第5話 誕生の歴史
最初に入った部屋に戻り、皆で座る。私と春は床に直接、由紀ちゃんと千代ちゃんは椅子に腰かける。座り方は様々だけど、私は正座をしている。
「さあて、どこからいこう・・・」
話の導入の仕方に、迷っている様だ。最初の待ち合わせよりは短気じゃないけど、早くしてほしい。でも、幻魔の世界は壮大だから、話したいことはいっぱいあるだろう。『全て話す』とか言ってたし。
そして私が何よりも不安なのは、内容をこの場で理解できるか、ということだ。この間(第二章、1~3話参照)の話も、情報量が多くて飲み込むのが大変だったってのに、また新しいのが来て整理出来ないよ。
だからと言って、覚えないわけにはいかない。私もあらがえない運命の中にいるんだから、ね。
「よし。決めた」
松ノ殿は顔を上げて、話をする態勢に整える。そして語り始めた。
「前は怪魔の誕生を話したろ。今日はまず、幻魔の誕生について教えよう」
と言うことは歴史っぽい話かな?それなら得意だ。
「幻魔が生まれたのは、平安時代の中期。藤原道長が、摂関政治を行い勢力を伸ばしていたころだ。この時書かれた有名な文学は?」
ああ、そういう系?まあ、答えられちゃうけど。
「『源氏物語』」
静かに言った。
「そうだ、簡単だな」
当然のことだと、心の中でつぶやいた。話の続きに移る。
「熟知の通り、紫式部や清少納言の活躍により日本文学の基礎が出来た。ちなみに今の二者が作品を書く前に、竹取物語が誕生している。だから国語の授業でも聞いたのと同じく、竹取物語は日本最古の物語なのだ」
なるほど。つまり『源氏物語』は二番目に古い物語なのだろう。あくまでも、予想だが。
「この時幻魔が誕生した。と言うのもすでに神と言う存在がいたから、完全に初の幻魔とは言えないんだ。それに、ここから現代にいたるまでの千何百年くらいは、特にその時代の文明と大差ないんだ。人間界に合わせて、発達していく」
でも裏を返せば、人間界の発展があったからこそ幻魔は栄えていった、とも考えられる。そういう意味でも、人と幻魔は知らず知らずのうちに、共存関係にあるのだ。
「やがて昭和時代、戦後。言論や出版、思想の自由が認められ、この世界の人々は様々な形で自分を表現できるようになった。そこから幻魔界は急激に人口が増え、文明が発達した。新しい種族も次々と生まれた。今もなお、彼らは一応、変化し続けている」
私は「一応」と言う言葉に引っかかった。そうなるのも当たり前だ。私達8人が生まれてから、命の誕生はないし、怪魔によって力が削られている。それでも幻魔界は、生みの親でもある人間界に合わせて進化し続けている。だから松ノ殿は、「一応」と言う言葉を使ったのかもしれない。
「この後はもう話したから、飛ばして。次は、怪魔の誕生について話そう。この間とは別の観点で」
もう幻魔は終わりか。
別の観点って、人間サイドのことかな?
「怪魔は1000年前に出来たと言ったな。正しくは、平安時代末期からだ」
平将門などの武士が誕生し、やがて平氏と源氏が戦うようになる、平安時代末期。
私は胸の奥底で、怪魔誕生の元凶が判った気がした。
「この頃、平清盛が天皇をも抑え、権力を自分だけのものにしようとした。平氏の強引なやり方に、恨みを覚えた者達のエネルギーが一つになり____」
「____怪魔を誕生させた」
バトンパスの様にしっかりと松ノ殿の言葉を受け取り、それをつなげたのは由紀ちゃんだった。
同じことを言おうと思ったんだけど、今!
由紀ちゃんは恥ずかしそうに首をかくと、
「続けてください」と言って、小さく手を押したり引いたりした。
その言葉に応じるように、再び松ノ殿の口が開いた。
「そして初代怪魔王は、清盛の無念を具現化した恐ろしい怪魔になった。王は自分に逆らうものが居たら、どんな身分の物でも___」
そこらへんの場面は、読者の皆さんの想像力にお任せしよう。口にしなくても、お判りだと思う。
つまり私の予想通り、清盛が実質的に怪魔界を作ってしまったのだ。
「怪魔王への憎しみが新たな怪魔を産み、その怪魔が恨みを持てば、また新しく生まれる・・・。いつの間にか、怪魔界は、700万を超える怪魔を持つようになっていた・・・」
世界よりは少ないと言えど、かなりの数だ。もしかしたら、日本の人口超えちゃうんじゃないかな?
「幻魔と怪魔が幾度もぶつかり合い、戦い合った。だがいつになっても、決着はつかなかった。そしてその最中に、君たちが生まれた・・・」
で、今に至るわけだ。長い長い物語は、今も紡がれている。ある意味、私達が紡ぐ。
私は改めて、幻魔でいることの責任の重さを実感した。
「さあ、誕生の秘密は全部話したぞ。次は幻魔の種族や、能力について説明しよう」
まだ続くの?ちょっとは整理させてよ。
「あ、休憩いる?」
やっと気付いてくれた。もちろんだよ!私は大急ぎで、
「トイレ良いですか?!」
と聞いた。そしてその返事を聞かないうちに、さっと立ち上がり、トイレへ向かった・・・。
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