第11話 救出
数時間後、下校中。
私と由紀ちゃんそして春は、仲良く肩を並べて帰路を歩く。
5月の下旬になり、時々半袖を着たいと思うほど暑い日がある。
今着てるのは、春・秋用の長袖だからね。少し汗かくんだ。
由紀ちゃんはあたりをきょろきょろ見まわし、誰もいないことを確認すると、春に向かって尋ねた。
「ねー、松ノ殿っていうやつに会ったー?」
あ、松ノ殿の存在忘れてた。確かに春も幻魔なら、あの検査を受けるに違いない。
「会ったよ。それで何か、変な薬飲んだり、放射線みたいなのかけられたりした」
やっぱり同じことしたんだ。
「体印出たんでしょ。見せてー」
「良いよ」
すると春はスリーウェイを地面に下ろし、
「首の後ろめくってみて」と言った。
私がくいっと言われたところをめくると。
「あ」
そこには、鋭い爪が何かを垂らしている絵柄だった。
「何だろう」
「どんな幻魔の一族の絵柄だ」
「それがさ、結構以外で」
「え」
「何々ー?」
「それが____」
ガチャン!
春の声を遮る、大きな音がした。
かなり近い場所だ。
「そういえば、近くに公園があったねえ」
そこからの音かもしれない。
「いってみよう」
「「うん!」」
由紀ちゃんの声に応じ、三人で駆けだす。
すると園内から、
「・・・!・・・!」
声が聞こえた。でも、言葉の内容は読み取れない。一つわかるとすれば、男性がしゃべっていることだろうか。
「!あれ」
春を指先に、藁で出来たカーテンが掛かった土管があった。
「音源もあの方向だ。あそこに誰かがいる!」
すると。
「きゃああああ」
と悲鳴が土管から聞こえてきた。
その瞬間、鉄砲玉の様に飛び出した。
ガサ!
「誰かいる?!」
私達が入った瞬間、一人の男と同い年ぐらいの女の子がこっちを見た。
あれ、この子どっかで・・・。
「春?!」
「千代っ!何でここに!」
「何でって・・・、さらわれたから」
や、たぶんの春の聞きたい答えと違うと思うけど・・・。
「てめえら!なぜここが判った!」
誘拐犯が私達に刃を向ける。
由紀ちゃんが悠然とした態度で応えた。
「ふん。音が漏れてたんでね。誰かがいるっていうのは、すぐ判った。でも、誘拐犯だったとはね~ww」
彼は歯ぎしりしてから言った。
「生意気な子だ。いますぐ、黙らせてやる」
男はそう言うと、黒いオーラを身にまとった。
これは。
「怪魔に操られてんな」
「マジか。こんなタイミングで出くわすなんて」
全くだ。せめて家にぐらい気楽に帰らせてほしい。でも、向こう側は容赦しないだろう。
「まあ、私が力出せばいいことのだけだけど」
すると由紀ちゃんの姿が、あの戦闘服に切り替わり、もう刀を構えている。
「ようし、やるか」
ドンっ!次瞬きするときにはもう、由紀ちゃんは公園の端にいた。
ただの高速移動じゃない。敵に斬撃を与えたのだ。
相手は膝をつく。
「凄い・・・。もうここまで腕があるなんて・・・」
由紀ちゃんの戦いに感銘を受けているその時。隣で、
「ううう、ぐるるるる・・・、がああ・・・」
とうなり声がした。
その主は、春だった。
「!春!春、どうしたの。ねえ!」
つかんだ腕の先には、血管が大きく浮き出た手の甲。鋭利な爪。声を発している口にあるのは、これまた鋭い牙。 これが、春の幻魔状態の姿なのだろうか。様子からして、自我を保つのが困難なものと私は見た。
「やっぱりか」
後ろで老けた声がした。
松ノ殿だ。また唐突に現れて。今度は何するんだ。
「昨日、谷川を科学室につれていった時、一つだけテストしたものがある」
「それはなんですか」
ゆっくり口を開き、彼は言った。
「自我の維持だ」
なるほど。それで、やっぱりなのか。
「彼女の特性は、獲物を見ると本能的に暴れ出すというものだ。そして、獲物をしとめるか、それを見失わない限り、彼女の暴走は止まらない」
今、自分を保つために葛藤しているのかな。
「さっき、谷川が自分の種族を言いそびれただろう。教えてあげよう」
私はごくりと息を一回、二回と飲み込む。
「彼女は、幻魔の中で、特に暴れやすく自我が保ちにくい、しかし弱点を考えれば一番弱い・・・」
神が言いかけたとき、私の前で大きな風が起こった。
砂が晴れた先に見たのは、洋風な真っ黒なマントと、襟付きの白いシャツ。紫いろの、ズボン。シャツの上には、また紫の薄いブラウス。
これが春の真の幻魔状態なのだろう。仲間なのに、何かしらの怖さを感じる。
神は、それを読み取ったかのように言った。
「彼女は吸血鬼だ」
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