幻魔の世界へ

第1話 待ち合わせ

 翌日の夕方。

 どうやら私が一番乗りのようだ。まだ知っている顔の人は、誰もいない。

 夏の風景になりつつあるこの大同公園を、私___加奈は見ていた。

 今日、この公園に来た理由は、自然をたしなむためではなく、子供の様に遊具で遊ぶのでもなく、はたまたデートでもない。では、それ以外に何があると?それは昨日のことである。

 昨日、私達は誘拐犯に成りすました怪魔を撃破(私はなんもしてないけど)。その際、私と由紀ちゃん、そして春の他、もう一人幻魔の仲間がいることが発覚。今日はその4人で、つい5日前、突如現れた謎の神様・松ノ殿の話を聞くことになっている、はずだが。

 結構遅い。みんなも、松ノ殿も。3人は委員会活動があるからいいとしても(私の学校は、委員会の活動日がそれぞれ違う)、松ノ殿が遅れる理由が思いつかない。昨日自分から4時って言ったのに、もう10分過ぎた。

「どういうことだよ、これ。せめてなんか夢でもいいから、遅れるって教えてくりゃあ、良いのに」

 周囲に怪しまれながら、文句をこぼしていた。

 もうそろそろ、皆も来ていいと思うけど・・・。

「よ」

「遅れてごめーん」

 噂をすれば。仲間の3人がやって来た。これでまあ、ヒマはしないだろう。

「ゆっくりだったね」

 なるべくさっきまでの、イライラを隠すように言った。私は結構、感情を隠すのが苦手だ。気を付けなければ、バレてしまうことがある。

 由紀ちゃんは私の気持ちを読み取ったようで、優しく言った。

「先輩に仕事、押し付けられちゃってさ。断っても怖いし、まじめにやって来た。千代ちゃんも一緒だって」

「そっか。春は」

 私は由紀ちゃんの肩から、覗き込むように春を見た。

「私?私は、実行委員会の会議が長引いて」

「ああ、体育祭の」

「うん」

 由紀ちゃんから聞き、後に本人から仕入れた情報だと、彼女は体育祭実行委員会だ。私も小学校の時、修学旅行の実行委員会をやったから、気持ちはよく判る。

 実行委員って楽しそう、と思ったのもつかの間。会議に次ぐ、会議で大変。臨時会議もやるから、それもめんどいとしか思えない。ただ、そうやって一生懸命取り組んで企画を考え、みんながそれで喜んでいるのをみると、すごくうれしいのだ。すごくやりがいを感じる。

 脱線しちゃったね。話を戻そう。

 普通、舗装された地面と生の土とは境界線として柵が立っている。

 その柵を構わず飛び出して、草をかき分け、何かを探している子がいた。千代ちゃんだ。

 そんな所に居て、大丈夫だろうか。

「あ!」

 何か見つけたらしい。手に持っていたのは、ピンク色の花だった。

「それ何?」

 思わず私は聞いていた。

「フロックスだよ。今が旬の花でね。花言葉は、『一致』」

 異国の言葉を帰国子女が、流暢に話すかのように、彼女は説明してくれた。

「千代ちゃん、賢いねー」

 由紀ちゃんが感嘆の声を上げると、千代ちゃんは満面の笑みで言った。

「私、植物のこと知るのが好きなんだ。良く自然センターとか、週1で行くよ」

 この町には、自然観察やウォーキングなどに使える自然センターという物が存在する。私なんて、小4の校外学習から、一回も行ったことないのに、この人は週1だなんて・・・。

「ああ、空気が美味しくて、自然もいっぱいのあそこ?」

「うん。それ」

 正直言って、話に乗れないんだけど。私。どしたらいい?そんな状況についてこれる、私の親友。凄い。

「私もよく行くよー。お母さん、そこで働いてるから」

「へー」

 それ、初耳なんですけど。

「そうだっけ!?」

 私は驚き口調で言った。

「あれ、言わなかった?」

 きょとんした顔で見てきた。

 すると春が、急に口を開いて言った。

「千代。そこ、立ち入り禁止じゃない?草がしおれちゃうよ」

 その口調は、どこかで聞いたことがあり、優しかった。

 そこで千代ちゃんは我に返り、

「あ、そっか」

 と言って、柵の内側から出た。

 いや、気付かなかったんかい!と突っ込みたくなるが、言わぬが花だろう、花だけに(草)。

 そんな私達だけの、平和な時間が流れていた時。

「やあ、遅くなった。準備に時間がかかった」

 あの、松ノ殿がやって来た。

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