第2話 幻魔の拠点

 相変わらずの、老けた顔で挨拶してきた。

「待ってましたよ、松ノ殿様」

 由紀ちゃんは腰に手を当て、仁王立ちになって言った。彼女も待ちくたびれたようである。

 だが、神はそれを悪気とは思ってないくらい軽ーく答えた。

「すまん、すまん」

 私はこの反応が頭に来たが、神に逆らうと何があるのか怖かったので、面に出すのをやめた。本当は怒りたいんだけどね。

 そんな私に目を向けず、彼は話をし始めた。

「さあて、全員そろっているということで・・・、今日は君達に、幻魔としての生活の拠点を見てもらおうと思う」

 拠点!?秘密基地みたいなものかな。ちょっとわくわくしてきた。

 子どもの頃、よく公園のジャングルジムなどに、自分にぴったりのスペースがあると、

「ここ、私のひみつきち!」

 などと言って、その日の根城にしていた。

 だから、秘密基地と言われた時の気持ちはとても歓喜に震えていた。

「その場所はなあ・・・」

 各々が息をのみながら、松ノ殿の次の言葉を待つ。やっぱりみんな少し秘密基地に興味あるのかな?ドキドキとワクワクの思いが、顔から伝わってくる。

 遠い?近い?広い?狭い?いろんな疑問が生まれてくる。あまりにも気になって、楽しみすぎて、段々と感情の収集がつかなくなってきた。でもこんな気分になったのは、久しぶりだ。

「それは・・・」

 もう、もったいぶらないでよ。もっと好奇心が掻き立てられるじゃないか。

 すると、松ノ殿はさっき千代ちゃんがフロックスの説明をした地面に移動し、そこに止まった。私達は一斉に、ん?と呟くと、唖然と彼のいる場所に注目した。

 そして彼は、その下を指さした。

「この下だ」

 え?この「下」って、どゆこと?

「秘密基地は、地下にある。そう言いたいんですよね」

 春は平然とした声で、言葉を返した。

 松ノ殿は喜んで言った。

「そう。この下に眠っている。ここを、こーして・・・」

 どこから取り出した、木の棒でしばらく地面を、コンコンとつつく。するといつの間にか、マンホールの蓋のようなものが浮き出てきて、それがパカッと開いた。土を被っていたようで、少しずらしただけで土がサアっと穴の中に落ちていくのを見た。こんな金属製の物じゃ、すぐ気づいたはず。完全に土と同化していたのである。

「穴の奥に、秘密基地が隠されている」

 蓋の取手に引っ掛けた木の棒を下に垂らしながら、私達に先を行くように促した。

「大丈夫なんですか。こんなことしてたらバレますよ」

 さっきまで、細かいことなど気にしない雰囲気だった千代ちゃんが、慌て口調で言った。びっくりした、とまでは言わないけど、意外だなと感じた。何故だか判らないけど。

「大丈夫。今君達は、他の人とは違った並行世界にいる」

「へいこうせかい?」

 パラレルワールドっていうやつか。何かそこが幻魔っぽい。

「ある世界から分岐し、それに並行して存在する世界のことを言う。君たちが普通、暮らしている世界にもう一つ同じような世界があって、君達は今、もう一つの世界の方にいるというだ」

 彼の話は、少し難しかった。

 そのことを読み取ったらしく、神はにっこり笑っている。

「まあそんなことは、置いといて。先に進んだら、どうだ」

 いや、そんなこと急に言われても・・・。

「・・・矢代」

「!はい!」

 呼ばれちゃった。

「この中に入ってみないか」

 え、トップバッター?私が?え~、それはちょっと・・・。

「何。緊張してるのか」

「!してません!」

 恥ずかしくて、強がりを言ってしまった。みんなに笑われながら、私は穴の方へ歩く。

 ゆっくりとその場に座り込む。なるべく、ケガしないよう・・・降りてって・・・。

 ふっ。

 土で滑ってしまい___。ガっ、ガっ。コケなどにつかまろううとする。

「あ、あ、止められない。あ、ああ。うわああああ」

 必死にもがいて、落ちないようしたが、ダメだった。

 ああああ、と叫びながら管の流れに沿って、落ちていく。

 ・・・管?側面に手を当てると、土ではなくプラスチックの感触がした。松ノ殿が地面の一部を変えたのかな。ホースみたいなのを、膨らませて詰め込んだって感じ?

 途中から管は、うねうねしたり、ぐるんぐるんと回転するようになったり、メチャクチャな動きになっている。そのたびに私は、方向感覚を狂わされた。

 最終的に、投げ出されるような感じで目的地にたどり着いた。

 しばらく頭の上で、ひよこが回ってから、前を向くと。

「!」

 この間見たのと同じ風な、硬くて大きな扉があった。

「この先にあるのかな」

 その時。遠くで悲鳴が聞こえた。その声はすぐに近くなり、やがてすぐ目の前で聞こえるようになった。

 立て続けに他の3人が、うねる管の中を通って来たのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る