洞窟

 ヤブルーが現れた。


「魔女っ子あたっーく!」


 マオの杖に跨って突撃する攻撃。ヤブルーを倒した!


「ヌオー」


 キノコマジンが現れた。


「フレア!」


 マオのデザイアメイロ式魔術フレア。キノコマジンは黒焦げになった。


「キシャアァ!」


 コボルドが現れた。


「コークスクリューブロォー!」


 マオは大車輪グローブで殴った。コボルドは星になった。


 ――うん。


 ここに出てくるのはヤブルーとキノコに顔がついたキノコマジンと人型で犬の頭持ってるコボルドで全部だね。


 全部一撃だ。


 魔術もちゃんと機能してるね。霊魔のほうは定着してるか知らないけど。霊魔付与士に付与を頼む手を考えたけど、無駄になったら困るし、何より使用した分、定着した霊魔が装備の特性を把握して強化してくれるなら地道に使い続けたほうがいいだろう。


 霊魔がどう定着したか確認する手段が現状ボクにはない。霊魔付与士に見てもらう必要があるけど、ちゃんと使い込んで特殊効果が付与できるのか確認できるほうがいいから使い込んでからにしたい。だから、今は装備を作って使うくらいしかやれることはない。


「ほ、ほんと、強いな。マオさんは」

「ふふん。もっと強くなるから楽しみにしておきなさい」


 大車輪グローブを手に打ち付けながら胸を張る。


 いやぁ、殴るって気持ちいいね。ゲームセンターのパンチングマシーンを思い出すよ。初めてやったときはぶっ壊しちゃって慌てたもんだ。


 大森林をひたすら進む。そうして、ひとつの大木にたどり着いた。むき出しの根の間に大きな穴が空いている。地下の洞窟に続く穴だ。


 装備を解除し、拳を突き上げる。


「よーし、ダンジョンに突撃だ! ついてきたまえアルフくん!」

「マオさんテンション高いな」


 何せダンジョンだからね! ダンジョン!


「あっ、待った。松明は」

「へーきへーき」


 入ってみると、真っ暗だった。何も見えない。

 ゲーム内だと道具で灯りをつけなきゃいけないけど、ボクは魔術Magicがあるからね。


 指を鳴らす。


 灯台の魔術によって火を起こす。緑色の小さな火が周りを照らす。


「見たことない魔法だ」

「たぶんボクだけしか使わないからね」


 以前使った灯台の魔術はその場に留まり続け、広範囲を照らすものだが、今回の火はボクの動きに追従するものだ。


 灯台の魔術はしるべとなる魔術だ。光球で味方の己の位置やたどり着くべき位置を示したり、火で闇を照らしたり……ま、色々だ。


 誰かが帰るための場所を示す。帰るための灯火となる。優しい人の開発した魔術。ボクの好きな魔術だ。


「ふんふふん……おわッ」


 足場を確認しながら洞窟を進んでいくと、かさかさと足音がした。ボクの目の前に膝丈ほどの大きめのクモが出てきた。


 スパイダー・ジュニアというビッグスパイダーの子分みたいな魔物だ。洞窟内に出てくる。


 というか思ったよりキモ……


「うひゃあ!」


 急に飛びかかってきた! こっわ!


「マオさん!」


 アルフがボクと飛びかかるクモの間に割って入る。腰からショートソードを素早く引き抜くと、そのクモの首を両断した。


 切断されて、ぼとりと体が落ちる。しばらく足をかさかさ動かした後、動かなくなった。大きい虫はさすがにビビっちゃうな。


「こひゅぅっ!」

「大丈夫か」

「あ、ありがとう。驚いただけだから、もう平気」


 さすが訓練を受けているだけあって、ボクより反応が早い。ボクは別に戦闘のスペシャリストというわけじゃないからね。


 予め戦闘するとわかっていたら大丈夫だけど、あのG名を呼んではいけないあいつが急にこっちに近づいてくるような出来事には対処できない。


「さて。採取のナイフ」


 ポーチからナイフを取り出す。採取のナイフは切った対象を「アイテム化」する。クモの腹にナイフを突きたて、クモの糸を引き抜く。


 するとクモの糸が毛糸玉の形状になって外に排出される。これがアイテム化だ。自動的に持ち運びやすい形状に変えてくれる。


「どんどん行こう」


 糸玉を片手に、洞窟を進む。分かれ道ぽいものがあるが、必ず途中で人が通れない大きさになるか、行き止まりに当たるようになっている。奥地にたどり着けるのはひとつだけだ。


 デザイアメイロの知識を元に進んでいくと、詰まることなく進めた。


 うーん、しかしこのゲーム知識が活かせる場所と活かせない場所の違いはなんなのだろうか。


 まぁ、ゲーム的に落とし込みづらい事情はこの世界には関係ないから、サラマンダーの強さとか魔王の名前の馴染のなさとか、そういうゲームとしてのキャッチーさと無縁のところがこの世界で差異として出てくるのだろう。


 洞窟を進みながら毛玉に魔力や電気、熱等を通して性質を確認する。


 ふむ。やたら電気が通るな。魔力は普通で、熱は普通かな。うん、使えそう。


 ポーチに仕舞う。


 大穴をくぐり抜けると、クモの巣まみれの広い空間に出る。


「ここは」

「ゴールだね」


 ずぅん、とクモが降りてくる。骨のような甲殻に継ぎ接ぎの毛皮を腹に縫い付けた、ビッグスパイダーだ。


「ボス戦と行こうじゃないか。アルフも戦ってくれたまえ」


 ボクは装備を呼び出すことにした。

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