サーキュリー王国 「出会い」

ある異世界のお話。

その世界の文明は人族がどの種族よりもトップに立ち、全ての種族の頂点に立った世界。その世界で最も栄えている都市、「サーキュリー王国」。サーキュリー王国は世界各国から軍事的力や経済力が一目置かれ、今では世界最強の王国とまで言われている国だった。物資の流通、行き交う世界中の旅人、そこに流れる情報、王国騎士や酒屋に控える用心棒。全ての叡知と権力、物資、力がそこに集まっている。そして、その王国の中心には山が連なっている。その山の麓に小さい村があった。そこからこの世界の物語は始まった。




金髪の青年

「んー。今日も良い朝だな!この山の天気はいつも晴天!俺の心も晴天!今日も1日頑張るかー!」


金髪の身長が低い青年は黄色のテントから出てきて太陽に向かって伸びをする。

その村では殆どが木造建築の小さい家が並んでいたが青年だけはテントの中で暮らしていた。


綺麗な金色の髪のブロンドお姉さん

「あら、ライヤ君。おはよう。」


声をかけてきたのは白い肌と尖った長い耳が特徴的でとても整った顔をしているエルフ族のお姉さんだった。


ライヤ

「リエルのお母さん!おはっす!」


笑顔で挨拶され、満面な笑みで返すライヤ。


リエル

「ふふふっ。心も晴天…ライヤ様は今日も元気ですね。」


そして、その横にいた華奢でお母さんに似た美しさを持つ可憐な女の子がリエルだ。

先程の言葉を聞かれていたのかクスクスと笑顔になっている。2人は田舎の村にも似ても似つかわしく無いほどの装束を身に着けており気品と美しさはまるで女神様と言っても大袈裟にならない程だった。


ライヤ

「ようリエル!おはっす!」


リエル

「おはっす!です。ふふっ。」


リエルも元気に挨拶を返した。


リエルのお母さん

「今日は明日の収穫際に備えて、手伝って欲しいことが山程あるって村の方達がライヤ君を呼んでるの。私達はそれで呼びに来たんだけどタイミングが良かったみたいね。」


収穫祭の為の畑の調整が毎年必ず前日に行っていて、ライヤはその畑の管理役でもあった。


ライヤ

「はい!勿論バリバリ働きますよ~!」


袖をまくり左肩をぐるぐるさせる仕草をとるライヤ。それをみて笑うリエル。田舎といえる辺境の小さな日常。しかし、いつも唐突に魔の手は迫る。


ザザザザッ。


ライヤ

「ッ!!」


草木が騒ぎ怪しい風が吹き抜ける。それをいち早く感知したライヤは辺りを見渡す。


リエル

「ライヤ様?」


リエルのお母さん

「どうかしたの?」


2人はライヤの異変に気付き心配そうな顔をする。


ライヤ

「ゴブリンだ」


2人

「「えっ?」」


ガサササッ。

遠く離れた森の奥地。木々生い茂る湿った森の中、無数に駆け抜ける影があった。身体は小さく苔のような色をした異形の人型の魔物。

所々に角の生えた個体もいる。

力は人以上に強いが知性は無い魔物の小鬼。

ゴブリンとよばれるその魔物はこの世界で村や集落を襲う悪質な魔物とされている。


ライヤ

「村のみんなが危ない!」


ライヤは村の方へと走り出した。


リエル

「あ!ライヤ様!」


ライヤ

「ごめん!2人も後で村の中心へ!」


リエルが止めようとするも遅く、ライヤはどんどんと離れていく。


リエルのお母さん

「私達も行きましょう」


リエル

「はい!」


ライヤの後を追う2人、その後ろを森の中から眺める2つの影。


???

「なんで隠れてるの?」


1人の小さなシルエットはもう1人の大きなシルエットに語りかける。


???

「いきなり出ると怪しまれるからだ、まずはここがどういうところなのか把握しないといけないからな。」


そっと森の中に身を潜めた。


ーーー


村の中心、村長が住む区域だ。


ライヤ

「みんなー!ゴブリンが来る!」


ライヤは駆け込み辺り一帯に自分の声を広げる。


村の住民(男)

「この声はライヤだ!ゴブリンが来るってよ!」


その妻

「まぁ、大変!早く村の中心に行かないと!」


ライヤはゴブリンが襲撃してくるというのを村の皆へと伝えるため走る。


村の東から西へと走り続ける。そして、ライヤの家から一番離れた村の住民が住む場所へと着いたライヤは家に向かって叫んだ。


ライヤ

「クライルさーん!ここにゴブリンがやってくるかもしれないんだ!危ないから村の中心へ集まってくれー!」


叫んでしばらく立ったあとドタドタと音が聞こえてきた。そして、バタンと音がなる程に勢いよく出てきたのはライヤより少し大きいくらいの身長ともっさりと白い髭が特徴の小太りしたおじさんだった。


クライル

「本当かー!!!!それはーーー!!!!!」


飛び出してくるや否や顔を近づけ声をあらげるクライル。ライヤはそれを身を引き両手でガードする。


ライヤ

「は、、はい!」


クライル

「そーれは大変だー!!!!い!い!い!急いでここを離れるぞー!!!!」


くるりと踵を返し、家へと戻るクライル。中から凄まじい音がしてくる。


はたまたバタンと音を立てて大きなリュックサックを背負ったクライルが出てきた。しかし、出れたのはクライルの身体だけで背負っている全長2メートル近くのリュックサックは詰まって出れなくなっていた。


クライル

「ふーっ!ふーっ!」


クライルは一生懸命リュックサックを引っ張り出そうと踏ん張っている。


ライヤ

「あー!手伝うよ!」


その後、何とか2人で引っ張り出して村の中心へと向かうのであった。


ーーー


村の中心へと着いたライヤとクライル。その場にはすでに村の全ての住人が集まっており、リエルとリエルのお母さんもその場に到着していた。


リエルのお母さん

「ライヤ君。無事だったのね。」


リエル

「急に居なくなったので驚きました。」


2人はライヤを見つけるとこちらに近づいてくる。


ライヤ

「本当にごめんなさい!」


深々と2人に頭を下げて謝罪した。


ライヤ

「2人を置いてって自分だけ村の中心に向かったこと、本当に申し訳ないと思ってる。」


心のそこから感情を捻りだしこれ以上無いくらい謝る。


リエル

「そんな…村の人達の為に走ってくださったライヤ様を責めたりしません。」


リエルのお母さん

「そうよ。ライヤ君。私達だけじゃなく皆を救うために動いたんだからそんなに謝らなくて良いのよ。」


その言葉に応じるようにクライルが肩を回して組んできた。


クライル

「そうだ。ライヤよ。わしの家も君の家から3キロもあるのに、こうやって走ってきてくれた。それだけで十分じゃよ。」


クライルは汗だくの額を左手で拭いながらそう言葉をかけてくれる。

しかし、ライヤの汗はまだ止まらない。


ライヤ

「ただ…それだけじゃないんだ。」


ライヤは続ける。


ライヤ

「ここにもうすぐ、ゴブリンの群れが来る。でも、いつもよりも規模が大きくてもっとこう…邪悪な感じなんだ…」


ライヤは顔を下げたままなので表情は皆に見えていないが声からその不安な感情が伝わってくる。


村の住人(若い男)

「おいおい、こんなに人を集めてよぉ。ほんとにゴブリンなんて来るんだろうな?仕事の途中で呼び出されて勘違いでしたじゃ済まさねぇからな。」


1人の男がそうぼやく。それを聞いたクライルがその男を睨みすぐに言い返した。


クライル

「おい!!!!お前!!!!」


村の住人(若い男)

「!!!!!」


怒鳴り声に体をビクリと震わせる男。


クライル

「ライヤは今まで全ての危機を知らせて全て当たってる!!!大地の声が聞こえるというライヤの不思議な力があるからだ!!!それを信用できんというなら今からでも森の中に縛り付けておくか!!!???あぁ!!??」


村の住人「若い男」

「ひぃぃ!!」


胸ぐらを捕まれ怒声を浴びた男は半泣きになっていた。


ライヤ

「クライルさん!気持ちは嬉しいけどやりすぎだって!」


クライル

「甘いぞ!!!ライヤ!!!こんな身の程知らずの大馬鹿者は1度痛い目を見させてだな!!!」


怒声を続けるクライルを止めるようにリエルが近づいていく。


リエル

「クライル様。このお方も反省している様なのでその辺にして、村の防衛を固めませんか?」


リエルの言葉にクライルはしばし考えその手を離した。


クライル

「リエルちゃんがそこまで言うならわしの制裁はここまでにしておこう。ふんっ。」


離された瞬間男はすぐには立てずそのまま足から崩れ落ちていく。どうやら腰が抜けたようだ。


ライヤ

「全く、クライルさんは。」


微笑みながらやれやれと言ったようにため息をつくセイヤ。


村の住民「若い男」

「この村の柵じゃ動物を遮るので手一杯だろ。」


腕を組み片目で男を睨むクライル。


クライル

「おまえさん、まだ引っ越してきて新米じゃろ。いいか、村全体を囲っとる柵は紛れもないわしが作ったもんだ。わしも腕に自信があるとはいえ確かにわしらの村の防衛柵程度では生き残れない。だからこそ村人全員を中心に集める必要があるんじゃよ。」


村全体を囲う程までに張り巡らされた防衛用の柵は主に野生動物用でゴブリンのような少し知性のあるモンスターが相手では足止め程度にしかならない。そして、それは村の中心も同じだった。しかし、1つの集団が完成することで守りやすくもなっていた。


ライヤ

「へへ、そんじゃリエル!聖結界頼めるか?」


リエル

「はい!任せてください!」


リエルは自分の胸の前に両手を重ねる。そして、祈るように眼を閉じ、静かに詠唱を始めた。


リエル

「…守護の精霊よ。偉大なる大地と共に我々を守りたまえ…」


祈るリエルの回りを光の玉が駆け巡る。やがてそれは吹き抜ける風の様に村中に散らばる。


リエル

「精霊の籠_(スピリチュアルロック)!!」


リエルの体ごと光輝きやがて光は天高く上っていく。そして打ち上げられた光は散らばった光の玉に向かってゆっくりと鳥かごのように降りていく。


若い男

「な、なんだこれは!?」


全ての光が繋がり村の中心全体を囲う結界となった。


リエルはそっと目を開け手を自由にする。


リエル

「ふぅ。終わりました。これでしばらくは大丈夫のはずです。」


若い男

「ま、魔法なんて国の騎士団しか使えないんじゃ……!」


リエルは笑顔を男に見せる。


ライヤ

「リエルは精霊魔道師だからな!こうやって精霊を使って魔法を使うんだ!」


ライヤがリエルの方へ向かい、男の方へ少しだけ振り向く。


セイヤ

「これで村の皆は安全!だろ!?」


リエルと同じように満面の笑顔を男に見せるセイヤ、男はただ呆然とその場にへたり込んでいた。


ーーー


???

「わあー!綺麗!」


結界の光を目の当たりにする小さい影の持ち主はその眩い光に見とれている。


???

「なるほど、魔法か何かか?俺達がここに入っていても問題なさそうだな。」


森の中を疾走する無数の影、ゴブリンの群れだ。ゴブリンの集団は普段人里離れた山奥に棲んでおり木の実や山の獣を狩って過ごしている。稀に人は襲うが近寄らなければ基本的に目立った被害は無い。

そんなゴブリンが今、村の方へと向かってきている。


???

「なにか来るぞ。」


???

「え?」


村の隅で2人の影は迫り来るゴブリンを察知し身を隠す。

そして、全身緑色の子供くらいの身長の小鬼が次々と広がった結界へと向かってくる。その数およそ20匹。


ゴブリン

「グギャア!」


ゴブリンが結界へと触れると肉が焼けるような音とともにゴブリンの体が弾かれる。

そして、入れないことを学習したのかゴブリンは警戒しながら反対方向へと戻ってしまった。


???

「へぇー。外から敵を入れないための領域か…面白いな。」


大きな人影がゆらりと動き、結界の方へと向かっていく。


???

「黒斗!近づいたら危ないよ!」


黒斗と呼ばれた大きな影は結界へと手を伸ばす。

そして、指先が触れるとバチンッ!と音を立てて指を弾かれた。


黒斗

「なるほど…中から外にも出れないのか…」


???

「もうー!びっくりするから止めて!」


小さい人影はぴょんぴょんと跳ねて怒っているようだ。


黒斗

「悪かったって。でも出られるかどうか確認しないと困るだろ?」


???

「それはそうだけど…」


小さい影はどうやら拗ねているようだ。

ほっぺが膨らんでるように見える。


黒斗

「まぁ、でもこの光る壁なら村の人達が集まった方から展開されたようだし少し行ってみるか。」


???

「うーん。そうだね。いい人達だといいなぁ…」


そういって凸凹した二人の影は光の結界の中心へと向かった。


ーーーーー


ライヤ

「ん?」


結界が張られた村の中心でライヤがある方向を向いて不思議そうな顔をしている。


リエル

「どうかされましたか?」


ライヤ

「いや、ゴブリンの悪い気配みたいなのは離れて消えたんだけど…どうやら2つの気配がこっちに向かってきてるみたいなんだ。」


リエルとクライルはその言葉を聞き目を見開き驚いている。


クライル

「まさか!ゴブリンが入り込んだんじゃ!」


ライヤ

「それがゴブリンみたいな嫌な感じはしないんだよな…」


リエル

「もしかしてゴブリンに追われてた方が運良く結界内に?」


ライヤ

「可能性はあるから俺がみてくるよ!リエルとクライルさんはここで待っててくれ!ちょいと見てくる!」


そう言ったライヤは気配を感じたと言う場所まで走っていく。


リエル

「お気をつけてー!」


あっという間に遠くなるライヤの背中に声をかけるとライヤは少し振り向き手を振って返事をした。


クライル

「全く、相変わらずフィジカルが化け物じみとるわい。」


村の男1

「ああ、なんてったって村一番の用心棒でもあるからな。」


村の男2

「この前なんか朝から晩まで筋トレしてたぜ笑」


などからかい混じりで柔らかい会話が飛んでくる。


クライル

「まぁ、あいつならきっと大丈夫じゃろう。」


リエル

「だといいのですが…」


リエルはそっと両手を重ねて胸の前で握り彼が無事に戻るように祈った。


ーーーーー


気配を感じた場所へと走って向かうライヤ。その場所まで近づくと段々とスピードを落としていった。

森の中の木々からなにやらガサガサと聞こえる。


ライヤ

「いるんだろ!出てこいよー!」


そのライヤの声も森の木々のざわめきとともに虚空の中へと消えていく。

そして、音の方から2人の影が出てきた。


黒斗

「ほら、瑞が音を立てるからバレたじゃないか〜」


瑞姫

「だって、黒斗が変なところ触るから!」


黒斗

「変なところなんか触ってねーよ!被害妄想はやめろ!」


こちらを驚いた表情で見つめるライヤを見て我に返った黒斗はライヤに頭を下げる。


黒斗

「あ、すまない。俺は黒石黒斗(くろいし くろと)。通りすがりの旅人だ。」


黒髪に黒目、ライヤの世界では珍しい黒いスーツを着たライヤより身長の高い青年だった。

そして、横にいた小さい少女もぴょんぴょんと元気よく跳ねて手を挙げる。顔立ちは整っているがまだ幼い少女だ。長い髪をツインテールにして縛っている。少女の服装は珍しくは無いが首から紐でかけてあるネックレスが目を引いた。液体漬けになっている白い花が球体に押し込められているようだ。


瑞姫

「舞華瑞姫(まいはな みずき)です!以後、お見置きよろしゅう。」


黒斗

「何語だよそれは。」


その時、呆れた様にジト目を少女に向ける大人げない青年がライヤの眼には映った。


ライヤ

「驚いた。まさか本当に人がいるとは思わなかったよ。俺はライヤ。ここの村で用心棒みたいなことしてる村人だ!ゴブリンから逃げてきたのか?」


黒斗

「ああ、この光の壁のおかげでなんとか助かったんだ。俺達はここら辺の土地に詳しくなくてな。良ければ教えてくれると助かる。」


丁寧に黒斗はお辞儀する。


ライヤ

「そうだったのか。それじゃあ、村の皆のところまで案内するよ。」


そういい笑顔を黒斗に向ける。それが黒斗にはありがたかった。


ーーーーー


話し合いながら3人は村へと向かう。歩いて10分と少しで遠くからでも人影が見えるくらいになってきた。


ライヤ

「へぇー。お前達の故郷ではゴブリンはいないのか。」


黒斗

「本でしか見たことなかったな。あの光の壁の技術もお伽噺くらいでしか知らなかったよ。」


ライヤ

「あれは村のリエルってエルフの女の子が作ったんだ!俺達の村でなにかに襲われそうになったとき、精霊結界って術を使うんだ!」


流暢にそしてとても嬉しそうにそう語る。


黒斗

「なるほど。精霊結界にエルフか。俺達の故郷にも話だけなら聞いたことあるな。なんでも、精霊結界は術者だけの力じゃなくて自然に近いエネルギーを空気中から吸収してドーム状に形成するってやつだった気がする。」


ライヤ

「黒斗は博識だな!多分その認識だと思う!リエルは、目に見えない精霊様から力をいただいてるって言ってたけど。」


黒斗

「精霊か…少し気になるな……ん?」


黒斗が静かすぎる瑞姫を横目で確認すると。頭を抱えぐるぐると目を回していた。


瑞姫

「自然に近い…吸収…」


黒斗

「瑞には難しすぎたか…」


それをライヤは苦笑いで見守る。

そして、森の木々を抜けてようやく人のいる村の中心へと辿り着いた。


クライル

「おぉ、戻ってきおったわい。」


リエル

「ライヤ様ー!」


集まっていた人々の中にこちらに手を振っている耳の長い女の子とそれを腕を組んで後ろから見ている老人がいた。


黒斗

「あれがエルフか。やっぱり特徴は同じなんだな…」


ライヤはリエルに手を振りながら黒斗達と一緒にその場へ向かう。


ライヤ

「ただいま!」


リエル

「…?あの、ライヤ様。そちらの方々は?」


黒斗達を見て不思議そうに首を傾げる。


黒斗

「俺は黒石黒斗。黒斗って呼んでくれ。こっちは連れの瑞姫。ある人を探してここまで来たんだ。」


瑞姫

「舞華瑞姫です!」


ライヤ

「この人達旅人だそうで、ゴブリンから避難してきたんだ。少し村の中案内したいんだけどいいかな?」


リエル

「っ!それは道中大変だったと思います。ここはいいところなのでゆっくり休んでってください。」


そういって黒斗達を迎えてくれた。


クライル

「やれやれ、旅人といってもまだ子供じゃないか。用心棒の1人もつけねぇでどうやってここまで来たんじゃ?」


瑞姫

「黒斗は凄く強いから大丈夫!」


ライヤ

「こっちがさっき話した精霊結界を作ったリエルだ!そして、この人がクライルさん。」


そういって2人に手で示す。


クライル

「ワシは鍛冶師でこの村の護身用の武器も何個か作ってある。ここを旅立つ時には持っていくといい。」


黒斗

「それは助かる!万が一食料が尽きたら動物を狩るしかないからな。」


クライルは自慢そうにヒゲを触っている。それを見た黒斗は続けて言った。


黒斗

「エルフもいるってことは……分かった!おっさんドワーフってやつだろ!?本で見たことある!職業も見た目もまんまだ!」


黒斗は思い出した様に興奮している。


ライヤ

「あぁ…」


リエル

「…」


何故かふたりとも苦笑いしている。そしていつの間にか俯いてプルプルと震えていたクライルは溜めを解放したように叫んだ。


クライル

「ワシはれっきとした人間じゃわい!!」


その後、ドワーフと間違えられるのが嫌いなクライルに謝ってなんとか許してもらった。


ーーーーー


黒斗

「へぇー。リエルやリエルのお母さんも最初からここにいた住民ってわけじゃないんだな。」


リエル

「はい。元々私達エルフ族は世界樹と呼ばれる大樹の恩恵を受け、世界樹の周りの森で暮らしていました。」


結界が張られた中で食べられそうな食材を探すリエル、黒斗、瑞姫の3人。ライヤも近くにいるはずだが話しているうちにいなくなってしまっていた。


黒斗

「世界樹…すごいな。そんなものまであるのか…でもなんでそんなところからこっちに?」


リエル

「黒斗さん達は不思議な方ですね。この世界で一番信仰されているのがその世界樹と呼ばれる神樹なのです。私達はその場所を守っていました。ですがある時、ドラゴン族の末裔であるドラゴニュート族の侵攻によって私達の村は焼き払われ、住む場所を追われてしまったのです。」


話しながら悲しそうな表情を見せている。自分の故郷が焼き払われた話はあまり話したくないであろう。


黒斗

「…」


瑞姫

「酷い…」


リエル

「そうですね…ですが悪い事ばかりじゃありませんでした。」


摘み上げた食用の黄色いキノコを眺めながらリエルはそう言った。


リエル

「この村の人達は生き残った私達を快く受け入れてくれました。最初は慣れない仕事もありましたが今ではすっかり上達したんですよ。」


眺めていたキノコを手に持っていたバケットの中に放り込む。


黒斗

「なるほどな。しかし、そのドラゴン族の末裔とやらはエルフ族を襲撃して食料でも欲しかったのか?それとも仲が悪かったとか?」


リエル

「それもあると思います。ですが世界樹を中心として精霊様や淀みない空気が多くなっていますから、世界樹の周りに住む種族はみんな強い戦士が多かったのです。その恩恵が彼らの本当の狙いだと思います。元々ドラゴニュート族も世界樹の周りに住んでいた種族だったのですが、それを自分たちだけで占領しようと企んでの事でしょう。」


瑞姫

「リエルさんやリエルさんのお母さん以外のエルフの人達はどうなったの?」


黒斗

「こらっ。そういう事は聞くもんじゃない。言いたくないことだってあるんだぞ。…嫌なら言わなくていいからな。」


村にはリエルとリエルの母親しかいない。それがどういうことか黒斗は察していた。


リエル

「構いません。私と私の母以外のエルフ族は皆ドラゴニュート族に捕らえられました。反抗するものには容赦なく命を奪い、その他の者は恐らく生きていても奴隷だと思います。もしくは逃げ延びてどこかで暮らしている事を願います。」


黒斗

「人間とは仲が悪いのか?ここの住民達を見る限り、どこか大きな国とかに言えば協力してくれたんじゃないか?」


黒斗としては提案したつもりだったがリエルにとっては当たり前の事のように首を横に振った。


リエル

「ここが穏やかで良い村なだけですよ。国の権力者達は私達を軍事兵器として利用しようとしていたり娼館で働かせて一儲けしようとしたり…」


瑞姫

「しょーかん?」


疑問を浮かべた瑞姫に黒斗は答えを与える。


黒斗

「商人、つまり商売をしている人が経営してる館だな。ほら、美人がいると買い物をしたくなるだろ?それと同じだ。けど、さっきリエルが言ったしょうかんってのは悪い人が商売をするところだから決して近寄っちゃ駄目だし、その言葉も他の人には言っちゃ駄目だ。聞かれたら殺されるかもな。いいな?」


瑞姫

「うん。わかった」


うまく瑞姫を丸め込んだ黒斗は少しホッとしたようにため息を付く。


リエル

「すみません…」


リエルが余計なことを言ったことに気づき謝ったタイミングで奥の方から声が聞こえてきた。


ライヤ

「おーい!リエルー!黒斗ー!瑞姫ー!」


ごそごそと茂みが揺れて頭に葉っぱを乗っけたライヤがひょっこりと顔を出した。


ライヤ

「見てみろよ!これ!」


興奮したライヤが見せてきたのは瑞姫の身長の2倍程ある丸々と太ったイノシシだった。(瑞姫は約140cm)


黒斗

「でっか…!」


瑞姫

「わぁーすごーい!」


リエル

「…」


ライヤ

「すげーだろ!コイツを焼いて食うと美味いぞ!」


イノシシの足は棒に括られていて既に絶命している。


黒斗

「というかライヤ!それ1人で運んできたのか!?」


ライヤ

「ああ!俺、力には自信あるんだ!」


満面の笑みで余裕そうにライヤは体長3メートルを超えるイノシシが括り付けられた棒を肩に担いでいる。


ライヤ

「いつも捕まえるやつよりデカいな!なぁ、リエル…」


リエル

「…」


リエルはその硬直した笑顔のまま後ろに倒れてしまった。


黒斗

「えぇ…!」


瑞姫

「大変!リエルさんが気絶しちゃったー!」


ライヤ

「ご、ごめん…」


そのまま気を失ったリエルをライヤがさらにおんぶ状態で運び、黒斗はライヤが他に捕まえていた2匹の鹿とバケットを3つ持って村へと戻った。


ーーーーー


村についた後、おぶられた状態のリエルが目を覚ました。


リエル

「ん…」


クライル

「お、目を覚ましおったわい。」


クライルの声が聞こえた方に顔を向けると大きな毛むくじゃらがこちらを覗き込んでいた。


リエル

「ひゃっ!」


ライヤ

「あはははは!クライルさんの顔はイノシシと同じくらい怖いって!」


その反応につい笑ってしまったライヤの頭にクライルの拳が鈍い音を立てて炸裂する。


ライヤ

「痛った!!」


クライル

「全く相変わらず失礼なやつじゃわい。」


リエル

「す、すみません…」


俯いてライヤの背中に隠れるリエル。その時、同じく黒斗と瑞姫が戻ってきた。


黒斗

「なあ瑞。なんでドサクサに紛れて俺に1個持たせてるんですかね。」


鹿2匹が括り付けてある棒を2つ肩にかけていて両手首にはバケットが合わせて3つぶら下がっている。


瑞姫

「黒斗からしたら1個も2個も3匹も変わらないから!」


黒斗

「持ち方が困るんだっての!それとしれっと単位変えるな!」


盛大なツッコミがライヤ達にも無事届いていたようでクスクスとリエルは笑っていた。


ライヤ

「悪いな!黒斗。捕獲したもの持たせちゃって。」


黒斗

「これくらいならいいよ、別に。」


クライル

「しかし、困ったのぉ。」


クライルは空を見上げると真っ青な天を視界に映す。


瑞姫

「あ!結界が!」


見上げた空にはドーム状の光は無くなっており、それが何を意味するのか黒斗達は察していた。


ライヤ

「まだ大丈夫!いやな予感はしないし、また貼り直せばいいよ!」


ライヤがそう言って笑顔になる。


リエル

「私が気絶したばっかりに…すみません…」


リエルは本気で落ち込んでそうだったがライヤは何度も大丈夫と声をかけなだめ続けていた。黒斗と瑞姫にはそれが微笑ましく映っていた。


ライヤ

「そうだ!次の結界はどれくらいで展開できるんだ?」


リエル

「最低でも次にあの結界を出すには2時間は必要になります。」


座り込むリエルに獲物を倉庫に置いてきた黒斗が向かい様に聞く。


黒斗

「そうだ、この村にはリエルのお母さんもいるんだろ?リエルのお母さんは展開できないのか?」


リエル

「お母様はもう精霊魔法を扱えません…普通の魔法にもそういった類のものもありませんし…私を産んでくださった時に同時に失われました…」


ライヤ

「まぁ、今できないことを言ってもしゃーない!みんなで村を守るぞ!」


力強く真っ直ぐな瞳でライヤは拳を握り胸の前に持ってくる。そして、黒斗の方に振り返り拳を黒斗の前に突き出す。


ライヤ

「というわけで力を貸してくれ!黒斗!」


その言葉と真っ直ぐな表情にハッと黒斗は息を呑む。本気で信用している人間の表情だ。彼はどこか純粋で危うい感じもありつつしっかりと信念が感じられる、そんな男だと感じた。


黒斗

「…ま、見て見ぬふりは出来ねぇよな。」


突き出された拳に自分の拳をコツンと合わせる。


瑞姫

「あれ〜?黒斗照れてるのぉ?(ニヤニヤ)」


拳を合わせるときに不意に顔をそらしたことによって瑞姫は黒斗をイジれるネタを手にしてしまった。


黒斗

「う、うるせぇ…!ニヤニヤするな!」


ライヤ

「ニヒヒ!頼もしいな!」


その場にへたり込んでいるリエルもその光景を微笑んで眺めている。


クライル

「さてと………。おーい!お前らー!」


クライルは村中の人間に聞こえるように声を広げる。


クライル

「これから結界が再び張れるまで!2時間はかかっちまう!死にたくないやつは武器を取れ!今ならワシの最上級の武器をタダで貸しちょるわい!死ぬ気で村を守れーー!」


村中の人々

「マジか!クライル工房の武具がタダに!?」

「俺も行かなきゃ!」

「俺が先だ!」

「この村守って俺がヒーローだ!」


村の男達はこぞってクライルの元へと集まっていく。

クライルは「タダ貸」と書かれた人の手のひらサイズの札を一人一人に渡していく。


黒斗

「…っ。あのオッサンほんとに元気すぎだろ…」


瑞姫

「び、びっくりした…」


2人の耳はキーンとなっており瑞姫に関してはまたもや目を回している。


クライル

「…」


村の人に札を渡しつつクライルはチラッとライヤへと視線を向ける。


ライヤ

「っ…」


ライヤがそれに気づくとクライルはニッコリと歯を見せ笑い、親指を突き立てサムズアップを見せる。


ライヤ

「…」


ライヤもそれに応えるようにニッと歯を見せ親指を突き立て返した。

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