第6話 力の解放

 目の前には、信じられないものがいた。

 黒いオーラに包まれた、もののけ?イメージだとそんな。

「こんな時に、松ノ殿様がいたら・・・」

 由紀ちゃんが言った。私も同感だ。ある意味、心強い味方だからね。

 でも、簡単に来るわけ・・・。

「来たぞ」

 年を取った男性の声がした。サッと声の方に顔を向くと。

「「松ノ殿様!」」

 ほんとにすぐに来た。昨日言ったとおりだ。

「君たちが呼ばなくても、ここに来る予定だった。怪魔の気を感知したからな」

 えっ、あれが。

「春は、怪魔なんですか?」

「いや、体を乗っ取られているだけだ。彼女は人間だ」

 由紀ちゃんが少し胸をなでおろした様に、息をついた。そうだな、友達が悪者だったらやだし。

 改めて、私は聞いた。

「どうしたらいいんでしょう。このままじゃ、学校が・・・!」

 その時。

「それこそだ」

「え」

「そんな時こそ、幻魔の力を使うんだ」

「「!!!」」

 そうだ。忘れていたけど、私達は人間であり、人間じゃないんだ。

「戦える力は十分にある。・・・近衛」

「はい」

 呼びかけに応じる。

「幻魔のなりたいと念じてみろ」

 彼女は少し戸惑っていた。いくら敵とはいえ、攻撃するのは谷川さんの体だ。

 友だちを傷つけしまうのを、由紀ちゃんは恐れている。

「このままか、救うか。どちらがいい」

 松ノ殿は聞いた。彼は本気の様だった。

 由紀ちゃんは意を決して、深呼吸をした。

 目を閉じ、集中する。細かく呼吸を刻む。

 すると。

 ボオッ!!

 由紀ちゃんの体が、燃え盛る炎に包まれた。でも、熱そうにはしていない。

「え、なに、これ。体が・・燃えてる・・・」

 メラメラと、煙を立てずに燃え続ける。

 その間に、彼女の姿が変化していった。でも、良く見えない。

 フッと、火が収まる。

 その時、彼女の今の姿があらわになった。

 ヘアゴムが取れて、真っすぐになった髪の毛。赤い長そでの上に、白く袖が切れた、上着。やっぱり赤い、帯みたいなもの。そこに差しているのは。

「刀・・・?」

 凛々しい鍔。きらきら光る刀身。つやつやしたケース。

 由紀ちゃんは、武士の仲間・・・?

「おめでとう。力の解放、成功だ」

 これが由紀ちゃんの幻魔としての姿なのだろう。

 これまでとは見違えるほど、立派な身なりだった。

「すごい・・・。刀が・・・重くない。なんで?」

 松ノ殿が説明した。

「視力、聴力、腕力、反射神経。その他もろもろ、普通の幻魔と同じレベルになったんだ」

 幻魔は人が重いと感じるものを軽々持ててしまうのだろうか。

 それはすごいことだ。やっぱりいろいろと超越している。

「さあ、近衛」

 彼がまた由紀ちゃんを呼んだ。

「己の力を信じろ」

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