第6話 出生とギャップ
はい、松ノ殿の幻魔特別授業の後半戦です。
一体どんな話を持ち掛けてくるのか。
「続き行くぞー」
もう?はやない?まだ、5分しかたってないよ?
それでも彼は待ってくれず、さっきとはまた違った口調で話を始めた。
「次は君達一人一人の詳しい能力やステータスについて、説明しよう」
ステータス!RPGのお決まり要素の一つだ。私はそこまでやった事はないけど、確か能力が数値化されているんだよね?これは自分自身では、あまりよく判らない。調査とかした時に出てくるから把握できるんだけど、普通は自分の攻撃力は100だとかって、簡単に言えない。ましてや素早さにおいては、自分の速さを気にする人なんていないだろう。リレーなどは例外で。
「まず幻魔の仲間わけの仕方からだ。幻魔には5つの種族と、無数の属性で分けられる」
む、無数!?全部覚えろって言わないでくださいよ?
「属性は自分が入っているものだけ、覚えればいい。ただ種族は全部記憶してもらうぞ」
良かった・・・。心の中で胸をなでおろした。
「最初は、ズバリ神。神は、大体が人の想像で出来ているからな。まれに幻魔として扱うことがある。またそれらの子供も含む。君達が知っているあたりだと、ケンタウルスとか、あ、あとオリオン」
両者とも星座の仲間である、オリオンとケンタウルス。確かに二人が星座になった経緯は、神話として語られている。だから神と分類しても、あながち間違いではないかもしれない。あれ?でも、オリオンってなんで星になったんだっけ。サソリにかまれた・・・ような・・・。そう思うと、ケンタウルスの方も気になる。そもそも二人とも、神様だったか?あとで図書室で調べてみよう。神話の本、あるかな。
「次は古典。これは8割が日本の妖怪を占める」
河童、ろくろ首、天狗・・・。お化け屋敷などでよく鉢合う、メンツだ。昔私は、だるまと天狗が一緒に登場する絵本が好きで、空を飛ぶ挿絵を見たときは、とても強いあこがれを抱いたのを覚えている。あの時私は持っている葉っぱを力いっぱい仰いで、大空を飛んでみたいと願った。もしこれから、天狗に会えるチャンスが来るなら、貸してもらおうっと。
「次は獣。人狼、化け狐、妖怪の一部もここに分類される」
じゃあ、さっきの河童はこっちの方が相応しいんじゃない?そう思って、言うのを止めた。
「4つ目。新生。近、現代的な幻魔がそろう」
ライトノベルっていう本から成立した、人種がここだろう。由紀ちゃんとか、春が入りそう。千代ちゃんは、最後のやつかな。あ、私って、どこに入ってるんだろう?なんか当たっているような感じがしなかったし、私も最後のやつかもしれない。ん、でも私の血の源、聞いてないな。じゃ判るわけないや。
「最後!伝説。今の時代から見たら、言えることだが・・・。忍者、呪術師、祈祷師など。かつて存在し、今もなお語り継がれる者達のことを、示す」
ふーん。つまり今のところ予想では、由紀ちゃんと春が‛新生’、千代ちゃんが`伝説’、私は不明、ということになる。ああ、私はいったいどこの生まれなのだろう。
天井を仰いだその時。
「矢代」
不意に話しかけられた。
「・・・!はい」
考え事してたの、バレた?ちょうどいい。聞いてみよう。
「あの____」
「____さっきから自分はどこの種族か、気になっているな?」
彼はニヤニヤしながら問いかけてきた。
ええ、そうですよ。気になってました、ずっと。
ふてくされてしまい、胸の中でつぶやいた。
「体印を思い出してみろ。拳が書いてあっただろ」
硬い素材の制服の肩をまくり、由紀ちゃんがどこからか持ってきてくれた手鏡で見る。いつの間にか、後ろに他の二人も居た。
確かに。相変わらずこの印は、拳を握りオーラを放っている。
「このことから、肉弾系の幻魔と言うことは判るか?」
神の言葉に、少し間をおいてから答えた。
「・・・・そうですね。由紀ちゃんは剣だし、春は爪、千代ちゃんは・・・」
「手裏剣」
本人が短く答えてくれた。
「全部、戦闘の手段を象徴している。つまりは私は・・・、武闘家ですか・・・」
「うーん、惜しい!正解は、戦闘民族。特に賞金稼ぎなどを生業とする一族の子、だった」
賞金稼ぎ。西部劇でしか聞いたことが無かったので、不思議な響きだ。それを聞いたとき私は、今の生き方と幻魔としての生き方に、かなりの相違点があることに気がついた。どちらかの生き方をすれば、どちらかに背くことになる。一体何が正しい生き方なのか。見当もつかなかった。
「難しいだろうな・・・。人間か、幻魔か。選ぶのは」
春が口を開き、ぼそっと言った。さらにこう続ける。
「逃れたくても逃れられない、二つの運命。どちらを選ぶのか。結局それが、一番辛いのかもしれない」
私達は、怪魔の陰謀を止めるという宿命の元で集まっている。でも、それだけじゃない。もう一つの自分、人間としての自分も、同時に生きなければならない。そのうち、どっちが本当の自分なのかが判らなくなっていく。その時でも、己の信じる道を進める人になりたい。
私は以上の思いをみんなに伝えた。すると。
「そうだね。加奈の言う通りだ」
「怪魔を倒すのも大事だけど、まずは自分を律しないとね」
「良いこと言うじゃん」
決意の顔を、それぞれ見合わせた。それぞれの目には、志が浮かんでいた。
「確かに、自分を律することは、一番の強みになるかもな」
松ノ殿に背中を押され、私は更なる自信が込み上げてきた。
「さあ、一人ずつ生まれをいっていくぞ。よく覚えておけ」
水を差さない良いタイミングで、話を持ち掛けてきた。今度は楽しそうな口調だ。
書類の挟んだボードを読み上げるように、首引きをしながら言った。
「矢代は今言ったから。近衛」
「はい!」
「お前は炎の神から直々に力を授かった、魔剣士の子」
おお、すごい。だから最初から強かったのか。
「谷川!」
「はい」
「吸血鬼の中で、トップクラスの一族の娘!自分でもわかっている通り、治癒能力が高い」
「へへ、ラッキー」
そうそう、すぐ回復できちゃうんだよね。
「ラスト、佐々木」
「はい!」
「かつて天下人に仕えた忍者の子孫」
天下人に認められた、それはそれは立派なことだ。だってそれだけ、エリートってことでしょ?
「凄いじゃん」
「全員それなりの力があるんだね」
でもこのレベルじゃなければ、今生きていなかったかもしれない。
「これからそれぞれの特性を生かし、修行に励もうではないか」
「おおおーーー!!!」
4人で一斉に叫んだ。何だか一体感が生まれて、楽しい気持ちになった。
「さて、そろそろアイツから電話が来るはずだが・・・。仕事が忙しいか?」
アイツ?誰の事だろう。すると。
プルルルル・・・、プルルルル・・・。
電話の着信音が鳴った。驚くことに、その持ち主は松ノ殿だった。
彼は手を伸ばし、電話を耳に当てた。
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