、男の良しあしぐらいは判るけど、そこまでこだわりはない。というか興味ない。だから、私は普通の女子の様に男のことでテンションは上がらない。
小学の時、一度初恋の相手に告っただけであとは特に何もない。
何が火種か知らないけど、
「これだから矢代は友達が少ないんだよ」と罵られたことすらある。見た目的に、男子に興味なさそうな奴が言っていた。そしてその顔は、とても苦しそうだった。たぶん誰かに罵り役を背負わされたのだろう。大変気の毒だ。
当時、私はこの言葉を真に受け、引きこもってしまった。自分が原因だと思い込んでいた。学校だったのにも関わらず、先生は「知らなかった」と言った。この言葉に、私は大きな屈辱を味わされた。
でも私には今、素敵な仲間が3人もいるんだから何も問題ないのだ。その子が勝手にそう言っていれば良い。ただそれだけの事だった。
とこんな感じで、私がそこまで性について関心を示さないことがお判りいただけたと思う。
これからも以上の様に与太話を挟んでいくので、その時はお付き合い願います。
さてさて。
そんなことを語っているうちに、正門の前まで来てしまったようだ。
門番二人が槍を交わえて、
「幻魔である証を提示しろ。できなければお引き取り願いたい!」
とハモった。あまりの息のピッタリさに、思わず噴き出てしまう。
「体印でよろしいか」
「お願いします」
「体印を出せ」
松ノ殿の指示で、私達は制服を一斉にめくった。門番がスキャナーっぽいのをどこから取り出し、私達の体に念入りに当てた。
「うーむ。これは・・・。正真正銘の証だ。入りたまえ」
よし!
最後に松ノ殿が、
「見張りご苦労」と言って、中に入った。
「うおおお!!」
エントランスだ。中心には透明のエレベーター。ガラスでできているのか?その横には電光掲示板。魔法使いみたいな人が、パネルを動かしている。奥には屈折のせいでぼやけて見える、受付がある。上を見れば、どこまでも続きそうな吹き抜けになっている。
それから、この中の人は全員不思議な服装で来ている。まるで私達の制服がここに似合っていないようだった。だからなのか、あちらこちらから私達を見て笑う声が聞こえてくる。
「何で笑っているんだろうね」
「きっとこの世界では、制服は似合わないかもしれないね」
私は後ろを見て答えた。やっぱり由紀ちゃんは、話しに入ってこない。
受付はロボットが行っていた。カクカクした体には、似合わないなめらかなアクセントで言った。
「本日はどんな御用でしょう」
「会長に招待された。お目通りを願いたい」
代表で松ノ殿が出た。
「承知しました。こちらへどうぞ」
それぞれの持ち場に行く幻魔の間を通りながら、建物のずっと奥の方に通された。
ガチャン!扉が閉まる。
「ここは幹部以上の者しか、入ることが出来ません。あなた方は特別です」
チーン。エレベーターの到着音がした。
荷物を積んだ大きいワゴンが入る広さだ。当然6人(いや、5人と1体?)なんて、まだまだ余裕で入る。
一番上は、17階。一番下は、B4階。間に挟まれ・・・、何だろう?団子三兄弟(三じゃないしw)が失敗した。
そしてそれを口ずさんでいたものだから、隣の由紀ちゃんがくすっと笑った。そしてつられた。
最上階、17のボタンが押される。おそらく会長室はそこだ。
扉の外は殺風景だった。
蛍光灯でハエがさまよっている。あまり掃除していないみたい。よくみると、蜘蛛の巣まで張ってある。
「ここはなかなか人が来ないから、掃除も少ないんですよ。だから最近、一回一回丁寧に行うことをモットーにしたのですが、それでも届いてないんですよ」
会長室前なのに、こんな有様で良いのか?少しいかがなものかと、私は思う。
「ところであなた方は何者ですか?会長はめったに人を呼ばないのですよ?」
その時、松ノ殿は胸を張って言った。
「私をなんて心得る。この世の全てを統べる大王神様の忠実なる下部、松ノ殿だ。かつてはここの会長の相棒だったんだぞ」
すると、扉を開けようしていたロボットの手が止まった。
「では力を見せてください。出なければ信用できません」
背中から威圧が放たれる。ロボットにこんな感情があったのは驚きだった。
「無礼者!力はそういう事のために使うのではない!」
「でしたら、お通しすることは出来ません」
「!!!」
なんだこいつは。なぜこんなに疑り深いんだ?
神はあまりの怒りに、誘いを買ってしまった。
「・・・ならば、やってみせるのみ」
す、と手を案内人の目の前に置き、そのままじっとした。
と同時に、彼女の体は見る見るうちに消えていく。
「これは一番最高の制裁だ。・・・せいぜい改心するんだな」
「うわあああああ」
あまりの行動に、私達は動けなくなった。
「ああああ・・・・・!!」
やがて跡形なく宙に散っていった・・・。しばらく何も言えなかった。
「相変わらず短気だな、お前」
正面から声がした。それは紛れもなく、会長・ヴァンさんの声だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます