実験大森林
ボクはアーティンベルの北にある大森林に来ていた。素材を取りにである。今、適当に枝やキノコとか収集している。
ここはゲーム上だとサブイベントの場所兼ボーンキングに挑む前のレベル上げ場所だった。
大森林の奥地に巨大なダンジョンがあり、そこがやたらコウモリやクモの魔物とのエンカウント率が高く設定されている。まとめて現れるので、全体攻撃ができる武器で一掃できるようになるとレベル上げがしやすくなるという仕組みだ。
サブイベントは森の調査で、ダンジョンの最深部にいる魔物ビッグスパイダーを倒すと成功。報酬はお金と骨砕きの鞭が手に入る。要はボーンキング倒す前に攻略したら楽に倒せるよという救済処置である。
ボクの目的は色々作った武器の性能テストと素材集め、そしてビッグスパイダーの討伐だ。
この行動は事前に王様に許可をもらっている。森林と洞窟の調査という名目で。
「迷わないよう、気をつけてくれ」
そして、記録係が必要ということでアルフがついてきた。
「言っておくけど、戦闘はサポート程度にしておくれよ」
アルフは少し不満げな表情を浮かべながらも、頷いてくれた。
「……わかった」
うん、素直でよろしい。
並んで歩く。地理に詳しいのはアルフだが、ボクの目的が具体的にどういった行動で成せるかわからないから先導はできないのだ。
ボクは適当に薬草やキノコを見つけてはニオイを嗅いだり、形状を確認したりをつつ、デザイアメイロにあったっぽいものをウエストポーチに突っ込む。腰に巻き付けるベルトと横長のポーチのパーツがあり、外側に小さなポケットが二つついている。牛革を使用して薄いオレンジ色っぽい色調で仕上げた。
こいつの機能を説明すると……うん、アイテムボックスだ。いくらでもってわけではないけど家をひとつ入れたら限界くらいな収納性能かな。望んだものを取り出せるし、食料はあんまり入れないほうがいいね。いくらか保存できるけど永久にっていうわけじゃない。帰ったら薬草とキノコ類は出さなきゃね。中にストレージリストっていう中身を記録できる紙をしまってあるからそれを呼び出せば何が仕舞ってあるか確認はできる。
「マオさんは不思議な人だな」
「何が」
採集をしているボクの背中を見てか、アルフが呟く。
「右も左もわからないはずなのに、まるでわかってるみたいだ」
「
「強いのも、か。どうしたらマオさんみたいになれるんだ?」
単純な疑問だったのだろう。少し考えて、ボクは素直に答えることにした。
「いっぱい好きな人を殺されて、自分も死んだらなれるよ」
振り返って、大真面目に言う。
「死ぬって」
言葉が震えていた。
「そのままの意味さ。キミには無理だよ」
にっこり笑う。
「ねぇ、ラスティ姫と世界、どっちが大事?」
「それは決まってる。姫だ」
あら〜。相思相愛なことで。
「ずっと幼いころから一緒に過ごしてきた。姫は俺にとっての世界だ。だから、姫を守れるなら誰が相手でも守る」
腰にある剣に手を当てながら言う。
「マオさんに言われて考え直したんだ。なんで剣を持ってるか。ぶっちゃけ剣じゃなくてもいいんだけど、おとぎ話で出てくる騎士が剣を持ってたから。憧れってやつかなって思う」
「……そっか。ならボクは参考にしないほうがいい。そのほうが、きっと世界を救う力になれる」
デザイアメイロのゲーム内でたったひとりで、魔王に立ち向かった
「大げさだな、マオさんは。でも、なれるといいな。どんなときでも姫を守れるような騎士に」
「ぜひなりたまえ」
そんな会話をしていると木々の間からうめき声のようなものが響き、そして木々が揺れるような音がする。
その方向を見ると、小さな木のような姿の魔物がいた。ボクと同じくらいの背丈で大きな目と口を模した穴がある。
ヤブルーという魔物だ。序盤に出てくるやつなので弱いはず。
「ピギャアァ!」
ヤブルーが叫ぶと、骨身に響く。関節が地味に痛くなった。ヤブルーは叫び攻撃と、腕の枝を伸ばしたりして攻撃してくる設定だ。
「よぉーし、最初の実験相手だ。いっくぞー!」
ボクは拳を上に突き上げる。
「大車輪グローブ! 鉄拳の腕輪!」
ボクは装備の名前を言うと右手に赤いボクシンググローブと太陰太極図が描かれた鉄製の腕輪が出現した。
「ぶ、武器が出た!?」
大車輪グローブは腕を回せば回すほどグローブに魔力が溜まる。それで殴れば敵は木っ端微塵といった感じだ。鉄拳の腕輪は拳の保護と殴ったりしたときの衝撃や威力を底上げしてくれる。どっちもウエストポーチから出現させた。名前を呼べば呼び出しができるからだ。
「よぉし、ぐーるぐーる」
腕を回す。ブン、ブン、と風切り音が鳴る。同時に魔力がグローブに集中していくのを感じた。
ヤブルーが腕を伸ばしてボクに突き刺そうとしてくるが、回している腕を盾にして、グローブではたき落とした。
「オラァ!」
ヤブルーに向かって拳を突き出す。大車輪グローブがヤブルーの眉間にあたり、衝撃が伝わる。
「ミッ――!」
一撃粉砕。
哀れヤブルーは断末魔すら満足にできず、文字通り木っ端微塵となったのだった。
――南無三。
「うわぁ……」
そばでアルフはドン引きしてるみたいだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます