第2話 宿命
「それは、今から1000年前の事だ」
昔話を始めるように切り出した。
「人間界、幻魔界、そしてもう一つの世界があった。そこは、人間の負の感情から成っている」
私は言った。
「正の感情に負の感情。まるでコインの裏表みたいだ」
「怪魔界、と言う世界でな。良くもなく、悪くもない世界だった。と言っても、その頃は神々がきちんと住民を取り締まっていた。だが・・・」
「だが?」
話の続きが気になって、急かしてしまう。
「だが、ある日。怪魔界に一人の男の子が生まれた。その子はとても強い邪心を持っていて、周りから敬遠された。恐れる者もいたらしい。それに激怒した少年は、最強の怪魔となり周囲を支配した。やがて、彼の勢いは大きくなり、とうとう幻魔界にまで手を出すようになった」
由紀ちゃんが話を切って、尋ねた。
「でも、それは1000年前の話ですよね。その子はもう、生きていないはず」
「その通り。その少年は死んだ。でも、彼には子供と、優秀な家来がいた。そして今は、46代目が跡を継いでる」
私はそれに驚いた。
「結構な家族の血筋ですね。家だって、まだ17代なのに」
「私も分家だけど、26代目だから・・・」
由紀ちゃんの家系は、日本の昔の貴族の近衛家の末裔だ。彼女の家には、戦国時代の時の当主、近衛前久の肖像がある。なんと、本物らしい。触らせてもらったけど、紙の材質が今と全然違う。
「でもその少年と幻魔って、どんな関係があるんだ」
由紀ちゃんは、?の顔をして言った。
神は言った。
「彼が9歳の時。幻魔が怪魔界を無き物にしようと、襲撃した。初代王の両親は戦いの犠牲となり、命を落とした。何とか少年の命を救われたが、少年の心は、復讐に染まっていた」
それはしょうがない。自分が、その立場になってもそう思うだろう。
「気の毒だねえ」
「それは幻魔が悪い」
口々に言う。
「元からあった邪心がさらに大きくなり、支配に変わった。やがて、幻魔絶滅計画を立ち上げる。しかしこれは、幻魔も黙っちゃあいられない。幻魔軍は圧倒的な力で、怪魔軍を破った」
でも、それでは初代王の復讐心は消えないはず。
「しかし近年、幻魔がゆっくりと衰退し、加えて8人の誕生から生命の覚醒が確認されていない。現怪魔王は、これを好機と思い、再び絶滅計画を実行した」
今計画実行の真っ只中ということか。
「でも、幻魔としても生き延びなければならない。だから、私も戦う。そういうことですね」
「そうだ。君も幻魔として、計画を止めなければいけない」
「・・・・・・」
次の言葉が、私達の胸にグッと突き刺さった。
「もし幻魔がこの世から消えたら、・・・・・・人類史も滅びてしまうだろう」
「「!!!!!!」」
じ、人類・・・・・史が・・・・・。由紀ちゃんと目が合う。彼女の顔は怖いと言っていた。彼は淡々と話を続ける。
「人々は考えることを止め、文化はすたれていく。そして地球は壊れていくだろう・・・・。それを止めるために君は戦う必要があるんだ」
由紀ちゃんが考え始めたため、場が静かになった。恐ろしい話なのだから仕方ない。
しばしの沈黙を、由紀ちゃんが破った。
「判りました。私も覚悟を決めます」
松ノ殿は、ハッとした顔で彼女を見た。
「本当に良いのか」
「・・・失礼かもだけど、ちょっと面白そうだし。人類滅びるのもやだし」
にこっと笑って答える。
「それに、自分の運命を全うしたいんです」
松ノ殿は少し嬉しそうに、
「判った」と言った。
「あともう一つ」
と由紀ちゃんが切り出す。
そして続けた。
「松ノ殿様は、何か隠していますね。判りますよ」
まるで犯人がバレた!とでもいう様に、松ノ殿は顔を上げる。
「'何か'の正体もわかります。加奈のことです」
これには私も驚いた。
「本当ならこの話は、私と松ノ殿様だけでいいはずです。でも、第三者、つまり加奈もこの話を聞き、会話の中にも入っていた。違和感なく。その理由は簡単です」
由紀ちゃんは一度私を見た。
その時は私は悟った。つまり、私も・・・。
「加奈も、幻魔の一人、ですね?」
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