「襲撃」

ゴブリン達に備えて村の者達は武具をクライルから受け取り出撃がいつでもできるようにしながら食事についていた。

黒斗と瑞姫もライヤとリエルと共に食事にありついていた。料理は先程捕まえた鹿肉と森で採れたキノコの入ったクリームシチューと村で採れた野菜のサラダ、ライヤが捕まえたイノシシのステーキだ。ステーキの横にはポテトの様な食感の野菜が2つ並べてある。


瑞姫

「はぁむ。……うん!おいしい!」


瑞姫は早速シチューに入っていた鹿肉から味わっている。


黒斗

「これ結構熱いな。瑞、火傷しないようにな。」


ライヤ

「…」


ライヤは真剣な顔付きで警戒態勢に入っている。


黒斗

「ライヤ、どうだ?」


ライヤ

「今のところは大丈夫そうだ。そんな気がする。」


そしてそのまま持っていたスプーンでシチューにありつくとライヤも表情が元に戻り味わって食べていた。


黒斗

「このまま何事も無ければ良いんだがな…」


瑞姫

「シチューおかわり!」


瑞姫は立ち上がりシチューの鍋まで走っていく。そこには綺麗なエルフのお姉さん…リエルのお母さんが追加のシチューを作っており、ついでにと瑞姫のお椀に汲んでくれた。


リエルのお母さん

「はい、どうぞ。火傷しないようにね。」


瑞姫

「うん!ありがとう!」


お椀を零さないようにゆっくりと両手で支えながら戻ってきた。


黒斗

「そういえば、前にも思ったけどその能力凄いな。俺達の事もそれで見つけたんだろ?」


ライヤ

「んー。能力とういよりはただなんとなくの感?みたいなものなんだよな。敵意とか殺意とかなんか悪い雰囲気。黒斗達が来たときには嫌な気配が全くしなかったから信用できたんだ。」


ライヤはスプーンを握りしめた手をそのまま地面と垂直にもったまま首をかしげている。


黒斗

「それ、はずれたことあるのか?」


ライヤ

「んー。無いな。」


キッパリと言ったその表情には自信という感情すら微塵も感じない。事実をただ伝えてるだけの表情だ。


黒斗

「なるほどな。だから事前に結界も張れたしモンスターの種類も分かったわけか。それは立派なすげぇ能力だよ。」


ライヤ

「サンキュー!ゴブリンって分かったのは月1くらいで村を襲いに来るんだ。その時の感覚が同じだからだな。特にオーガってのはゴブリンの親玉でオーガが来ると王国から騎士団が討伐しに来るくらい強いからすぐ分かるんだ。」


黒斗

「へぇー、んー…2つ程いいか?」


ライヤ

「ん?」


黒斗

「まず、俺らの故郷だとゴブリンの親玉は大抵オークって名前だった気がするんだ。そして、オーガはその上位種って認識だったんだが違うのか?」


それについてはリエルが口を開く。


リエル

「オークはここ、サーキュリー山脈には居ませんよ。それに、ゴブリンはオーガに育ちオークに育つのはコボルトというまた別の個体です。サーキュリー王国周辺にはコボルトは居ませんのでオークも同様です。」


黒斗

「なるほどな…」


深々と考える、どうやら黒斗の知っている情報と食い違っているようだ。


黒斗

「それともう一つ、ここがサーキュリー山脈ってことはここの近くにそのサーキュリー王国があるのか?」


リエル

「え?…はい。ここの麓全てサーキュリー王国と隣接しております。ですのでお二人がここに来る道中通られたのでは?」


黒斗は少し動揺したような表情を見せ、硬直する。

一瞬の沈黙が入った時ライヤがすぐに口を開いた。


ライヤ

「リエル。黒斗達の事だし空か地面の下から渡ってきたのかもしれないだろ?」


冗談っぽく笑ってみせるライヤ。

それを見てつられてリエルも笑った。


リエル

「ふふっ。そうかもしれないですね。」


黒斗は助け舟にホッとしてライヤに心から感謝していた。


ライヤ

「どっから来たにしろ、今じゃ頼りになる仲間だ!」


黒斗

「…ありがとな。俺も仲間を守るために全力で戦うぜ。」


ライヤと腕同士を軽くぶつける。


リエル

「そういえば黒斗様は武器は何も持ってられないようですが、どのようにして戦われるのですか?」


黒斗

「ああ、俺は人より少し頑丈だから素手で戦ってるんだ。少し自分なりの格闘術もあるしな。なんとなくだが多分ライヤもそのタイプだろう?」


ライヤ

「ああ、俺も素手の方が得意かな。でも俺の場合は力をただ振り回すだけだから格闘術はないけど。」


ライヤはシチューを掬って口に運びそのまま、スプーンをハムハムしながら説明している。

それを真似してか正面に座っていた瑞姫もハムハムしながら味わっている。


黒斗

(リエルを背負ってた上に体重300キロはあるイノシシを片手に持って、まだ余裕がありそうだった。相当の怪力だろうな。)


黒斗がそう考えていたそのタイミングで瑞姫は食べ終わりお皿を片付けに行く。


ライヤ

「俺からも質問いいか?」


黒斗

「ああ、もちろんだ。」


ライヤ

「黒斗達が旅する理由ってなんなんだ?」


黒斗はその言葉を聞き少し戸惑うがライヤ達に今更隠すことが無いと話し始めた。


黒斗

「そうだな。実は…瑞の両親を探してるんだ。」


リエル

「ご両親を…ですか…」


事情を察しリエルは少し暗い顔をしてしまう。


黒斗

「元々あいつは、両親と一緒に暮らしていたんだ。だけどある日、はぐれてそのまま瑞は一人になった。俺はその付き添いで旅をしてるんだ。」


ライヤとリエルはそれぞれ瑞姫の方へと視線を向けた。

リエルのお母さんがお皿洗いしている横でお皿を拭いて手伝っている。その表情は眩しく感じる程の笑顔でその様子をリエルのお母さんは微笑んで見ている。


黒斗

「いつもはああやって笑っているが、時折寝言で両親の名前を呼んで泣いてるんだ…」


ライヤは黙って話を聞き、リエルは堪らず泣き出してしまった。


黒斗

「悪い、食事中にこんな雰囲気にして…だけど見つける方法はあるんだ。」


黒斗は自らの胸あたりを指差す。


黒斗

「瑞が今、首から下げてるネックレスの玉。瑞の両親が近くにいるとピンク色に光るみたいなんだ。」


ライヤは再び瑞姫の方へと視線を戻すと、確かにネックレスが付いておりなにやら球体が付いている。よく見てみると透き通っており綺麗な水晶のようだった。


リエル

「あのネックレスは瑞姫ちゃんのお母様を見つけるものだったのですね…」


黒斗

「ああ、近くにいるかどうか調べるにはしばらくここで滞在しないと行けないんだ。」


ライヤ

「早く見つかるといいな!瑞姫のお母さん!俺も協力するぜ!」


リエル

「私も協力いたします!」


黒斗

「2人共ありがとう。まぁ、だけど元々長旅の予定だし無理はせず探すさ。」


黒斗も食べ終わり食器を片付けに行く。すると瑞姫が受け取り洗い始めた。


リエルのお母さん

「うふふ。手伝って貰ったから物凄く助かりました。凄く楽しそうにやるから私もつい楽しくなっちゃって。」


瑞姫は泡をお皿に擦り付けてゴシゴシと擦っている。

お皿が綺麗になるのが嬉しいのか磨き終わったお皿まで眺めている。


黒斗

「………。」


黒斗は無言で洗ってないお皿を取り手本を見せる。


黒斗

「お皿の縁を持って円を描くようにして洗うと楽だぞ。」


瑞姫

「…ふむふむ。」


黒斗の真似をしてすぐにコツを掴んでいる。


リエルのお母さん

「仲がいいのね」


食事の時間も終わりしばらく自由な時間ができた。

そして、リエルは再び結界を展開し、しばらく経った。

リエルはさっきの話もあってか瑞姫と花の冠を作って遊んでいる。瑞姫に関してはツインテールを解いて長い腰まで伸びる髪の状態で笑っている。


リエル

「この花には防腐魔法をかけてあるので枯れることはないですよ。」


瑞姫

「わー!すごいー!」


黒斗とライヤはそれを見ながら座って雑談していた。


村の男

「見たことない奴らだがいつから来てたんだ?あんなに楽しそうにして。」


近くで見ていたクライルに荷物運びをしていた村の男がそう問いかける。


クライル

「それが、今日会ったばかりじゃよ。」


村の男

「今日会ったばかり!?それであんなに打ち解けれるもんかねぇ…」


村の人達は黙っているが黒斗達がやってきたことについて不安なのだ。こんな山奥に、そして襲撃があった時間に難民とはいかにも怪しかったからだ。


クライル

(まぁ、確かに普通はあそこまでの仲は無理じゃろうな。これもライヤのカリスマのおかげじゃろう。悪意を感じ易いからこそ信頼できるやつとそうでないやつの区別がハッキリしとる。)


そして、何も起こらぬまま日が暮れ夜になると村の中心に大きな木を並べ燃やす。キャンプファイヤー方式だ。


黒斗

「結局何も起こらなかったな。」


ライヤ

「やっぱ、何も無いのが1番だな!」


4人で寝るためにシートを引きクローバーの様に頭を中心に向けて寝転がっていた。


黒斗

「そういえばリエルが寝ても結界は続くのか?」


リエル

「基本的には結界は私の深層意識とリンクしているので寝てるだけなら問題ないです。気絶など意識が一度でも完全に切れると消えてしまいますが…」


瑞姫

「結界の薄い膜と星がピカピカで凄い綺麗!」


ライヤ

「ああ!すごいピカピカだ!」


4人は星空を見上げその光景を目に焼き付ける。

結界の黄色く淡い光は心地よく星空とうまく溶け合い幻想的に映っている。


ライヤ

「明日1日何もなければ、村も元の広さまで戻るかな。」


黒斗

「今は緊急で村の中心にまとまっているだけなんだっけか…」


ライヤ

「明日も何も無いことを祈ろう…」


話しているとその場の全員が少しずつ声のトーンが落ちてくる。


黒斗&瑞姫&リエル&ライヤ

「…」


沈黙が続き誰かの寝息が聞こえてきた。

黒斗が横を向くと瑞姫が既に寝ていることに気づく。

さらに反対を見るとライヤも気持ちよさそうに眠っていた。


黒斗

「…」


そして全員が寝静まった頃黒斗は1人、この日を忘れないよう空を仰ぎ見続けた。


ーーーーー


その頃、サーキュリー王国の王城の1室では、怪しい2人がやり取りをしていた。一人はいかにも貴族のような身だしなみで口髭と顎髭が少し短めに生えている男だ。

そしてもう一人には二本の巨大な角が生えており背中には巨大な翼、鎧のように全身を覆う鱗。ベースは人間だがその風貌はどこか竜を連想させる。明らかに人とは異なる姿をした者がその場にはいた。


貴族の男

「ほう、やはり生き延びていたか。」


竜の特徴を持つ男

「ああ、間違いなくあれは精霊結界だ。あれを張れるのはエルフ族の王家のみ。ゴブリン共を使った甲斐があったな。」


貴族の男

「ふむ。それでグザラ。ゴブリン共はその後街を降りてないだろうな。そのゴブリンは処理してきたのだな?」


竜の特徴を持つ男(グザラ)

「処分など勿体ない、やつらにはまだ働いてもらう。明日、再び向かわせるさ。警戒して1点に纏まってくれたほうが探しやすいからな。」


貴族の男

「なら良い。街にモンスターが現れたとなれば混乱が起こるからな。それだけは避けるんだ。」


短くも自慢のヒゲを片手で弄りながら月明かり差し込む窓へと向かう。


グザラ

「それよりグレゴリー大臣。約束は覚えているんだろうな。」


貴族の男(グレゴリー大臣)

「勿論だ。エルフの精霊魔法さえ奪えればその娘はもう用済みだ。好きにするがいい。」


グザラ

「それと我々ドラゴニュート族の王国への移住と高い地位も忘れずにな。」


鋭く伸びた爪がついた手をグレゴリーに向ける。

グレゴリー大臣は何も動じる事はなく扉の方へと向かう。


グレゴリー大臣

「約束は守ろう。出発は明後日だ。君のところの戦士達にもそう伝えておいてくれ。指揮はこちらが執る。」


そう言い残しグレゴリー大臣は部屋から出ていこうとする。


グザラ

「承知した。…あ、それと。」


グレゴリー大臣

「…」


グザラ

「新しく2人程見知らぬやつが来てたようだ。変わった服装らしい。ガキ二人だがな。」


グレゴリー大臣

「ふん。放っておけ。問題にもならん。」



バタンと扉が閉まるとグザラは堪えきれなくなった感情として独り言を漏らす。


グザラ

「ふふふ。明後日か…いよいよだ…!もうすぐお前は俺の物だ…!リエル…!」


すると、外からバサバサと音がし始めた。


グザラ

「ん?」


確認すると仲間のドラゴニュート族だった。

ドラゴニュートの兵士は窓から部屋へと降り立つと深々と頭を下げた。


ドラゴニュート兵士

「グザラ様。精霊の結界を無効化する準備ができました。」


グザラ

「そうか。なら明日一度試してこい。いざという時に使い物にならんでは話にならんからな。幸い、今やつらは結界内に籠もったままだ。結界の無効化を確認したらすぐに戻ってきて報告しろ。」


ドラゴニュート兵士

「は!」


頭をもう一度下げ、翼を大きく広げる。片翼が人間1人分の大きさほどの大きな翼だ。その翼を大きくはためかせ窓から飛び去っていった。


いよいよ、国の歪みの脅威がライヤ達に迫りつつあった。


ーーーーー


次の日。


黒斗

「これはどこに持っていけばいい?」


ライヤ

「それはスーヤおばさんのところだな!こっから北側の緑色のテントにいるはずだ!足腰が悪いからテント内まで運んであげてくれ!」


黒斗

「了解。」


黒斗とセイヤは整えられた荷積みを手分けして運んでいく。


ライヤ

「おはっす!村長!」


村長

「いやはや悪いねぇ。行商人から今日届いた物たちを運んでもらって。」


そこへ胸元まで髭が伸びたか弱そうなおじいさんが杖をつきながらやってきた。


ライヤ

「全然いいって!それより、村を元に戻すのは本当に明日でいいのか?」


村長

「ライヤよ。ワシはな、お主のような冴えた能力は持っとらんが歳を重ねたことによる経験や直感って言うものがあるんじゃ。今はまだ全員でこの結界の中にいるのがいい。そう思うんじゃ。」


ライヤ

「村長が決めたなら俺もそれにしたがうだけだ!村長!」


村長

「うむ」


村長は首を縦に振る。

するとちょうど帰ってきた黒斗へと目線を向ける。


黒斗

「挨拶が遅れて申し訳ない、村長。昨日からお世話になってる黒石黒斗だ。」


村長

「ほっほっほ。知っとるよ、あの瑞姫ちゃんと一緒に鹿肉やキノコを取ってきてくれた子じゃな。こちらこそ昨日は忙しくて挨拶ができんくてすまんかったの。この村の村長じゃ。


黒斗

「瑞のことはもう知ってるのか?」


村長

「もちろんだ。とてもいい子じゃったからの。この村、今はまだ落ちついてないが何日でもいてええからの。」


黒斗

「ありがとう村長。もう少しお世話になるよ。」


村長

「うむ。」


再び頷きその場を去っていった。


ライヤ

「あ、クライルさんにも届いてるんだった。」


黒斗

「そういえばあのおっさんはどこいったんだ?」


ライヤ

「クライルさんなら自分の家に戻ったよ。村においてあった武具よりも工房がある自分の家に戻ってより良い武具を持ってきたいって言ってたからな。」


黒斗

「あのおっさんの家って結界の外にあるとか言ってなかったか?」


昨日、クライルと話したときにそんな事を聞いていた。


ライヤ

「ああ、外にあるな。でも、護衛として5人くらい連れて行ったしなんとかなるだろ!」


まるで心配していないかの様にニシシと笑っている。


黒斗

「一回結界を解除するって事だよな?」


ライヤ

「ん?そんなことしなくたって、精霊結界なら誰でも出入りできるぞ?」


黒斗

「えぇ!?俺が結界に触れたら弾かれたぞ?」


ライヤ

「あはは!精霊がいたずらしたのかもな!」


黒斗

「俺は魔物かなにかか…」


そんなこんなで仕事に戻った。

それから村の周辺の見回り、料理と洗濯や民家の修復、作物栽培の手伝いをして村の人とも打ち解けていった。

お昼すぎになり、昼食に入る。今日のメニューは昨日狩ったイノシシの骨などを鍋で1日煮込み、出汁を取ったスープに刻んだ野菜を入れて塩、溶き卵、仕入れた魚の出汁を粉末状にしたものをそれぞれ加えた薄いコンソメ風なスープだ。


リエルのお母さん

「うふふ。いろいろ手伝って貰えて助かったわ♪」


リエル

「今日のスープは優しい味です…!」


瑞姫

「わたし、この味すき!」


黒斗

「うん…俺達の知ってる味…!」


ライヤ

「おかわりするぞー!」


故郷の味に感動しながらスープを堪能する。

食事が終わり片付けに入る時、不穏な空気の流れがライヤの頬を伝う。


ライヤ

「っ!…来た…!」


その言葉に身構えるクライル、黒斗、近くにいた村人。

クライルと黒斗はすぐさま立ち上がり村人達の避難を進めた。


クライル

「ゴブリン達が来るぞ〜!!各々、結界の中心で固まるんじゃー!!」


その声に触発されて村人達は一斉に中心へと集まった。

そして腕っぷしに自信のある村人はクライルの武具を構えその周りを囲うように配置についた。


黒斗

「ライヤ!俺は何をすればいい?」


ライヤ

「黒斗は俺と一緒にゴブリンの迎撃についてきてくれ!結界は無敵じゃない。何回も攻撃されると解除される可能性がある!リエル!もし結界が破られてもみんなから離れないように!」


リエル

「分かりました!」


黒斗

「オッケーだ!瑞、村のみんなと一緒にいるんだ。決して離れたりしないようにな。」


瑞姫

「うん!黒斗も気をつけてね!絶対!無理しないで!」


黒斗

「ああ!勿論だ!!」


そういうと走って向かうライヤの後ろへとついていく。

その後ろ姿を心配そうに見つめる瑞のリエルの2人。

その後、結界が破られるのはそう遅くはなかった。


ーーーーー


ライヤ

「黒斗!俺は先にゴブリンを退治しに行く!万が一結界が破られたらその時は頼む!」


黒斗

「分かった!」


そう言ってライヤは結界の外へと突っ走る。


黒斗

「くそ…!結界を通り抜けられていれば…」


黒斗は固唾を飲んで待つしかない。

ライヤは視点は動かさずに走っている。その正面の草の茂みが大きく揺れるのが見えた。


黒斗

「来たか…!」


そして木々を切り抜け出てきたゴブリンの群れがライヤを見つけた瞬間、爪を突き立て襲いかかった。


ゴブリン

「ぐぎぃぃーー!!」


全身は緑色で人間の子供サイズ。しかし牙や爪といったものは人間のより遥かに鋭く長い。


ライヤ

「…!」


飛びかかって来るゴブリンを爪が顔に当たる寸前に半身になりゴブリンの左手の外へと避ける。その間、ライヤはゴブリンの顔から一度も目線を外していない。そして避けたのと同時に左足を突き上げゴブリンのみぞおちあたりを膝で蹴りつけた。


ゴブリン

「ぐがが…!」


飛びついた時のスピードも上乗せされかなりの威力となった膝蹴りを振り切った。その威力は軽くゴブリンの身体を吹き飛ばし後方のゴブリン達までもまとめて吹き飛ばした。


ライヤ

「あと26匹…!」


すぐさまライヤの横を走り抜けようとしたゴブリンに狙いを定め、拳を握る。


ライヤ

「っ…!」


今度はライヤから踏み込みゴブリンのこめかみ辺りを殴りつけた。


ゴブリン

「ぐぎゃぁぁ!」


吹き飛ばされたゴブリンはすぐ近くの木にぶつかりぐったりと伸びてしまう。

そこからさらに後続のゴブリン達がやってくるがライヤ相手には全く歯が立たず次々と伸びていった。


黒斗

「ゴブリンが全部気絶してるだけだ…ライヤのやつ、あの強さで手加減してるのか…!?」


どんどんと倒れていくゴブリンだが全てのゴブリンをライヤは殺さずに気絶させているだけだった。


黒斗

「無駄に命は取らないってことか…それなら…」


黒斗はその場に落ちていた石を手に取る。


黒斗

「確か、結界の中から外に向けての無機物は弾かれないんだったな。」


投球フォームを構え足を大きく前に突き出す。

そして、そのまま軽く大きく腕を振るう。

投げられた石は豪速球になり結界を突き抜けてゴブリンのお腹へと命中した。


ゴブリン

「ぐぎゃぁぁぁ!!」


鈍い音と苦痛の悲鳴でお腹を押さえながらゆっくりとその場に倒れ込んでいった。


黒斗

「これならいけるな。」


すぐさま2球目、3球目と投げて見事にお腹に命中させていく。黒斗がライヤの間合いから逸れたゴブリンを狙うことによってライヤが自由に動けている。


ゴブリン

「ぐががが…」


2人の猛攻にあっという間にゴブリンは駆逐されていった。


ライヤ

「こいつが最後の一匹だったな!」


倒したゴブリンを木の根元に寝転がせる。


黒斗

「にしてもライヤ、やっぱり強いんだな。」


ライヤ

「黒斗こそ、投げてる時手加減しててあの速さだっただろ!すげぇ強ぇじゃん!」


結界の外と中から向けられる認め合った者同士の視線。しかしその視線も、一つの違和感によって奪われる。

ライヤの表情は笑顔だったがいつもと違う違和感があった。


黒斗

「浮かない顔だな。何かあるのか?」


ライヤ

「ああ、昨日の気配はもっとヤバかったんだ。こんなもんじゃなかった。」


黒斗

「親玉がいるってことか。」



その時、結界を象徴する薄く光る幕。その光るカーテンが徐々に消えていっていた。


黒斗

「なんだ?結界が…」


ライヤ

「嫌な予感がする…!」


そういうとライヤは村の中心へと走り向かって行った。


黒斗

「まさか…!…瑞!」


黒斗もその後を追っていく。

2人の走るスピードで村の中心には5分程で着いた。



ライヤ

「みんな!!」


リエル

「ライヤ様!」


そこでは戦えない村人達の周りを守るように武装した村人たちが円になって囲っている。そして武装した村人達が5体の空を飛ぶ何かと戦っていた。戦っている姿はトカゲのような見た目に大きな翼、しかし人型で槍を持っている。


黒斗

「なんだ!?あいつらは!」


黒斗も到着しその姿を捉えている。


ドラゴニュート兵士

「はっはー!こんな村、俺たちだけで十分だろ!今日エルフの娘を攫っちまえばきっと俺らは称賛されるぜ!」

「結界を破壊するなんて簡単だったなぁ!」

「村の奴らは好きにしていいって感じだったしなぁ!」


ドラゴニュートの兵士は手に持った槍を武装した村人目掛けて突き出す。それを防ぐべく持っていた剣で槍を受け止めた。


武装した村人

「くうっ…」


ガキンッ!と金属音を立てて槍と剣の刃が衝突する。だがやはり力はドラゴニュート兵士が勝っており、そのまま押し切られ吹き飛ばされてしまう。


武装した村人

「んなぁ!」


1人が吹き飛ばされ周りの村人が穴埋めに入った。


村人

「リエルちゃんを守れー!」「リエルちゃん、もっと真ん中へ。」「俺達が壁になる!」


リエル

「皆様…」


やがてその円はリエルを守るように展開されていく。

リエルの周りには瑞姫もいた。


村人

「戦える者達は前へ!ただし絶対に死ぬな!」


1人の武装した年老いた村人が声を荒げドラゴニュート兵士を睨みつける。


ドラゴニュート兵士

「ふん、めんどくさい。」


声を荒げた村人目掛けてその槍を勢いよく突き出す。


村人

「ぬっ!?」


反応が遅れ槍が顔へと迫る。ギリギリのところで反応するが躱しきれず咄嗟に出した剣が弾かれて飛ばされてしまう。刃が掠っていたようで頬の切り傷から血が滴ってきている。それを見逃さず2撃目を入れるドラゴニュート兵士。しかし、突き出された槍の刃の付け根部分に何者からの蹴りが飛んできていた。


ライヤ

「…っ!」


ドラゴニュート兵士

「なにっ!新手か!」


言い終わる前に右側から現れた者に、槍は上へと蹴り上げられドラゴニュート兵士はあまりの強い蹴りに槍を離してしまう。目に映るのは金髪で少し背の低い男だった。ライヤは足をすぐに戻し身体を半回転させる。完全に無防備になったドラゴニュート兵士の腹部を、再び右足を縮み込めて溜め放つ。そうして突き出された一撃は凄まじい音で着ていた鎧を砕き、向かい側にあった木へとドラゴニュート兵士を叩きつけた。


ドラゴニュート兵士

「がぁ…!」

そのままぐったりと動かなくなってしまった。


ライヤ

「…。」


それを見て空を飛んでいたもう2人のドラゴニュート兵士がライヤ目掛けて槍を突き出そうとする。


ドラゴニュート兵士

「なにしやがんだ!このやろぉ!」


槍を突き出す瞬間、2人の頭上に黒い影が通った。

反応が遅れ、目線だけを上へと向ける。

逆光によりその姿は分かりにくくさらにこの世界では見かけない服装の男が自分達の頭上に飛んでいた。


ドラゴニュート兵士

(なんだこいつは!?いつ飛んできた!?)


時すでに遅し。次の瞬間黒い影から凄まじい勢いで蹴りが繰り出され兵士の顔にめり込んだ。

意識は一瞬で飛び武器も離してしまう。続いてもう一人の兵士は横の兵士が顔を蹴り飛ばされたことによりその勢いでこちらに飛んできていた。


ドラゴニュート兵士

「んなっ!?」


そして巻き込まれ2人同時に木々の方へと飛んでいき、1人目と同じように木に叩きつけられていた。


黒斗

「避けないつもりだったろ。全く、俺がやらなかったらどうすんだよ。」


ライヤ

「ああ!やってくれて助かったぜ!」


5人中3人がやられ残り2人となったドラゴニュート兵士。相手も突然の乱入に焦っているのが分かる。


ドラゴニュート兵士

「なんなんだ!?あいつら!」

「おい、どうするんだよ!バレたらヤバいぞ!?」


空中で話しているが会話が丸聞こえだった。


ライヤ

「おーい!お前らー!」


ドラゴニュート兵士

「ひっ!!」


ライヤ

「こいつら連れて帰れよー!」


ライヤが気絶した3人を指さして言う。


ドラゴニュート兵士

「クソ!」


2人の兵士は3人を手分けして担ぎ上げ運んでいった。


黒斗

「それにしてもあれがリエルが言ってたドラゴニュート族とかいうやつか」


ライヤ

「ああ、まだリエルを狙っているなんてな。」


村人達は安堵したように話しながら作業へと戻っていく。


クライル

「ライヤ。今回も助かったわい。」


クライルや村長がライヤの元へ歩いて来ていた。


村長

「そっちの人も。助かった。ありがとう。」


黒斗

「村長。気にしなくて大丈夫だ。無事で良かった。それより負傷者は?」


村長

「今、リエルちゃんが精霊魔法で治療してくれている…大きな怪我をしたものはいないから安心じゃよ。結界もすぐに修復してくれるそうじゃ。」


リエルの目の前には擦り傷や切り傷を負ってしまった村人達が並んでいる。


黒斗

「精霊魔法は傷も治せるのか。」


クライル

「精霊魔法とは精霊と呼ばれる目には見えない存在に力を借りてるんじゃ。精霊魔法なら世界とも繋がれると信じられているそうじゃ。リエルの嬢ちゃんには精霊の存在が目に見えるそうだがの。」


ライヤ

「精霊かー。俺も見たことはないな。いつもリエルが見えない誰かと話してるのは見たことあるけどな。」


ライヤは両手を頭の後ろで組み楽な姿勢をとる。


黒斗

「そういえば。瑞のやつもここに着いたときに光る妖精を見たとか言ってたな。俺には見えなかったが。」


ライヤ

「ようせい?ってなんだ?」


黒斗

「妖精ってのは虫みたいな羽を持ってて人型の小さい生き物の事だ。まぁ、俺も実際見たことないし本当にいるかも怪しいんだが。」


クライル

「なるほど。確かに特徴が一致しておるわい。」


ライヤ

「場所によって呼び方が違うのかもな!」


黒斗

「…そうだな。…さてと、ひとまず村の仕事の続きをするか。」


ライヤ

「ああ!」


すると何かを思いついたようにニヒヒッと声を出し笑うライヤ。


ライヤ

「どっちが多く役に立つ事をしたか勝負な!」


ライヤの言葉に黒斗も触発されて口元が緩む。


黒斗

「いいのか?人間ってのは親しい人間にはお礼は最小限しか言わないんだぜ?俺はまだ来たばかりだからな。お礼は言われやすいぞ?」


負ける気は無いとお互いに闘志を燃やす。

ちなみに勝ったのはライヤだった。その後結界は無事リエルが再展開し事なきを得た。


そして夜になると仕事も終わり、外の休憩場所で座って村で採れた果実ジュースを飲んでいた。

黒斗が今日1日で思ったことの一番は瑞の打ち解けの早さだった。すでに村の人達は全員知り合いで可愛がられているようだった。


リエル

「凄いですね、瑞姫ちゃん。もう村の人達と仲良くなって。」


リエル、リエルのお母さん、ライヤ、クライル、黒斗は5人で焚き火を囲みながら果実ジュースを飲んでいる。


黒斗

「俺も頑張ってた方だと思ってたが瑞と比べると自信を無くすよ…」


クライル

「なぁに。お前さんも仕事が早くて頼りになると褒められておったぞ。」


ライヤ

「それに、この村には若い人間はいなかったからな。物珍しいのかもな!」


そう言いながらグビグビっと木で作られたコップに入ったジュースを飲み干す。


黒斗

「何いってんだよ。この村じゃライヤやリエルも充分若い方だろ。」


リエル

「エルフ族の私は確かにエルフ全体の中では若いですが人間種の皆さんからすると数字は大きいかもしれません。」


少しモジモジしながら答えるリエル。


黒斗

「まぁ、俺の故郷でもエルフは長寿だって聞くしな。見た感じリエルは人間でいう10代から20代の間くらいだろう。」


ライヤ

「俺も50は超えてるぞ」


お代わりを汲みながらそういったライヤを驚く表情で見る黒斗。驚きすぎて飲んでいたジュースでむせてしまう。


黒斗

「っ!?ゲホゲホっ!はっ!?50!?」


クライル

「まぁ、信じられんのも無理はないな。ワシが19の時に赤子だったライヤを拾ったんじゃ。じゃが15歳の誕生日を迎えてからライヤの成長は止まった。ワシとしては嬉しかったが流石に自分だけ老いていくのは心に来るものがあるわい。」


黒斗

「…まじかよ。同い年くらいかと思ってた…」


リエルのお母さん

「私達がこの村にきてから5年程経ちますが風貌は全く変わってませんから。」


ライヤ

「ま、年齢なんてあんま関係ないけどな!」


黒斗

「……。まぁ…今更だしな。」


何かを吹っ切った様な表情になる。黒斗は気にしないことにした。


リエル

「そういえば瑞姫ちゃんの髪の色、とても綺麗ですよね。何の種族なんですか?白髪で若い人間種なんて聞いたことありませんし。」


その場にいた他の3人は頭にハテナを浮かべた。


ライヤ

「白色?瑞姫の髪色は黒色だろ?」


その発言にクライルも頷く。


リエルのお母さん

「緑色に見えるのは私だけかしら?」


その場にいた4人が奇妙な感覚になっていた。


黒斗

「あー…悪い。伝え忘れてたな。瑞姫のやつはその土地の周囲の環境に当てられやすくてな、魔力とかエネルギーとの親和性が高いんだ。そのせいあってか、髪色がころころ変わったり、人によって色が異なって見えたりするみたいなんだ。」


リエルのお母さん

「なるほど。私とリエルは精霊と深く繋がっているから瑞姫ちゃんの髪の色が異なる色に見えるのね。」


リエル

「凄いです…!」


リエルは目をまん丸にしている。

瑞姫の体質的に魔力とのシンクロ率が高い。よくも悪くも、珍しい体質と言えるだろう。もし精霊とのシンクロもできてしまった場合、狙われる事も多くなるかもしれないと思ってしまう。


黒斗

「ま、俺はその逆みたいだけどな。」


リエル

「?」


リエルは首を傾げて不思議そうにしている。


黒斗

「俺は至る所の自然の魔力とかに合わない体質らしくてな、そのせいで普通の方法じゃ魔法とかは使えないんだ。」


リエル

「まぁ、そうなのですか?」


ライヤ

「黒斗は結界に触れたら弾かれたらしいんだ。」


リエルのお母さん

「まぁ…それは不思議ね…精霊様が拒むなんて」


クライル

「…」


クライルは無言でグビグビとジュースを飲んでいる。


黒斗

「俺が精霊様とやらを信じてなかったせいなのか…?」


ライヤ

「そんな気にする事ないと思うぜ!その内空気と一緒にスポンと通れるようになるかもしれないしな!」


黒斗

「おれはコルクの栓か何かか。」


ツッコミを入れることでその場に温かい笑いが起こったが、それもまた時と共に静まりあっという間に寝る時間となってしまった。


黒斗

「…」


全員が眠りについた頃黒斗は起き上がりジュースを飲んでいた休憩場所に腰掛ける。空を見上げ星を眺めて大きく深呼吸した。


リエル

「眠れないのですか?」


声の方を振り向くとリエルが髪を片方に結んでいる。サイドアップという髪型だろうか。長い金髪を片方に編み状に結んで垂らしている。


黒斗

「ちょっとな。」


するとリエルは黒斗の横に置いてある椅子に腰掛けた。


黒斗

「明日は忙しいらしいがこんな時間まで起きてて大丈夫か?」


リエル

「黒斗様も起きてらっしゃるではないですか。」


ほんわりと返されてしまう。


黒斗

「俺はいつもの事だから大丈夫だ。見張りとでも思ってくれ。」


そうして再び星空を眺めるとリエルも同じ様に空を見上げた。


リエル

「今日も星がよく見えますね。」


黒斗

「ここは空が近いからな。こんな綺麗な星空は見たことがなかったんだ。瑞姫も寝るまでは眺めてたが夜更かしは良くないと先に寝かせたんだ。」


リエル

「その方が夜更かししているようですが?」


少しいたずらっぽく微笑み言ってくるリエル。二人きりというのはこの2日間なかったので珍しくもあった。


黒斗

「勘弁してくれ。今まで瑞姫と2人で旅してたんだ。寝込みを襲われないよう警戒するのは重要だろ?」


リエル

「…本当に瑞姫さんと仲がいいですね。」


黒斗

「まぁ、いつも振り回されたりもするけどな。」


そうしてふと気になってた事を聞こうとする。


黒斗

「なぁ、リエル…」


リエル

「はい?」


黒斗

「ドラゴニュート族はなんでリエルを狙ったんだ?あいつらは世界樹とか呼ばれる木を住処として独占するためにエルフ族を襲ったって言ってたな。今更生き残りを捕まえようって魂胆なのか?」


リエル

「…詳しくは分かりません。ですが、私を狙った辺り精霊魔法が狙いかもしれません。」


黒斗

「精霊魔法が?」


リエル

「はい。精霊様のお力を使えば絶大な力をも操ることが出来ますから。」


その言葉を聞いてふと瑞姫の事が頭に浮かんだ。


黒斗

「…」


リエル

「黒斗様。私も…どうしてもお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」


黒斗

「ああ、いいぞ」


リエルは少し考え、覚悟を決めたように口を開く。

その質問を聞いた黒斗は目をゆっくりと閉じて返答した。その受け答えが終わるとリエルは少し悲しそうに俯き「おやすみなさい」と一言残し戻っていった。

それから黒斗は朝日が見えてくるまでの間、星空を仰ぎ見続けていた。


ーーーーー


次の日の朝、村人達は全員で結界外にある我が家へ帰る準備をしていた。


クライル

「しかし、あれだけ奮発したっていうのにゴブリン共は来ないようじゃの。」


ライヤ

「ま、平和が一番!」


リエル

「お母様。この食器はどこに置けばよろしいでしょうか?」


リエルのお母さん

「それはそこの机に置いといて頂戴。」


リエル

「はい!」


村の男達

「いやぁ、毎日女神の様な美しさを拝めるなんて最高だよなぁ…」

「リエルちゃんのお母さんも相変わらず素敵だぁ…」

「眼福だぁ…」


いつも村の端っこに住んでいる引きこもりの男達がリエルとリエルのお母さんを舐め回すように見ている。


黒斗

「いいか、瑞姫。ああいう男の人には絶対近づいちゃ駄目だぞ。」


瑞姫

「うん。わかった。」


男として気持ちは分からんでもないが瑞姫の居る前では止めて欲しいと願う黒斗だった。


ーーーーー


そして、黒斗達がいるサーキュリー山脈の麓からどんどんと人間とドラゴニュートの兵士達が進軍を始めていた。


グザラ

「目的は精霊魔法を仕様するエルフの保護と村人の無力化だ!反抗するものは多少荒く痛めつけてもいい!目的を第1優先に考えろ!」


ドラゴニュートは翼で空を飛んで進軍しているものが大半だった。そしてグザラもその一人だ。グザラは滑空して1人の人間の横についた。


グザラ

「人間の隊長とやら、手筈は覚えているだろうな?」


声をかけたのは金棒を背に背負った大男だ。西洋風の鉄兜を被っており辛うじて顔が見え、体は分厚い鉄の鎧に覆われている。そんな大男に声をかけたのだが、答えたのはその隣にいる若い兵士だった。


人間の兵士

「マギル隊長と呼べ!ドラゴニュート!」


並走しながらグザラに鋭い目を向ける。

そしてとうとうマギルが口を開いた。


マギル

「やめろ!下っ端の兵士が相手の隊長に噛みつくんじゃない。下がれ!」


人間の兵士

「要らぬことをしました!申し訳ありません!失礼します!」


マギル

「うちの兵士が失礼した。」


グザラ

「ふん、律するのも隊長の役目だ。だが今回は見逃してやろう。」


マギル

「恩に着る。手筈なら完璧に記憶済みだ。問題ない。」


グザラ

「そうか!せいぜい俺達の足を引っ張らぬようにな!」


そういってまた高く飛んで行く。

そして、その進軍をいち早く気づいたものもいた。


ライヤ

(…ゾクッ)


今まで感じたことのない悪寒と邪気に体から冷や汗が滝のように吹き出してくる感覚を覚えた。


ライヤ

「何かくる…!ヤバいのが!」


その発言を聞いた村人達は一斉に武器を抜き、構えを取る。


黒斗

「どっからだ!?ライヤ!」


ライヤ

「山の麓の方からだ!」


クライル

「なんじゃと!?ゴブリンの奴らめ!山を下るつもりか!?」


ライヤ

「…いや、ゴブリンじゃない!これはもっとやばい…!しかもこれはこっちへ向かってきてる!」


村の戦える者は武器を取り、戦えない女子供や体の弱い人達は全員避難所へと避難した。


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