第13話 噴気

 なるほど。それでこの場で確かめたところ、幻魔だったということか。

「これで千代ちゃんも、一緒に春を救えるね!」

「うん!」

 由紀ちゃんと二人で頷きあう。何だかそれを見ていると、自分がいることに申し訳なく思った。何故かって?皆さんは忘れてるかもしんないけど、私はまだ戦うことが出来ない。幻魔の力が使えない。この場が必要としているのは、より強い人間だ。そのような場面に、無力な自分がのうのうと見ていていいのだろうか。

 そして、どうやらそう思っているのが面に出ている様だ。

 由紀ちゃんはちらっと私を見て、一瞬気の毒そうな顔をした。だがすぐに切り替え、そして言った。

「加奈。戦い気持ちはわかるよ。でも、きっと・・・、加奈が立ち上がるべき時のは、今じゃない。うまく言えないけど、たぶん加奈には加奈のタイミングがあると思う。その時を、ゆっくり待てばいいんじゃないかな?」

「・・・」

 私は何と言っていいのか迷い、黙ってしまう。果たしてそれが本当なのか、不安なのだ。

「矢代」

 松ノ殿が私を呼ぶ。

「君の活躍するときがきっとくる。近衛の言葉を、信じないか」

 そうだ。由紀ちゃんは嘘なんかつかない。きっとくる。私にも、二人の様に人を救える日が。

「うん!がんばって、二人とも!」

 戦闘員二人は、力強く私に頷き、回復した敵に向き直った。

「さあ、行こうか!」

「OK!」

 ダアン!竜のごとく飛び出し、相手の不意を衝く。

「後ろ頼む!」

「りょ!」

 そう言ってしまわないうちに、由紀ちゃんは誘拐犯の背後に回る。

 挟み撃ち!いいね。相手をかく乱してやっつける、最高の作戦だ。今回の戦いも、見ごたえがありそう。

 思わず私は二人に向かって言っていた。

「二人とも!連携崩れないでよ!」


 加奈の声が聞こえてくる。

「ふん、わかってら」

 自分でもわかるくらいに口をにんまりと開けて言う。

 今は千代ちゃんが敵を引き付けている。そして彼女が攻撃されるというところで、背にトドメの刃をさす。いーこと考えんじゃん、私。

「よ、ほっ、えい!」

 千代ちゃんが何かを敵に投げつけている。

「??」

 あれは。

「忍者の道具、まきびし。地面に置くことで、追手の足に刺さり動きを止める。基本中の基本だよ」

 今幻魔になったばっかりなのに、何得意げに言ってんだよ。まあ、助かったけど。

 しかし。バキ!ボキッ!

「「!!??」」 

 もはや驚くしかない様子で、まきびしは踏みつけられ、しまいには踏んでも分からないくらい小さくなってしまった。

 千代ちゃんはもう、あっけにとられて動けなかった。

 ダメダメ!静止してちゃ。次の手を考えないと。

 そうだ!

「千代ちゃん、手裏剣・・・、いや、手を固定できそうなもの無い?!」

「え、くないならあるけど・・・」

「それでいいよ!とにかく敵の動きを止めるんだ!」

「判った!」

 くないとは、崖を上ったり、敵を突き刺したりするときに使うものだ。

 なるべく急所に近い場所に刺し、それに気を取られている隙に切る。・・・今度は自画自賛しないぞ。

 しかし作戦という物は上手くいかないものである。

 敵の鉄拳が、大きくかぶりを振って襲い掛かってくるのだ。だがいつまでも、その相手をしてはいられない。そしてその攻撃を受けている間、私はあることに気がついた。

 攻撃と攻撃の間に、小さな間がある。その間を見極めれば、カウンターを仕掛けるタイミングが生まれる。つまり今すべきことは、敵をよく観察すること。そして、少しでも相手の間合いに入ること。

 やっぱりすごいぞ、私!短時間でこんな作戦を考えるなんて!

 なになに、向こうで『もう自慢はやめろ~』ていう声が聞こえる・・・。確かに今は、そんな時間じゃございませんね、はい。失礼しました。

 まあ、まあ。ここまで謎の自賛に付き合ってくれた皆さんには、恥ずかしいところを絶対に見せませんから。待ってくださいな。

 そのために今、しっかりと相手の動きを見つめてるんだし。

「由紀ちゃん!」

 千代ちゃんが私を呼び、現実に戻された。

「相手も弱ってきているし、このあたりで決めないと・・・」

 彼女にむかってストレートパンチがやって来た。かろうじてよける。そして言葉をつなぐ。

「こっちまで、スタミナ切れしちゃうよ!」

 判ってる。自分のことも大切に、だね。

 ようし、こっからは本気だ!

 ボオッ!

「全く、面白い奴だな。近衛は」

「楽しくなるとすーぐ興奮するんで」

 後ろで加奈と松ノ殿が話している。

 こんな時だってのに、ワクワクしてしょうがない。心が燃えちゃいそうだ。

 握った手の先にあるのは、紅蓮の炎に満ちた、勇士の刀である。

「さあ、やったりますか!」

 気分が高揚している。それがまた、私を熱くするのだった。

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